ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編2

第47話 お后教育 2

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 琉生斗は息をつくと、壁から離れ、オリーブの髪飾りを外し、髪の毛をセットする。左はおでこの際に古傷がある為、右側だけを撫でつけた。

 今日は、白いシャツにズボンは黒。おあつらえ向きってやつだなーー。

 琉生斗はパーガスの前に立ち足を揃え、優雅にお辞儀をした。

「パーガス嬢。一曲お相手願えますか?」

 その仕草は、ここにいるどの男性より魅力的であり、美しかった。

 まわりがどよめいた。ミントとナスターシャは仰天している。

 パーガスが真っ赤になり、「は、はい」と頭を横に傾けて頷いた。

 ーーせんせーい!

 パーガスの陥落の早さに、ミントは泣きたくなる。

 琉生斗はパーガスに右手を差し出す。パーガスはその腕に、左腕を組ませ、フロアの中央まで歩いた。

 なんという綺麗な所作。先生に完全に、合わせているー、ミントは目を丸くして、事態を見ていた。

「ワルツで?」

 小声で聞くと、パーガスが頷く。


 さっきの曲が、美しき青きドナウっぽかったから、まぁなんとかなるだろう、と琉生斗は考える。

 琉生斗とパーガスのホールドの綺麗さに、ミント達から声があがった。


 ーー背中は使うな、肩は上げるな。すっげー怒られたよな、ばあちゃん。グリップは、卵を握るぐらい。うわぁ、久々だけど足動くかなー。

 音楽が鳴り始めた。

 生演奏は、やはり臨場感もそうだが、気持ちの入りが違う。

 

 ダンスはカウントが大事だ。

 カウントをしっかりとる。

 琉生斗は祖母の社交ダンスに付き合っていた為、パーガスぐらいの年齢の女性とはよく踊った。

 ばあちゃんのダンス仲間の熟女達ねーー。 

 祖母の身長より、パーガスの方が高い為、目線が近い。自分の身長が高ければ決まるのになぁ、と琉生斗は思う。

 元々琉生斗の祖母は若い。祖母と言うには可哀想なぐらいの若さで孫ができた。
 くそ親父のせいである。たまに聞く、中学生で子供ができたというやつだ。
 真剣な交際なら何もいうことはないが、親父の場合は、完全にできちゃっただけ。彼女も産んで、そのうち逃げたらしい。
 それが姉だ。
 懲りない親父は、その2年後、高校生で再びやらかす。
 それが、兄。
 さらに、3年後、大学で三度やらかした。
 そう、自分だ。
 そのとき、祖母は四十一歳、恥ずかしい、と琉生斗はよく言われたが、悪いのは父のほうではないだろうか。

 あいつの事は思い出したくないわいーー。

 思い出すと、古傷が痛みだしそうだー。


 ステップは意識しなくても、身体の動きにさえ合っていれば正しいステップを踏める。

 肘を下げない、引かないーー。

 ライズ・アンド・フォールーー。高さを意識して、高く次のステップへの柔らかさを出す。

 三拍子のリズムに合わせ、回転しながらステップを踏む。くるくる回るのをいかに美しく見せるか。女性を美しく際立たせるか。

 ターンの上手さに、男性陣から歓声があがる。

 もっと速くても、大丈夫ですよーー。

 パーガスがうっとりと琉生斗を見つめる。ちょっとやめて欲しい、と思いながらも琉生斗も、にこやかにパートナーを見つめた。

 曲が終わりお互いに挨拶をし、その場を離れようとすると、ダンス室の入口で、拍手が沸き起こった。

 
 げっ。


 国王様御一行が、こちらを見て、手を叩いていた。

 おいおいおい、この国、よっぽど暇なんだな。

 琉生斗はげんなりする。

 婚約者の表情にも、げんなりする。

「何?」

「……いや」

「ルート、うまいじゃないか!私とも踊って欲しいぐらいだ」

「女側はやった事ないから、わかんねえよ」

 頭を掻いて髪を戻す。

「すぐにできるだろ。アレクセイと練習せよ」

「はぁ」

 そうかー。いけるかー?

 琉生斗はイメトレをしてみた。ヒール履いてるような気持ちになってー。

「アレク」

 と、言うとアレクセイは頷いて腕をあげたので、自分も女性側の組み方で応じる。

 あら、手の繋ぎ方が優しいわん。

「まぁ、素敵」

 王妃様が、溜め息をついた。


 嘘だーー。気を使わせてすみませんねー。


 クローズドポジションはすんなり決まった。

 右足を動かしたときをイメージしながら、琉生斗は指示を出す。

「あっちと動きが同じかわからんから、適当に合わせて」

 アレクセイが頷いた。姿勢がまったくぶれない。体幹もエグいぐらい良さそうだよなー。

「予備歩からナチュラルターン、シャッセロール12&3」

 するりと流れるようにステップを踏む。動きがなめらかなのだ。

 ミントは口が開いたまま塞がらない。

「アレク、上手いなー」

 足の運び方が途切れがなく、するすると動いていける。

「いや、ルートの足がいい位置にくる」

 ほーほー。これならーー。

 楽士達が空気を読んで、演奏し始めた。

 ドナウ川のさざなみ、っぽいなーー。

「チェンジ、バック、リバース・ターン」

 お、いいじゃんーー。

 歩くのではなく、流れるような美しい足の動きに、ミントのご学友達も言葉を失っている。

「ーーファラウェイリバース、スリップピボットから、ダブルリバーススピンー」

 なかなか難しいステップも、ちゃんとリードしてくれる。振り回される事もなく、左回転が決まる。



 できない事ないの?こいつーー。

 安心してリードを任せられる。


 あら、わたくし乙女の気持ちでしてよーー。


 お互い様なのには、気付かない琉生斗である。

 付いてきたファウラも、驚きの表情だ。

「ね、ファウラ様心配ないでしょ?あいつ、本当に上流階級ですよ。ピアノだって、ジュニアで優勝したりしてましたもん。あいつの『ラ・カンパネラ』ホントすごいんですよーー」

「いらんこと言うな」

「ほぅ。是非、弾いていただかねば」

「やなこった。ピアノは辞めたんだよ。本当に余計な事言うな」

 琉生斗は曲が終わる頃に、膝をしならせ反ってポーズを決める。アレクセイが支える。

 ダンスをやめて美花を軽く睨むが、視線は逸らされた。

「あっ、パーガス先生、お邪魔しました」

「えっ、とんでもない。またいらして下さいましーー」

 すっかり骨抜きになったパーガスであった。

「あっ、おいナス!」

「ナスじゃありません!ナスターシャです!」

 琉生斗は彼女に近付いた。

「まっ、お后教育だっけ、がんばれよ」

「あなたに言われなくてもがんばってます!」

「アレクの事が好きなのは結構だがーー」

「なっ、なんです!」

「おれとガチンコかますって事が、どういう事かわかってなさそうだな」

 小声になって、釘を刺す。その目の凶悪な美しさに、ナスターシャは動揺する。

「わたくしじゃ、足りないとーー」

 ナスターシャが、琉生斗を睨んだ。

「足りてねえどころか、マイナスだろ。おまえ、ミントに戦わせて、自分でこねえじゃん」

「えっ?」

「恋愛っつうのは、他人に任せてても上手くいかねえの。ましてや、兄弟を先に攻略しとけば、って態度は最低だ」

「そんなつもりは……」

「そうか?」

「・・・・・・」

 あるのかーー。

 ナスターシャの様子を見て、ミントは沈黙した。

「わ、わたくしはミント王女の親友です!」

 ちょっと遅いだろ。ミント悲しんでるぞーー。

「せいぜい噛み付くときは一人で来いよ」

 これぐらい言えば、突っかかってくることもないだろう。

「あっ!」

 琉生斗は劇団員達を指差した。

「おまえら内心、おれにナンパされるんじゃ、って思ってただろ」 

 琉生斗の言葉に、ラッド達はバツの悪そうな顔をした。

「おれがナンパするなら、最低でも、アレクぐらいのスペックだ。それ以下はないからな」

 最低が、アレクセイ殿下とはーー。どこにいるんだ、そんなやつーー。ラッド達はあわよくば、の思いを打ち消した。
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