ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
47 / 410
聖女誘拐編

第44話 ルートとアレクセイ♡

しおりを挟む
「なぜ、こんな素人を?」

 トルイストが眉を顰めた。それもそのはず、東堂、美花、兵馬はもとより、魔導師の町子までいる。

 兵馬のたっての希望で連れてきた。

「あら、渋い騎士様~。こう見えてお役に立つと思いますよ~」

 町子は、黒いトンガリ帽子をあげて、トルイストを見た。

「しかし、殿下。何の魔力も感じませんが、本当にあっているのですか?」

 トルイストの言う通り、彼等が立つ小さな島以外、見渡す限り海しかない。

 この、少ない植物の小島も、クローバー鳥の巣だらけで、糞がすごい。お腹に、四葉のクローバーの模様がある為、クローバー鳥と呼ばれているそうだ。

 

 何も見えないー。

 東堂も辺りを見回すが、何も感じられず首を振る。

 だが、アレクセイは一定の方向を見据えている。じっと目を凝らしている。

「あそこに、ルートの髪飾りがあるのを感じる」

「そう、あそこですね~。開けても?」

「あぁ。頼む」

「カーテン、オープン~」

 町子がカーテンを開けるように手を動かすと、空間がめくれ、海上に巨大な黒い城が現れた。

「「えっーー!」」

 東堂達は声を揃えて驚いた。

「そんな、馬鹿な!」

 トルイストも、驚愕の表情である。

「可視化の魔法だ」

 見えないものを見えるようにする。

「すごい才能だ」

 アレクセイが町子を誉めた。

「いえいえ、殿下。問題はここからですよ~」

「そうだな。こんな結界は見たことがない」

 城を覆う結界が、異常な程、強力だ。

 これは、どれだけ削れば壊せるのか、アレクセイにも検討がつかない。

「のんびり解析する時間はないだろう」

 早く、早くいかなければならないのに。焦れば焦るほど、駄目なのはわかっているーー。



「まぁ、なんとかしますわ~。殿下~」

 アレクセイは驚いた顔で町子を見た。

「これが破れるのか?」

 自分でも無理なのに、この娘はできると言うのかーー。

「あー、今回はなんとかなりますが、いつも大丈夫な訳ないですよ~」

 言葉を濁した言い方に、アレクセイは少し苛立った。

「兵馬くんに頼まれて、最初は無理だと思ったんですが、殿下にお会いしたら、いけると思いました~。準備します~」  

 杖を取り出して、町子は地面に文字を書き出す。

「なぜだ、なぜ今回は大丈夫なのだ?」

 苛立ちが出てしまうのを収めるのが、少々難しかった。町子は、溜め息をついた。

「あちらがルート君の血で結界を作っていると言う事は~、ルート君の血があれば、何とでもなるという事です~」

 アレクセイは眉根を寄せた。

「町子、おまえあいつの血なんか持ってたのか?」

 東堂は聞く。

 町子は魔力を練りながら答える。

「あるわけないよ~、血のようなものを殿下が持ってたから、いけると思ったの~」

 町子は言いにくそうだった。

「殿下、まさかあいつの切った爪でも持ってるのか?」

 完全に、変態を見る目の東堂である。

「いや」

 いくらなんでもなー、と東堂は頭を掻く。

「じゃあ、ちょっと殿下、失礼して、腹部を触らせてもらいます~」

 町子の言葉に、アレクセイはハッとなった。

 東堂も、兵馬も、「あっ!」と声を出した。

「えっ?何?」

 美花がキョロキョロと皆の顔を見る。

「ちょっと日が経ちましたが、血よりも強力ですよ~」

 アレクセイは何も言えず、頷いた。

「殿下!行きますよ!」

 アレクセイから黒い光が出る。町子は闇魔法を唱え、黒い城目掛けて、杖を振り回した。

 

 バシャーン!

 強固な結界が、いとも簡単に割れた!



「飛ぶぞ!」

 アレクセイは、高速浮遊魔法を用い、黒い城に突入した。

 まさに、翔ぶが如く、である。









「ルートォー!」

 目の前で倒れていく琉生斗を支え、アレクセイはガルムスを斬り払った。

「な、なぜ!」

 結界が、聖女の血で作った結界が、なぜ壊された!

 ガルムスは恐怖した。

 目の前に現れた人物の殺気が、殺気ではなくなっている。

 糸が切れたように、ガルムスはへたり込んだ。

「あわわわわわわ……」

 身体の震えが止まらない。

 死んだほうがましなのでは、と思うほどの恐怖感に支配されていく。

「で、殿下!殿下ぁ!殺してはなりません!トードォ、捕縛だ!」

「はい!」

 トルイストも腹に力を込めて、アレクセイを留めた。彼も、内心怖かった。

「よくも、貴様、よくもルートを……」

 堪えても堪えきれない怒り。

 ーーもしものときは殿下が間違いを起こさぬ様に、おまえさんが盾となってくれー。

 アンダーソニーの思いを託されたが、自分ではどうすることもできないー。

 トルイストは力なく、アレクセイを見た。



「大隊長!人がいっぱいいますが、どうしますか!」

 東堂が、伏した人々を見て、困惑している。

「大隊長!花蓮と誘拐された子供達の安全を確保しました!」

 東堂と美花の声に、トルイストは我に返った。

「殿下、お怒りはもちろんの事。ですが、聖女様の手当が先です」

 トルイストの言葉に、アレクセイは瞬きをした。

「……そうだな」

 琉生斗をしっかりと抱く。

「援軍は?」

「直に到着します。この城はーー」

「調べたのち、潰せ」

「はっ!」

 アレクセイは転移魔法で、王宮へと戻った。



「ふぅ」

「お疲れっす!大隊長!」

「あぁ」

 おまえたちがいてくれて良かったーー。他の兵士なら、殿下の気に呑まれて、行動できなかったであろう。

 この新人達は侮りがたしーー。

 

 その通りだと、トルイストは身をもって確信した。













 琉生斗は目を覚ましたとき、アレクセイの顔を見て、女神様ーありがとうーー、と胸が熱くなった。

 会いたかった顔を見て、一気に涙が出た。

 自分が死んだと思っていたので、アレクセイに抱きつき、キスをするーー。

 アレクセイが少し戸惑っているような気がしたが、かまわず続けた。死んでるのにリアルだなあ、と感じなくもなかったが、気持ちが先走った。

「会いたかったーー」

 琉生斗はボロボロと泣いてしまう。そんな琉生斗のあまりの愛らしさに、アレクセイは胸を打たれ、きつく抱き締めキスを繰り返そうとーー。



「おっ、ほん」と、優雅な咳払いが聞こえた。

「!」

 琉生斗は目を開け、まわりを見た。

 国王アダマスをはじめ、クリステイルや、魔法騎士長達。東堂、美花、兵馬に花蓮、町子まで自分達を見守っていた。

「ほぎゃぁぁぁぁ!」

 琉生斗は布団に突っ伏した。

 現実かよ、生きてたのかよ、おれ!

「ルート、大丈夫か?」

 アレクセイに尋ねられ、琉生斗は噛み付くように言った。

「大丈夫な訳ないだろ。止めろよ、ばかたれ!」

「まぁ、いいかと」

 静かに笑うアレクセイは放っといて、琉生斗は姿勢を正した。力が入らず倒れそうになるのを、アレクセイが支える。

「ご心配をおかけしました」

 頭を下げる。

 視界の端に見える、にやにや笑う東堂を、今すぐ射殺してやりたい。

「いやいや。ご無事で何より。気分はいかがかな?」

 アダマスが近付いてきた。アレクセイが場所を譲る。

「大丈夫です」 

「無理はするな、ぎりぎりまで血を抜かれているそうだ、養生するように」

 アダマスの言葉に、さらに深く頭を下げた。

「たくさん食べて栄養をつけよ」

「ありがとうございます」

 国王は会議の為、クリステイルと退出した。クリステイルは、丁寧にお辞儀をして出て行く。出て行く途中、クリステイルは花蓮に頭を下げる。花蓮もにこにこと笑っている。

 なんか、おかしいーー。笑いを堪えてないか?

「聖女様、ご無事で何よりでした」

 魔法騎士長達も、なんだかにこにこしている。

 いや、無事だったからなんだろうけどーー。

 東堂は笑いを堪えた顔をしながら、魔法騎士長達と出て行った。兵馬は苦笑いだ。美花と町子に至っては、挨拶も適当に出ていくし。

「あっ、花蓮、大丈夫だったか?」

「うん。ルートくん、大丈夫よ。わたし、何もできなくて、ごめんね」

 いい奴だよなーー。マジ好き。

 琉生斗は思った。ーーアレクセイに振られたら、結婚してくれねーかなぁ。

「ルートくん、肩斬られたんでしょ?痛い?」

「いや、直してくれたのか?」

 アレクセイの顔を見る。 

「あぁ」

 と、少し素っ気ない返事だった。

 何なんだよ。まったく、もう。生き返ってこんな素っ気なくされたらぐれるぞ、と琉生斗は心の中でへそを曲げる。

「おでこのとこも傷があるわ」

「あー、これは古いやつだよ」 

「子供の頃の?」

「そうそうー」

「花蓮、ルートも疲れてるから、もう休ませてあげよう」

「うん。ルートくん、早く元気になってね。あの子達も会いたがってるから」

「あぁ、また行くよ」

 兵馬と花蓮が部屋から出ていく。

「あれ?そういえば、ここ王宮の方?」

「そうだ、私の私室だ。離宮では、不便な事が多くてな」

「ふーん」

 眠くなってきた。琉生斗は落ちかける。アレクセイが、身体を横たえた。

「悪い、ちょっと寝るよ」

「あぁ。心配せずに、寝るといい」

 もう、どこにも行かせないーー。

「なぁ」

 優しい婚約者を琉生斗は見つめる。

「?」

「死ぬかなーって思ったとき、おまえの顔が見たくなったよ」

 アレクセイは、琉生斗の手を取った。

「君を失っては私は生きられないーー」

 手の甲に恭しくキスをする。

「すぐにあちらで会えただろう」

 いや、生きて欲しいけどーー。



 琉生斗は笑った。

 アレクセイも、ふっ、と花が開くように笑った。

 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...