ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編1

第35話 聖女は気をつかう

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 着地した場所はジャルト国でも長閑な田園地帯だった。

 広大な畑、回る風車。見渡す限りの美しい空。



 どこに、魔蝕が発生するのか。

 森林もない。高い建造物もない。

「風が気持ちいいですねー」

 風車の回る姿に、クリステイルは心が休まるのを感じる。

「クリス。地下だ」

 琉生斗は地面を見ている。

 クリステイルは、しゃがみ、手を地面に置いた。

 千里眼クレアボヤンスの魔法をかけた。

 クリステイルの脳内に映し出される、地下の映像。巨大な空間に、黒い衣服を着たものが大勢倒れていた。

 その上座とも言うべき場所には、祭壇があり、荒々しい角が生えたヤギが祀られている。

 そこから、魔蝕が発生している。

「蛇羊神教団ですね。これは大変だ」

 舌噛みそうな名前だなー、琉生斗の手をクリステイルは掴んだ。



「なんだーー、おまえ達は!」

 男は恐怖に這いつくばりながら、琉生斗達を見上げた。

「聖女様ですよ」

 地下に転移する。

 色褪せてはいるが、まるで大聖堂のようだとクリステイルは感じた。繊細な柱の彫刻、天井のアーチ。この巨大さで中柱が無いことから、建築技術では、最高峰なのではないだろうか。

「すごい」

 クリステイルは感嘆の意を示した。

 琉生斗は丁寧な彫刻が施された、祭壇前まで行き、中途半端な結界を手で払った。

 片膝をつき、魔蝕を光で包むーー。

 優しい光に魔蝕が消えていく。


 残リタイー。

 ココニイタイー。

 
 琉生斗の耳に、魔蝕の声が聞こえた。

 同情する訳ではなかったのだが、ほんの少しの魔蝕を、琉生斗は身体の中に取り込んだ。浄化しないようにしながら、心臓の隅に残す。

 できたーー。

 とりあえずココにいな。


 ーー危ナイ。

 時空竜の女神様からの忠告。

 デモ、ダメジャナインダーー?


 琉生斗の問いに言葉はなかった。
 

「ーーここは、国が認めた施設ですか?」

 クリステイルの言葉に、男が呻く。

「認めてない施設は、建造できないはずですが」

「国が後でできたんだ!我が神、蛇羊神様は古来からここで祀られている!」

 男の言葉に琉生斗は、ヤギを見た。

 ヤギの後ろは蛇である。キモいビジュアルだ。よく見ると、建物の彫刻のモチーフが、蛇とヤギだ。それを上品に見せているのだから、すごいセンスだろう。

「国が、後でできた?そんな、愚かな言い訳を」

「いや、あるぜ。火山だろ?」

 琉生斗の言葉に男は、その通りです!と叫んだ。

「か、火山?山など見渡す限りありませんでしたが」

「なくなるぐらい爆発したんだろ。兵馬に聞きゃわかるんだけど、国が一晩で無くなる話」

 ポムポム?プリン? 違うなー。

「ここは千年前に、維持結界を張って残った場所なんです。古来から蛇羊神様をお祀り申し上げておるだけなのです」

 そして、火山灰の上に国ができた。

「そりゃ、魔法でもかけなきゃ、潰れるわな」

 よく、見つからなかったな。

「ジャルト国は、建国して三百年程か」

「それまでは、私共の先祖が蛇羊神様を祀る国でありました。ライハンという若造が、勝手に国を作ったのであります」

 どっちが悪いのかは、判断がつきかねるが。

「バレてねぇんだ」

「皆、普段はこの国の国民として生活しております」

「一度、王様に言っといた方がよくねぇ?」

「とんでもない、この国は創造竜信仰です。ありえません」

「なんで?宗教は自由だろ」

 あくまで母国の話だが。

「創造竜はこの世界を支える神です。蛇羊神もこの世界の暗黒大陸を支える神として祀られている神です」

 クリステイルは続ける。

「どちらも大地を支える神です。折り合いがつかないでしょう」

 そんなもんかねー。

「そもそも先祖さんは、ライハンさんが来たときに戦わなかったのか?」

 琉生斗の疑問に、男は肩を落とした。

「建国王ライハンの話を、聖女様はご存知ないのか」

「ああ、ようするに。ガチ強だったんだな。そりゃ日陰にいる人間が適うわけないよな」

 男は続ける。

「追いやられた先祖は、信仰を捨てると約束し、ジャルトの民になりました。しかし、我々の魂は、すべて蛇羊神様に捧げています!捨てられるはずなどない」

 男の言葉に、琉生斗は頷いた。

 言われたからって、簡単に自分が信じるものは捨てられねえわなー、信仰にしろ、恋愛にしろー。

 いまアレクセイの事を思い出してどうするー、琉生斗は首を振った。

「それにしても、ジャルト国王に話しますよ」

「えーー」

「えーー、じゃありません」

 教団内は涙にくれた。



 クリステイルのおかげで、ジャルト国王とは話が早くついた。

 琉生斗は王宮で、お菓子のワッフルを食べながら話を聞いていた。

 ジャルト国王も、地下の建造物の存在については半信半疑だったが、実際に連れて行かれると、目を剥いて驚いていた。

 この先の事は、協議を繰り返して、互いに納得のいく結論を出すとの事。

 観光名所にしたらおもろいかもーー。という琉生斗の独り言に、王妃は手を叩いて賛同した。

「この、クリーム美味しい」

 琉生斗の言葉に王妃が、

「我が国の牛は、とても良い乳を出しますので。お帰りの際はお持ち帰り下さい」

と、うれしそうに言った。

 まさか、牛じゃないわな。

 そう思っていたら、黒い牛が二頭用意されていた。雄牛と雌牛だそうだ。

 増やせってかーー。

「聖女様、帰りますよ」

「クリスー、牛もらっちまったよー」

「おや、よい毛並みだ。聖女様の牛として王宮で飼いましょう」

「いや、おれ牛は苦手なんよ」

 おやおや。

「小学校のとき、牛の絵を描く授業があったんだけどさ、おれ近付きすぎて、くしゃみ食らったんだわ」

 と、琉生斗が言うと同タイミングで、黒牛は盛大なくしゃみをした。

「・・・ちょうど、こんな感じでさ……」

 くせぇー、と琉生斗は牛の鼻水を頭から被りながら涙目になっていた。
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