ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編1

第33話 噂話

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 ーー聞いたか?あの噂。
 ーーベルダスコン公爵が、ご令嬢を、ってやつだろ。
 ーー殿下が承諾されないだろ。
 ーーそれが、もしかしたら、って話だ。





 魔法騎士大演習も終了して、特に行事もなくダラダラ訓練の日々。

 また、演習してくれないかなー、という騎士は多い。もちろん、東堂もその一人。

「トードォ!聖女様がいらしているぞ!」
「大丈夫ですー。放っといてくださーい」
 上官は目を白黒させていたが、東堂は琉生斗の方を見なかった。

 ーー今はこっちに、集中だ!

氷剣アイスブレイド
 地面に置かれた的めがけ、空中から氷の剣が高速の速さで突き刺さる。

 ーー5、6、7、8、あー!8本かよ!

 東堂は息をついた。10本がこの魔法の最低合格ラインだ。

「魔法量、調整し過ぎたか」
「撃つタイミングがやや早いよ」
 モロフが、「氷剣!」と唱えると、氷の剣が東堂のよりも速く、華麗に20本出現した。

「ひぇー」

 ちょっと寒い。

「おまえ、腐っても魔法騎士なんだな」
「トードォはオレの事なんだと思ってんの?それより、さっさと行きなよ。ゼスト小隊長が青くなってるよ」
「訓練中に来るやつがわりぃーいんだよ」

 ーーだいたい、人の弱いとこ見て、ミサイル撃ち込むような真似した奴を気使いたくなんてないぜ。

 まぁ、そのミサイルのおかげで、再起不能になるのが防げた訳だが。
「おぅ」
「よぉ!すっげーなぁ。いいなぁー魔法が使えるのって」
 琉生斗は、ゼストが慌てて用意した椅子に腰掛けている。東堂の分も用意されていて、さすがに小隊長に申し訳ない気持ちになった。
「たいしたことねえよ」

 ーーおまえに比べればな。

「町子すげぇーらしいわ」
「何がだ?」
「古代にいた魔王の魔術を勉強してて、ちょっと撃てるようになったみたい」
「魔王か。似合うな、あいつ」
 それはそうとよ、東堂が続けた。
「なぁ、殿下に聞いて欲しいんだけど」
「うん?」
「スニーカー、どうやって作るのか」
 洗い替えが欲しい。自分で出来るのならやってみたい。
「聞いとく。東堂、作ってみたのか?」
「あ、だめだった。ただのゴミができた」
 材料を並べて魔法を組み上げていくのだが、アレクセイのようにはいかなかった。接着も悪いし、靴底もベタベタして、地面とくっついてしまう。
「作っちゃうと思うけど」
「それな。で、最近殿下とはどうよ」
「うーん。何だかなー」
 琉生斗は今日は中華服のような衣装だ。色は薄いグレイだが、飾りボタンが黒い宝石で、そこから彼の人の魔力を感じた。
「とうとう愛想つかされたか?」
 そんな訳はないだろうが、最近噂になっている事は、嫌でも耳に入ってくる。
「あー、色々言われてるよなー」
 琉生斗は言葉を濁した。
「だから、さっさとやれ、って言ったんだよ」
「おれは、別にーー」
「はいはい、そういうのはいいですー」
 東堂は真剣な目で琉生斗を睨む。
「怖いんだったら、まだ無理って言え」
「な、何言ってんだよ。そんな中学生の女の子みたいな事」
 東堂の言葉に琉生斗は慌てた。
「中坊の女の方が、よっぽどおまえより股ゆるいぞ」

 はぁーー?

「おれ、中学のときからガタイいいからさ、女の先輩から、やらして♡って言いまくられたぜ」

「へっーーー!」

 琉生斗は口を開けてあわあわしている。
「そんなただれた生活を、あんた……」
「最後までしてねえけど、よく胸揉ましてもらったなぁー」
 東堂の手の動きに、琉生斗は過呼吸を起こしかけた。同級生が、遙か遠くに行っている(遙とかけてみた)。

「剣道部の男の先輩にも、尻貸せよ、って言われた事あんよ。もしかしたら、いじめが怖いやつは貸してたかもな。俺、よく殴られたし」

 琉生斗は気を失いかける。先輩って、男ですかいーーおまえの中学、不良すぎねぇーかぁ。

「男同士のやり方ぐらい知ってんだろー。ここはだめでもここまでならいいとか」
「ここがどこまでとか、わかるかよっーー!」
「エロ動画見た事ぐらいあんだろ!」
「おばあちゃんに動画は禁止されてたんだよ!」
「ババアの言う事聞きすぎなんだよ!」
「おばあちゃんの悪口言うな!」
「おまえなんか、ババアの伸びた乳でも触ってろ!」

 実にくだらない。そんなに勿体ぶるものかねーー、東堂は呆れる。

「何やってんの?大声で恥ずかしいよ」
 兵馬が近付いてきた。
「魔法騎士の皆さんドン引きだよ。すみません、お騒がせしてます」
 心配そうに見ていたゼストやモロフを、兵馬は頭を下げて遠ざけた。
「こいつがうっとおしいんだよ。さっさとやっちゃえばいいのに」
「はいはいはい。東堂、それは個人の問題でしょ。それに、本当に合体しちゃったら、殿下の方が仕事にならないよ」

 ーーお花畑すぎて。

「あんな、イケメン。別れる前に一回でもやっとかないと、後悔すんぜ」
「それは置いといて、殿下が変なんだ」
 兵馬は強引にでも話を換えた。
「基本、変じゃん」
 東堂はひどかった。
「近い内にベルダスコン公爵が、夜会を開くそうなんだけど」
「えっ?ベルトコンベアーが夜会?夜集まるのか」
 東堂は、不良の集会みたいなものを浮かべた。
「よく社会の教科書に、大きなダンスホールで、ワルツを踊ってる絵あるだろ。あれだよ」
「あぁ、タキシードとドレス着て踊るやつね」
「主賓に、アレクセイ殿下を呼んでるんだ」
「えっ?」
「娘と強引にくっつける気なのかもしれない」
 意味がわからず、東堂は変な声が出た。
「はぁ?」


 あの、アレクセイ殿下が?

 琉生斗の事以外興味のない、アレクセイ殿下がー。

「どんな闇取引があったんだ?っておまえ何その顔」
 琉生斗の顔に、東堂は衝撃を受けた。
 こちらが引くぐらい落ち込んでいる。
「元々、ベルダスコン公爵の娘は、アレクセイ殿下にベタ惚れなんだよ」
「ほーん。元カノか?」

 ゴォォォーン。

 琉生斗の頭の中を、再び除夜の鐘が鳴り響く。
「ショック受けてないで戦えよ。元カノとその親と」
 元カノとその親、なんつー強い言葉だ。
「おれ、傷ついてんの?」
「そんな顔して何言ってんのさ。いい、よく聞くんだよ」

 兵馬は語る。


 現在の国王の后は、クリステイル殿下の母親が亡くなっている為、ミント王女の母親のラズベリー様だ。ベルダスコン公爵の姉が、クリステイル殿下の母親だったから、公爵としては、殿下が王太子に立ったけど、将来的に、ラズベリー様の生んだ王子、セージ殿下になる場合もあるから面白くない訳だよ。
 ラズベリー様のハーベスター公爵家とベルダスコン公爵家は、昔から犬猿の仲らしいからね。

 ーーすげぇー。よく覚えれるなぁ。

 東堂は内容が頭に入らなかった。
「本題はここからです」
 兵馬が指を突き出す。



 クリステイル殿下が王太子でいればいいけど、セージ殿下が立つ事があれば、ベルダスコン公爵は政治に口を挟めなくなるし、取り巻きも減るしで、大ダメージを受ける。
 そこで、アレクセイ殿下の出番だ。

 国王の信頼も厚く、最近の魔法騎士大演習で株をあげちゃってる、あらゆる兵士達のカリスマ、この国一番の強さを誇る、ハイパースペックプリンス!

 アレクセイ殿下に自分の娘を嫁がせて、ベルダスコン公爵家の地位を揺るがないものにしたい訳だよ。

「一個疑問なんだけど」
 琉生斗が口を挟んだ。いつもの元気がない。
「はいはい」
「ミントとナスって友達だろ?関係悪くならねえの?」

 兵馬は手を叩いた。ナスターシャねーー。

「よく、気づきました。もちろん、ラズベリー王妃は離そうとしていたらしいのですが、ミント王女は言われると余計にやりたくなるタイプだ、そうです」
「良いように使われてるのかー」
「自分が弟の邪魔をしてるとは思わないんだろうね」
 琉生斗は情報を整理した。
「クリスが王太子でいる為には、アレクはナスと結婚しなきゃならねぇのか?」
「クリステイル殿下の地位が低い訳でもないし、よっぽどな事しない限り、廃される事はないはずだよ」

 ただ、と兵馬が念を押す。
「最近、アレクセイ殿下とクリステイル殿下がよくしゃべっている姿を見かける、授業まで一緒に受けられている、と王城で噂になっているんだ。今までは挨拶ぐらいしか交わさない仲だったのに」
「良いことじゃねえの?」
 東堂が口を挟んだ。政治な話は苦手だぜ。
「だ~か~ら~、それが面白くないのがラズベリー王妃側のハーベスター公爵で、利用したいのがベルダスコン公爵なの」

 あぁ、そうか。

「で、向こうがルートに何言ってくるかなんだよな」
 長くなったが、問題はそこなのである。
「聖女と婚約してるのに、どうする気なんだろ。クリステイル殿下と婚約させるのはおかしいし」
 琉生斗は息を吐いた。
「おれ、夜会に呼ばれると思う?」
「わからない。そもそも、アレクセイ殿下が承諾するとも思えないんだけど。何か、裏がありそうでね」
「おまえがしっかりやればいいだけの話だろ。がっちりケツ掴んでよ」
「そこ、まとめんな」
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