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魔法騎士大演習編 (ファンタジー系)
第32話 魔法騎士大演習 反省会
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「兄上、お疲れ様でございました。いかがでしたか?」
クリステイルは、にこやかに兄を出迎えた。魔法騎士長達がその後を続く。
「士長達も」
「いやいや。わたし共は楽しんだだけですよ。大変だったのはこやつらで」
疲れた顔の師団長パボン、大隊長トルイスト、大隊長ファウラが、クリステイルに頭を下げた。
反省会であるーー。
「楽にして下さい」
「いやはや、歳は取りたくないものです。マリアがいれば出てもらえましたが……」
パボンは、髭を整えながら話す。
「おまえなら、マリアがいても自分が出ていただろう。だいたい誰の子を産んで産休だ」
ヤヘルがにやにやする。
「わたしの子ですな。五番目の」
見た目より若い師団長は、愛妻家であり、子煩悩でもある。
「マリアは産休の方が多い」
トルイストが不満気に漏らす。
「それは言わないの。女性騎士にとっては憧れなのだから」
ルッタマイヤが擁護した。
「だから、おまえはパボンに狙われるのだ」
ガハハっ、とヤヘルが豪快に笑った。
「絶対来ると思ってましたよ。師団長は女性のいるところは攻撃しない」
「よく、わかってるじゃないか」
「だから、ファウラは女性騎士を入れたんだろ?」
「わかります?」
ファウラがにこにこと返した。
「おまえ程、負けず嫌いはいないからな」
溜め息をついたトルイスト。
「兄上はどう思われましたか?」
クリステイルの言葉に、全員が姿勢を正す。
アレクセイは、少し目を閉じてから、形の良い唇を開いた。
「……存外、騎士達の行儀の良さには驚いたな」
「はい?」
クリステイルがかわいらしく首を傾げた。
将軍は皆、あっ、という声を漏らした。
「私なら、魔物が出た時点で、大地震で全軍殲滅だ」
アレクセイの言葉に、全員が色を無くした。
「ミハナが泣き出しそうな案だがな」
ジョークだ、とアレクセイは言った。いや、やりそうだ、と将軍達は考えた。
「だが、魔物との戦闘時のみ魔法を許可する、という事を、上手く使った者がいた」
トルイストが眉根を寄せた。パボンが、はて?、と不思議そうな顔をした。
「戦闘時中に、わからない程度にミハナを回復させていたな。ファウラ」
「はぁ!」
トルイストが信じられない、という顔でファウラを見た。バレてた、という顔のファウラ。
「そこまでしてあの新人を連れて行く価値があったのか。トードォならまだしも」
「……隊長の実力も隊の実力も同程度なら、拮抗は必至です。そのときに起爆剤になるのが新人ですよ」
「頭でっかちのきさまとは、本当に合わんな」
「お互い様で」
トルイストとファウラが、クリステイルの御前にも関わらず言い合いをするのを、ルッタマイヤが諌めた。
「どちらもよくやったわ。現にミハナの案は、素人にしか浮かばないもの。ファウラの見通しの勝利です」
「パボン殿のチームよりは、残りが多かった」
トルイストの矛先が、パボンに向いた。
「本当に、面目ございません」
「いや、よくやった。今回の演習の功労者はパボンだな」
「えっ?」
そうですか?と、クリステイルは疑問を口にした。
「いやいや、とんでもない。斥候を気付かれたり、良いところ無しですよ」
「お荷物を抱えての移動だ。苦労があっただろう」
「お荷物?」
「王太子殿下、最近の陛下のご様子は?」
アレクセイが溜め息混じりに、クリステイルに問うた。
「えっ?いつも通り執務をされていましたが」
「認可された書類は?」
「あっ、差し戻しが多いと大臣が……」
まさか!
クリステイルの表情に、アンダーソニー達は下を向いた。大隊長の二人は、何の事かと視線を彷徨わせた。
「父上が、パボン殿のところにいたのですか!」
「王太子殿下、申し訳ありませぬ」
パボンが深く頭を下げた。
「いえ、父上がご迷惑をおかけしてすみません。本当にお荷物でしたね。言う事聞かないでしょうし。海に沈めてきますか?」
クリステイルは真剣な面持ちで、兄に問うた。
「いや、すぐに出てくる」
さらに、真面目な顔でアレクセイが言う。
「そうですよね」
「いやいや、陛下が王太子の頃からお供している身としては、大した事はありません」
ーー昔の方がひどかったのかー。
王子二人の胸の内。
「果敢にトードォに向かう姿は、他の者にも喝を入れていただきました」
「まわりがひやりとしただけでしょうにーー」
「クリス、そもそもおまえがちゃんと見張っていないからこうなったのだ」
えっ!アレクセイ殿下が、王太子殿下を我々の前で呼び捨てにーー。トルイストの顎は外れそうになった。
「兄上が、聖女様を頼むとおっしゃるから」
「遊び過ぎだ」
「ひどいお言葉だ」
クリステイルは笑った。
アレクセイも、薄く笑う。
「いや、しかし終わってしまって残念だと、皆言ってましたよ」
ヤヘルが明るく言った。
「これでこそ、演習ですわ」
ルッタマイヤも頷く。
「そうだな、トードゥにも言われたな」
あの生命知らずがーー、とヤヘルは笑った。
「次は、亡霊城の掃除をしてもらおうか」
アレクセイの言葉に、クリステイル以外の者が固まった。
「で、殿下が、攻略に一週間かかった、あの亡霊城でございますか?」
トルイストが震える声で聞いた。
「そうだ。湧き続けるゴミの掃除だ。魔力がいくらあっても、足りないーー」
大袈裟ですねー、
「騎士達の手も借りたいぐらい汚いんですね」
と、クリステイルは呑気に言う。
下を向いた士長に将軍達ーー。
東堂と美花の演習での活躍は、兵士中に知れ渡った。
異世界から来た二人の魔法騎士の伝説は、ここからはじまっていくーー。
クリステイルは、にこやかに兄を出迎えた。魔法騎士長達がその後を続く。
「士長達も」
「いやいや。わたし共は楽しんだだけですよ。大変だったのはこやつらで」
疲れた顔の師団長パボン、大隊長トルイスト、大隊長ファウラが、クリステイルに頭を下げた。
反省会であるーー。
「楽にして下さい」
「いやはや、歳は取りたくないものです。マリアがいれば出てもらえましたが……」
パボンは、髭を整えながら話す。
「おまえなら、マリアがいても自分が出ていただろう。だいたい誰の子を産んで産休だ」
ヤヘルがにやにやする。
「わたしの子ですな。五番目の」
見た目より若い師団長は、愛妻家であり、子煩悩でもある。
「マリアは産休の方が多い」
トルイストが不満気に漏らす。
「それは言わないの。女性騎士にとっては憧れなのだから」
ルッタマイヤが擁護した。
「だから、おまえはパボンに狙われるのだ」
ガハハっ、とヤヘルが豪快に笑った。
「絶対来ると思ってましたよ。師団長は女性のいるところは攻撃しない」
「よく、わかってるじゃないか」
「だから、ファウラは女性騎士を入れたんだろ?」
「わかります?」
ファウラがにこにこと返した。
「おまえ程、負けず嫌いはいないからな」
溜め息をついたトルイスト。
「兄上はどう思われましたか?」
クリステイルの言葉に、全員が姿勢を正す。
アレクセイは、少し目を閉じてから、形の良い唇を開いた。
「……存外、騎士達の行儀の良さには驚いたな」
「はい?」
クリステイルがかわいらしく首を傾げた。
将軍は皆、あっ、という声を漏らした。
「私なら、魔物が出た時点で、大地震で全軍殲滅だ」
アレクセイの言葉に、全員が色を無くした。
「ミハナが泣き出しそうな案だがな」
ジョークだ、とアレクセイは言った。いや、やりそうだ、と将軍達は考えた。
「だが、魔物との戦闘時のみ魔法を許可する、という事を、上手く使った者がいた」
トルイストが眉根を寄せた。パボンが、はて?、と不思議そうな顔をした。
「戦闘時中に、わからない程度にミハナを回復させていたな。ファウラ」
「はぁ!」
トルイストが信じられない、という顔でファウラを見た。バレてた、という顔のファウラ。
「そこまでしてあの新人を連れて行く価値があったのか。トードォならまだしも」
「……隊長の実力も隊の実力も同程度なら、拮抗は必至です。そのときに起爆剤になるのが新人ですよ」
「頭でっかちのきさまとは、本当に合わんな」
「お互い様で」
トルイストとファウラが、クリステイルの御前にも関わらず言い合いをするのを、ルッタマイヤが諌めた。
「どちらもよくやったわ。現にミハナの案は、素人にしか浮かばないもの。ファウラの見通しの勝利です」
「パボン殿のチームよりは、残りが多かった」
トルイストの矛先が、パボンに向いた。
「本当に、面目ございません」
「いや、よくやった。今回の演習の功労者はパボンだな」
「えっ?」
そうですか?と、クリステイルは疑問を口にした。
「いやいや、とんでもない。斥候を気付かれたり、良いところ無しですよ」
「お荷物を抱えての移動だ。苦労があっただろう」
「お荷物?」
「王太子殿下、最近の陛下のご様子は?」
アレクセイが溜め息混じりに、クリステイルに問うた。
「えっ?いつも通り執務をされていましたが」
「認可された書類は?」
「あっ、差し戻しが多いと大臣が……」
まさか!
クリステイルの表情に、アンダーソニー達は下を向いた。大隊長の二人は、何の事かと視線を彷徨わせた。
「父上が、パボン殿のところにいたのですか!」
「王太子殿下、申し訳ありませぬ」
パボンが深く頭を下げた。
「いえ、父上がご迷惑をおかけしてすみません。本当にお荷物でしたね。言う事聞かないでしょうし。海に沈めてきますか?」
クリステイルは真剣な面持ちで、兄に問うた。
「いや、すぐに出てくる」
さらに、真面目な顔でアレクセイが言う。
「そうですよね」
「いやいや、陛下が王太子の頃からお供している身としては、大した事はありません」
ーー昔の方がひどかったのかー。
王子二人の胸の内。
「果敢にトードォに向かう姿は、他の者にも喝を入れていただきました」
「まわりがひやりとしただけでしょうにーー」
「クリス、そもそもおまえがちゃんと見張っていないからこうなったのだ」
えっ!アレクセイ殿下が、王太子殿下を我々の前で呼び捨てにーー。トルイストの顎は外れそうになった。
「兄上が、聖女様を頼むとおっしゃるから」
「遊び過ぎだ」
「ひどいお言葉だ」
クリステイルは笑った。
アレクセイも、薄く笑う。
「いや、しかし終わってしまって残念だと、皆言ってましたよ」
ヤヘルが明るく言った。
「これでこそ、演習ですわ」
ルッタマイヤも頷く。
「そうだな、トードゥにも言われたな」
あの生命知らずがーー、とヤヘルは笑った。
「次は、亡霊城の掃除をしてもらおうか」
アレクセイの言葉に、クリステイル以外の者が固まった。
「で、殿下が、攻略に一週間かかった、あの亡霊城でございますか?」
トルイストが震える声で聞いた。
「そうだ。湧き続けるゴミの掃除だ。魔力がいくらあっても、足りないーー」
大袈裟ですねー、
「騎士達の手も借りたいぐらい汚いんですね」
と、クリステイルは呑気に言う。
下を向いた士長に将軍達ーー。
東堂と美花の演習での活躍は、兵士中に知れ渡った。
異世界から来た二人の魔法騎士の伝説は、ここからはじまっていくーー。
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