ルベリーはしくじった。

濃子

文字の大きさ
上 下
5 / 6

第5話 ルベリーは奮闘する

しおりを挟む
 ルベリーは散々だった。

 学院を追い出された事を知ると、母は近所に自慢しまくってたらしく、町を歩けないと毎日泣いた。

 それがあまりにもうっとおしく、近所の張り紙にマグロ漁船の募集がしてあり、乗ってくると言うと、どこにでも行け、とまで言われ、ルベリーは黙って家を出た。

(いいわよ。氷の海でマグロと格闘よ!)

 ルベリーは少ない荷物を担ぎ、勇気を持って家を出た。


 漁船に乗る気満々のルベリーだったのだが、案の定、審査に落ちた。

「がんばりますから!」

「そういう問題じゃないんだよ。妊娠なんかされたらこまるんだよ!」

 なんで?とルベリーは首を傾げた。

 しかし、人の良い船長が、事情を聞くと同情してくれて、実家で妻がやってる牡蠣の殻剥きでよければ雇ってやる、と言われ、ルベリーは喜んだ。

(うまくいけば、毎日牡蠣が食べられる)

 船長の船で三日ほど海の上で過ごし、船旅を楽しんだ。船員達と仲良くなった。
 彼らはこれからマグロを釣りに半年の航海に出るのだ。

(羨ましいー。マグロ食べたいな)

 と、船員達に妙に熱い握手をかわされ、ルベリーは船長達を見送った。



 今度こそ安住の地にしたい、とルベリーはがんばった。船長の妻、レジュからは気に入られ、朝早く起きて牡蠣の作業場に行く。



 ゆっくりでいいので牡蠣の身を傷つけないように剥いてね、というレジュの教えを守り、水を弾くエプロンを来て、早朝から昼まで牡蠣の殻を剥く。

 牡蠣向きナイフを使って、殻を開け、牡蠣がくっついているほうの殻を持ち、優しく貝柱を切って身を落とす。
 隣のレジュの神業には到底及ばないが、丁寧な仕事だ、と誉められている。

 昼になると、牡蠣の浜焼き目当てのお客が来るので、その接客に追われる。

「ルベリー!三番に牡蠣二十個!」

「はい!ありがとーございまっす!」

 注文が入ると必ず、ありがとうございます、を言うシステムである。

 焼きすぎたものや、残したものをいただきながら、ルベリーの目には涙が浮かぶ。

「美味しい!まるで天国!」

 と、いう食べてる彼女を見たくて、来店するお客も出てきた。



「ルベリーちゃん、ここに座ってよ」

 接客中のルベリーに、青年達が話しかけた。見るからにチャラい男達である。

「どうかしましたか?」

 ルベリーが尋ねると、男達はにやにやしながらルベリーの手首を掴んだ。

 しかし、ルベリーは掴まれた方の手を開き、前に身体を踏み出し、肘を高くあげた。

 簡単に解かれ、男達は顔を見合わせた。

「ルベリーちゃん、格闘技でも、してるの?」

 首を傾げてルベリーは答える。

「格闘技なんて、まさかー」

 手をふる。

「そうだよねー」

「簡単な暗殺術ぐらいですよ」

 男達は二度と店に来なかったらしい。



 牡蠣小屋の可愛すぎる店員の噂を聞いて、いろんな身分のものが顔を出すようになった。

 ルベリーは身分が高そうな者にも、見るからにみすぼらしい服を着ている者にも、同等に応じるため、評判が良かった。

(王様やお父様の威圧感に比べたらねー)

 赤ちゃんみたいなものだ。


 暇なときは海で貝を採ったり釣りをしたり、ルベリーは生活に満足していた。


 が、

「えっ?結婚ですか?」

 突然、順風満帆ライフが終わりを告げた。

 マグロ漁船から帰ってきた船長に、断れなかったと縁談話を持ちかけられた。

「まだ、わたし十六なんですがー」

(誕生日聞くの忘れてたから、実際はわからないけどー)

「ちょっと、断れないんだー、頼むよ」

「わかりました」

 ルベリーは言った。

「よかった~。じゃあ、返事をしてくるな」

「今日でやめさせていただきます!」

 ルベリーははっきりと言い切った。船長が慌てる。

「頼むよ!断ればうちが潰れてしまうんだ」

「これだけ流行ってるのに?」

 しかも、船長は漁業組合のトップだ。その人が潰されるなんてー。

「すごいぞ!なんと王太子様の近衛兵なんだ!」

 ルベリーは引きつった。


 これは逃げるしかない。

 ルベリーは夜中にこっそりと起き上がり、レジュが寝ているのを確かめてから荷物を担いで外に出た。

「お世話になりました」

 ルベリーは頭を下げた。

「どういたしまして」

 びっくりして顔をあげると、レジュがいた。

「あー、あのー」

「わかってる。旦那が悪いんだから気にしないで。ここから南へ行けば、ヤイル修道院がある。そこならどんな子でも保護してくれるよ」

 恩知らずなルベリーに、レジュは笑顔を見せてくれた。

「わかりました!本当にありがとうございました!」

「またおいで」

 ルベリーは頭を何度も下げた。



 さて、どうしてこうもうまくいかないのか。ルベリーは眉をへの字にした。

 だが、原因はわかっている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...