ルベリーはしくじった。

濃子

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第4話 ルベリーは去りゆく

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「おかえり。授業は終わってしまったよ」

 エンジェに言われてがっくりとくる。

「先生が誉めていた。とてもいい調合の仕方だって」

「ほんとに!これで、薬学関係で就職できるかしら?」

 目を輝かせたルベリーに、エンジェは笑った。

「もう就職?宮廷魔術師は?」

 ルベリーは大笑いした。

「ないない。そんなんになれる人って、すごすぎる人でしょ?まして、女なんか相手にもされないわよ」

 ルベリーの言葉に、エンジェは小さく頷いた。その様子に、ルベリーは目を瞠った。

「もしかして、目指してるの?」

 ルベリーが恐る恐る尋ねると、エンジェは、うん、と言った。

「やだ、わたしったら!違うのよ!わたしが実力がないからそう言っただけなのよ!」

「わかってる。実際に、宮廷魔術師に女性がいないこともね」

 溜め息をついたエンジェに、ルベリーは下を向いた。

(浮かれすぎよ、ルベリー。友達を傷つけるなんてーー)

 前の言葉を取り消したい。ルベリーは、友達と話し慣れていないので、距離感をとるのが難しかった。

(せっかく仲良くなれたのにーー、いまの一言で嫌われたんじゃないかしら)

 ルベリーは尋ねる勇気がなかった。



 給食を食べていると、ウェンディ先生が走ってきた。

 騒々しいなぁ、ゆっくり食べさせてよー、と思いながらパンを噛むルベリーの前でウェンディ先生はとまる。

 えっ?っとルベリーはウェンディ先生の顔を見あげた。

「ルベリーさん。校長室にいらして」

「はあ?」

 何かやらかしただろうかー。

 まさか!


「は、母が危篤なんですか!」

 ルベリーはパンを持ちながら立ち上がる。

 前の前の前の学院にいたとき、そういって校長室に呼び出され、母の訃報を知った。

「いいから、行きなさい!」

 ルベリーは駆け出した。よほどの事があったのだろう。


 はあはあ、と息を整えて、ルベリーは校長室のドアをノックした。

「失礼します。ルベリー・アルードです」

 部屋に入り、うげっ、と言ってしまう。上座に座っているのはアメリだ。

 むすっとした顔で、やっぱりかなり痩せている。あんなにこだわっていた金髪も、艶があまりない。

「ルベリーさん、アメリ様が用があるらしいのです。ここへどうぞ」

 校長がルベリーを招いた。

「ありがとう、校長」

「いえ、では私はこれでーー」

 校長、行くんかいー。

 殺されはしないだろうが、ぶたれてもこちらが悪者にされるんだわ、とルベリーは鼻をふん、と鳴らした。


 二人きりになると、アメリは物凄い顔でルベリーを睨みつけた。

「ーーどういうことかしら?」

「まあ、どうなさいましたか?」

 とにかくとぼける。常識で考えれば、そんなわけがない話だ。

「あなた、ルベライトなんでしょ?」

「あら、どちらさまでしょう?」

 何いってんのよあんた、と怪訝な顔をしてみる。

「ーーそういう態度なら、あなたもおとなしくしていてくれるのよね?」

「あらあら、もっとわかる話をしていただけませんか?何が何やらーー」


 バシンッ。とルベリーは平手をくらった。アメリは見た目よりも力があるのか、ルベリーはソファに倒れ込んだ。

「痛ぁーい!凶暴な方なんですね!」

 きっと睨むと、アメリは笑った。

「わたくしを怒らせたあなたが悪いのよ。あなた、もう退学だから」

 ルベリーは目を見開いた。

「退学届は出したから、荷物をまとめて早く帰りなさい。そして、国外にでも行ってちょうだいね」

 傲慢にアメリが言う。

 ルベリーは溜め息をついた。

「無関係の人間に、何してるんだか……」

 ぼそりと言う。

「何?」

 アメリの言葉を流し、ルベリーは言った。

「アメリ様に従いましょう。その代わり、条件があります」

 細い眉を顰めて、アメリがきつい視線をさらに強めた。

「聞くとでも?」

「聞かなきゃ、アメリ様の悪い噂を流します」

「噂!噂なんか誰が信じると……」

 アメリは目を剥いた。

「信じなくてもいいんですよ。ただ、火のないところに煙は立たない。アメリ様が、噂の対象になる人間であることがポイントです。王族の婚約者なら良い噂以外は、マイナスなんじゃないですか?」

 唇を噛んでアメリはルベリーを見た。血が出そうなぐらい噛んでいる。

「難しい話じゃないですよ。よろしくお願いしますね」

 ルベリーは条件を提示し、校長室を後にした。

 まったく、神様も、ものすごく遠い国に転生させてくれればよかったのに。


 ルベリーの魔法学院生活は数週間で幕を閉じた。良い人に恵まれたのに、どうしてこうなるのか、ルベリーは項垂れた。



「どうして、ルベリーは学院を辞めたんだろう?」

「家庭の事情だって、残念だねー」

 ジークフリーとエンジェが寂しそうにルベリーの使っていた机を見る。

「なんでも、伯爵家の令嬢に、無礼な事をしたみたいだぜ」

 校長の親戚のバズがひそひそと言った。

「令嬢に無礼をってー」

「どんなことが無礼になるんだろ?」

 二人は首を捻った。

「ちょっと!エンジェ聞いた?」

 クラスメイトのキャシーがエンジェの肩を掴んだ。

「どうしたの?」

 その勢いにエンジェは引く。

「あ、あなた!宮廷魔術師候補になったのよ!」

 キャシーの鼻息の粗さを避けながら、エンジェは言葉の意味を考えた。

「う、うそー」

「本当よ!王太子の婚約者様が、あなたの才能に気付いたんですって!すごいわ!」

「さ、才能?」

 エンジェは、なぜか手放しでは喜べない。どこで見られたのかもわからないしー、どうなっているのか。

「しかも、あのオンボロ女子寮も改修してくれるみたいよ!」

 エンジェの目は開ききったまま、しばらく動かなかった。
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