星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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125 相談していいんでしょ

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 それから毎日、メディアはラズベリーやボードン財閥を批判した。自然にボードンから企業も何もかもが離れていき、ラズベリーは塀の中で力を失っていった。

 二日後、私とイオリはレイヴの部屋にいた。あの裁判から、イオリは頻繁にボーッとするようになった。また何かを一人で考えているんだと思った。

 それに関して何かを聞いても、「まあな」とか「ああ」とか生返事ではぐらかされた。だから私はイルザ様に電話した。今。

「もしもし」

『もしもし……何でしょう?はあ。』

 すごい嫌がってる。でもどうした?って聞いてくれたからまだいいや。私は一度、キッチンでサラダ作りに勤しんでるイオリがこちらに気づいていないことを確認してから、彼女に聞いた。

 因みにレイヴは、これから始まろうとしている犯人はティーカップの中の最終回を今か今かとテレビの前で待ち構えている。

「あの、イルザ様、イオリのことなんですけど。」

『私に相談をするおつもりですか?あなたが。』

「そうです。だって、何かあったら連絡していいって言いました。」

『……その通りです。して、イオリのことですか?最近ご無沙汰とか、そう言った用件でしたらお力添えにはなれな「違います違います。それもそうかもしれないですけど……もお。」

 確かにご無沙汰だよ。忙しいし、レイヴが同じ部屋で暮らしてるんだもん。かと言って廊下に頑張って出てもレイヴの射程から出ちゃって引き戻されるし、ベランダはベランダと言えないぐらいに狭い。

 宙に浮いてやろうとしたけど、そんな曲芸状態では笑いしか生まれず、今日に至る。……ぬおお!

「イオリが何か考え事をしています。多分、シードロヴァについて。あ、シードロヴァ様について。」

『ああ、兄のことですか。イオリが兄に夢中ということですか?』

「違うかもしれないけど、そう。」

『……はっきりしませんね。ですが理解しました。スピーカーにしてください。』

 私は言われた通りにスピーカーにした。そしてイオリの方に近付いて、彼にノアフォンを近づけた。彼はそれに気づき、チラッとこっちを見て、ため息をつきながら、ボウルに入っている野菜を菜箸でかき混ぜ始めた。

「アリシア、誰が相手か知らんが、今俺は忙しいんだ。」

 私は言った。

「でも、最近イオリが上の空だから、話をしたほうがいいと思ったの。」

「誰が相手だか知らんが、その必要はない。A、俺は心理士だ。大抵の悩みは自分で解決出来る。B、俺はこう見えて、酷な男だ。だから死んだシードロヴァのことを考えたりなんかしない。彼がどうしてハロルドに殺されたとか、そんなのは誰だって分かる。ハロルドはラズベリーを権力者にしたかった、だから邪魔なシードロヴァを手にかけた。そしてあの瞬間、シードロヴァがどんな気持ちで、どれほど怖い思いをして……とか、考えない。考えないんだ、俺は。」

『考えているではありませんか。』

「なっ!?」イオリがびっくりして、菜箸をシンクにポロポロ落としてしまった。「イルザ様!?どうして!?」

『心理士なのにそれすらも分かりませんか?アリシアが私に電話をかけてきたからです。イオリ、兄のことで悩んでいますか?兄のことが気になりますか?それ程、仲が良かったとは予想外でした。』

「……。」彼は無言で私を睨んでから、答えた。「はああああ……正直に申せば、少しは考えます。」

『違います、かなり頻繁に考えています。アリシアの報告によれば。』

「……そうです、多分、はい。考えます。それもそうだ、俺は彼が自分でいなくなったんだと思っていた。それは違って、ハロルドにやられたなんて。」

『今から言うことは、他言は無用。いえ、そうですね、この情報が漏れた場合、レイヴを殺します。』

「えええっ!?」レイヴが叫んだ。気がつけばこっちを見てた。「なんで俺!?とばっちりじゃん!」

「そんな、物騒なことを……。」

 イオリの言葉で少し黙ったイルザ様だったが、少ししてからこう言った。

『実は兄は、他殺ではありません。』

「えええっ!?」この場にいた誰もがそう叫んだ。

『……それも遺言の内容です。ある意味、証拠は、作り上げられたものです。』

「そ、そんなことが出来るのか!?いや、違う!そんなことをノアズがしていいのか!?」

『イオリ、大変、正義感のあふれる性格ですね。私も兄も、あなたを見習うべきなのでしょうが、我々はどうも、普通ではないようです。ここからは質問を禁じます。証拠は、兄が作成しました。兄は、自分の意志で、あの機械に乗りました。そしてあの爆発が発生した。遺言は全て、兄が直筆で書いた物です。そして私は何も、その件に関与していない。これらは紛れもない事実です。……意味がお分かりですか?いえ、何も返事は聞きたくありません。どうかこれ以降、私に兄の質問をしないでください。彼はもうこの世界にはいない、それも事実です。ですが私にはレイモンドがいる、それも事実です。イオリ、あなたの勤務内容はとても素晴らしい。私は日々、実感しております。それでは、おやすみなさい。また明日。』

「お、おやすみな……さい。」

 途中でブチッと切れちゃった。イオリは私の手のひらのノアフォンを見つめたまま、固まってしまった。

 固まっちゃうのも分かる気がする。だって物凄い事実の後、何を言ってるのかちょっとよく分からなかった。私はイオリに聞いた。

「捏造だけど、捏造じゃないのかな?」

「……そう言うことだろう。もう、イルザ様の指示通り、金輪際、彼の話題は避けよう。」

 イオリはまた、サラダ作りを再開した。心配になって彼の横顔を見ると、何故か微笑んでいた。
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