125 / 127
125 相談していいんでしょ
しおりを挟む
それから毎日、メディアはラズベリーやボードン財閥を批判した。自然にボードンから企業も何もかもが離れていき、ラズベリーは塀の中で力を失っていった。
二日後、私とイオリはレイヴの部屋にいた。あの裁判から、イオリは頻繁にボーッとするようになった。また何かを一人で考えているんだと思った。
それに関して何かを聞いても、「まあな」とか「ああ」とか生返事ではぐらかされた。だから私はイルザ様に電話した。今。
「もしもし」
『もしもし……何でしょう?はあ。』
すごい嫌がってる。でもどうした?って聞いてくれたからまだいいや。私は一度、キッチンでサラダ作りに勤しんでるイオリがこちらに気づいていないことを確認してから、彼女に聞いた。
因みにレイヴは、これから始まろうとしている犯人はティーカップの中の最終回を今か今かとテレビの前で待ち構えている。
「あの、イルザ様、イオリのことなんですけど。」
『私に相談をするおつもりですか?あなたが。』
「そうです。だって、何かあったら連絡していいって言いました。」
『……その通りです。して、イオリのことですか?最近ご無沙汰とか、そう言った用件でしたらお力添えにはなれな「違います違います。それもそうかもしれないですけど……もお。」
確かにご無沙汰だよ。忙しいし、レイヴが同じ部屋で暮らしてるんだもん。かと言って廊下に頑張って出てもレイヴの射程から出ちゃって引き戻されるし、ベランダはベランダと言えないぐらいに狭い。
宙に浮いてやろうとしたけど、そんな曲芸状態では笑いしか生まれず、今日に至る。……ぬおお!
「イオリが何か考え事をしています。多分、シードロヴァについて。あ、シードロヴァ様について。」
『ああ、兄のことですか。イオリが兄に夢中ということですか?』
「違うかもしれないけど、そう。」
『……はっきりしませんね。ですが理解しました。スピーカーにしてください。』
私は言われた通りにスピーカーにした。そしてイオリの方に近付いて、彼にノアフォンを近づけた。彼はそれに気づき、チラッとこっちを見て、ため息をつきながら、ボウルに入っている野菜を菜箸でかき混ぜ始めた。
「アリシア、誰が相手か知らんが、今俺は忙しいんだ。」
私は言った。
「でも、最近イオリが上の空だから、話をしたほうがいいと思ったの。」
「誰が相手だか知らんが、その必要はない。A、俺は心理士だ。大抵の悩みは自分で解決出来る。B、俺はこう見えて、酷な男だ。だから死んだシードロヴァのことを考えたりなんかしない。彼がどうしてハロルドに殺されたとか、そんなのは誰だって分かる。ハロルドはラズベリーを権力者にしたかった、だから邪魔なシードロヴァを手にかけた。そしてあの瞬間、シードロヴァがどんな気持ちで、どれほど怖い思いをして……とか、考えない。考えないんだ、俺は。」
『考えているではありませんか。』
「なっ!?」イオリがびっくりして、菜箸をシンクにポロポロ落としてしまった。「イルザ様!?どうして!?」
『心理士なのにそれすらも分かりませんか?アリシアが私に電話をかけてきたからです。イオリ、兄のことで悩んでいますか?兄のことが気になりますか?それ程、仲が良かったとは予想外でした。』
「……。」彼は無言で私を睨んでから、答えた。「はああああ……正直に申せば、少しは考えます。」
『違います、かなり頻繁に考えています。アリシアの報告によれば。』
「……そうです、多分、はい。考えます。それもそうだ、俺は彼が自分でいなくなったんだと思っていた。それは違って、ハロルドにやられたなんて。」
『今から言うことは、他言は無用。いえ、そうですね、この情報が漏れた場合、レイヴを殺します。』
「えええっ!?」レイヴが叫んだ。気がつけばこっちを見てた。「なんで俺!?とばっちりじゃん!」
「そんな、物騒なことを……。」
イオリの言葉で少し黙ったイルザ様だったが、少ししてからこう言った。
『実は兄は、他殺ではありません。』
「えええっ!?」この場にいた誰もがそう叫んだ。
『……それも遺言の内容です。ある意味、証拠は、作り上げられたものです。』
「そ、そんなことが出来るのか!?いや、違う!そんなことをノアズがしていいのか!?」
『イオリ、大変、正義感のあふれる性格ですね。私も兄も、あなたを見習うべきなのでしょうが、我々はどうも、普通ではないようです。ここからは質問を禁じます。証拠は、兄が作成しました。兄は、自分の意志で、あの機械に乗りました。そしてあの爆発が発生した。遺言は全て、兄が直筆で書いた物です。そして私は何も、その件に関与していない。これらは紛れもない事実です。……意味がお分かりですか?いえ、何も返事は聞きたくありません。どうかこれ以降、私に兄の質問をしないでください。彼はもうこの世界にはいない、それも事実です。ですが私にはレイモンドがいる、それも事実です。イオリ、あなたの勤務内容はとても素晴らしい。私は日々、実感しております。それでは、おやすみなさい。また明日。』
「お、おやすみな……さい。」
途中でブチッと切れちゃった。イオリは私の手のひらのノアフォンを見つめたまま、固まってしまった。
固まっちゃうのも分かる気がする。だって物凄い事実の後、何を言ってるのかちょっとよく分からなかった。私はイオリに聞いた。
「捏造だけど、捏造じゃないのかな?」
「……そう言うことだろう。もう、イルザ様の指示通り、金輪際、彼の話題は避けよう。」
イオリはまた、サラダ作りを再開した。心配になって彼の横顔を見ると、何故か微笑んでいた。
二日後、私とイオリはレイヴの部屋にいた。あの裁判から、イオリは頻繁にボーッとするようになった。また何かを一人で考えているんだと思った。
それに関して何かを聞いても、「まあな」とか「ああ」とか生返事ではぐらかされた。だから私はイルザ様に電話した。今。
「もしもし」
『もしもし……何でしょう?はあ。』
すごい嫌がってる。でもどうした?って聞いてくれたからまだいいや。私は一度、キッチンでサラダ作りに勤しんでるイオリがこちらに気づいていないことを確認してから、彼女に聞いた。
因みにレイヴは、これから始まろうとしている犯人はティーカップの中の最終回を今か今かとテレビの前で待ち構えている。
「あの、イルザ様、イオリのことなんですけど。」
『私に相談をするおつもりですか?あなたが。』
「そうです。だって、何かあったら連絡していいって言いました。」
『……その通りです。して、イオリのことですか?最近ご無沙汰とか、そう言った用件でしたらお力添えにはなれな「違います違います。それもそうかもしれないですけど……もお。」
確かにご無沙汰だよ。忙しいし、レイヴが同じ部屋で暮らしてるんだもん。かと言って廊下に頑張って出てもレイヴの射程から出ちゃって引き戻されるし、ベランダはベランダと言えないぐらいに狭い。
宙に浮いてやろうとしたけど、そんな曲芸状態では笑いしか生まれず、今日に至る。……ぬおお!
「イオリが何か考え事をしています。多分、シードロヴァについて。あ、シードロヴァ様について。」
『ああ、兄のことですか。イオリが兄に夢中ということですか?』
「違うかもしれないけど、そう。」
『……はっきりしませんね。ですが理解しました。スピーカーにしてください。』
私は言われた通りにスピーカーにした。そしてイオリの方に近付いて、彼にノアフォンを近づけた。彼はそれに気づき、チラッとこっちを見て、ため息をつきながら、ボウルに入っている野菜を菜箸でかき混ぜ始めた。
「アリシア、誰が相手か知らんが、今俺は忙しいんだ。」
私は言った。
「でも、最近イオリが上の空だから、話をしたほうがいいと思ったの。」
「誰が相手だか知らんが、その必要はない。A、俺は心理士だ。大抵の悩みは自分で解決出来る。B、俺はこう見えて、酷な男だ。だから死んだシードロヴァのことを考えたりなんかしない。彼がどうしてハロルドに殺されたとか、そんなのは誰だって分かる。ハロルドはラズベリーを権力者にしたかった、だから邪魔なシードロヴァを手にかけた。そしてあの瞬間、シードロヴァがどんな気持ちで、どれほど怖い思いをして……とか、考えない。考えないんだ、俺は。」
『考えているではありませんか。』
「なっ!?」イオリがびっくりして、菜箸をシンクにポロポロ落としてしまった。「イルザ様!?どうして!?」
『心理士なのにそれすらも分かりませんか?アリシアが私に電話をかけてきたからです。イオリ、兄のことで悩んでいますか?兄のことが気になりますか?それ程、仲が良かったとは予想外でした。』
「……。」彼は無言で私を睨んでから、答えた。「はああああ……正直に申せば、少しは考えます。」
『違います、かなり頻繁に考えています。アリシアの報告によれば。』
「……そうです、多分、はい。考えます。それもそうだ、俺は彼が自分でいなくなったんだと思っていた。それは違って、ハロルドにやられたなんて。」
『今から言うことは、他言は無用。いえ、そうですね、この情報が漏れた場合、レイヴを殺します。』
「えええっ!?」レイヴが叫んだ。気がつけばこっちを見てた。「なんで俺!?とばっちりじゃん!」
「そんな、物騒なことを……。」
イオリの言葉で少し黙ったイルザ様だったが、少ししてからこう言った。
『実は兄は、他殺ではありません。』
「えええっ!?」この場にいた誰もがそう叫んだ。
『……それも遺言の内容です。ある意味、証拠は、作り上げられたものです。』
「そ、そんなことが出来るのか!?いや、違う!そんなことをノアズがしていいのか!?」
『イオリ、大変、正義感のあふれる性格ですね。私も兄も、あなたを見習うべきなのでしょうが、我々はどうも、普通ではないようです。ここからは質問を禁じます。証拠は、兄が作成しました。兄は、自分の意志で、あの機械に乗りました。そしてあの爆発が発生した。遺言は全て、兄が直筆で書いた物です。そして私は何も、その件に関与していない。これらは紛れもない事実です。……意味がお分かりですか?いえ、何も返事は聞きたくありません。どうかこれ以降、私に兄の質問をしないでください。彼はもうこの世界にはいない、それも事実です。ですが私にはレイモンドがいる、それも事実です。イオリ、あなたの勤務内容はとても素晴らしい。私は日々、実感しております。それでは、おやすみなさい。また明日。』
「お、おやすみな……さい。」
途中でブチッと切れちゃった。イオリは私の手のひらのノアフォンを見つめたまま、固まってしまった。
固まっちゃうのも分かる気がする。だって物凄い事実の後、何を言ってるのかちょっとよく分からなかった。私はイオリに聞いた。
「捏造だけど、捏造じゃないのかな?」
「……そう言うことだろう。もう、イルザ様の指示通り、金輪際、彼の話題は避けよう。」
イオリはまた、サラダ作りを再開した。心配になって彼の横顔を見ると、何故か微笑んでいた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる