星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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115 ピンクの缶

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 結局、我々はその事務室に翌日まで待機をしていた。夜の間中、ずっとどこかで銃声が聞こえていて、時々この倉庫内にも響いたことがあった。

 その間は皆で警戒をしながらひっそりと隠れていると、その銃声は一階で響いただけで、移動していった。それが終わると我々はまたじっとその場で待機をしつつ、休憩した。

 先程、フォレスト大佐からイオリに連絡が来た。もう直ぐ先鋒隊がそちらに着くから、準備をしていろ。とのことだった。

 戦況はこちらに有利に傾いていた。フォレスト大佐によるとボードンとFOCは個人個人で戦っている印象を受けたようで、カタリーナがリーダーの役目をしていないことが分かった。

 それでも敵は抵抗する。捕まれば二度と塀の中から出られないからだ。まだ油断は出来ない状況だ。我々は装備の再確認をしながら、事務室の中で待機した。

 するとイオリのノアフォンに着信が来た。彼が画面を見て目を丸くしてから、スピーカーにして通話に出た。

「どうした?」

『イオリ、どこにいるの?助けて欲しい!』

 サラの声だった。イオリは難しい顔をした。

「助けるとは、何から?」

『何からって、このままだと私はノアズに撃たれる!バリーの婚約者に射殺の許可を与えるってフォレスト大佐が発表してたの知らないの!?そんなの嫌だ!ねえ、おとなしく捕まるから、どうか私のことを銃弾から守って?素直に拘束されるから!本当に、撃たれるの嫌だ……!』

「んんん、お前……昨日俺を撃っただろうが。アリシアが盾になってくれなかったら、俺は命が危なかった。今更俺に助けを求めても、もう遅い。」

『アリシアだって私を撃ったじゃない!あの時は気が動転してたの!誰だってそうなるでしょ!?婚約者が元カレに撃たれたんだから!』

 イオリがチラッと私を見た。すごい引きつった顔だった。何を言いくるめられそうになってるんだと私は首を振った。彼は「そうだよな」と呟いた。

「サラ、俺はもう助けにはなれない。あの後自力で逃げたのか?」

『起きたらバリーが……もう思い出したくもない。あのあとは自力でここまで来た。もうこの辺りは倉庫ばかりで自分がどの辺りにいるのか分からない。拘束されるから、それだったらいいでしょ?私はバリーと悪いことをした。それは認めるから、私を捕まえて欲しい。そしてその時は撃たないで。お願い、抵抗しないから私を捕まえて。人生が終わるまで、収容施設に入るから。』

「……抵抗しないのだな?」

『抵抗しない。銃も捨てる。でも捨てるの今は無理。だってそこら中にノアズ兵と、敵か味方かもう分からないFOCの戦闘員がうじゃうじゃいる。イオリに近づいたら、その時に地面に捨てる。』

 私は言った。

「じゃあ捨てたか私が確認するよ。それでいいんじゃない?」

「あ、ああ」イオリが頷いた。「そうしよう。サラ、俺たちは今、ペンキ缶の倉庫にいる。北西のエリアだ。」

『そうなの?丁度近いから、そっちに行けばいい?』

「近づいてきたら、また連絡をしろ。」

 イオリは通信を切った。すると直ぐに着信が入った。彼はまたスピーカーにして出た。

『イオリ、今どこにいますか?』

 イルザ様の声だった。イオリは答えた。

「倉庫地帯北西エリアのペンキ缶の倉庫です。どのメーカーの倉庫かまでは……。イルザ様はどちらに!?」

『私は今、そちらに向かっております。兄様に依頼されたあることを実行するのを、友の出現で忘れてしまいました。それを行う為に、そちらに向かっております。』

「えっ!?ここに来るのですか!?それはやめた方がいい!外は絶え間なく銃声が聞こえている。先にフォレスト大佐と合流した方が……!」

『フォレストも近くにいます。大丈夫です。兎に角実行しなければならない。イオリ、その場から動かないでください。』

「様々な人間から動くなと言われているので動きませんがイルザ様やはりここは危『それでは。』

 ブチッと切れた。ちょっと笑いそうになった。イオリが顔を引きつらせて、前髪をかき上げた。

 レイヴが彼に話しかけた。

「まずいんじゃねーの?ここに来ちゃ。」

 ダニーがポツッと言った。

「あの護衛がいるから大丈夫なんじゃねえか?」

「外を……」イオリが私からスナイパーを受け取りつつ、言った。「綺麗にしておく必要がありそうだ。何もこんな最前線までイルザ様が来ることもないのに。いっそのこと俺が迎えに行けばいいのか?ああでも、サラも来るし、ああでも移動するとごちゃごちゃしそうだな……あああ。」

「私が周りを掃除してくる。」

 私はレイヴに手のひらを差し出した。彼は「ダニーから借りろよ」と言ったので、私はダニーに手のひらを差し出した。彼が腰から引き抜いた迷彩ペイントのハンドガンを私の手のひらに置いてくれた。

 私はドアをすり抜けて、事務室から外に出た。すると背後のドアが空いた。出てきたのはイオリだった。

「いや、俺も行く。」

「いいよ、危ないよ。」

「銀の銃弾があるかもしれない。俺も行く。」

「じゃあ俺も行く。「じゃあ俺も。」

 と、レイヴとダニーがゾロゾロ出てきた。レイヴは振り返ってダニーに言った。

「でもお前は銃持ってないだろ。ここにいろよ、何かあった時の連絡係だ。」

「……分かったよ。気をつけろよ。」

 我々三人は頷いて、体を屈ませながら注意深く階段を下りた。この倉庫内にはまだ誰も居ない。

 私は先に一階のコンクリに足を付けた。コツっとかかとが鳴ったので音を消すことをイメージした。すると私の足音は消えた。

 しかし背後のコツコツ革靴とドタドタブーツがうるさい。無駄な心配をしたと思って、また足音を再開した。

 積み上げられたペンキ缶の陰で、一度立ち止まった。レイヴがペンキ缶をじっと見つめて、言った。

「ピンクのペンキ缶だ。へえー、これ全部ピンク色かよ。ってかさ、倉庫の外を綺麗にするの無理じゃない?思ったよりも銃声が多い。」

 イオリがスナイパーに魔弾を込めながら答えた。

「それはそうだ。もうそこまでフォレスト大佐が近づいている。ここはまだボードンFOCのエリアだが、それも今日までだろう。ラズベリーがどこにいるのか知らんが、ここを突破されればボードンだって考えなければならない。彼女はあの屋敷に戻るか?いや、あそこはもうノアズが占拠している。ラズベリーは逃げ場を失っている。となれば必死にここを守り抜き、戦うしかない。ノアズを押し退けなければ、居場所がなくなるんだ。まあ、彼女はシードロヴァの妻だから、例えノアズが彼女を捕らえたとしても、塀の中とは思えないほどの好待遇を与えるだろうが。」

「なあ、俺、ちゃんとノアズに入れるのか?」

「俺が保証すると言っている。それにアリシアもだ。」

 私はイオリに言った。

「でも私、あと一週間も生きられないよ。消えるから。」

「……ヤギをもう一度脅すから大丈夫だ。」

 もう一度って、一回脅したことあるんだ。ちょっと笑いそうになった。それと嬉しかった。
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