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82 ひとりの夜
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激しいギターのソロを聴きながら、私は薄ら笑みを浮かべつつ、ベッドルームに来た。マットは白いフカフカのもので、黒いシーツが綺麗に敷かれている。
黒いシルクのブランケットを抱き枕のように抱きしめながら、深緑のパジャマを着たイオリが仰向けで、少し顔を傾けて寝息を立てている。
私はそっとベッドに座った。彼は深い眠りについたままだ。高級なマットだから以前のように軋む音はしなかった。少しだけ彼の方に近づいた。私の太ももと、彼の腰が触れた。
温かかった。ノアフォンをポケットから出して、音楽を消して、イオリの枕の隣に置くことにした。そこには彼のノアフォンも置いてあって、二つ並べるようにして置いた。
寝息だけが聞こえてる。壁掛けのライフルの上に設置された小さな赤いランプだけが、ぼんやりとこの部屋を照らしてる。彼の頬も赤い。彼の深緑のパジャマは、黒っぽく見えた。
この部屋……使わないのに意味あるのだろうか。これからちゃんと使ってくれるのだろうか。色々な考えが頭をぐるぐると駆け回った。もしや私のことはもう飽きたのかもしれない。いや、彼は疲れてるだけだ。
そもそも私はゴーストだ。他の人と同じくらい、彼の愛を求めるのは間違っているのかもしれない。
なら、密かに愛してみたい。私は再びにやりと笑った。
彼の股が出るように、ブランケットを少しずらして、どかした。勢いでちらりと割れた腹筋が見えた。そのままにしてお腹を壊したら大変なので、ずれたパジャマをかけてあげた。
もしや狸寝入りしてないよね?ふとそう考えた私は、イオリの寝顔に向かって、目を白目にする変顔をした。しかし彼は何も反応せずに、ただ呼吸してる。
ならいいんだ、ならね。私はちょっと笑いそうになったけど堪えて、パジャマの上から彼のアレを一度撫でた。柔らかい。そういえば柔らかいうちに触るのは初めてだ。
指先で優しく、上下に動かして撫でた。何も変化はない。ならばと先っぽの方を摘んでみた。それもプニプニしてた。こういう感覚なの?と純粋に感動した私は、指先で何度もプニプニした。
その時、彼が「んー」と寝言で唸って、寝返りをうって、私に背を向けて、猿が木にしがみつくように、ブランケットを抱きしめてしまった。
そうなるともう何もできない。きっと寝ながらも違和感があったんだ、ごめんねイオリ。私はノアフォンをポケットに入れて、身体を透けさせて壁をすり抜け、ソファの部屋に行った。
変なドキドキ感と体の火照りがある。ソファに寝そべりながら、じっと暗い天井を見つめた。ああ、明らかに体が熱を欲してる。どうしてこうなった?分かってる。イオリが私に全てを叩き込んだのが悪い。
全部イオリのせいだ。彼のそっちの激しさが私を覚醒させた。くそー、どうしてくれる。私は悶々とした。
ノアフォンをつけた。少し、電話したくなった。話すだけならいいよね。私は体を起こして、この部屋だと話し声が聞こえると思って、浮いて、車の屋根の上に移動した。
ゴーストは便利よ。そして私はバートに電話をかけた。彼はすぐに出た。
『ん?リア?……あああああああ!リアちゃんね!どうしたの?』
その様子だと色々な人に電話番号を教えてるんだろうなと苦笑いした。まあそれが彼の仕事だけど。
「久々に話したくなった。何があったとかじゃないけど。」
『いいよいいよ、いつでも電話してくれて!今夜は非番なんだ!今一人で家にいて、さっきまでドラマ見てた!』
「え?それって犯人はティーカップの中?」
『そうそう!それだ。俺実はルームメイトが二人いて、一人は魔法学園の生徒で、もう一人は銀行員で、二人とも真面目なんだよね……まあそれは置いといて、二人が見てたから俺も一緒に見てたってことが言いたかった。』
「そうなんだ。」
『それ見てるんだ?毎週?』
「うん、見てるよ。」
『イオリと見てるの?』
「え……そうだけど、でも今日はイオリが疲れて寝ちゃった。」
『へえー、それはちょっと寂しいね。彼は仕事忙しいの?』
「うん。」体育座りになった私は、黒いヒールの爪先をつんつん突いた。「依頼も最近多くて、忙しい。あと引っ越したからそれもあって。」
『え?リアちゃんどこに引っ越したの?トロピカルバイスの外じゃないよね?それだと寂しいな、俺。』
「トレーラーハウスにしたの。イオリが元カノにストーキングされ始めたから。」
『はっはっは……それはお気の毒だ。それでイオリは疲れてるんだねー。そしてリアちゃんが俺に電話した。』
私はムッとした。
「別に電話したっていいでしょ?チップあげるから誰にも言わないでね。」
『……それが目当てじゃないけど、貰えるならもらう。』
ちょっと笑った。するとバートも笑ってくれた。
『はっはっは、はぁ……ねえ、今から会いに行こうか?』
「え、それはいいよ。そういうことを誰かとしたいって訳じゃない。」
『会って、話すだけでもいいよ。俺暇だし、トロピカルバイスのどこかにいるんでしょ?会いに行くよ。どこにいるの?』
「いいってば。イオリを裏切りたい訳じゃない。ただ話がしたかったの。」
『……じゃあ電話で、ちょっと遊んでみる?』
なんか、電話する相手間違えたかもしれない。苦笑いしてると、バートが言ってきた。
『じゃあ俺からキスするね。んちゅっ。』
何これ。
『次はリアちゃんが俺にキスして?』
「え。……やだ。」
『じゃあ仕方ない、俺が今度はリアちゃんの首にキスするね。ちゅっ』
だから何これ。
「なんか、こんな綺麗な夜空の下で、何を話してるんだろうと思うと、虚しくなってくる……。」
『その虚しさは天敵だよ?さあ目を閉じて僕の世界に没頭してよ。じゃあ今度は、もう少し下の方にキスしてあげる。ねえ、今何着てる?』
「ブラウスだけど。」
『じゃあボタン外して。』
「やだ……!」
『外して。俺もTシャツ脱いでるから、ほら早く!』
顔の引きつりが止まらない。何これ。どうしたら終わるのこれ。その前にこのやりとりは危険なんじゃないか?複雑な思考のまま、私は屋根の上で仰向けに寝た。
黒いシルクのブランケットを抱き枕のように抱きしめながら、深緑のパジャマを着たイオリが仰向けで、少し顔を傾けて寝息を立てている。
私はそっとベッドに座った。彼は深い眠りについたままだ。高級なマットだから以前のように軋む音はしなかった。少しだけ彼の方に近づいた。私の太ももと、彼の腰が触れた。
温かかった。ノアフォンをポケットから出して、音楽を消して、イオリの枕の隣に置くことにした。そこには彼のノアフォンも置いてあって、二つ並べるようにして置いた。
寝息だけが聞こえてる。壁掛けのライフルの上に設置された小さな赤いランプだけが、ぼんやりとこの部屋を照らしてる。彼の頬も赤い。彼の深緑のパジャマは、黒っぽく見えた。
この部屋……使わないのに意味あるのだろうか。これからちゃんと使ってくれるのだろうか。色々な考えが頭をぐるぐると駆け回った。もしや私のことはもう飽きたのかもしれない。いや、彼は疲れてるだけだ。
そもそも私はゴーストだ。他の人と同じくらい、彼の愛を求めるのは間違っているのかもしれない。
なら、密かに愛してみたい。私は再びにやりと笑った。
彼の股が出るように、ブランケットを少しずらして、どかした。勢いでちらりと割れた腹筋が見えた。そのままにしてお腹を壊したら大変なので、ずれたパジャマをかけてあげた。
もしや狸寝入りしてないよね?ふとそう考えた私は、イオリの寝顔に向かって、目を白目にする変顔をした。しかし彼は何も反応せずに、ただ呼吸してる。
ならいいんだ、ならね。私はちょっと笑いそうになったけど堪えて、パジャマの上から彼のアレを一度撫でた。柔らかい。そういえば柔らかいうちに触るのは初めてだ。
指先で優しく、上下に動かして撫でた。何も変化はない。ならばと先っぽの方を摘んでみた。それもプニプニしてた。こういう感覚なの?と純粋に感動した私は、指先で何度もプニプニした。
その時、彼が「んー」と寝言で唸って、寝返りをうって、私に背を向けて、猿が木にしがみつくように、ブランケットを抱きしめてしまった。
そうなるともう何もできない。きっと寝ながらも違和感があったんだ、ごめんねイオリ。私はノアフォンをポケットに入れて、身体を透けさせて壁をすり抜け、ソファの部屋に行った。
変なドキドキ感と体の火照りがある。ソファに寝そべりながら、じっと暗い天井を見つめた。ああ、明らかに体が熱を欲してる。どうしてこうなった?分かってる。イオリが私に全てを叩き込んだのが悪い。
全部イオリのせいだ。彼のそっちの激しさが私を覚醒させた。くそー、どうしてくれる。私は悶々とした。
ノアフォンをつけた。少し、電話したくなった。話すだけならいいよね。私は体を起こして、この部屋だと話し声が聞こえると思って、浮いて、車の屋根の上に移動した。
ゴーストは便利よ。そして私はバートに電話をかけた。彼はすぐに出た。
『ん?リア?……あああああああ!リアちゃんね!どうしたの?』
その様子だと色々な人に電話番号を教えてるんだろうなと苦笑いした。まあそれが彼の仕事だけど。
「久々に話したくなった。何があったとかじゃないけど。」
『いいよいいよ、いつでも電話してくれて!今夜は非番なんだ!今一人で家にいて、さっきまでドラマ見てた!』
「え?それって犯人はティーカップの中?」
『そうそう!それだ。俺実はルームメイトが二人いて、一人は魔法学園の生徒で、もう一人は銀行員で、二人とも真面目なんだよね……まあそれは置いといて、二人が見てたから俺も一緒に見てたってことが言いたかった。』
「そうなんだ。」
『それ見てるんだ?毎週?』
「うん、見てるよ。」
『イオリと見てるの?』
「え……そうだけど、でも今日はイオリが疲れて寝ちゃった。」
『へえー、それはちょっと寂しいね。彼は仕事忙しいの?』
「うん。」体育座りになった私は、黒いヒールの爪先をつんつん突いた。「依頼も最近多くて、忙しい。あと引っ越したからそれもあって。」
『え?リアちゃんどこに引っ越したの?トロピカルバイスの外じゃないよね?それだと寂しいな、俺。』
「トレーラーハウスにしたの。イオリが元カノにストーキングされ始めたから。」
『はっはっは……それはお気の毒だ。それでイオリは疲れてるんだねー。そしてリアちゃんが俺に電話した。』
私はムッとした。
「別に電話したっていいでしょ?チップあげるから誰にも言わないでね。」
『……それが目当てじゃないけど、貰えるならもらう。』
ちょっと笑った。するとバートも笑ってくれた。
『はっはっは、はぁ……ねえ、今から会いに行こうか?』
「え、それはいいよ。そういうことを誰かとしたいって訳じゃない。」
『会って、話すだけでもいいよ。俺暇だし、トロピカルバイスのどこかにいるんでしょ?会いに行くよ。どこにいるの?』
「いいってば。イオリを裏切りたい訳じゃない。ただ話がしたかったの。」
『……じゃあ電話で、ちょっと遊んでみる?』
なんか、電話する相手間違えたかもしれない。苦笑いしてると、バートが言ってきた。
『じゃあ俺からキスするね。んちゅっ。』
何これ。
『次はリアちゃんが俺にキスして?』
「え。……やだ。」
『じゃあ仕方ない、俺が今度はリアちゃんの首にキスするね。ちゅっ』
だから何これ。
「なんか、こんな綺麗な夜空の下で、何を話してるんだろうと思うと、虚しくなってくる……。」
『その虚しさは天敵だよ?さあ目を閉じて僕の世界に没頭してよ。じゃあ今度は、もう少し下の方にキスしてあげる。ねえ、今何着てる?』
「ブラウスだけど。」
『じゃあボタン外して。』
「やだ……!」
『外して。俺もTシャツ脱いでるから、ほら早く!』
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