星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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70 真実しか通用しない

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 ノアフォンで誰かと話をしたかった。電話帳を見た。分かり切ったことだけど、私の電話帳の登録数は少ない。レイヴは今面倒くさそうだし、オリオン様は話しかけづらいし、エミリは寝てるし……。

 バートのところで指が止まった。まあいいやと思ってかけてみた。するとすぐに出てくれた。

『あ!リアちゃんさっきびっくりしたよ!壁からすり抜けて行ったから本当にびっくりした!あっはっは!』

「あ、ああそうだよね、ごめんね……。」

『でもレイヴっていうお客さんから話を聞いたよ。俺はどんなリアちゃんでも構わない。いつでも会いに行く!』

「チップ欲しいからでしょ。あげるよ。」

『本当に!?あ、いや……別にそれだけじゃない。』

「それだけの方がありがたいんだけど。だって割り切りたいの。私はそのうち消えるから。」

『……それもレイヴから聞いた。だから割り切りたいのならその関係でもいい。でも君が望むのなら、君が消えるまで僕はそばにいたい。出会ったばかりでこんなこと言うなんておかしいけど、とても好きなんだ、リアのこと。』

 なんか声色が照れてる、演技にしてはリアルだった。

「ふふ、ありがとう。また電話したいな、チップあげるから。」

『チップはいいよ、はっはっは、電話は僕だってしたいよ。勿論プライベートでね。』

「だから割り切りたいって。」

『分かった。いつでも待ってる。でもイオリには内緒にした方がいいな、その方が燃えるから。』

 何言ってんだこいつとちょっと笑った。少し惹かれるものはあるけど、やっぱ今はイオリがいるからいけないことかもと迷いつつ、「またね」と言ってから切った。

 ちょっとだけ気が晴れた。あー、誰かに話すのって、すっきりすることもあるんだと思った。ふと車のドアの方を振り返って見ると、イオリが窓のところでヌッとこちらを見ていたので、私は驚いてビクッとした。

 ドアがゆっくりと開いた。そして彼がゆっくりと出てきた。そして私の隣にどさっと座り、私のノアフォンを取り上げようとしてきたので私は抵抗した。

「ちょっとやめて!」

「おい!それを浮気というんだ馬鹿!何が割り切った関係だ!チップあげて割り切るだと!?相手がバートなのは一目瞭然だ!ノアフォンをよこせ!」

「落ち着いて……ごめんだから!」

「落ち着けるか!」イオリが大声を出した。ちょっと怖かった。彼もそんな声を出したのは意外だったのか、「す、すまない。」と謝った。私は頷いた。

 彼は私の隣にくっついて座りなおした。そして私の手を握った。サラの言ったことを思い出した。確かに、イオリは優しく手を握ってくれる。

「……何故、バートと割り切りたいのか、教えてくれ。」

「どこから聞いてた?」

「起きると、お前が消えていた。窓の外を見ると、アリシアがバートという名の人物に電話をかけていた。だから会話を聞かせて頂いた。内容からして、お前はいつか消えるから、割り切った関係をバートと持ちたいと思っているのだろう?あのストリッパーと。」

「そう。」

 ギュッと手を握られた。かなりギュッとだったので結構痛かった。あおーと呻いていると、イオリが「すまん」と私の手を摩った。それから彼は、戸惑った表情を見せた。

「……どうしてだ?俺では不満なのか?もっと、バートのような筋肉や彼のようなセクシーさが必要か?それとも俺があやふやな態度をとっていたように、アリシアも俺とバートを……。」

「ああ、違う。別に二股したいとかじゃなくて、バートがいるならこの関係は終わりにしようと思ってる。彼が気になるのは、彼がイオリに似ているからだよ。私はイオリがとても好き。」

「では何故……!?」

「さっきサラと話した。でもその前に自分でも思ってた。私はいつか消えるから、もしこのままイオリと一緒にいたら悲しませるかもしれないって。タイムリーな感じで、サラにも同じことを言われた。サラは、イオリのこと、今でも好きだよ?」

 私は彼を見た。彼は目を丸くしていた。そして私に聞いた。

「だからなんだ?」

「だ、だから?だからその……サラといつか、よりを戻すのがいいと思うよ。彼女はバリーと一緒にいることで気づいてた。イオリは褒めてくれる、イオリは大切に相手を扱ってくれる。イオリは……本当は素敵だってこと。サラは気づいてた。」

「お前は、どうしたい?」

「私は……。」海を見た。波が少し、荒くなってる。風が吹いていた。無性に嫌な予感がした。「イオリには幸せになって欲しい。サラはさっきイオリに会いに部屋の前まで来てた。彼女はもう、イオリを求めてる。イオリだって、楽しそうに電話してた。さっき電話で話してる時に、イオリは楽しそうだった。」

「本当のことを聞かせてくれ。お前は、どうしたい?」

「……困った。だから、イオリに幸せになって欲しい。」

「俺の幸せは、アリシアのそばにいることだ。そう言ったら、お前はどうしたい?」

 なんか、ぽろっと出てしまった。膝の間に顔を埋めていると、イオリが長い腕で私を包んで抱きしめてくれた。

 私は辛いけど、言った。

「サラとイオリがまた一緒になって欲しい。」

「はっはっは……。」

 イオリはハグをやめてくれない。そして私の背中をさすりながら言った。

「今のは嘘だ。お前が自分で認めないので、俺が言ってやる。お前の幸せは俺と一緒にいることだ。俺と一緒に買い物をして、俺と一緒に仕事をして、俺と一緒に、たまにはこうしてゆっくりと過ごすことだ。しかし、自分はあと五ヶ月程で消えるのを理解している為、俺に悲しみを与えない為に嘘をついた。距離を置きたいのもそれが理由だ。」

「すごいね……ええええぇ。」

 私はボロボロ泣いた。イオリのシャツを握った。あと俯きすぎて、ウィッグがずれた。それをイオリが片手で直してくれた。

「俺は電話で楽しげに話していたか?そうかもしれない。珍しくサラが話を聞く姿勢だったから、少しお前の話をしたんだ。共にいて、すごく楽しいと抽象的にだが、そう伝えた時に微笑んだ。それ以外では微笑んでいない。」

「あーじゃあ間違えた。」

「ふふっ、そうだな。俺の方こそすまない。サラの電話は無視をすればいいが、そうすれば自宅に突撃してきそうだと思っていた。案の定そうだったが……。」イオリが私の頭にキスをした。「俺はアリシアと一緒にいる時が一番幸せだ。この言葉に、偽りなど全くない。それはアリシアからも感じることが出来る。お前はすぐに顔に出るから。」

「分かりやすいんですね、私……。」

「分かりやすいときと、読めない時がある。読めない時があるのは、俺が、その、盲目的になっているからだと、今思えばそうだ。しかしアリシアは俺と一緒にいて楽しいのだろうとは思っている。幸せそうに笑ってくれるのが、俺はとても嬉しい。怖くて、怖くても、どうしても嘘がないか俺はアリシアの笑顔の中を探してしまう。でもその不安を一蹴するかのように、アリシアの笑顔には真夏のひまわりのように幸せの感情しかない。それで俺は癒される。幸せを感じる。一緒にいる時間が限られているなら、それまで楽しく過ごすしかない。しかし俺は諦めない。ヤギを脅して、どうにかお前を俺の寿命か何かとリンクさせて、長い間一緒にいたい。」

「そんなのできない……うえぇぇ!」

「出来る。俺はその為なら何でもする。黒魔術も……あまり意味があるのか知らんが試してみよう。それで、アリシア様。」

「な、何?」

 私は顔をあげた。優しげなイオリの瞳がこちらを見てた。

「もう一度聞くが、どうしたい?」

「イオリと愛し合いたい。」

 彼は嬉しそうに微笑んだ。それが私も嬉しかった。イオリは私の頭を掴んで、口づけをした。

 それから立って、彼に腕を引かれて、車の中へ戻った。後部座席に座りながらキスをして、イオリが私の首筋に何度もキスを繰り返して、そのまま彼のキスが私の肩に向かっていって、腕に到達すると彼がハッとした。

「ソーダの味がするんだが……。」

「ごめん、バートのゼリーがそうね、そーだった。そーだ!ソーダだった……まあ、そんな感じです。」

 イオリの目が座っている。私は苦笑いをひたすらした。

「何故俺が奴と間接キスをしなければならなかったんだ……いいか?もう二度とあいつに会うな!」

「それはごめんだけど、じゃあサラの着信画面のサラの画像消して欲しい。」

「ああ、今すぐに消そう。」

 イオリはノアフォンを出して、すぐに画像を消してくれた。私はその間、彼の耳にキスをした。彼はノアフォンを放り投げると、我慢ならない様子で私に夢中でキスをした。

 私は彼のシャツのボタンを取り始めた。すると彼が私の頬にちゅっとキスをした後に、聞いた。

「もしや最近してなかったから、不安にさせたか?」

「あ!?ああいや別に、はは……。」

 イオリはムッとした顔をした。もうバレてるよね。相手はイオリだもんね。

「……そうか、俺もヤギみたいに寝ずに出来たらいいのだが、最近は忙しくて疲れが「いいのいいの!自分でどうにかする!」

「だからってバートは許さな「分かったってば、もう呼ばない。ごめんね。」

 私は彼の首筋に何度もキスをした。繰り返していると、彼は私の頭を撫でて、腰を揺らした。布越しに触れてる。目が合って、もう一度キスをした時に、ドンドンと車のドアが叩かれた音が響いた。

 振り返ると窓からレイヴとヤギさんがこっちを覗いてた。しかもジト目だった。
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