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53 小さなプレート
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深夜はいつも、世界が静寂に包まれる。人々は眠り、この高層階の夜景も、ポツポツと明かりが少なくなっていく。でも街を包むピンクやスカイブルーのネオンは、ずっとそのままだ。
時刻は午前二時。寝ることがないと、やることもない。読書とか、絵画とか、まともな趣味を持っていたらよかったのに、私にはそれがない。
やはり、マリモを飼うべきだった。マリモがあれば眺めているだけで朝になるのに。あの緑色の丸い存在が、私の心を癒してくれただろうな。今度レイヴに頼んで、あれを一緒に買いに行こう。
ソファに寝そべって、ただ天井を眺めた。こうしている今、もっと高層階にいるイオリはぐっすりと眠っているだろう。サラはもうクラブから帰ってきてるのかな?あの部屋に引っ越してから、もう二人は愛し合ったのかな?
……そりゃそうでしょ。あああああああ。
イオリの熱っぽい視線が好きだ。あの行為の中で、何度も何度もキスしてくれるのも、私のことをぎゅうと抱きしめながら優しくえぐってくるのも好きだ。気がつくと私は、クッションを抱きしめていた。
やばい。会いたくなってきた。やっぱり一緒にいたかった。でも相手がいるから遠慮したんだけど……それでも一緒にいた方が良かったかな。
電話したい。
でも二時だから寝てるもんね。明日の日中に電話してみるのはどうだろう?でも明日はレイヴの仕事で拠点の視察に行く予定だから、また忙しそうだ。それに明日の夜はサラがいるだろう、それは今日も同じだけど。
昼は忙しいから夜しかない。なら今日も明日も一緒だ。どうかな、深夜に電話するのって重たい女っぽい。でもいいか!私はノアフォンをさっと取り出して、電話帳のイオリの文字を押した。
押してから後悔した。プルルルいってる。何を話すか決めてなかった。
『……なんだ?』
「なんでもない。」
ブチっと切った。いきなり出るからビビった。あービビった。でも少し声聞けて良かった。あー良かった。
胸がまだバクバクいってる。あーあ、私ったら完全にイオリにべったりだ。困ったもんだと一人で笑った。
明日もこれくらいの時間に電話してみようかな。今みたいな感じですぐに切れば、イオリは寝ぼけてて何も覚えてないだろうし。そうそう、日中は彼も忙しいそうだから。
イオリは幹部になってから、オリオン様と一緒にこの組織の作戦を考えてるようだ。ボスの相談役。そう言えば、今度幹部が集まる小さなパーティーが、オリオン様の部屋で行われるらしい。
そのパーティーは勿論パートナーを招待していいらしいから、イオリはサラを連れていくだろう。くるくるカールの金髪でラッパーの風貌をしたDJインコも彼女を連れてくるだろうし、ビーアイはセクシーな女性で、旦那さんがいるらしい。
じゃあバリーは?もしかしたら私が招待されたりして。なんて一人で苦笑いした。今の情報は全部、レイヴが教えてくれたことだ。ちょっとパーティ気になるから行ってみたい。
ドアからガチャっと音が聞こえた。ドアノブを回す音だ。鍵が掛かっているから開かないのは当たり前だ。
でも誰が?私はレイヴが置いてったハンドガンをテーブルの上から取って、それを両手で構えながらドアへ向かった。いきなり敵襲があるのは普通にあり得る。
ドアまで来ると、スコープを覗いた。しかし誰もそこにはいなかった。
えっ?何?
お化け?同業者?
ならばと私は頭だけ透けさせて、ドアに突っ込んで廊下を見た。ドアの横の壁にもたれかかっていたイオリが驚いて「オアアア!」と叫んだ。
なんだ彼か。私は一度頭を引っ込めてからドアを開けてシーッと彼に言った。しかし彼は私の肩をどつきながら部屋に入ってきた。
「夜中だから静かにするのは理解している!その前に一体何をしてるんだお前は!そんな恐ろしい来客確認方法があるか!?」
「痛い痛い!わかったよ、驚いちゃったんだね、ごめんなさいね!」
私は笑っているが、イオリはムッと不機嫌な顔をしている。しかも黒いシルク素材のガウン姿だった。
「なんか……すごい重役感漂ってるね、それ。」
「え?あ、ああ。ホテルのガウンだ。リアのパジャマもここのだろう?」
「そうそう。レイヴもエミリも同じの着てる。とても着心地がいいよ。」
ガウンの大振りな襟の隙間から、イオリの胸板が少し見えている。触りたいけど我慢して、彼に聞いた。
「どうしたの?」
彼が髪をかき上げて、少し目を逸らした。
「……電話、くれたではないか。何故切る?」
「あー眠いかなと思ったし、あまり話すこと考えてなかった。……なんか飲む?」
「そうだな」彼が私を見た。「いや、やはりいい。少しだけ話そうと思っただけだ。それから、」
と、彼はガウンのポケットから白い小箱を取り出して、それを私にくれた。
「何これ?」
箱を開けると、細い革紐のブレスレットが入っていた。黒い、すごい細いブレスレットで、小さなプレートが付いている。それをよく見ると、ボロビアのロゴが入っていた。
私はそれを丁寧に取り出してみた。キラキラとプレートが揺れた。するとイオリが私の手からそれを取って、私の左手首につけてくれた。その時に、彼の左手にも同じものが付いているのを発見した。
「あっ、同じだ。」
「……お揃いだからな。」
小さい金具をぱちっと止めると、私の手首にピッタリ巻きついた。おお、可愛い!
「ありがとうイオリ。買ってくれたの?」
「どうも。昨日は何も予定が無かったから、買い物に行ったんだ。ダニーと一緒に。」
「え?サラは?」
「彼女とは一緒に買い物はしない。お互い、興味のある店が違う。俺は昨日はどちらかというと、ガジェットとか、天体望遠鏡を見に行ったんだ。……ペットショップも見た。」
「そうなんだ、プレゼントをくれて本当にありがとう。ペットショップも行ったの?ペット欲しいの?」
「マリモ。でも売っていなかった。今密かにブームなのか、売り切れていてな……今度違う店を「いいよ!」
私は首を振った。イオリは目を見開いた。
「このブレスレットだけでいい、マリモはレイヴと見つける。」
「いや、俺が見つける。」
「いいって。」
「うるさい。」
なんでよ……。私は取り敢えず空になった小箱とハンドガンをテーブルに置こうと思って、ソファの方へ向かった。テーブルには食べっぱなしのポップコーンのボウルと、お菓子のカスが乗った大皿、レイヴの飲んだ空のボトルが複数置いたままだった。
案の定、背後から震える声が聞こえた。
「……お前らパーティーでもしたのか?汚すぎる。」
「まあまあ。二人とも疲れて寝てるから。」
それを置いてから、私は大きい窓の方へ向かった。ネオンの街と、月に照らされている海が見えている。空には星がきらめていていた。
彼が隣に来て、同じように窓の外を眺めている。私は彼に聞いた。
「上の階だと、もっと空に近いよね。望遠鏡で、見えそう?」
「最高だ。ははっ……その点に関しては。」
「サラとの生活は楽しい?」
「まあな。望んでいたものが手に入った。リアのおかげでもある。」
「そっか。」
私は鼻でため息をついた。なら良かったじゃんイオリと言いたいところだ。二人で黙ってしまったので、何か質問をした。
「今度のパーティー、イオリはサラと行くんでしょ?」
「そうだな。……リアは来るか?一応、お前も幹部だ。」
「あ、そうか、そうだった。じゃあ誰と行こうかな、レイヴかなやっぱり。」
「俺は思ったんだが、」
なんだろう?彼の方を見た。彼は窓の外を眺めたまま、言った。
「あのパーティー、招待されたのは嬉しいが、気が乗らない。あれには行かずに、二人で……この前みたいに、適当に買い物に行かないか?」
「えっどうして?」
「俺が買い物に行きたいからだ。」
なんだそれ。
「じゃあ一人で行けばいいのに。昨日みたいに。」
「お前と行きたい。」
「じゃあ別の日に「お前とその日に行きたい。」
「頑なですねー、ふふっ」
「ふん、うるさい……。」
イオリはプイッとそっぽ向いた。何それ、少し可愛かった。
しかし、そんなにその日に私と買い物に行きたい理由があまりよく分からない。勿論イオリとは一緒に買い物に行きたいけど……。
「でもパーティーにも行ってみたい。」
「ならば、クラブに行こう。あそこは毎日パーティーをやっているようなもんだ。VIPルームを借りて、適当に人数集めてやればいい。だが買い物は絶対にその日に行きたい。」
「出た……謎の要求。でも知ってると思うけど、どこに行くにしても、レイヴも一緒だからね?」
急にぐいっと腕を引かれた。よろける私を体で支えるように、イオリが体で受け止めてくれた。ぎゅっと彼の両腕が、私を包んだ。
時刻は午前二時。寝ることがないと、やることもない。読書とか、絵画とか、まともな趣味を持っていたらよかったのに、私にはそれがない。
やはり、マリモを飼うべきだった。マリモがあれば眺めているだけで朝になるのに。あの緑色の丸い存在が、私の心を癒してくれただろうな。今度レイヴに頼んで、あれを一緒に買いに行こう。
ソファに寝そべって、ただ天井を眺めた。こうしている今、もっと高層階にいるイオリはぐっすりと眠っているだろう。サラはもうクラブから帰ってきてるのかな?あの部屋に引っ越してから、もう二人は愛し合ったのかな?
……そりゃそうでしょ。あああああああ。
イオリの熱っぽい視線が好きだ。あの行為の中で、何度も何度もキスしてくれるのも、私のことをぎゅうと抱きしめながら優しくえぐってくるのも好きだ。気がつくと私は、クッションを抱きしめていた。
やばい。会いたくなってきた。やっぱり一緒にいたかった。でも相手がいるから遠慮したんだけど……それでも一緒にいた方が良かったかな。
電話したい。
でも二時だから寝てるもんね。明日の日中に電話してみるのはどうだろう?でも明日はレイヴの仕事で拠点の視察に行く予定だから、また忙しそうだ。それに明日の夜はサラがいるだろう、それは今日も同じだけど。
昼は忙しいから夜しかない。なら今日も明日も一緒だ。どうかな、深夜に電話するのって重たい女っぽい。でもいいか!私はノアフォンをさっと取り出して、電話帳のイオリの文字を押した。
押してから後悔した。プルルルいってる。何を話すか決めてなかった。
『……なんだ?』
「なんでもない。」
ブチっと切った。いきなり出るからビビった。あービビった。でも少し声聞けて良かった。あー良かった。
胸がまだバクバクいってる。あーあ、私ったら完全にイオリにべったりだ。困ったもんだと一人で笑った。
明日もこれくらいの時間に電話してみようかな。今みたいな感じですぐに切れば、イオリは寝ぼけてて何も覚えてないだろうし。そうそう、日中は彼も忙しいそうだから。
イオリは幹部になってから、オリオン様と一緒にこの組織の作戦を考えてるようだ。ボスの相談役。そう言えば、今度幹部が集まる小さなパーティーが、オリオン様の部屋で行われるらしい。
そのパーティーは勿論パートナーを招待していいらしいから、イオリはサラを連れていくだろう。くるくるカールの金髪でラッパーの風貌をしたDJインコも彼女を連れてくるだろうし、ビーアイはセクシーな女性で、旦那さんがいるらしい。
じゃあバリーは?もしかしたら私が招待されたりして。なんて一人で苦笑いした。今の情報は全部、レイヴが教えてくれたことだ。ちょっとパーティ気になるから行ってみたい。
ドアからガチャっと音が聞こえた。ドアノブを回す音だ。鍵が掛かっているから開かないのは当たり前だ。
でも誰が?私はレイヴが置いてったハンドガンをテーブルの上から取って、それを両手で構えながらドアへ向かった。いきなり敵襲があるのは普通にあり得る。
ドアまで来ると、スコープを覗いた。しかし誰もそこにはいなかった。
えっ?何?
お化け?同業者?
ならばと私は頭だけ透けさせて、ドアに突っ込んで廊下を見た。ドアの横の壁にもたれかかっていたイオリが驚いて「オアアア!」と叫んだ。
なんだ彼か。私は一度頭を引っ込めてからドアを開けてシーッと彼に言った。しかし彼は私の肩をどつきながら部屋に入ってきた。
「夜中だから静かにするのは理解している!その前に一体何をしてるんだお前は!そんな恐ろしい来客確認方法があるか!?」
「痛い痛い!わかったよ、驚いちゃったんだね、ごめんなさいね!」
私は笑っているが、イオリはムッと不機嫌な顔をしている。しかも黒いシルク素材のガウン姿だった。
「なんか……すごい重役感漂ってるね、それ。」
「え?あ、ああ。ホテルのガウンだ。リアのパジャマもここのだろう?」
「そうそう。レイヴもエミリも同じの着てる。とても着心地がいいよ。」
ガウンの大振りな襟の隙間から、イオリの胸板が少し見えている。触りたいけど我慢して、彼に聞いた。
「どうしたの?」
彼が髪をかき上げて、少し目を逸らした。
「……電話、くれたではないか。何故切る?」
「あー眠いかなと思ったし、あまり話すこと考えてなかった。……なんか飲む?」
「そうだな」彼が私を見た。「いや、やはりいい。少しだけ話そうと思っただけだ。それから、」
と、彼はガウンのポケットから白い小箱を取り出して、それを私にくれた。
「何これ?」
箱を開けると、細い革紐のブレスレットが入っていた。黒い、すごい細いブレスレットで、小さなプレートが付いている。それをよく見ると、ボロビアのロゴが入っていた。
私はそれを丁寧に取り出してみた。キラキラとプレートが揺れた。するとイオリが私の手からそれを取って、私の左手首につけてくれた。その時に、彼の左手にも同じものが付いているのを発見した。
「あっ、同じだ。」
「……お揃いだからな。」
小さい金具をぱちっと止めると、私の手首にピッタリ巻きついた。おお、可愛い!
「ありがとうイオリ。買ってくれたの?」
「どうも。昨日は何も予定が無かったから、買い物に行ったんだ。ダニーと一緒に。」
「え?サラは?」
「彼女とは一緒に買い物はしない。お互い、興味のある店が違う。俺は昨日はどちらかというと、ガジェットとか、天体望遠鏡を見に行ったんだ。……ペットショップも見た。」
「そうなんだ、プレゼントをくれて本当にありがとう。ペットショップも行ったの?ペット欲しいの?」
「マリモ。でも売っていなかった。今密かにブームなのか、売り切れていてな……今度違う店を「いいよ!」
私は首を振った。イオリは目を見開いた。
「このブレスレットだけでいい、マリモはレイヴと見つける。」
「いや、俺が見つける。」
「いいって。」
「うるさい。」
なんでよ……。私は取り敢えず空になった小箱とハンドガンをテーブルに置こうと思って、ソファの方へ向かった。テーブルには食べっぱなしのポップコーンのボウルと、お菓子のカスが乗った大皿、レイヴの飲んだ空のボトルが複数置いたままだった。
案の定、背後から震える声が聞こえた。
「……お前らパーティーでもしたのか?汚すぎる。」
「まあまあ。二人とも疲れて寝てるから。」
それを置いてから、私は大きい窓の方へ向かった。ネオンの街と、月に照らされている海が見えている。空には星がきらめていていた。
彼が隣に来て、同じように窓の外を眺めている。私は彼に聞いた。
「上の階だと、もっと空に近いよね。望遠鏡で、見えそう?」
「最高だ。ははっ……その点に関しては。」
「サラとの生活は楽しい?」
「まあな。望んでいたものが手に入った。リアのおかげでもある。」
「そっか。」
私は鼻でため息をついた。なら良かったじゃんイオリと言いたいところだ。二人で黙ってしまったので、何か質問をした。
「今度のパーティー、イオリはサラと行くんでしょ?」
「そうだな。……リアは来るか?一応、お前も幹部だ。」
「あ、そうか、そうだった。じゃあ誰と行こうかな、レイヴかなやっぱり。」
「俺は思ったんだが、」
なんだろう?彼の方を見た。彼は窓の外を眺めたまま、言った。
「あのパーティー、招待されたのは嬉しいが、気が乗らない。あれには行かずに、二人で……この前みたいに、適当に買い物に行かないか?」
「えっどうして?」
「俺が買い物に行きたいからだ。」
なんだそれ。
「じゃあ一人で行けばいいのに。昨日みたいに。」
「お前と行きたい。」
「じゃあ別の日に「お前とその日に行きたい。」
「頑なですねー、ふふっ」
「ふん、うるさい……。」
イオリはプイッとそっぽ向いた。何それ、少し可愛かった。
しかし、そんなにその日に私と買い物に行きたい理由があまりよく分からない。勿論イオリとは一緒に買い物に行きたいけど……。
「でもパーティーにも行ってみたい。」
「ならば、クラブに行こう。あそこは毎日パーティーをやっているようなもんだ。VIPルームを借りて、適当に人数集めてやればいい。だが買い物は絶対にその日に行きたい。」
「出た……謎の要求。でも知ってると思うけど、どこに行くにしても、レイヴも一緒だからね?」
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