星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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48 良い知らせと悪い知らせ

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『よく帰ってきたな、レイヴ。』

 最初にオリオン様が言った台詞はそれだった。パンクした車を乗り換えてアジトに戻ってくる途中、彼から通信が入って、トロピカルバイスエンパイアーホテルの最上階に来てくれと言われた。

 そこがオリオン様の仮の住まいだった。スイートの豪華な部屋で、アイランドキッチンのある広々としたリビングの真ん中にある、めちゃくちゃでかいソファに私達四人が座ってる。

 コーヒーテーブルにはパカっと開けられたキャリーケースが置いてあり、確かに金の延棒が敷き詰められて入っていて、その隙間に緑や赤のジュエリーが入っていた。

 オリオン様の護衛も身を乗り出して眺めるほどに驚いていて、イオリとレイヴも「よく持ってこれたな……」と謎の関心を母に向けている。私はというと、こんなにたくさんあるのだから一つぐらい欲しいなと思った。

 暫く取ってきた財宝を眺めて会話した後に、オリオン様が立ち上がって窓の方へと歩いて行った。彼はそれからずっと窓の外を眺めたまま、固まっている。もう夜になっていて、ネオンに染まる街並を眺めている。そしていつものドスの効いた低い声で、聞いた。

「リア、お前がパチンコで何かを飛ばして、それを口にしたノアズ兵は……そのまま起き上がることはなかったそうだ。しかも死因が自然死だったらしい。体が衰えたことで、死んだと。まだまだ若い二人なのに一体何故なのか、理由が判明しないのだとニュースは報じている。お前は一体、何をしたんだ?」

 直感で、それはあまり言わない方がいいと思った。なんとなく、言ってしまえば拡散しそうで怖かった。もし拡散したら、皆がこれを使いたがるかもしれない。それはいけない気がした。

 他に言い訳が見つからない。でもあまり黙っているのもよろしくないので、答えた。

「……飴を飲ませた。ゴーストの飴。」

「飴?」オリオン様が振り返った。「それを飲ませると、人間は死ぬのか?」

「そうかもしれない。でも多用は出来ない。」

「そうか。」

 オリオン様は財宝に群がっている子分たちに散るようにジェスチャーをした。彼らは元の位置に戻っていき、コーヒーテーブル周辺は静かになった。

 オリオン様が金の棒を一つ持ち上げて、感触を確かめている。

「確かにこれは、本物だ。よくやった、お前たち。ラズベリーの無理難題を、軽くやり遂げたな。」

 レイヴとイオリがチラッとエミリを見た。エミリはイオリの隣に座って、出されたコーヒーをおしとやかに飲んでいる。私は何もしませんでしたけど、みたいな顔をしているので、誰も彼女に話しかけなかった。

 するとオリオン様が、金の棒を置いて、言った。

「素晴らしい仕事には、素晴らしい報酬を。」

「えっ!」レイヴが笑顔で立ち上がった。「じゃあ俺ももっと上の幹部になれるんですか!?」

「お前はそのままだ。」

「あ……はい。」

 しかしどうしてか、オリオン様はあまり嬉しそうではない。あまり笑ったことないのかな?でもさっき、通信では笑ってたけど。

「イオリ」

 オリオン様はイオリを見た。イオリは、少し怯えた顔で「はい?」と答えた。

「俺たちの収入源を知っているか?」

「……そう、ですね。ドラッグ、窃盗、運営しているカジノ、などでしょうか?」

「そうだ。近年、ドラッグは人々の健康意識が強まったせいで、売れ行きが危うい。気分を良くする効果を持つポーションで代用されてしまう。そのポーションは昔は高かったが、需要の高まりでノアズが低価格で開発し、売り始め、客を取られた。窃盗は、リスクが高い。」

「そうでしょう。窃盗はノアズに捕まるリスク、組織員が報酬を横取りするリスク、そしてそればかりを続けていれば、店側も警備を強化する。結果的にそれを継続することが難しくなる。忠誠を誓う組織員、優秀な組織員を、そこで失うのもハイリスクだ。」

「その通りだ。そうなると、これからはカジノやクラブ、店舗からの売り上げをとっていきたい。裏の仕事を続けるには金が必要だ。装備だって、人にだって、金がかかる。このカンパニーにとって、一番大事なのは、カジノ島の所有だった。」

「しかし、」イオリがオリオン様を見た。「それはもう既に手に入ったのでは?ラズベリー様から所有権を頂いたはずです。」

「イオリ達がグレイタウンの銀行に行っている間、俺は所有権の確認をした。メインバンクの担当に電話をした。当然、既に所有しているのは俺だと思っていた。しかし、それは違った。」

「何故!?」イオリは立ち上がった。

「確かにラズベリーは、所有権を今月で手放して俺に贈与すると決めていた。しかし今月の最終日である、今日この日に、所有権が第三者に渡っていた。その人物が……。」

 オリオン様は突然コーヒーテーブルを蹴った。ライフルを持って立っていたスーツ姿の子分のすねに金の延棒が当たり、彼は痛みに悶えながらも急いで床に散らばった金塊を拾った。

「あの、金の卵とも言える、ボードン財閥が作り上げたカジノ島は、今や……ノアズのシードロヴァの私物だ!くそっ!くそおおおおっ!」

「どうして!?」レイヴが言った。イオリはただ目を見開いて、黙っていた。オリオン様が答えた。

「まだニュースにはなっていないが、銀行員が教えてくれた。ラズベリーはシードロヴァと結婚したんだとな!」

「はああああああ!?」

 イオリの叫びが響き、オリオン様は今度は一人掛けのソファを蹴って「くそおおおお!」と叫んだ。

「だから!あのカジノ島は、夢の島は、今やあの悪魔の私物になっているんだ!カタリーナめ、あの女、ボードンの長女が故に甘やかされてカジノ島も誕生日プレゼントですんなりと貰った、彼女にとってはどうでもいいあの島を目当てに、数々の組織が彼女にゴマをすった!勝ち抜いて、勝ち抜いて、イオリ達も力もあって、やっと手に入れることが出来た!それをノアズの悪魔は、あの……彫刻のような顔でカタリーナをたぶらかして、すんなりと横取りしたんだ!ノアズ……資金繰りに苦戦して、ボードンには甘いとは思っていたが、そういう繋がりがあったとはな!」

「イオリ、知ってたの?」私は聞いた。彼はかなり戸惑っている。

「いや、彼が結婚……というか、彼に恋人がいるのだって知らなかった。本当に交際していたのかさえ疑わしい。何故なら彼は恋愛に時間をかける人間ではない。きっと所長の命令に違いない。従わなければ、ノアズの研究室は使えないからな。確かに、ああ、まあ、美形ではある……。」

「よく知っているな、さすが、幼なじみだ。」

 オリオンがギロリとイオリを睨んだ。彼は「うーん……。」と苦笑いをして、頭をかいた。
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