星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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44 そして大集合

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 オリオン様の発言通りに、後部座席には既に誰かが座っていた。でも上からタオルケットをかけられていて、全身が包まれていて、見えない。

「本当だ、もう乗ってる……宜しく、俺はレイヴ。」

 運転席に乗り込んですぐに彼がそう言った。助手席のイオリもバックミラーでチラッと私の隣の人物を見た。

「もうこれ、とっていいのかしら?ねえ?」

 え?女性なんだ……。私は勢いよくタオルケットを取った。そしてハッと息を飲んだ。

「はあああああ!?「うああアアアアアアアアア!」

 イオリとレイヴが叫んで、二人同時に身を乗り出して振り返ろうとしたので、二人は頭をゴチっとぶつけ合ってしまった。

 それもそうだ、タオルケットから現れたのは、何故かスカートスーツ姿のエミリ(イオリやレイヴの母)だった。

「お母さん……お久しぶりです。」

「はぁぁ!リアちゃん!」笑顔で手をぎゅっと握られた。「一緒にお仕事に行けるのね!それはよかったわ!」

「良い訳あるか……!」イオリが側頭部を痛そうに押さえながら言った。「何故ここにいる!?ノアズに連行されたんじゃなかったのか!」

「火事があった日にノアズに連れて行かれたの。私はね、イオリ、とても心配したのよ。アリシアって子を殺害したって容疑もあったし、あの日からあなたが消えた。でもね、」

「でも?」レイヴの声だった。

「ノアズの留置所に入った翌日のことだけど、私はノアズの人に案内されて車に乗った。催眠ガスを嗅がされて眠って、起きたらベッドルームだった。高級ホテルのベッドルーム。そしてそこに、オリオンさんがいたの。」

 私は気になっていることを聞こうとした。

「ベッドルームってことはつまり「そこは掘り下げなくていいから!」

 レイヴに割り込まれた。でもエミリはふふ、と微笑んだ。

「保護してくれただけよ、オリオンさんは。何だか私が必要みたい。それで彼からイオリが組織に来たことも、ユウリが元々いることも聞いたの。あ、レイヴだっけ?ふふ。」

「まあ今はレイヴって呼んで欲しいけどさ……イオリ、これは多分、お前のせいだぞ。お前がカンパニーの重要な情報を持ってノアズに寝返らないように、オリオン様が念には念を入れたんだ。サラがいるのだって、お前が逃げないようにするためだ。もし全部置いて裏切ったら俺は……。」

「分かっている。」イオリがため息混じりに答えた。「それにどうせ、ノアズにはもう居場所がない。と言うことは、この世のどこにも居場所がないということだ。ここ以外にはな……。」

 私はレイヴに聞いた。

「それで、今日はグレイシティに何をしに行くの?」

「んん……うん。」

「え?」

 レイヴが車を発進させた。皆がレイヴの発言を待っているが、彼は無言で裏路地から車を出した。

 ヤシの木が揺れる通りをブーンと走らせている。まだ無言だった。私は外の景色を見た。皆が皆、薄着で日に焼けた肌をしていて、サングラスで、このビーチを楽しんでいる。

 そしてレイヴは急にボソッと言った。

「銀行強盗だ。」

「え?」彼以外の三人の声が被った。

「……グレイシティ支店の銀行強盗。それがGGプロジェクト。GINKO GOUTOUの略だよ。大体なぁ!」急にレイヴがイオリに叫んだ。「イオリのせいで母ちゃんがここにいるんだぞ!なんで銀行強盗に母ちゃん連れて行かないといけないんだよ!」

 イオリも叫んだ。

「銀行強盗するとは思わなんだ!そんな大それたことを、しかもエミリと今からするなんて俺だって信じられん!ユウリ、あ、いや、レイヴだったか!そんなのはどうでもいい、お前は正気か!?エミリを連れたまま銀行強盗だと!?」

「落ち着いて。」私の声は二人の怒鳴り声にシュッと消された。レイヴが叫んだ。

「この車内を見てみろ!アルバレス家が全員集合してるじゃねえか!今日はお正月かよ!?あーもうこうなりゃ連れていくしかないだろ!オリオン様がそう言ってたんだからな!なんて日だ!」

「聞いておきたいレイヴ。」イオリが荒々しい息で言った。「お前、中学院出たら消えたが、ずっとここで働いてたのか?」

「そうだよ!ここしか居場所ないだろ!俺はあの時、つい通りすがりの人の財布を盗んじまったんだ!」

「なんだ、その程度か。」

「なんだよその反応!財布にはカード型のノアフォンが入っていて、俺はすぐに指名手配されてたんだ。もし捕まったら噂通りにあの悪魔の実験道具にされると思って俺はどこまでも逃げた!」

 私はイオリに聞いた。

「悪魔って「シードロヴァだろうな。」

 即答だった。なるほど、それじゃあ逃げたくなる気も分かる気がする。急にレイヴがしゅんとした声色でイオリに聞いた。

「なー、俺がこっちで働いてることで、お前のノアズの仕事に迷惑をかけたことはあるか?」

 イオリは窓の外を見ながら言った。

「いや、ない。お前がどこかで悪さを働いてるのだろうなとは予想していたが、実際に指名手配されているのは、俺は知らなかった。シードロヴァがわざとそうしていたのかもしれない。理由は不明だ。あいつの行動の理由など、人間には分からない。」

「お前、本当にメンタリストなの?」

「……たった今判明した事実に対して、それも相手がいない状態で、何を分かれと?確かに、これかと思う理由はあるが、言いたくないだけだ。俺はあいつを友だと思っている。」

「因みに、」レイヴがまた聞いた。「その理由って何ー?」

「……言いたくないと言ったのが聞こえなかったか?まあいい、教えてやる。多分、奴が俺にレイヴが指名手配犯だと知らせなかった理由は、それをいいことにレイヴを捕獲して実験に使い、その後でレイヴのホルマリン漬けを作ってサプラーイズと微笑みながら俺に見せて、驚かせたかっただけだろうな。」

 ……。

「えー、シードロヴァちゃんそんなことするの?」

 エミリの質問にイオリは小声で「前例がある」と答えた。レイヴも小声で「やっぱ聞かなきゃよかった」と言った。私はただ、窓の外を見た。かんかん照りの太陽が小麦色の女の子の肌を照らしてる。

「で?」イオリがエミリに聞いた。「オリオン様の部屋にいて、無事だったのか?」

「うん。料理とか掃除はメイドさんがしてくれたの。私はただそこで暮らしてるだけだった。オリオンさんと一緒に映画を見たこともあった、それぐらいに本当に普通にずっとそこにいたわ。今日も私はそこに帰るみたい。」

「ってかさぁ、」今度はレイヴが聞いた。「なんでブラウスにスカートっていうOLスタイルなんだよ。」

「だってオリオンさんが今日は働きに行けって言うから。」

「……。」

 一般の会社的な仕事だと思ったんだな、と私も前の二人も思っている。そんな沈黙だった。
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