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30 愛し合うことの代償
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翌朝、ホテルの屋上で私とイオリはヤギさん(死神)にお叱りを喰らっていた。仁王立ちをして説教するヤギさんの前に、イオリは正座して肩をすぼめ、ごめんなさいとロボットのように繰り返している。
『全く信じられないよ!いくら未来が不安だからってゴーストに手を出す人間がいるか!?そんなこと聞いたことあるのか?ええ!?』
「それは面目ない……。」イオリが消えそうな声で言った。
『どこのホラー映画にそんな描写あるの?そもそも需要あるの?無いだろうなと思ってリアを強化させたんだ!浜辺にラッキーがあるっておじいちゃんが言ってたのはこう言うことじゃ無いの!もう人間とゴーストだし別に言わなくても分かるかなって思ったのに、イオリ君は本当に生命力が「も、もう良いじゃ無いですか。」
私の言葉に、ヤギさんは不満そうに『ふん!』とため息をついた。そしてイオリに聞いた。
『で?……イオリ君、リアのこと好きなの?』
「そ、それは……この場で言うべきことでは無いかと。そういう言葉は、しっかりと二人の時間を作ってから『じゃあ嫌いなの!?好きじゃないのにしたの!?どうして!おじいちゃん信じてたのにあぁ~これじゃあ、契約違反だよ!下界の皆になんて言おう!?』
私は言った。
「そんなだって、詳しい条件とか知らされてない。」
『まあね。それはおじいちゃんの落ち度だった。でもこれからは気を付けてもらわないと。人間とゴーストは交じらないようにしなきゃ。しかしよく出来たね、イオリ君、寒気とか感じなかった?』
「いえ、その、夢中でしたから……。」
『あ、そう。すごっ。』
何その反応。ちょっと笑いそうになった。そして私はヤギさんに聞いた。
「因みに、契約違反だから何か罰ってあるの?」
『いや』彼は答えた。『特には無い。ただおじいちゃんや下界がびっくりしただけ。』
チラッと隣のイオリと目が合った。無いのかよ、彼はそう言いたいに違いない。じゃあ何故俺がこんなに頭を下げなくてはならない?と、彼の瞳が訴えている。
私はヤギさんに言った。
「と、兎に角昨日の夜のことは間違いだったかもしれない。それじゃあラッキーって何?浜辺に来たけど、ラッキーがどこにも無いよ?」
ヤギさんは足元に魔法陣を出しつつ言った。
『ラッキーは絶対にあるから。で?どうなの?これから二人はどうするつもり?』
私は答えた。
「オリオンの人と接触する。このままでは、イオリが野垂れ死ぬ。」
イオリがため息まじりに言った。
「野垂れ死ぬってなんだ……。しかしこのままでは、俺にはノアズに逮捕される未来しかない。果たしてオリオンに行ってどうするのか、そもそも受け入れてもらえるのか、入ったとしても仕事に馴染めるのかどうか……大体、犯罪なんて、卑劣で馬鹿げた人間がする行動なのに。」
『不安なんだね、イオリ君。』
「対象のない恐怖を、俺が持っているとでも?確かにそう言われれば、そうなのかもしれない。」
ヤギさんは頭をポリポリ書いてから、魔法陣の黒い波動を強めた。
『あ!そうだ!』ヤギさんはポンと手を叩いた。『おじいちゃん忘れていた。やっぱり罪はあるよ。』
「え?」
『ゴーストと愛し合ったペナルティとして、もしイオリ君が死んでも、リアのような幽体にはなれなくなったのを忘れていた。あまり気にはならないか。』
「あー……。」とイオリが首を傾げた。ヤギさんは何度か頷いて、『それだけは肝に命じておいてくれ。』と一言残してから消えた。
トロピカルバイスの爽やかな朝日が、正座をしたまま固まったイオリに降り注いでいる。私はリュックと、ライフルやショットガンの入ったゴルフバッグを背負った。
「イオリ、お腹すいたでしょ?」
イオリはどこか焦点の合わない瞳のまま答えた。
「……だとしても、何を食えば良いんだ?お金もない。」
「海洋モンスター食べる?」
「それは絶対に断る。モンスター肉を俺に食べさせようとするな。俺は畜肉しか食べない。」
「金持ち野郎め。」
「以前まではな。」
ふふっ、と彼が少し笑った。そして立ち上がり、銃の入ったゴルフバッグを私から受け取った。私はさっきの話をした。
「イオリ、もし死んでもゴーストにはなれないね。」
「あ?ああそうらしいな……まあそれでも俺は構わない。」
「え?」
「……ふ、深い意味はない。昨日のサングラスを貸せ。」
私はリュックからサングラスを取り出してイオリに渡した。彼がかけると、やさぐれたホテルクラークみたいになった。以前の雰囲気はあまりないので、バレないかもしれない。
「じゃあ行こう。」
「何を笑っている?」
「別に~。じゃあ行こう。」
「どこに……。」
私は彼の手を引いて、ホテルのドアに入って階段を降り始めた。従業員用の階段で、人気はあまりない。
客室のあるフロアに着くと、我々は階段横にあるドアを開けて、昨日も使った外についている非常用階段を降り始めた。ここには防犯カメラはなかった。
三十階建てのホテルだったので、地上に着く頃にはイオリはバテていた。膝に手をついて、肩で息をしている。
「イオリ、大丈夫?あまり体力ない。」
「……それは否定しない。あぁ、はぁ……!」
彼の激しい呼吸を聞いてたら、昨日のアレを思い出してしまった。イオリの吐息、私を見つめる潤んだ瞳、彼が私の耳にキスする音が頭の中に再現されて、私の身体を熱くした。
「な、何故頬を染める?お前、気持ち悪いぞ。」
「……昨日のこと思い出した。」
「ばか!……そ、それで、これからどうする?あまり街の中をぶらぶらするのはよくない。こういう裏通りも、そのうちノアズの衛兵で溢れるはずだ。まあまだ、」と彼が体を起こした。「奴らは俺らがヴィノクール周辺でうろついていると思っているだろう。リアが不眠なのを知らないだろうから。」
「どうやったらオリオンと接触できるのかな。」
彼が座った目つきで私を見てきた。
「……お前、それを知らないのか?」
「知ってる訳ない。そうだ、挑発しよう。」
「どうやって?」
「トロピカルバイスはオリオンカンパニーのテリトリーが多いってバリーから聞いたことがある。」
「バリー……貴様の夫か。元、とつけた方が妥当だな。」
「そ、そうだけど?」
「ほぉ……。」
何その挑発的な視線。まあいいや、私は続けた。
「だからトロピカルバイスのカジノは絶対にオリオンのテリトリー。そこを襲撃する。」
「他に方法は無いのか……?我々が度胸のある人間だと印象付ける作戦だろうが、敵だと思われたら面倒だ。」
イオリが肩をガクッと落とした。じゃあ何だろう、私は考えた。
「じゃあ、フィールタバコの取引を見つけて、そこを襲撃する。」
「襲撃という選択肢をやめろ。俺に合わない。」
「えぇ……?」
困ったもんだ。襲撃無しでオリオンカンパニーに行く方法って何だろう?こんな私には全然思いつかない。
じゃあどうしようか考えていると、裏路地の通路の奥に、一台の黒い高級車が止まった。乱雑でダスト缶がポツポツ置いてある汚らわしい雰囲気の路地には、全く相応しく無いようなマット感のある高そうな車だ。
私はあれを指差した。
「イオリ!あそこに行こう!」
「え!?えっ!」
私は彼の手を引っ張って走り始めた。
『全く信じられないよ!いくら未来が不安だからってゴーストに手を出す人間がいるか!?そんなこと聞いたことあるのか?ええ!?』
「それは面目ない……。」イオリが消えそうな声で言った。
『どこのホラー映画にそんな描写あるの?そもそも需要あるの?無いだろうなと思ってリアを強化させたんだ!浜辺にラッキーがあるっておじいちゃんが言ってたのはこう言うことじゃ無いの!もう人間とゴーストだし別に言わなくても分かるかなって思ったのに、イオリ君は本当に生命力が「も、もう良いじゃ無いですか。」
私の言葉に、ヤギさんは不満そうに『ふん!』とため息をついた。そしてイオリに聞いた。
『で?……イオリ君、リアのこと好きなの?』
「そ、それは……この場で言うべきことでは無いかと。そういう言葉は、しっかりと二人の時間を作ってから『じゃあ嫌いなの!?好きじゃないのにしたの!?どうして!おじいちゃん信じてたのにあぁ~これじゃあ、契約違反だよ!下界の皆になんて言おう!?』
私は言った。
「そんなだって、詳しい条件とか知らされてない。」
『まあね。それはおじいちゃんの落ち度だった。でもこれからは気を付けてもらわないと。人間とゴーストは交じらないようにしなきゃ。しかしよく出来たね、イオリ君、寒気とか感じなかった?』
「いえ、その、夢中でしたから……。」
『あ、そう。すごっ。』
何その反応。ちょっと笑いそうになった。そして私はヤギさんに聞いた。
「因みに、契約違反だから何か罰ってあるの?」
『いや』彼は答えた。『特には無い。ただおじいちゃんや下界がびっくりしただけ。』
チラッと隣のイオリと目が合った。無いのかよ、彼はそう言いたいに違いない。じゃあ何故俺がこんなに頭を下げなくてはならない?と、彼の瞳が訴えている。
私はヤギさんに言った。
「と、兎に角昨日の夜のことは間違いだったかもしれない。それじゃあラッキーって何?浜辺に来たけど、ラッキーがどこにも無いよ?」
ヤギさんは足元に魔法陣を出しつつ言った。
『ラッキーは絶対にあるから。で?どうなの?これから二人はどうするつもり?』
私は答えた。
「オリオンの人と接触する。このままでは、イオリが野垂れ死ぬ。」
イオリがため息まじりに言った。
「野垂れ死ぬってなんだ……。しかしこのままでは、俺にはノアズに逮捕される未来しかない。果たしてオリオンに行ってどうするのか、そもそも受け入れてもらえるのか、入ったとしても仕事に馴染めるのかどうか……大体、犯罪なんて、卑劣で馬鹿げた人間がする行動なのに。」
『不安なんだね、イオリ君。』
「対象のない恐怖を、俺が持っているとでも?確かにそう言われれば、そうなのかもしれない。」
ヤギさんは頭をポリポリ書いてから、魔法陣の黒い波動を強めた。
『あ!そうだ!』ヤギさんはポンと手を叩いた。『おじいちゃん忘れていた。やっぱり罪はあるよ。』
「え?」
『ゴーストと愛し合ったペナルティとして、もしイオリ君が死んでも、リアのような幽体にはなれなくなったのを忘れていた。あまり気にはならないか。』
「あー……。」とイオリが首を傾げた。ヤギさんは何度か頷いて、『それだけは肝に命じておいてくれ。』と一言残してから消えた。
トロピカルバイスの爽やかな朝日が、正座をしたまま固まったイオリに降り注いでいる。私はリュックと、ライフルやショットガンの入ったゴルフバッグを背負った。
「イオリ、お腹すいたでしょ?」
イオリはどこか焦点の合わない瞳のまま答えた。
「……だとしても、何を食えば良いんだ?お金もない。」
「海洋モンスター食べる?」
「それは絶対に断る。モンスター肉を俺に食べさせようとするな。俺は畜肉しか食べない。」
「金持ち野郎め。」
「以前まではな。」
ふふっ、と彼が少し笑った。そして立ち上がり、銃の入ったゴルフバッグを私から受け取った。私はさっきの話をした。
「イオリ、もし死んでもゴーストにはなれないね。」
「あ?ああそうらしいな……まあそれでも俺は構わない。」
「え?」
「……ふ、深い意味はない。昨日のサングラスを貸せ。」
私はリュックからサングラスを取り出してイオリに渡した。彼がかけると、やさぐれたホテルクラークみたいになった。以前の雰囲気はあまりないので、バレないかもしれない。
「じゃあ行こう。」
「何を笑っている?」
「別に~。じゃあ行こう。」
「どこに……。」
私は彼の手を引いて、ホテルのドアに入って階段を降り始めた。従業員用の階段で、人気はあまりない。
客室のあるフロアに着くと、我々は階段横にあるドアを開けて、昨日も使った外についている非常用階段を降り始めた。ここには防犯カメラはなかった。
三十階建てのホテルだったので、地上に着く頃にはイオリはバテていた。膝に手をついて、肩で息をしている。
「イオリ、大丈夫?あまり体力ない。」
「……それは否定しない。あぁ、はぁ……!」
彼の激しい呼吸を聞いてたら、昨日のアレを思い出してしまった。イオリの吐息、私を見つめる潤んだ瞳、彼が私の耳にキスする音が頭の中に再現されて、私の身体を熱くした。
「な、何故頬を染める?お前、気持ち悪いぞ。」
「……昨日のこと思い出した。」
「ばか!……そ、それで、これからどうする?あまり街の中をぶらぶらするのはよくない。こういう裏通りも、そのうちノアズの衛兵で溢れるはずだ。まあまだ、」と彼が体を起こした。「奴らは俺らがヴィノクール周辺でうろついていると思っているだろう。リアが不眠なのを知らないだろうから。」
「どうやったらオリオンと接触できるのかな。」
彼が座った目つきで私を見てきた。
「……お前、それを知らないのか?」
「知ってる訳ない。そうだ、挑発しよう。」
「どうやって?」
「トロピカルバイスはオリオンカンパニーのテリトリーが多いってバリーから聞いたことがある。」
「バリー……貴様の夫か。元、とつけた方が妥当だな。」
「そ、そうだけど?」
「ほぉ……。」
何その挑発的な視線。まあいいや、私は続けた。
「だからトロピカルバイスのカジノは絶対にオリオンのテリトリー。そこを襲撃する。」
「他に方法は無いのか……?我々が度胸のある人間だと印象付ける作戦だろうが、敵だと思われたら面倒だ。」
イオリが肩をガクッと落とした。じゃあ何だろう、私は考えた。
「じゃあ、フィールタバコの取引を見つけて、そこを襲撃する。」
「襲撃という選択肢をやめろ。俺に合わない。」
「えぇ……?」
困ったもんだ。襲撃無しでオリオンカンパニーに行く方法って何だろう?こんな私には全然思いつかない。
じゃあどうしようか考えていると、裏路地の通路の奥に、一台の黒い高級車が止まった。乱雑でダスト缶がポツポツ置いてある汚らわしい雰囲気の路地には、全く相応しく無いようなマット感のある高そうな車だ。
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