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時を超えていけ!フィナーレ編

252 みんなへのプレゼント

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 ジェーンが帰ってきたことをチェイスに伝えると、彼は今日だけ時空間歪曲機の移動を許可してくれた。ジェーンが過去から再び帰ってきたことは、ユークでニュースになり、晴れてジェーンは、過去の人間であることが、帝国中に知れ渡ってしまった。

 それもあり、帝都の研究者達は、ジェーンに興味津々で、帝国研究所からはオファーがあったようだが、ジェーンがソーライ研究所に残りたいと断ったようだ。

 雪を運ぶため、時空間歪曲機に三人で乗って、ユークの港に到着すると、遠くの空が夕暮れ色に染まっているのが見えた。ソーライ研究所の皆は呼びかけると、すぐに集まってくれて、リンやアリスは勝手に帰ったジェーンのことを責めて、どついた。

 港の漁師から始まり、雪があると言うことが、どんどんと広まり、住人の多くが港に集まって来て、皆が雪を一度でも触るために、列をなしてしまったので、タージュ博士が人々の整理をし始めた。

 報道陣がジェーンを囲んでいる。彼は過去の世界のことを聞かれても、うまく濁して、今回の出来事について、その感想だけをカメラに向かって話していた。私がそれをじっと見ていると、隣に誰かがやって来た。リンだった。ニヤニヤと笑っている。

「ねえ、キリー。過去の世界まで迎えに行ってさ、二人の仲はどうなったの?」

「……恋人になった。」

「え!?」リンが口を隠して叫んだ。周りにいた職員メンバーも私のことを驚いた顔で見ている……そんな、分かってたくせにさ。私は恥ずかしくなって、頭を掻いた。

「え!?じゃあ、ジェーンはキリーの彼氏なの?ああ!この指輪!」

「あ、ああ。これはジェーンに貰ったよ、はは。」

「そうなんだ……でもさ、」

「え?」

 リンが私の手を引っ張り、皆から少し離れたところに連れて行った。一体どうしたのか?彼女は至って真剣な顔で、私に聞いた。

「二人のこと応援してた。でもさ、思ったの。」

「何を?」

「……キリーは初心者ドライバーなんだよ?今回、運転が初めてなのに、最初から大型バスに乗るなんて、ちょっと危険じゃない?」

「は?」

 何の例えなのか、何の話なのか、さっぱり分からない。リンは至って真剣な顔で、私に耳打ちした。

「普通に考えて、身長高い人は……その、あれが、大きいって。」

「……おばか!」

 私はリンをどついた。なんてことを言ってくるんだ。リンは口を尖らせて、「だってキリーのことが心配だったんだもん」と、言っていたが、何かを思い出したのか、いきなり手をパンと叩いた。

「そうだ!そうだった!ヒッヒッヒ!……キハシ君どこ~!?」

 と、リンが辺りを見回して彼の姿を探した。すぐそこにいたキハシ君を見つけると、リンが何かを彼に話した。すると彼の表情が一瞬曇り、そして何故か、ウォッフォンを使ってリンにお金を渡し始めた。何があったのだろう。それを彼らに聞こうとしたら、声をかけられた。振り返るとジェーンだった。

「はあ、ここまで質問責めに遭うとは思いませんでした。」

「うん、そりゃあ過去から来た人間がいたら、質問しちゃうよ。ふふ。」

「ええ、確かにそうかもしれませんね。そして、後少しで陛下がここに到着するようです。私はその前に、やるべきことがありますから、少し、時空間歪曲機を移動させます。」

「え?どこに?」

「あまり住人に見られてはいけないと思います。ですから、遠くに停めてくるだけですよ。すぐに戻ります。」

「分かった。」

 ジェーンが、時空間歪曲機に小走りで向かって行った。私は彼の後ろ姿を暫く見つめてから、皆の方を見た。港がワイワイと賑わっている。

 ジェーンが、この世界を選んでくれた。その為に色々なものを犠牲にしたけれど、私と一緒にいる道を選んでくれたのだから、私は、彼を幸せにしたいと思った。帰ったら、思いっきりハグをしたい。ああ、早くここに帰ってこないかな……なんて、私は一丁前に女心を抱いているみたいだ。

 それは隠そう。デレデレするのは彼の方であってほしい。私しか知らないデレデレ……ああ、早くそのバリエーションを増やしてやりたい。

「おい、気持ち悪いぞ。」

「え?」

 気がつくとそこに、クラースさんが立っていた。私の顔を見て、彼は笑っていた。確かに、ちょっと不敵な笑みを浮かべてしまっていた気がする。私は恥ずかしくなって、顔を手で覆った。

「良かったな、ジェーンが戻って来てくれて。」

「うん、良かった。どうなるかと思ったけど、彼は実は、ここに戻ってくるつもりだったんだって。」

「ああ、そうらしいな。もうニュースになっているから、それで俺も知ったよ。まあ、ジェーンがいた方が、賑やかでいい。俺だってそう思う。とにかく今日は、あまりはしゃぎすぎるなよ。明日仕事なんだから。」

「分かってるよ!そんな、何もはしゃがないよ!リンといいクラースさんといい……。」

 そうか?と、笑いながらクラースさんは知り合いの方へと向かって行った。色々と話し込んでいて気付かなかったが、いつの間にか港のライトが光っていて、空は夜へと切り替わっていた。ウォッフォンでニュースを見ると、確かにジェーンの記事ばかりで、私はちょっと笑った。

 生放送の動画があったので、それをクリックして、見てみた。するとその映像はここ、ユークの港からで、リポーターのお姉さんが雪の入っていたバケツ(もう水になっているけど)を紹介していたようで、バケツを仕切りに手で指しながらペラペラ話していた。

 そしてお姉さんが、カンペを見ながら言った。

『さあて雪の次は、何と!花火です!ジェーンさんの帰還を祝う、ユークのとある市民の方から、差し入れだそうです!引き続き、花火も中継します!』

「おおおおお!」

 と、周りの観衆のボルテージも一気に上がっている。皆が徐々に空を見上げていて、どこで花火が上がるのか、予想を立てているようだった。ジェーン、早く帰ってこないかな、折角の花火だ。彼と見たい。私はジェーンを探した。すると、人をかき分けるように、ジェーンが急いでこちらに向かってくるのが見えた。

 彼と目が合った時、彼が私に微笑んだ。単純に嬉しかった。急いで来たのか、息を切らすジェーンと手を繋いだ私は、彼に言った。

「誰かがジェーンの為に、花火をプレゼントしてくれたらしいよ!誰だろうね!」

「いえ、私です。大きな花火ですよ。」

「え?そうなの?」

 ジェーンはこくりと頷いて、空を見上げた。花火なんて、持って来てたっけ?疑問に思っていると、ジェーンが突然、私の頭を掴んで、彼の方へと引き寄せた。こんな、人前でこんな、密着するなんて……そのドキドキ感のせいで、疑問など吹き飛んでしまった。

「ちょっとちょっと!すっごいラブラブじゃん、あはは~!」

 リンのテンションの高い笑い声と、ウォッフォンカメラのシャッター音が何度か聞こえた。それが終わると、リンはラブ博士と手を繋いで、私たちの隣へとやって来た。

「ねえねえ、花火あるらしいね!どこから上がるんだろう?ここから見えるかな?」

 それにはジェーンが答えた。

「ええ、ここからなら一番よく見えるはずです。」

「へえ~ジェーン知ってるんだ!ラッキー!あ……あれじゃない?なんか、ある!あるある花火きたァー!」

 リンが空を指差して叫んだ。私も微笑みながらリンの指差した先を見た。確かに、夜空の中心に向かって、何かが飛んでいっている。何か、しかも見たことがある気がした。まあ花火は何度か見たことあるし、でも花火っぽくない気もする。ここでトリビアだが、私は動体視力がいい。

 それは何か……それは、時空間歪曲機だった。

 ぱああああああああん!

 ……スッキリとした爆音が響き、夜空には、それは見事に大きい七色の火花が、綺麗にまあるく弾けた。そして、その破片はキラキラと、スパンコールの輝きを放ちながら、ゆっくりと落ち始めた。こんなに、美しい花火は見たことないが、見たことないがああああ!?

「うああああああああああ!」

 私がずっと叫んでいると、ジェーンが笑った。

「はっはっは……そんなに喜んで頂けるとは、仕込んだ甲斐がありました。」

 私はギュンとジェーンの方を振り向いた。

「その、うああじゃないんだけど!ちょっと、ちょっと何してんの!?あれを集めるのに、どれだけ苦労したか!あれの完成にどれだけ……!?」

 ジェーンがぷいっとそっぽを向きながら答えた。

「あそこまで木っ端微塵にすれば、もう修復などは出来ません。それにあの機械を使用することは重罪ですし、もう必要ありません。チェイスは組み立てられますが、それは私の方から釘を刺しておきます。兎に角、私の居場所はここなのです。それとも何です?やはり、帰って欲しいですか?」

 彼がムッとした顔で私を見た。不意にも、可愛いと思ってしまった。彼はここにいる。それだけで、幸せだ。私は、ジェーンの手をギュッと握った。ナイトアームの方だったが、温かい気がした。

 彼が照れた顔で、指と指を絡ませた。この握り方は、とてもいい。

「……ジェーンの居場所はここだよ。」

「はい……キルディア、」

「ん?」

「愛しております。」

 背後から「ウゥ~!」と、聞こえた。私は無視してジェーンに微笑んだ。

「……ん、ありがとう。」

「あなたは?」

「言わなくても分かるでしょう?」

「率直に仰ってくれませんと……私は物分かりが悪いもので。」

 ここで言うの……?少し、躊躇したけど、意を決してジェーンに言った。

「ジェーン、とても愛しています。」

「ふふ、」と、彼が頬を染めて、優しく笑った。「ありがとう。それと、」

 それと?私は首を傾げた。ジェーンは唇をトントンと叩いて、何か企んでいるような、意地の悪い微笑みを私に向けた。こ、この場所でキスをしろと言っているらしい……それはちょっと、まだ、恥ずかしい。

「ま、また後で、家帰ってから、ね?」

「……承知致しました。その分、帰宅してから、堪能させて頂きます。」

 今日の夜は、大変なことになりそうだ。私は、ジェーンと一緒に、また夜空を見上げた。七色のかけらは海へと消えていき、代わりに、無数の星々がきらきらと瞬いていた。
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