LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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時を超えていけ!フィナーレ編

251 全ては言の葉に

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 キッチンでジェーンと再会してから二時間後、私達とイルザは、地下の研究室に居た。全ての準備を終えて、あとは時空間歪曲機に乗って帰るだけ。本当に良いのか、少し迷いながらも、私はジェーンとイルザさんのハグを見つめていた。機械的な、ぎこちないハグだと思っていると、案の定な一言をイルザさんが言った。

「兄様と、ハグをしたのは、初めてでございますね。」

「ええ、ええ。中々、しっくりきません。」

「同感です。」

 何だその感想は……私は苦笑いした。するとジェーンがイルザに言った。

「私が去った後も、時が来るまで、ずっとここに居なさい。あなたの平和は確定します。」

「ええ、キルディアさんのお蔭で、私はとうとう自由を手に入れることができる。これは素敵なことです。」

 何のことだかさっぱりだけど、二人の会話が終わったようなので、次は私がイルザさんにお別れのハグをした。まだ出会ったばかりだけど、何だか、寂しい。それを素直に言った。

「イルザ、この世界で、色々と助けてくれてありがとう。もう会えないなんて、少し寂しいよ。」

「そうですか。私はあなたに愛着など、ありませんが。」

「そ、そうですよね……今日会ったばかりだもんね、はは。でもイルザ、私だけじゃなくて、ジェーンとも、お別れになってしまう。」

 イルザは先程と同様、氷のような無表情で答えた。

「兄がこの世界に戻ってきては、私はクイーンの座に居られません。あの事故は、悲劇であり、しかし私にとっては、好機でした。キルディアさん、是非とも、兄をあなたの世界に連れ帰ってください。何卒、お願い申し上げます。」

「あ、ああ……ありがたく、そうするよ。」

 なんかすごかった。予想よりも、イルザさんは強かった。ジェーンの方を見ると、彼は口を押さえて笑っていた。

「ふふ、どうやら私は不要のようですね。あなたなら、そう申すとは予想しておりました。それぐらいなら私も、心残りはありません。イルザ、私はキルディアと共に、時空間歪曲機に乗ります。あなたのことを、いつも想っている。あの世界から、ずっと。」

 イルザさんが少し笑った。

「私は、兄様には感謝しております。兄様が未来の世界に飛ぶのなら、私は永遠に、兄様が死ぬのを見られずに済むのですから。対して、この瞬間以降、私は遥か昔に死んだものとなりますね。生き続けてください、キルディアさんと共に。」

「本当に良いのかな……ぐっ、うええ。」

 私は涙も鼻水も垂らしながら、時空間歪曲機に乗った。もう既に、ここにはジェーンの本がぎっしりと積まれていて、更にジェーン自身も乗ってきたので、中は結構狭くなった。イルザさんがカバーを閉めてくれて、ガラス越しに私に言った。

「キルディアさん、絶対に、兄がもう戻って来ないように見張っていてください。この世界のクイーンは私です。そうなりたいが為に、私がどれほど苦労したか。」

「はい……すみませんでした。」

「それと、兄様」イルザがジェーンを見た。「この一件に関連するデータは全て、私がしっかりと、消しておきます。兄様が消した兄様自身のデータも、全て完全に消去されているか、確認をしておきます。もう心置きなく、この世から去ってください。」

「最後まで、あなたには、お手数をお掛けしました。」

 機械がウィーンと起動し始めると、ジェーンが少し身体を上げて、ガラスの向こうに立っているイルザに向かって言った。

「イルザ、愛しております。」

 しかしその時だった。イルザさんは手を振り、そのまま何も言わずに、ボタンを押してしまったのだ。一気にカバーの向こうの視界がマーブル状態になった。そんな、何も言わないでボタン押しちゃうの?と、私は隣のジェーンを見た。ジェーンは、ぽかんと口を開けていた。

「このタイミングで、ボタンを押すのね。」

「ええ、彼女は実に、私の妹です。」

 そして、機械がガタガタ揺れ始めると、ジェーンは私の手を握った。このまま、あの時代に帰る。彼と一緒に、帰れる。切ないけど、嬉しくて、変な気持ちだった。

 時空間歪曲機のカバーの景色が、マーブルから空模様へと変わると、ジェーンはボタンを操作して、時空間歪曲機で空を移動した。私は下の景色を覗いた。青い海が広がっていて、近くには孤島が七つ、連なっている島々があった。明らかに、七つの孤島だった。

「ジェーン!近くに七つの孤島がある!あそこに着陸しよう。」

「了解です。一つめの島に、着陸を試みます。」

「どの時代だろう、でも海が広がっているから、ルミネラ時代かな。問題は、どの皇帝の時代なのかってことだけど。」

「ええ……」と、ジェーンが彼のウォッフォンの電源を入れた。するとすぐに太陽光で充電がされつつ、ホログラムが付いて、電波が入った。表示された月日を見てみると、何と、私が飛び立った日の翌日だった。

「す、すご。もう少し早かったら、過去の我々に出会していたかも。」

「ふふ、そうなれば、どうなったでしょうね。物体が二つに増えますから……とてもややこしいことに、なったでしょう。」

「ちょっとニュース見てみてもいい?」

「ええ、私は運転をしておりますから、あなたが操作してください。」

 私はジェーンのウォッフォンのホログラムを触って、ネットでニュースを見てみた。するとチェイスが皇帝になったことや、LOZの解散のことなどが、全面的に写真付きで特集されていた。ああ、やはり帰ってこれたんだ!私は嬉しくなって、カバーをバンバン叩いた。

「ちょっとキルディア、揺れます。」

「あはは!だって、帰ってきた、帰ってきたぞ!この青い海は、ユークアイランドに通じているんだ!はあ~、早く海風を嗅ぎたい。」

「私も嗅ぎたい。それから、ふふ、我々はもう恋人同士ですから、家でするべきことがあります。」

「……。」

 何だか、嬉しいような、恥ずかしいような、変な気持ちになった。

 ジェーンはそのまま運転を続けて、我々を乗せた機械は無事に七つの孤島の一つめの島へと、近づいていったが、海岸沿いに一艘の船が停まっているのが見えた。あのオレンジの屋根、白いボディ、シロープ島の漁師の船だ。

「ジェーン、もしかして、あれはクラースさんの船かな……?」

 ジェーンはモニターを見て、首を傾げた。

「どうしてクラースが、翌日ここに来ますか?あれは別の人物の船では?」

 私は船の近くの海岸をジロジロと眺めた。すると、ヤシの木が密集しているエリアから、一人男が出てくるのが見えた。あの褐色の肌、赤茶の髪色!

「あれ、クラースさんだ!」

 しかも彼は何か手に持っている。それが何なのか分かった時、私とジェーンは笑ってしまった。

 クラースさんが頭上の機械に気付いたのは、それからすぐだった。彼は最初、うわっと尻餅をついて、UFOだと思ったのか、ウォッフォンでしきりに動画を撮っていたが、時空間歪曲機だと気づくと、何度か目を擦ってから、こっちだこっちだと言わんばかりに、手でオーライオーライしてくれた。

 クラースさんの誘導もあり、砂浜の上に到着すると、扉から飛び出して、私はクラースさんに突撃した。相変わらず力強く抱きしめてくれた。それからジェーンがクラースさんに笑顔で手を振ると、クラースさんはジェーンに突撃して、力強いハグをお見舞いしていた。ジェーンが、もがきながら言った。

「も、もう宜しいではありませんか、苦しいです。それに流石クラースといったところでしょうか、我々が戻ってくることを、知っておりましたか。」

 クラースさんがジェーンを解放して、照れながら答えた。

「あ、ああ、まぐれだけどな。研究所も今日は休みだったし、ちょっと気になって、こっち来てみたんだ。これを持ってな。ほらよ!もう置いていくんじゃないぞ!」

 と、クラースさんが私に向けて、手に持っていたナイトアームを投げつけた。私はそれをキャッチして、体に装着した。うーん、やはりいい感じだ。私が両手をワキワキ動かしていると、クラースさんが急に驚いた声をあげた。

「おい!お前それ!」

「え!?」

「左手の薬指にあるのって……お前ら、婚約したのか!?」

 私は首をブンブン振った。

「ち、違う違う!ジェーンが離婚してくれたから、付き合ってはいるけれど、まだ、っていうか、婚約はしていないよ!そういうのはほら、お互い……ゆっくり進めたいと思っているよ。ねえ?ジェーン。」

 ジェーンが答えた。

「ええ、折角ですから、過程も楽しみたいと思っております。まあ、結末は決まっておりますがね。しかし、この世界は暑い……ああ、溶けそうだ。」

 ジェーンが額の汗をハンカチで拭いた。確かに、向こうの世界に比べたら暑すぎるかもしれない。ジェーンの世界は、雪原地帯以外でも、肌寒かった。あの世界を、少しでも肌で感じられたのは、いい経験だった。

「あっちの世界は、逆に寒すぎた。息をする度に、唇が凍りそうになるのも、鼻の穴が痛いのも、末端が常に凍りそうなのも、新鮮だった。何よりもあの雪、すごく綺麗だった。」

「ほお」クラースさんが思案顔で想像しながら言った。「そうか、ジェーンの世界には雪があったんだな。俺も、一度で良いから、雪を見てみたいもんだ。」

「実は、あるよ。」

 私の一言に、クラースさんが目を丸くした。私とジェーンは時空間歪曲機の中からバケツを三つ取り出した。そのバケツには、雪がたくさん入っていた。クラースさんはそれらを見て、おおおと声を漏らし、人差し指を突っ込んだ。

「さくっとしているな。」

「ええ、しかしそのままにしていると、指が痛くなります。」

 ジェーンの一言に、クラースさんは指を抜いた。やはり初めての雪が気になるようで、クラースさんが、まじまじとしゃがんで観察している。その姿を私とジェーンは微笑ましく見ていた。

 少しすると、ジェーンが時空間歪曲機の中から一本のお酒のボトルを取り出した。灯の雪原の銘酒である、クリスタルリキッドを、クラースさんに見せようとしたのだ。しかしその時、彼のベストのポケットから、一枚の紙切れが、砂の上に落ちたのが見えた。

 ジェーンとクラースさんがクリスタルリキッドの話題で盛り上がっている時に、私はその紙を広げてみた。これは……。

「ねえ、ジェーン。」

「はい?」と、ジェーンが私を見た。クラースさんはまた雪を見るためにしゃがんだ。私は、ジェーンに紙を差し出した。その紙を見て、ジェーンは嬉しそうに微笑んだ。紙にはこう書いてあった。

「兄様LOVEですか……ふふ、いつの間に、忍び込ませたのか。」

「何だか、意外な一面があるんだね、イルザさん。でも、本当にこれで良かったのかな。」

 ジェーンが紙切れを大事そうにポケットにしまってから、私に微笑んだ。

「いいに決まっております。それにこの文章は、彼女なりに砕けてみたのでしょう。ああ見えて、彼女は結婚しております。彼女にも愛する人がいる、私にもいるのです。それだけの話です。」

「そっか、私にもいる。勿論、クラースさんにもね。」

「煩いぞ。」

 と、クラースさんが雪をツンツンしながら答えた。ちゃんと聞いていたんだと、私は笑った。

「ところで、」クラースさんが立ち上がった。「この雪、ケイトにも見せてあげたいと思うんだが、溶けないうちにユークに持っていけないだろうか。」

 それにはジェーンが答えた。

「陛下が、時空間歪曲機での飛行を、今日一日でも許可して頂けるのなら、ユークに持って帰ることは可能です。確かに、研究所の皆にも、見せてあげたいですね。」

「じゃあ、チェイスに、聞いてみようか!」

 私がそう言うと、ジェーンがウォッフォンを構えた。

「そうですね。では、私が……。」

「ちょっと待って、ジェーン。」

「はい?」

 私は、ジェーンの胸ぐらを掴んで、彼にキスをした。最初は驚いていた彼も、次第に私の頭を掴んで、激しく貪るようなものへと変化させていった。私は慌てた、ちょっと彼の勢いの方が、上回っている。何度も何度も繰り返されるキスとキスの合間に、私は言葉を放った。

「ちょっと、激しっ、ぶっ!」

「だって、この世界ですから、何も気にすることは、ありません。」

「だからって、弾けすぎ、ぶっ!」

「ん、もう少し、色っぽく。」

 じゃあ話している途中で、私の口を塞がないでくださいよ……。と言いたかったが、もうこの勢いは止まらない。しかも彼は、口を開けてきた。私も油断していて開けてしまうと、ニュルっとしたものが入ってきて、私はバックステップで彼と距離をとった。頬が赤く、とろんとした目のジェーンと目が合った。

「今のは何?」

「……我々は恋人です。これぐらい、誰だってします。さあ、おいでなさい。もっと、私と口づけをしましょう?」

「クラースさんいるんですよ。そこに。」

「見せつければいいではありませんか。あなたが来ないのなら、私から迎えに行くまでです。んむっ。」

 ジェーンがいきなり突撃してきて、一瞬頭が真っ白になった私は、動けずに彼に捕まってしまい、キスを受けた。何だその勢いはと、笑いながら私も彼に激しくやり返した。私の勢いに押された彼が、どこか隙のある表情で息を漏らすと、私はどきっと胸が高鳴って、もっともっと、彼を襲いたくなった。

 気がつくと、二人して砂浜の上で転がりながら、互いの唇を貪り合っていた。堰き止められていた物が、一気に放出されて、私は容赦など出来ずに、彼を無茶苦茶にしてしまったが、彼が私に付いて来れていることを考えると、彼もまた、色々と我慢していたに違いないと思った。

 キスが落ち着いて、鼻をくっつけて見つめ合っていると、二人の頬が砂だらけなことに気付いて、一緒に笑った。ふと気になって、クラースさんは何をしているのか見たら、何と、ウォッフォンで我々の動画を撮っていたのだった。それは予想外だった。
 
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