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交差する、最後の戦い編

236 一つの流れ星

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 どうにか城の中庭まで戦線を押してはいるが、新光騎士団も死に物狂いで襲いかかってくるので、全然引いてくれない。追い込まれた敵は、もう後がないから必死になるのは分かるが、これでは長期戦になる。

 ヴァルガが物陰に隠れながら私に叫んだ。

「おいギルバート!このままでは闇雲に時間が過ぎるばかりだ!俺が囮になるから、お前は城内に侵入しろ!そうすれば奴らも、お前を追うだろうし、その間に戦線を押す事が出来る!」

 私は中庭にある、天に剣を掲げている英雄像の土台に移動して、飛んでくる銃弾から身を庇いながら、頷いた。前転しながら私の隣にやって来たのは、クラースさんだった。

「おいキリー、何やら奥の方でチェイスがやっていると、ゲイル隊の兵が言っている。我らも急いだほうがよさそうだ!」

「分かった!……?」

 クラースさんは今、しゃがみながら前に出るタイミングを伺っている。しかし彼の背中に何か、漫画雑誌ぐらいの大きさのオレンジ色の箱が付けられているのを発見した私は、手短に彼に聞いた。

「ねえ、その背中の物は一体何なの?」

 彼はこちらを振り向かずに答えた。

「ああこれか、お守りだ。よし、行くぞ。」

 でっかいお守りだな。その分ご利益があると言うなら、何だか心強いけども。私は構えて、ヴァルガに叫んだ。

「ヴァルガ!今だ、頼む!」

「おう!任しておけ!おらららら!」

 ヴァルガが前へ飛び出して、銃弾を避けながら敵陣に突っ込んで行き、騎士と揉み合いをし始めた。敵の注意がそちらに向いている間に、私とクラースさんは英雄の像の土台から飛び出すと、光の大剣を取り出して、一気に騎士を吹き飛ばしながら、駆け抜けた。

「うおおおおお!」

「こ、こちらからも敵襲!うああっ!」

 ヴァルガで敵陣が傾いてくれていたおかげで、私とクラースさんは城内に入る事が出来た。ここをまっすぐに進めば、吹き抜けの階段があり、その先には謁見の間がある。そして確かに、遥か前方に、人の影が見えた。目を凝らすとそれは、ネビリスとチェイスだった。しかもネビリスは、チェイスの首を絞め上げている。

 その時だった。発砲音が背後から響き、私の左肩に当たって、軽く防具の破片が飛んだ。それを見たクラースさんが止まり、私も慌てて彼の方を見た。

「クラースさん!」

「行け!ここは俺に任せろ!」

 クラースさんは拳銃で応戦しながら柱の影に隠れた。彼が敵の攻撃を凌いでくれている時間を大切にするべきだ。私は先に走った。更に、更に、私の足は速くなった。

 ネビリスが片手でチェイスの首を絞めているところだと思っていたが、近くに行くと、それは違う事が分かった。何発も何発も、チェイスの胸に銃弾を撃ち込んでいたのだった。私は、めいいっぱい叫んだ。

「ネビリス!」

 ネビリスがこちらを見た。

「ふん!来たか!」

 私に気付いたネビリスは、チェイスを床に落として、近くにいた騎士と共に、階段を上がって逃げて行ってしまった。逃げながらも、ネビリスは拳銃で私に向かって発砲して来たので、私は物陰に隠れて、彼が二階の通路に消えるまで待った。

 それから、床に倒れ込んでいるチェイスの元へと駆け寄った。いやだ、待ってくれ!チェイス、まだどこにも行かないで!

 私はしゃがみ、横に倒れていたチェイスを、お姫様抱っこのように抱えた。彼の胸からはどくどくと赤いものが溢れている。

「チェイス!今、助ける!諦めるな、私だって、ここからでも生き返ったんだ!」

 私は左手で彼の上半身を支えたまま、ベルトポーチに手を掛けた。その間も、じっとチェイスの瞳を見つめた。口や鼻から、血が溢れ続けて、ヒューヒューと呼吸をしている。そうだ、そのまま意識を手放さないで、ずっと私を見ていてくれ!私はポーチからキュアクリームを取り出した。

 すると、そんな状態なのに、チェイスが笑った。

「……キルディア、来てくれた。」

「チェイス、話すな!私をしっかり見るんだ!いいね?私を見ることをやめないで!」

 彼の頭を抱きながら、片手でチェイスの胸の防具を取り外し、彼の制服を破った。そして、何個も穴の開いているチェイスの白い胸元に、チューブを思いっきり捻り出して、手で広げてたくさん塗った。魔銃なので、身体に弾は残っていない。このクリームなら、きっとチェイスも助けてくれるはずだ!

 しかし、チェイスの呼吸が、どんどんと浅くなっている。

「……僕は、君が、好きだった。」

「チェイス、呼吸をしっかりして、しっかり私を見て!すぐに楽になる、もうすぐだ、大丈夫!」

 チェイスは虚な目で、どうにか私を目を合わせている。その光を失ってはいけない!意識を手放さないでくれ!

「……ジェーン、」掠れ声が、どんどん酷くなっている。「聞いて、いるか?……僕は、君と、競り合えて、ほん、とうに……嬉しかった。」

 私はウォッフォンの音量を上げた。ジェーンが、応えた。

『何を、諦めたことを仰いますか!あなたがいなくなれば、私は誰と競えばいい!?』

 ぽろっと、チェイスの瞳から涙が溢れた。

「そう、思って、くれていたか……僕は、しあわ……。」

 チェイスの呼吸が最期を迎えようと激しさを増した。

「チェイス!私を見て!しっかり!」

 駄目!チェイス行かないで!そう思ったら、涙がポロポロ溢れてしまった。私の涙が、チェイスの顎に落ちた。

「ジェーン……彼女を……幸せに……。」

 瞳を開いたまま、彼の呼吸は、停止した。魂が抜けたのか、ぐたっと一気にチェイスが重くなった。チェイスが、ここからいなくなってしまった。

 彼の丸眼鏡を取って、床に置いて、彼の瞼を、手で包むように優しく閉じると、涙を流しながら、彼のことを抱きしめた。

 もう少し早く、私がここに来れたら……もう少し早く……!私は、とても惜しい人を、死なせてしまった。自分が憎い、チェイス、ごめんね。本当に、守れなくて、ごめんなさい。

 クラースさんが駆け寄って来た。肩で息をしながら、私の胸元のチェイスを見て、彼は息を飲んで、体を硬らせた。

「チェイス元帥……そ、そんな!」

「ネビリスが、彼を撃った。私が、守れなかった。」

 また、民の希望を守ることが出来なかった。ジェーンとの将来、それも大事だけど、何より、チェイスとまた、お話がしたかった。再会したら、ちょっと海賊船のことでも思い出して、一緒に笑おうと思ってた。それなのに、それなのに!私は声を上げて泣いた。

 クラースさんが膝から崩れ落ちて、言葉を失っている。そして彼は、何か決心をしたのか、私の肩に手を置いた。

「そうか、そうか。ならば、人類の願いを使え。」

「え?」

 そう言ったクラースさんは、背負っていた、でっかいお守りを床に置いた。何を言っている?何してるの?

「何それ、何なの?今、もうそんな、何をするの?」

「何何って、何を何何言っているんだ!?人類の願いだ!」

 あんたが何を言っているんだ……。何何言いすぎて何が何だか分からなくなって来たが、私は取り敢えず、涙を袖で拭いた。そんな、ふざけてる場合じゃないのに、少しばかりクラースさんに怒りを感じながら、私は彼の作業を見守った。
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