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交差する、最後の戦い編

229 奮い立て

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 情報によると、LOZはルミネラ平原のアクロスブルー高速道路の脇に、小さく陣を展開しているらしい。侵攻にしては、規模が小さすぎるので、どこかに伏兵があるのだろう。それにしても、どうやって外壁を突破するのか、見ものだけど。

 LOZの情報が入って来てから、城下全体は厳戒態勢に入った。自警システムは青いランプではなく、赤いランプに切り替わっている。のを、僕はPCで確認した。監視カメラの映像を見れるので、ここからでも確認できることは多い。

「とうとう動き出したか……。」

 明日は見せしめの刑が執行される予定だったが、それもLOZが迫って来たことで、何処かへ行ってしまっているようだ。そうだ、彼らなら黙っている筈がないと思っていた。僕の、予想通りだ。今しかない、やるなら徹底的に。僕は机の下でウォッフォンを操作して、タイマーを今日の夜に合わせた。

 天気予報では、今夜は満月の夜だ。それも晴れ。いい夜を選んでくれたものだと、僕はつくづく感心した。僕の計画を実行するなら、戦は夜の間ではないといけない。満月なら……尚更最高だった。

 満足気にため息を吐いた僕は、一通りの作業を終えたので、立ち上がった。それと同時に、僕の執務室に騎士が一人、ノックもしないで勢いよく入って来た。ほお、見られていたら危険だったかもしれない。危なかった。

「チェイス元帥、私は今日はここに待機します。ご存知の通り、LOZが城下の近くの、高速道路沿いに待機しております。いつこの街に襲撃してくるのか、分かりません。チェイス元帥も、急ぎ防具を。」

「わ、分かった。防具ね。」

 僕は執務室にある自分のロッカーを開けた。中には、この制服の上に直接つけるタイプの防具と、最後に着たのはいつだったか、僕の私服のシャツとチノパンがハンガーにぶら下がっていた。下には防具と合わせた素材のブーツがあったので、それも取り出した。

 防具は肩や胸、お腹とパーツごとになっていて、僕はまず腕から装着を開始した。するとその兵士が、僕が防具を着るのを手伝ってくれた。

「ありがとう、君。」

「いえ。しかし……LOZも大胆なことをするものですね。この城下には外壁含めて、いかなる死角もありません。今までとは格が違って、LOZ側は不利なのですが、彼らは分かっているのでしょうか。」

「どうなんだろうね……」

 確かに、外壁の自警システムはどのように攻略するんだろう。僕の計画は、この城下の範囲の話なので、外壁は含まれていない。あの万全なシステム、僕でさえお手上げしたくなるんだけど、彼らはどうするのか、ちょっと楽しみだな。僕は続けた。

「きっとさ、見せしめの刑が許せなかったんだろう。彼らは、民の為にって考えると、熱くなって止まらないところがあるから。」

 兵は僕の後ろに立って、お腹の防具をパチパチとつけてくれた。

「確かに、彼らは身を挺して、行動しますね……騎士ではないのに。ところで、あの見せしめ刑罰は、チェイス元帥が執行人だとか。」

「うーん。と、いうことになっているね。」

「それでは、違うので?」

「うーん、どうだろうね。何て言えば正しいのか、とっくの昔に忘れてしまったよ。僕にとって重要なのは、今宵の満月だけさ。」

「そ、そうですか……。」

 ちょっとポエマーな雰囲気を出したら、兵はそれ以上聞かなくなった。なんだ、ちょっとぐらい突っ込んでくれても良かったのに、と一人で苦笑した。

 僕が防具をつけ終えると、彼はドアの横に移動して、ピシッとした姿勢で立つと、ブレスレットを槍に変えて、それをまっすぐに持った。

 そして、動かなくなった。騎士は、待機中も気高いんだなあ。僕は騎士の防具姿の自分を、執務室にある全身鏡に映して見つめながら考え事をした。今日は決戦の日だ。ルミネラ帝国の運命は、今日決まる。そして、僕の運命も。

*********

 私達は、ルミネラ平原の隆起に身を潜めつつ、ジェーンの開発した擬態ホログラムで草花に同化しながら、静かに移動をしていた。今まで守るべき存在だったあの城に、敵視の視線を送るのは、ちょっと変な感じだったが、あの中にいる者のことを考えた。敵は、あの皇帝なのだ。

 漸く、帝都の東門が見える場所に着くことが出来た。もう辺りの草原は、橙色に染まっていた。小麦畑にいるみたいだった。

 そして、帝都の東門の隣に備え付けられている自警システムに標準が定まるように、皆で力を合わせて、グレン研究所特製の改良版電磁パルスを地面に置いた。結構大きい物で、ブレイブホースと同じくらいの大きさだ。

 あとはそれを更に微調整して、確実に当たるように動かすだけだ。それをクラースさんがやることになった。彼はちょいちょい本体を動かし、スコープを覗いては、また動かして、を繰り返した。

 私はその間に、本部に連絡をしようと思ったが、首にかけられた、チョーカータイプのロケットが、ふと気になった。これは今朝、家を出る前に、ジェーンが私にくれたプレゼントだった。「中は見ないでください」と、言われたが、中身が気になったので、見てみる事にした。

 ロケット部分を試しに引っ張ると、スッと紐が伸びた。キーリールタイプだったようで、チョーカーを付けたまま、写真を見る事が出来るようだ。便利便利と満足しながら、ぱちっと押して、蓋を開けた。

 ……中には、第二ボタンまで外しちゃったジェーンが、セクシーにソファに横たわって恍惚の表情をしている、まるでグラビアの写真のようなものが入っていた。しかもカメラ目線。何これ。なんでこんな写真なの?絶句していると、メットのスピーカーからジェーンの声が聞こえた。

『見ましたね。しかもあなたには、視点カメラがついているというのに。』

「見るよそりゃ。何でなのジェーン、なんであなたは普通じゃないの?」

『どうしてです?私は至って普通です。『あはははは!』

 リンの笑い声が聞こえた。周りを見ると、皆が笑いを堪えている顔をしていた。この会話も聞かれただろうし、このロケットの映像はミラー夫人たちに届いているだろう。今回の目線カメラは、私とヴァルガについている。

 そのシステム、いい加減どうにかしたいけど、ミラー夫人には逆らえなかった。更にはジェーンまで、確かに一々あなたの状況を確認しないで済むと、気に入ってしまったのだ……辛い。

『さて、そちらの電磁パルスの設置はクラースがしておりますね。クラース、どうでしょう、あとどれくらいでしょうか?』

 クラースさんが手で地面を均しながら答えた。

「うーん、地面が凸凹で安定しないんだ。均しているから、あと五分ほどくれ。」

『了解しました。西門はどうでしょう?』

 ヴァルガの声が聞こえた。

『こちら西門隊、丁度今、電磁パルスの設置が完了した。スコピオがいるから、あとは彼に任せる。引き続き待機する。』

『了解しました。キルディア、そちらは森に囲まれた西門と違って、平原です。少し動けば敵に感づかれるでしょう。気をつけて行動してください。』

「了解です。」

 私は通信をつけたまま待機した。やることが無いので、もう一度ロケットの写真を見た。はあ……よし、気合を入れてからそれを、インナーの中にしまった。

 クラースさんが設置を終えて、グーサインをした。それがカメラに映ったのだろう、ジェーンが反応した。

『設置完了しましたね。それでは、全軍、私が合図をするまで、その場で待機をしてください。』

「了解。」「分かった。」「ああ。」

 皆の了承の声が聞こえた。クラースさんは身をかがめながら私の隣に来た。そしてホログラムを自分の体の前に置くと、私に顔を近づけて、私に聞いた。

「なあ、キリー。」

「なに?」

「お前は、ジェーンに別れの一言を、ちゃんと言ったのか?帰ってくるとか適当なことを言って、誤魔化して終わったんじゃ無いのか?」

「何それ、別れの一言なんか、言わなかったけど……。」

 そうか、彼は、私に視点カメラがついている事が分かっていないらしい。クラースさんは至って真剣な様子で、更に私に聞いた。

「それで悔いはないのか?実は、俺の方が、そうだったんだ。ケイトに別れの一言なんて、言えなかった。言いたくなかったさ。最愛の人と別れるなんて、受け入れられたもんじゃない。俺はLOZの他の兵のこと、必死になって守るつもりだ。俺は傭兵だった。俺は、戦いの最中、死ぬ覚悟が出来ている。他の兵達は、元々民じゃないか。だから、大切な人が待っているその場所に、絶対に帰してやりたいんだ。」

「うん、そうだね。」

「ああ、お前もそうだろう?俺は正直、この戦……良くて相殺だと思っている。俺は、帝国の為、民の為、命を惜しむようなことはしないさ。それはお前も同じだろう?寧ろ、お前の方が、騎士団長だった。」

「うん……。」

 良くて相殺、ここでまた、この言葉が出てくるとは。しかし私は、もう負けないと決めたのだ。絶対に帰ると決めた。

「クラースさん、私は昨日、ジェーンと色々とお話をした。最初は同じ気持ちだった。良くて、相打ちだと思っていた。でもそれじゃあダメだ。折角、最愛の人がいるのに、命を自ずから捨てるような気持ちでいてはいけない。ジェーンは、自分が幸せにならないと、他人を幸せに出来ないと教えてくれた。自己犠牲の信念が、我々戦士の胸に刻まれているだろうけど、それは決して大切な物ではない。自分が無事に帰りたいから、無事に帰れるように全力で戦う。それの何がいけない?我々はもう一度、大切な人とハグをしたいから、最後まで必死に、足掻き続けないといけない。その力はきっと、勇気を与え、我が身を奮迅させてくれるだろう。だからクラースさんも、絶対に生きて帰ると、心に誓って欲しい。だって、帰りたいでしょう?」

 するとクラースさんがふっと笑って、私に軽くぶつかって来た。

「……さすが、騎士団長だ。確かにそうだ、俺だって、生きて帰りたいさ。その先のことだって、夢に見ているんだ。しかしなんだ、ジェーンへの愛は力になるってやつか?」

「ち、違うよ!いいよもう、クラースさんが窮地に陥っても、助けに行かないからね!」

「ふっ、分かった分かった。その時は、置いていけ。」

 そんなこと出来るかい!私はクラースさんの肩をどついた。しかし今の他愛のない会話も、皆に筒抜けなのだ。この視点カメラによって。

 あーあ、はずかしいとかいう感情は、あるっちゃあるけど、慣れてしまってる自分がいる。それにクラースさんは未だ、カメラに気付いていないっぽい。今の会話をケイト先生が聞いていたら、どうなるんだろうか。

「キリー」

 もう一度クラースさんを見ると、彼は白い歯を出して爽やかに笑い、私に手のひらを向けた。私も微笑んで、彼のごつい手にハイタッチした。仲間と共に戦うのだ。我は無敵なり!そう思い、視線をルミネラ城に移した。
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