上 下
222 / 253
命は一つ!想いは無限編

222 見えていた未来

しおりを挟む
 帝都は円形だ。真ん中には噴水広場があり、そのすぐ上に、ルミネラ城がある。噴水広場の下側には、商いの広場があり、そこは帝国一の商店街だ。

 他は蜘蛛の巣のように道路が広がっていて、住宅地が広がっている。そして高く頑丈な外壁が街全体を囲んでいて、アクロスブルーラインへの高速道路は、南門から繋がっている。

 その南門は、既に閉ざされてしまっている。南門は新しく、帝国研究所が担当した、独自の迎撃システムがバッチリ付いている。うーん、どうしようか。私は言った。

「破壊出来るのは二つか……門の周りには一定間隔で自警システムがあるから、二つ破壊しても、他のシステムの範囲内になってしまうし、地下水路も二つでは足りないよ。」

「そうですね……」ジェーンが答えた。「他にどこか、二つで効果的な場所はないものでしょうか。火山の旧採掘道のように、昔ながらの通路でもあればいいのですが、私の時代、帝都はそこにはありませんでした。うーん。」

 長い歴史、確かにそう言う箇所もあるかもしれない。少し沈黙が流れた。画面の博士も、腕を組んで考えている。帝都か、昔からある街、歴史に縛られた街……地図に載っていない場所、あ。

「あ!」

 私は閃いた。ジェーンが私を見た。私はペンを握って、帝都の図の、東西の二箇所に丸をつけた。

「こことここに、もう大分使われていない、古い東門と西門がある。小さいけどね。でもこれらの門は、歴史的建築物扱いで、自警システムが付いていないから、間隔が空いている。だからその東門と西門を守ってるシステムを破壊してから、こんな歴史的価値のあるものを破壊するのはどうかとは思うけど、その二つの門をぶち壊したのなら、この二箇所から帝都に入れる、かも。」

 ジェーンがパンと手を叩いた。

「なるほど!それでは、ここから帝都に入れますね。外壁を超えてしまえば、あとは帝都内にある自警システムですが、これらは間隔があいています。エリアを特定すれば、避けるように軍を進める事は、可能でしょう。」

『しかし、中にはいくら人数が減ってるからとは言え、新光騎士団がウヨウヨいるんだ。LOZはどこに陣取る?』

 ジェーンは答えた。

「敵はやはり、城を本陣とするでしょう。籠城となれば、ネビリスにたどり着くのに時間が掛かります。ある程度、敵を城から分散させる必要がありますが……。」

 と、そこでジェーンが黙ってしまった。何だか難しい表情をしている。ある考えが浮かんだので、私はそれを言った。

「ならば、敵を分散させる為に、私とヴァルガで東と西に分かれて帝都に侵入をし、時計回りに扇動する。ヴァルガは北へ、私は南へ。南には収容施設もあるし、そこが狙われているとなれば、城から人員が割かれるだろう。城の前が手薄になったら、LOZの先鋒隊は噴水広場に陣を取り、城と交戦する。ジェーン達技術組は、本陣として、ルミネラ平原に待機して、通信で指示と現状報告をすることとしたら、LOZとしては落ち着くんじゃないかな。」

「それはなりません。」

「え?」と、鼻から抜けたような変な声が出ちゃった。だって結構、いい案だと思ってたからだ。ジェーンの方を見ると、彼は真剣な表情だった。どうしてダメなのか、彼の話を待っていると、画面のスコピオ博士がジェーンに言った。

『で、でもジェーン様。今のキルディアの案、俺もいいと思いました。敵を拡散した後に、噴水広場の辺りにLOZ先鋒隊を落ち着かせれば、城と交戦も可能だし……。』

 ジェーンは何も言わずに、俯いている。明らかに様子がおかしい。何か隠してる?それとも、何か、気になる事情でもあるのか?私はジェーンの腕をさすりながら、彼に聞いた。

「それじゃあダメなの?どうして?」

「……絶対になりません。それでは、あなたが危険です。」

 ああ、それを気にしていたんだ。ジェーンは私を心配していたのか。

「ジェーン、私は騎士だ。」

「もう騎士ではありません。ただの、研究所の所長でしょう?」

「ジェーン……。」

 彼は腕を組んで、不安そうにしている。しかし、私は、戦いの時には前に出なければならない。どう説得しようか、考えているとジェーンが言った。

「いつかは、この結論になると、私は理解していました。このタイミングで、今ある技術だけで、帝都を侵略することの難しさ。いずれ、キルディアやヴァルガが囮となる未来が、見えていました。ですから、私は最初から反対したのです。時間が欲しい、安全な侵略の為にしっかりと準備したかったのです。帝都攻略の兵器の製作が遅れたのは、時空間歪曲機にかまけていたから……時空間歪曲機は、キルディアとの未来を、握っています。ですから私は、そちらに時間をかけてしまっていた。」

「……。」

 ジェーンが辛そうな顔をしている。

「なのに、キルディアが囮になるならば、危険な状態のまま侵攻するなら、どうして私は頑張ってきたのです?私は、ミスを犯しました。優先すべきは、兵器の製作の方でした。自警システムを破壊するものだって、スコピオに先を越されて……時空間歪曲機においても、チェイスに助けを借りなきゃいけないなんて。全て、全ての点において、私は、今の私を、納得出来ません。」

「ジェ、ジェーン、大丈夫だって。」私は彼の腕を摩った。「それほど時空間歪曲機は大変な技術なんでしょ?ね?博士?『ああ、そうとも!』だから、時間がかかるのは仕方ないし、ジェーンの予定では、まだ攻める時期じゃかったんだから、今の状態で戦わなきゃいけないのは、仕方ないよ。」

「しかし!」彼が私の腕を掴んだ。「仕方ない、で、あなたを危険な目に、遭わせられないのです!キルディアは、リーダーです。リーダーは、前線に出るべきではありません!私の隣で、指示をするべきです!」

「そ、それは出来ない。そうなれば、他の人はもっと大変になるよ。ジェーンが不安に思う気持ちもわかる。でも私にはこの光の大剣もあるし、皆もいるし、絶対に大丈夫だ。それに私はきっと、大きな戦力だと思う。だから、どんな作戦であろうと、前線を抜ける訳にはいかない。」

『ああ、そうとも。キルディアが前に出てくれないと、きっとLOZの兵はどう思うだろうか。帝都の侵略は難しいと思ってしまうんじゃないのか……ご、ごめんなさい!』

 スコピオ博士が謝り始めたので、どう言うことなんだとジェーンを見ると、彼が博士を睨み付けていた。ちょっとちょっと、落ち着こうよ。私はジェーンの腕をしっかりと掴んだ。

「ジェーン、大丈夫だって!必ず戻ってくるからね?それに今回、相手の総大将はネビリス皇帝だ。彼はきっと戦いが始まっても、逃げないで城内で戦うだろう。チェイスを助ける為にも、囚われた皆を助ける為にも、ルミネラ皇帝のことでも、私は彼と戦わなければならない。これが終わったらきっと、ちょっと落ち着くだろうから、ジェーン、そうしたら一緒に、どこまでも一緒に過ごそう。」

 ジェーンは私をじっと見つめた。そしてゆっくりと一回頷いて、消え入りそうな声で答えた。

「……分かりました。あなたを信じます。……その作戦で行きましょう。」

『ようし!』博士の景気の良い声が響いた。『それじゃあ俺は、LOZのポータルに報告しとくよ!それから大急ぎで、あれのパーツごとに制作して、ユークですぐに組み立てられるようにしとくぜ!またな!元気出せよ、キルディア!』

「あ、ありがとうございます、博士……また。」

 別に私は元気なのである。隣の男にこそ、元気がないのだ。ジェーンは無言で、ウォッフォンに何かをタイピングしている。私は彼に優しく話しかけた。

「私の為に、時空間歪曲機を頑張ってくれていたんだね、ありがとう。」

「ええ、それは事実ですが、それも泡となりそうです。あなたが戦死するなら。」

「だーもう!帰ってくるって!」

 私は大股でキッチンに向かって、コンロのスイッチを押した。固まっていく卵を見ながら、ジェーンの気持ちを考えた。もし逆の立場だったなら、私だって、彼と同じことを言っただろう。

 私は、彼を幸せにしたい。今すぐには恋人になれなくても、幸せにはしたいと思っている。だから何が何でも、帰らなくてはいけない。迫る帝都の地を前に、良くて相殺だと思っていた自分を叱咤しなければならない。

「よし……!」

 私はヘラで、卵をひっくり返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...