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誰も止められない愛情狂編
214 彼に足りないもの
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翌朝、私はウォッフォンのアラームで目を覚ました。アラームを止めると、朝の五時五十分だった。今日は仕事がある日だけど、いつもなら七時で普通に間に合う。ウォッフォンが壊れたのか?そう思いながら身体を起こすと、隣で寝ていたはずのジェーンが居なかった。
「あれ?」
ぼんやりとした意識のまま、ボサボサの髪の毛を手櫛で整えた後に、軽く結んだ。何この状況。ジェーンはどこ言ったの?私はベッドから降りて、リビングに行った。
するとフワッといい匂いが漂って来た。卵を焼いた匂いだった。キッチンを覗くと、ジェーンがパジャマの上に、桃色のエプロンを着けていて、フライパンから卵焼きっぽいものを皿に乗せているところだった。
「お、おはようジェーン。」
彼が振り返った。その時に、オーブントースターがチンと音を立てた。
「おはようございます、キルディア。朝食を作りました。お口に合うかどうか。」
「あ、ありがとう。」
「さあさあ、座って。一緒に食べましょう。」
ジェーンが二つの大きな皿を持って来た、一つには焼いたトーストが乗っかっていて、もう一つには、歪な形をした、黄と黒のマーブル模様の卵焼きだった。頑張って作ったのだな、と私は少し笑った。
ジェーンが席に座ったので、テーブルの上に置いてあるグラスに、オレンジジュースを注いで、二人で食べ始めた。寝起き直後だから、まだお腹がスタンバイに入っていないけど、頑張って食べることにした。
「どうですか?オムレツ。」
「うん、美味しい、とても美味しいよ。」
オムレツだったのか。それにしては卵がぐにゃりとひっくり返っているので、卵焼きかと思っていた。味は結構甘かったけど、トーストに合うので美味しい。彼の手料理は中々食べられないし、こうして誰かと、大きなお皿を分け合いながらも食べるのは、何だかいい感じだ。
「ジェーン、何時に起きたの?なんか私のウォッフォン壊れてるみたいで、一時間も早く起きちゃったよ。」
「ウォッフォンが壊れることなど珍しいと思いますが、後で私が点検してみましょうか。私は五時半に起きました。起きてから、あなたのウォッフォンのアラームを早めました。」
「え!?」
ぶっとトーストをちょっと吹いてしまった。だって、お前のせいなのか!
ジェーンはおやおや、と言った様子で、テーブルの上に落ちたトーストの破片を摘み、何故か私の口に戻した。いやいやいや……食べるけどさ。
「なんでよ。当たり前だけど、私が起きたのはアラームが鳴ったからなんだよ?なんで早く起こすの?」
「だって、」と彼が不満げな顔をした。「朝だって、ゆっくりと過ごしたいでしょう?これから私たちは、秘密の関係なのですから。」
「何その、秘密の関係って……。」
「これからの私達は、雲と、雷です。あなたがそう仰ったのでしょう?ふふっ!」
この野郎……!できれば、いや、絶対にそのチーム名のことを、誰にも話して欲しくない。私の発言とはいえ、ジェーンがあんなにも気にいるとは思っていなかったし、あんなにセクシャルな展開になるとも思っていなかった。
ジェーンは冷蔵庫からサワークリームを取り出して来て、席に座ると、スプーンで一気に掬って、残りの卵とトーストにそれを乗せた。
「ジェーン、それ好きだよね。いつも朝、何かにかけて食べてる。」
「ええ、私の妹も好きですよ。シードロヴァ家の定番調味料です。あなたはどの調味料を一番好みますか?」
「うーん、ホワイトペッパー。」
「ああ、私もそれは好きです。」
私はサワークリームの卵焼きを何口か食べたところで、お腹がいっぱいになった。ジェーンも残りを食べて、お皿は空っぽになった。いい、朝食だった。
「美味しかった、ごちそうさまです、ジェーン。」
「いえいえ……これからは毎朝、私が朝食を用意します。」
「え?いいの?」
「あなたは夕食を用意してください。出来ればで、構いません。」
「分かった。でも、スコピオ博士とビデオ会議の日の夜は、ちょっと、パインソテーでも買うことになるけど。」
「ああ、そうですね、その日はお察しします。」
微笑んでいるジェーンと目が合った。ずっと目を合わしていると、徐々に、彼の微笑みが消えていった。我々の間に、妙な空気が芽生え始めている。どきどきした。
「キルディア、おはようのキスをしましょう?」
「一回だけね。」
軽くキスをした。それだけで終わろうとしたら、頭を掴まれて、また一回、重ねられた。不意の出来事に、胸が高鳴った。それから、ゆっくりと離れると、甘い空気が流れた。
「ジェーン、あのさ。」
「はい?」
至近距離で、彼と目が合っている。
「昨日のことなんだけど、ほら、トイレでの出来事。」
ジェーンが立ち上がり、私の手を引いて、ソファに移動して、二人でそこに座った。しかも彼に腕を引かれて、ジェーンが座っているその膝の上に、私は座ることになった。彼が痛くならないか気になったが、座ってみると、お尻に彼の細い太腿の肉が当たった。ちょっと、気分が高揚するから、これはまずい。
「ちょっと、これじゃあ気になると言うか、座り辛いよ。」
「では、私の肩に腕を回してください。それならいいでしょう。」
「あ、ああ。」
やってみると確かに座り易くはなったが、ジェーンとかなり顔が近くなった。彼が私のお腹を抱いている。困ったなぁ、これ大丈夫?
「それで?昨日の話でしたね。私はもう気にしておりません。あなたが一緒に居てくれるから、私は屈強な人間であるかのような気持ちでいられます。しかしだからと言って、頼りにしているばかりではありません。もしあなたが、今後弱体化しても、その場合は今度は私が、あなたのことを守ります。男らしいでしょう?」
「う、う、うん。そりゃ有り難いです。どうも……」どこを見てもジェーンと目が合う。やっぱ近いな。「あと、さっきの話だけど。一緒にいる時は守れるけど、常に一緒にいられる訳でもない。だから、一発でさ、私のナイトアームが緊急信号を受信出来るような、キーホルダーみたいなボタンを作ったらどうかな。そしたらすぐにジェーンの異常に気付ける。」
「キルディア……。」
「昨日、改めて、ジェーンがどれだけ危険な目に遭いやすいかってのを、知った。だから、そう言うツールは必要だと思ったんだ。時空間歪曲機で忙しかったら、そう言う感じのを何処かで売ってないか、調べる。」
ジェーンがギュッと抱きしめてきて、私の首元に顔を埋めた。私もよしよしと、頭を撫でた。でかい頭だ。
「その程度の仕組みなら、すぐに作成出来ます。ああ、もっと撫でて下さい。撫でられるのは心地いいです。それに、あなたはとても優しい。私の騎士になって頂けるのですね。」
「う、うん。みんなの騎士「私の騎士です。ふふっ。」
「そうだね、はは。」
何だかここまでくると、やっぱり、やっぱりだけど、帰って欲しくない。ずっとここに居て欲しい。ずっと、いつまでもずっと守るから、そばにいて欲しい。
「ジェーン、やはり、過去の世界には帰るの?」
「……はい。私が帰らなければ、解決しない問題があるのです。」
「そっか……。」
今度は私が力強く抱きしめた。ジェーンは首にキスしてきた。ちょっとそこまでは、やめて欲しかった。メーターが上がってしまうので。
ジェーンは帰ってしまうんだ。分かってたけどさ。帰って、やらなきゃいけないことがあるって言ってるしなぁ。それをやる為だけに帰るのかな?それが終わったら、こっち来れる?お?
私は閃いた。
「ねえねえジェーン、過去の世界でその、やるべきことをやったら、もう一度時空間歪曲機を使用して、この時代に来るのはどうだろうか?身体に負担がかかるとか、そう言うのだったら、やめた方がいいけど。」
「それも思案しました。計算上では三回以内なら身体に影響はありませんが、それもギリギリの回数です。私の命の保証はありません。更にですが、実は……あの機械、決定的な不足があります。時代の指定が出来ないのです。」
「え!?そうなの?」
「ええ。私がこの時代に辿り着いたのは、奇跡でした。そしてこの時代から帰るにしても同じことでしたが、今の私の技術、それは、この時代の魔工学の技術のことですが、それを使用して、時代の指定をするシステムを改善しました。計算上は改善出来ます、設計の段階で、どうにか活かしたい。」
「じゃあそれで、時代、って言うか、何年の何月って指定して、飛べるようになったの?」
ジェーンがため息をついて、一回私の首にキスをした。
「時空間歪曲機に新たに追加する、私の考えた時代の指定をするシステムは、何年単位、日にち単位、そこまでは不可能なのです。ですから一度過去の世界に帰った後で、また未来に戻ろうとしても、あなたが生きていられる数十年間の間に、飛べることは、確率的に……ほぼ不可能です。」
ああ!なんてことだ……目が熱くなった。切ないため息をつくジェーンの頭を掴んで、彼の唇にキスをした。これがもう味わえなくなるのか。他の誰かでは、代用出来ないのに、私は本当に、彼と永遠に別れるのか。ああ!
「そうか、」私は何度も頷いた。「私のことばかり考えられない。ジェーンは、過去の世界に帰るとしても、望む瞬間に帰れる確率が低いから。それでも、帰らないといけないことがあるなら、私はもう、止めないよ。」
「時を軽々しく飛び越えた、この罰として、時に挟まれることを私は受け止めることになるでしょう。私が居たあの時代の、どの瞬間でもいいから飛ぶことが出来れば、私の計画は達成されます。詳しくは、言えませんが。」
「うん、うん。応援するよ。」
その時、また別の案が浮かんだ。私はそれを迷わずにジェーンに聞いた。
「そうだ!じゃあさ、更に一回、この時代よりも未来に飛んで、そこでの魔工学の技術を吸収してから、ジェーンの時代に飛んで、それから帰ってくるのはどうだろうか?」
「そうすると、移動回数が限度を超え、私の身体が壊れます。先ほども話した通り、半々の確率に賭けて、三回を限度としました。安全が保障されているのは二回です。ここに来たことで一回、私はあと、一回しか飛べない。」
「安全なのが一番だ。だったら帰るしかないものね。」
「更に、時代を指定するにあたり、タイムスリップをする瞬間と近すぎる時間を指定することはできません。ここから未来へ飛べば、今よりも数百年後に行く可能性が高く、今の生態系、環境から推測すると、世界が存在していない可能性も大いにある。難しいかと。」
「そうか……。」
だめだった。もう諦めるしかない。危険な思いまでして、彼に行き来して欲しくない。だけど、本当に、諦めるしかないのかな。葛藤してしまう。
「実はあと一つ、時空間歪曲機に必要なものがあります。」
「え?」
何だろうか。すると、ジェーンが少し笑った。
「私にもっと、魔工学の知識が必要です。私にもっと、思考出来る力があれば、新たな技術だって、思い付いたかもしれない。」
「ジェーンは十分に凄いよ、ラブ博士の技術だって、タージュ博士の技術だって、全て理解した上で存在しているのが、ジェーンの技術だって、ラブ博士が言ってた。ジェーンが出来ないことは、この帝国の皆が、この国の歴史が、出来なかったことだ。」
そうなのだ。ジェーン程の天才なんて、この歴史上存在したことがない。閃く力か……もしや私の方がアイデア出しやすいとか、そんなことはないよね。
「あれ?」
ぼんやりとした意識のまま、ボサボサの髪の毛を手櫛で整えた後に、軽く結んだ。何この状況。ジェーンはどこ言ったの?私はベッドから降りて、リビングに行った。
するとフワッといい匂いが漂って来た。卵を焼いた匂いだった。キッチンを覗くと、ジェーンがパジャマの上に、桃色のエプロンを着けていて、フライパンから卵焼きっぽいものを皿に乗せているところだった。
「お、おはようジェーン。」
彼が振り返った。その時に、オーブントースターがチンと音を立てた。
「おはようございます、キルディア。朝食を作りました。お口に合うかどうか。」
「あ、ありがとう。」
「さあさあ、座って。一緒に食べましょう。」
ジェーンが二つの大きな皿を持って来た、一つには焼いたトーストが乗っかっていて、もう一つには、歪な形をした、黄と黒のマーブル模様の卵焼きだった。頑張って作ったのだな、と私は少し笑った。
ジェーンが席に座ったので、テーブルの上に置いてあるグラスに、オレンジジュースを注いで、二人で食べ始めた。寝起き直後だから、まだお腹がスタンバイに入っていないけど、頑張って食べることにした。
「どうですか?オムレツ。」
「うん、美味しい、とても美味しいよ。」
オムレツだったのか。それにしては卵がぐにゃりとひっくり返っているので、卵焼きかと思っていた。味は結構甘かったけど、トーストに合うので美味しい。彼の手料理は中々食べられないし、こうして誰かと、大きなお皿を分け合いながらも食べるのは、何だかいい感じだ。
「ジェーン、何時に起きたの?なんか私のウォッフォン壊れてるみたいで、一時間も早く起きちゃったよ。」
「ウォッフォンが壊れることなど珍しいと思いますが、後で私が点検してみましょうか。私は五時半に起きました。起きてから、あなたのウォッフォンのアラームを早めました。」
「え!?」
ぶっとトーストをちょっと吹いてしまった。だって、お前のせいなのか!
ジェーンはおやおや、と言った様子で、テーブルの上に落ちたトーストの破片を摘み、何故か私の口に戻した。いやいやいや……食べるけどさ。
「なんでよ。当たり前だけど、私が起きたのはアラームが鳴ったからなんだよ?なんで早く起こすの?」
「だって、」と彼が不満げな顔をした。「朝だって、ゆっくりと過ごしたいでしょう?これから私たちは、秘密の関係なのですから。」
「何その、秘密の関係って……。」
「これからの私達は、雲と、雷です。あなたがそう仰ったのでしょう?ふふっ!」
この野郎……!できれば、いや、絶対にそのチーム名のことを、誰にも話して欲しくない。私の発言とはいえ、ジェーンがあんなにも気にいるとは思っていなかったし、あんなにセクシャルな展開になるとも思っていなかった。
ジェーンは冷蔵庫からサワークリームを取り出して来て、席に座ると、スプーンで一気に掬って、残りの卵とトーストにそれを乗せた。
「ジェーン、それ好きだよね。いつも朝、何かにかけて食べてる。」
「ええ、私の妹も好きですよ。シードロヴァ家の定番調味料です。あなたはどの調味料を一番好みますか?」
「うーん、ホワイトペッパー。」
「ああ、私もそれは好きです。」
私はサワークリームの卵焼きを何口か食べたところで、お腹がいっぱいになった。ジェーンも残りを食べて、お皿は空っぽになった。いい、朝食だった。
「美味しかった、ごちそうさまです、ジェーン。」
「いえいえ……これからは毎朝、私が朝食を用意します。」
「え?いいの?」
「あなたは夕食を用意してください。出来ればで、構いません。」
「分かった。でも、スコピオ博士とビデオ会議の日の夜は、ちょっと、パインソテーでも買うことになるけど。」
「ああ、そうですね、その日はお察しします。」
微笑んでいるジェーンと目が合った。ずっと目を合わしていると、徐々に、彼の微笑みが消えていった。我々の間に、妙な空気が芽生え始めている。どきどきした。
「キルディア、おはようのキスをしましょう?」
「一回だけね。」
軽くキスをした。それだけで終わろうとしたら、頭を掴まれて、また一回、重ねられた。不意の出来事に、胸が高鳴った。それから、ゆっくりと離れると、甘い空気が流れた。
「ジェーン、あのさ。」
「はい?」
至近距離で、彼と目が合っている。
「昨日のことなんだけど、ほら、トイレでの出来事。」
ジェーンが立ち上がり、私の手を引いて、ソファに移動して、二人でそこに座った。しかも彼に腕を引かれて、ジェーンが座っているその膝の上に、私は座ることになった。彼が痛くならないか気になったが、座ってみると、お尻に彼の細い太腿の肉が当たった。ちょっと、気分が高揚するから、これはまずい。
「ちょっと、これじゃあ気になると言うか、座り辛いよ。」
「では、私の肩に腕を回してください。それならいいでしょう。」
「あ、ああ。」
やってみると確かに座り易くはなったが、ジェーンとかなり顔が近くなった。彼が私のお腹を抱いている。困ったなぁ、これ大丈夫?
「それで?昨日の話でしたね。私はもう気にしておりません。あなたが一緒に居てくれるから、私は屈強な人間であるかのような気持ちでいられます。しかしだからと言って、頼りにしているばかりではありません。もしあなたが、今後弱体化しても、その場合は今度は私が、あなたのことを守ります。男らしいでしょう?」
「う、う、うん。そりゃ有り難いです。どうも……」どこを見てもジェーンと目が合う。やっぱ近いな。「あと、さっきの話だけど。一緒にいる時は守れるけど、常に一緒にいられる訳でもない。だから、一発でさ、私のナイトアームが緊急信号を受信出来るような、キーホルダーみたいなボタンを作ったらどうかな。そしたらすぐにジェーンの異常に気付ける。」
「キルディア……。」
「昨日、改めて、ジェーンがどれだけ危険な目に遭いやすいかってのを、知った。だから、そう言うツールは必要だと思ったんだ。時空間歪曲機で忙しかったら、そう言う感じのを何処かで売ってないか、調べる。」
ジェーンがギュッと抱きしめてきて、私の首元に顔を埋めた。私もよしよしと、頭を撫でた。でかい頭だ。
「その程度の仕組みなら、すぐに作成出来ます。ああ、もっと撫でて下さい。撫でられるのは心地いいです。それに、あなたはとても優しい。私の騎士になって頂けるのですね。」
「う、うん。みんなの騎士「私の騎士です。ふふっ。」
「そうだね、はは。」
何だかここまでくると、やっぱり、やっぱりだけど、帰って欲しくない。ずっとここに居て欲しい。ずっと、いつまでもずっと守るから、そばにいて欲しい。
「ジェーン、やはり、過去の世界には帰るの?」
「……はい。私が帰らなければ、解決しない問題があるのです。」
「そっか……。」
今度は私が力強く抱きしめた。ジェーンは首にキスしてきた。ちょっとそこまでは、やめて欲しかった。メーターが上がってしまうので。
ジェーンは帰ってしまうんだ。分かってたけどさ。帰って、やらなきゃいけないことがあるって言ってるしなぁ。それをやる為だけに帰るのかな?それが終わったら、こっち来れる?お?
私は閃いた。
「ねえねえジェーン、過去の世界でその、やるべきことをやったら、もう一度時空間歪曲機を使用して、この時代に来るのはどうだろうか?身体に負担がかかるとか、そう言うのだったら、やめた方がいいけど。」
「それも思案しました。計算上では三回以内なら身体に影響はありませんが、それもギリギリの回数です。私の命の保証はありません。更にですが、実は……あの機械、決定的な不足があります。時代の指定が出来ないのです。」
「え!?そうなの?」
「ええ。私がこの時代に辿り着いたのは、奇跡でした。そしてこの時代から帰るにしても同じことでしたが、今の私の技術、それは、この時代の魔工学の技術のことですが、それを使用して、時代の指定をするシステムを改善しました。計算上は改善出来ます、設計の段階で、どうにか活かしたい。」
「じゃあそれで、時代、って言うか、何年の何月って指定して、飛べるようになったの?」
ジェーンがため息をついて、一回私の首にキスをした。
「時空間歪曲機に新たに追加する、私の考えた時代の指定をするシステムは、何年単位、日にち単位、そこまでは不可能なのです。ですから一度過去の世界に帰った後で、また未来に戻ろうとしても、あなたが生きていられる数十年間の間に、飛べることは、確率的に……ほぼ不可能です。」
ああ!なんてことだ……目が熱くなった。切ないため息をつくジェーンの頭を掴んで、彼の唇にキスをした。これがもう味わえなくなるのか。他の誰かでは、代用出来ないのに、私は本当に、彼と永遠に別れるのか。ああ!
「そうか、」私は何度も頷いた。「私のことばかり考えられない。ジェーンは、過去の世界に帰るとしても、望む瞬間に帰れる確率が低いから。それでも、帰らないといけないことがあるなら、私はもう、止めないよ。」
「時を軽々しく飛び越えた、この罰として、時に挟まれることを私は受け止めることになるでしょう。私が居たあの時代の、どの瞬間でもいいから飛ぶことが出来れば、私の計画は達成されます。詳しくは、言えませんが。」
「うん、うん。応援するよ。」
その時、また別の案が浮かんだ。私はそれを迷わずにジェーンに聞いた。
「そうだ!じゃあさ、更に一回、この時代よりも未来に飛んで、そこでの魔工学の技術を吸収してから、ジェーンの時代に飛んで、それから帰ってくるのはどうだろうか?」
「そうすると、移動回数が限度を超え、私の身体が壊れます。先ほども話した通り、半々の確率に賭けて、三回を限度としました。安全が保障されているのは二回です。ここに来たことで一回、私はあと、一回しか飛べない。」
「安全なのが一番だ。だったら帰るしかないものね。」
「更に、時代を指定するにあたり、タイムスリップをする瞬間と近すぎる時間を指定することはできません。ここから未来へ飛べば、今よりも数百年後に行く可能性が高く、今の生態系、環境から推測すると、世界が存在していない可能性も大いにある。難しいかと。」
「そうか……。」
だめだった。もう諦めるしかない。危険な思いまでして、彼に行き来して欲しくない。だけど、本当に、諦めるしかないのかな。葛藤してしまう。
「実はあと一つ、時空間歪曲機に必要なものがあります。」
「え?」
何だろうか。すると、ジェーンが少し笑った。
「私にもっと、魔工学の知識が必要です。私にもっと、思考出来る力があれば、新たな技術だって、思い付いたかもしれない。」
「ジェーンは十分に凄いよ、ラブ博士の技術だって、タージュ博士の技術だって、全て理解した上で存在しているのが、ジェーンの技術だって、ラブ博士が言ってた。ジェーンが出来ないことは、この帝国の皆が、この国の歴史が、出来なかったことだ。」
そうなのだ。ジェーン程の天才なんて、この歴史上存在したことがない。閃く力か……もしや私の方がアイデア出しやすいとか、そんなことはないよね。
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