LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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誰も止められない愛情狂編

212 落ち着かない夜

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 帰宅した私は、早速お風呂に入った。さっきはお化け屋敷で取り乱してしまった。でもあの遊園地も、回転寿司も、楽しかった。お寿司屋さんでの出来事は、全く危険だったけど……。ジェーンが私と一緒にいることで、安心してくれるなら、騎士として頑張って来た甲斐があった。

「まあ、もう騎士じゃ無いけどね。」

 洗面所の鏡に映る、自分に言った。ぼろぼろくまちゃんの身体を丁寧にバスタオルで拭いて、部屋着になって洗面所から出ると、目の前にはグランドピアノがあった。これを見る度に、そうだった、私の部屋は無かったんだと思い出す。

 本格的に、一緒に住んでるみたいだ。もうルームシェアじゃない。寝室のクローゼットには、ジェーンの服と私の服が、半々で置いてある。それだって妙に生々しい。

 ジェーンはソファに座り、本を読んでいた。ちょっと覗くと、魔工学系だった。記号の羅列で、訳が分からなかった。

「おや、上がりましたか。それでは次は、私が。」

 と、ジェーンが立ち上がり、私の目の前でネクタイを緩める仕草をした。

「おや、見ていますね、どうしました?」

「……男っぽいなあと思って。」

「ふふ、お預けです。」

 そして、お風呂に向かっていった。何がお預けだ、別に求めてないもん。気分を逸らす為に、テーブルに彼の読んでいた本が置いてあるのを見た私は、ジェーンが洗面所に入ったのを確認してから、それを手に取って開いてみたが、一秒経たずに閉じて、元通りの場所に置いた。

 喉が渇いて、冷蔵庫からお茶を取り出し、グラスに注いでゴクゴク飲んだ。一気飲みしてしまったので、もう一杯注いで、それを持ってソファに戻った。テーブルにグラスを置き、ウォッフォンを開いた。リンからメールが来ていた。

『仕方ないねえ~!じゃあこのサイトを絶対に見てくださいね!r.l.l』

 その後には、URLが添付されている。嫌な予感はしたが、正直この後どうすればいいのか分からなかったので、ジェーンがまだお風呂から帰って来ていないことを確認してから、早速クリックした。サイトが表示された。

『飴と鞭と蜜 ドMナビ』

「何それ、どういう……?」

 私は指をスライドさせた。見るからに怪しいそのサイトは、黒の背景に赤い文字という、怪しすぎるカラーリングだった。帝都にある、SMクラブ(一度騎士の捜査で赴いたことがある)の店内に酷似した雰囲気だった。

 『縛り』という項目があったのでクリックした。すると画像が色々と表示された。それは春画……のリアル人間バージョンだった。しかも結構キツイ、春画だった。何故か男性が、縄で縛られている。これは事件現場だろうか。私は口を開けたまま、説明文を読んだ。

『責められるのが好きな、あなたの彼氏は、きっとこういうことをされると喜ぶ。彼らにとって、動きを封じられること、その姿を見られることは、快感なのです。』

「ええ……?」

『さらに、彼らをもっと快楽に導く方法、それはこちら。』

『こちら』が光ってたので、クリックすると、見たことない、例えば、ライオンのオスメスが交尾をしている写真の人間版だが、オスとメスの位置が逆転してる画像だった。私はそれを、そっと閉じて、リンに返事した。

『ちょっとさあ~~!何見せてくれてんの!リン、普段からこんなサイトばっかり見てんの!?どう利用すればいいの?ジェーンを同じ目に遭わせられないよ……奥さんだっているのに。k.g.k』

 すぐに返事が来た。

『え?違った?せっかくキリーの為に急いで、ソフトな内容で、サイト作ってあげたのに!』

 お前が作ったんかい……すごいな。文は続く。

『じゃあ検索して、適当に見つけたサイトをつけておくね。いいかいキリー、奥さんはこの世界には居ないの!誰もが認める相思相愛なんだから、あなたも覚悟を決めなさい!大体ジェーンは、今日こういうことまで求めてると思うよ?彼を幸せにしてあげて。お願い。デートは明日の朝まで続いているんだよ。 r.l.l』

 そうなのだろうか、確かにデートはしたが、まだ続いてるの?しかも込み入ったスキンシップまで求めてるの?そうは言われても、この春画のようにはちょっと、難しい。そこで、また添付されていたURLをクリックした。するとこう表示された。

『エムボーイ 快楽の天国』

 うん、さっきと似た春画がたくさん表示された。私はそれをそっと閉じて、リンに返事をした。

『色々とありがとう。でも、私はやはり、結婚しないとそういうことは出来ないよ。(サイトの行為は勿論ね!何あれ。あれって普通じゃないよね?)兎に角、今日は色々あったから、ゆっくり仲良く過ごすよ。あと、ルミネラの騎士、恋愛感で、検索してみて。k.g.k』

 そうなのだ。騎士は、結婚しないとそういうことしないんだけど、それもまた、皆とは違うんだろうなぁ……。ゴクゴクとお茶を飲んだ。

 あろうことか、寿司屋のお手洗いで見てしまった、ジェーンの下着を思い出してしまった。黒い……何故なのか、あれは多分、恥骨にかかる紐の細さからして、Tバック型の下着だった。あああ!私はクソ騎士だ、クソ騎士なんだ……!何度も頭を叩いた。

 するとその時、ジェーンがお風呂から、リビングに戻って来た。パジャマ姿だけど、初めて見る、テロテロした白いシルク素材のパジャマだった。髪の毛も、いつもと違って、ゆわれた後ろ髪を前に垂らしていて、ぬけ感があって、セクシーだった。これはまずい、私はばっと顔を背けて、呟いた。

「……色々な角度から攻めるね。」

「ええ、」ジェーンがソファに座ってきた。「私もあなたと同じです。強い部分と、受け身でただ美しい部分があります。そのどちらも見ていただく必要がある。さあ、どちらから味わいたいですか?」

「い、いやいやいや……。」

 隣に美人が座っている。今でさえ、見る度に息を呑むような美しさだ。……話題を変えよう。そうだ!話題を変えよう!

「ジェーンはさ「キルディア、今連絡をとっていたのは、誰ですか?」
「え?」

 ああ、私のウォッフォンの画面が開きっぱなしになっていて、ホログラム部分がソファに食い込んでいた。私はそれを消しながら言った。

「リンだよ、色々と、雑談してた。」

 すると私のウォッフォンがピロンと鳴った。リンからのメールだろう。私はそれを無視して、ジェーンを見つめた。彼は毛先の方をタオルで包みながら、言った。

「リンからでは?返信して差し上げては?」

「そ、そうだね、じゃあ返事する。」

 私がウォッフォンを触ろうとすると、ジェーンがいきなり抱き付いてきた。勢いで、ソファに倒れ込んでしまい、彼のタオルが床に落ちた。ジェーン自身も、倒れ込んだことは予想外だったらしく、一瞬目を丸くしていた。

「な、な、な……!?」

「……いえ、そこは放っておいて、私に構うところだと、言おうとしました。だって今日は、私のことだけを考える日でしょう?」

 私の息が荒くなった。

「は、はい、そうですね。その通りです……。」

 するとジェーンが、そのまま私と共にソファに寝転がりながら、ウォッフォンを操作して、照明を絞ったのだ。

 いつの間にか、この部屋には天井のライトの他にも、本棚の下やソファの下から、間接照明が出るようになっていた……いつの間に改造したんだ。

 天井の照明を消して、間接照明だけ点けると、おかげで高級ホテルのような、ラグジュアリーな雰囲気のリビングになった。

「これ、全部ジェーンが変えたの?」

 彼はまだ、ウォッフォンを操作している。

「ええ、これからです。」

「え?」

 すると今度は、どこからともなく、ゆったりとしたホテルのラウンジでかけられているような、音楽が流れてきたのだ。多分だけど、このソファの中からだった。

「この曲は?」

「ラウンジミュージックです。私はよく研究室で、一人で聴いています。いいでしょう?このネットラジオ局。月額五百カペラで聴き放題です。」

「ああ、うん。結構、好きだけど、この雰囲気だと……はは、緊張する。」

 そうなのだ、ちょっとセクシーな雰囲気が増してしまう。よくドラマでラブラブするシーンで流れているような曲だ。だけど月額五百カペラ聴き放題というワードで、私は何とか耐えることが出来た。

 さらにその時だった。リビングの全ての照明が、ピンク色になったのだ。一気にこのリビングが、高級ホテルから如何わしいホテル(それも騎士の仕事の時に赴いた。)へと、様変わりしてしまった。これはまずい、これはまずい!明らかに彼は本気のようだ。

 ジェーンがウォッフォンの操作を終えて、私に眼鏡を渡してきた。

「これ、テーブルに置いてください。」

「は、はい。はいはい……。」

 眼鏡をテーブルに置く為に手を伸ばすと、横になったまま、後ろからギュッと抱きつかれた。私は硬直した。そしてジェーンは、私の脇腹を優しく撫でた。それから、太もも。

「ちょっと、ちょ、ちょ、」

「ふふ、どうしました?」

 私は眼鏡を置いた。耳元で艶やかな声がする。振り返ったらやばい。そのままの姿勢で、ジェーンに訴えた。

「一回……ルミネラの騎士、恋愛観で、検索してみて。」

「嫌です。」

 ジェーンは私の足に、彼の足を絡めてきた。それから首の後ろに口付けしたのだ。私のメーターが今にも沸点を超えそうだった。思ったよりも、彼は強敵だった。これはまずい。そしてジェーンは言った。

「だって、どうせ、この行為を否定するようなことが、書かれているのでしょう?因みに、どんなことが書かれているのです?」

「……例えば、ルミネラの騎士は古風で、将来を決めた相手のみに告白するとか、そういうことは結婚しない限り、行わない……とか。」

「出ましたね、はあ……私の時代にも、あなたほどの人間はいませんでしたよ。何をどうしたら、古風などと言えますか。だってあなた、さっき私の下着を……ジロジロ見ていましたよ?」

 そんなに長い時間見てたつもりなかったけど、ちょっと恥ずかしくて笑った。ジェーンも笑っているのか、小刻みに震えた。

「そんな見てた?」

「ええ、見て、一瞬固まっておりました。」

「だってさ!」私は上半身を起こした。彼も体を起こして、二人で座った。「あんな、すごい形の下着、初めて見た。士官学校で、ふざけた男が、下着姿でロッカーを走ってたの見たことあるけど、ジェーンのような形じゃなかった。あれが……魅惑的なやつ?」

「あれは、通常の下着です。魅惑的なものは、あれのシースルー版です。所謂、Tバックです。機能性がありますから、好んでいます。」

「てぃ、Tバックなの?む、昔から?」

「ええ、昔からですよ。ふふ、あなた興奮しすぎです。」

 やっぱり、Tバックだったんだ……こんなことある?セクシャルモンスターじゃないのこの人。じゃあ後ろはお尻丸見えなんだ。ばか!キルディアの馬鹿!この状況を脱する方法を考えなくては!これは盤の違う、将棋なのだ。彼と対戦している状況なのだ。

「さて、キルディア、こちらに来てください。ハグしましょう。」

 ジェーンが両手を広げている。あれに飛び込んだら、キスになる気がする。そうそれは、罠なのだ。キスになったら、私だって歯止めが効かないと思う。私は健康だ。しかも思春期を抑圧されてきた。だからきっと爆発するに違いない。私は、首を振った。

「ジェーン、でも、でも……私は騎士じゃないけど、価値観をまだ捨てられなくて。」

「ええ、ええ。重々承知しております。最後まで致しません。抱きしめて、キスして、終わりにしましょう?」

 私はジェーン歴が長い。だから分かる。その真顔は、嘘をついた時の真顔だった。私がまた首を振ると、ジェーンが手を下ろして、しゅんとしてしまった。

「そうですか……」まつげが長い、本当に幻獣みたいだ。「あなたと、今夜は激しく愛し合いたかった。」

 私は一気に顔が熱くなった。熱い、熱い!手でパタパタ仰いでいると、ジェーンがふふふと笑った。このままではまずい、私は援軍を利用した。

「そ、そうだ!さっき、リンから、そういうことに関するサイトを教えてもらって、実はそれを見たんだ。でも、ちょっと、普通じゃない気がして、ジェーンが怖がるよって、言った。はは。」

「どれ、見せてください。」

 これを見れば、ジェーンはきっと卒倒するに違いない。そしたらこのピンクの照明も、音楽も、静かに消して、眠りたくなるはずだ。私は自分のウォッフォンをつけて、さっきの飴と鞭ナントカという、リンお手製のサイトを見せた。

 ジェーンはテーブルの眼鏡をつけて、のめり込むようにサイトを見ている。さあ、どうなるか。そして春画が出てきた。縛ってるやつ、それからジェーンが『こちら』をクリックすると、男女が逆転してるのも出てきた。

「……この世界には、まだ私の知らない部分が多いようです。それもそうですね、海の生物だって、この時代の全ての科学者、全ての知識をもっても、まだ九パーセントしか、調べられていないのです。我々が知らないこと方が、まだまだ多いのです。」

「そうなんだ……。」

 するとジェーンが、ありえない発言をし始めたのだった。
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