208 / 253
誰も止められない愛情狂編
208 ならばデートだ!
しおりを挟む
定時になってから、私は帰りの支度をしていると、いつも以上にコロンの匂いのするジェーンが、調査部のオフィスにはいってきた。
肌寒い季節には、なってきているが、彼はスリムなラインの白いシャツと、光沢感のある黒いベストのままだった。どうやら彼にとってユークアイランドは全然寒くないらしい。
「キルディア、もう終わりますか?」
「うん。後少し、入力が終わったら、行けるよ。」
前の席にはクラースさんとロケインもいて、二人はニヤニヤしている。そしてクラースさんが私に言った。
「おい、早く切り上げてやれよ。ふっ、今日はデートなんだから。」
「うん……。」
すぐに私の仕事は終わった。クラースさん達にはお先に失礼、お疲れ様、などを言ってから、ジェーンと二人で研究所の外に出た。この季節、十七時でも、この世界ではまだ明るく、遠くの方で微かに夕焼け空が見える程度だった。
「明るいですね、少し、恥ずかしいです。」
何をウブな感じを出しているんだと、少し笑ってしまった。ジェーンの方を見ると、頬が赤かったので、私はどきっとした。そんなに緊張しないでよ、私まで緊張するじゃない。もう既に緊張してるけど。
二人で歩き始めると、ジェーンが私の手を握った。私の左側にいるので、生の手の方を握っている。
「キルディア、私は、あの後よく考えました。あの誓いの言葉、私の望む結果ではありませんでしたが、それでもあなたが私を好いてくれていることには変わりありません。ですから、やはり嬉しい。」
「ジェーン……うん。この世界にいる間は、騎士なりの愛を教えればいいと、リンに言われたし、私もそうする。あまり激しいことはできないけど。」
「それはどうでしょうね。ふふ。私は今のこの瞬間から、情熱的な紳士となりました。」
……この人、本気の様だ。よろしい、ならば私こそ、抗って見せよう。我々が、歩き続けて崖上から、通りの歩道に出た時に、ジェーンが私に言った。
「それに、私はどこにも行きません。ここが私の居場所でしょう?」
「そうです、とも。」その時、通りすがりの住人から会釈を受けた私は、帝都のことを思い出した。「そうそう、帝都のことを皆で話したでしょう?「今日、この夜は、私のことだけを考えてください。帝都のことは後で話しましょう。」
「あ、ああ。分かった。」
何だか長い夜になりそうだ……。それでもこの空の下、ジェーンと一緒に手を繋いで歩く私の胸の中は、今まで心に突っかかっていたものがスッキリした様な、それでいて恥ずかしい様な、変な気分だった。彼の手はいつになく、暖かった。
我々は、ポレポレ通りを歩いていき、途中で曲がった路地に入った。そこに回転寿司屋さんがあった。活きのいいマグロの看板には、お店の名前とユーク港直航便!と書かれていた。新鮮そうだ。
「ここなの?」
「ええ、予約済みです。回転寿司屋ですが、半個室の様で、ブースに流れてくる通常の皿以外にも、専用の機器から個別に注文可能です。」
「あ、ああそうなの……すごいね。初めて来たよ。でもどうして回転寿司?」
「あなたは生魚が好きですし、私は寿司が好きです。それに、クラースの話を聞きました。ケイトとデートした時に盛り上がったそうです。ここでデートをすれば、必ず盛り上がります。」
それは人によるんじゃなかろうか……。苦笑いしていると、店員さんが来て席に案内してくれた。確かに全てのブースには扉があるが、あまり高さのない木製の障子のような扉で、中を見ようと思えば上から覗けるので、普通に見える。
向かい合っての四人がけのテーブル席で、私が奥側の席に座ると、ジェーンも私の隣に座って来た。
「なんでよ。」
「……お隣が良いのです。対面なんて、討論するのでもあるまいし。」
仕方ないので座った。荷物は反対側の席においた。しかし、ここまでくると、じわじわと楽しくなって来た!さて何を取ろうかな、私はジェーンに聞いた。
「何食べたい?」
「そうですね……あ、それを取ってください。」
ジェーンがレーンを指差した。私は皿に乗ったマグロ寿司をとって、テーブルに置き、二人でいただきますをして、一貫づつ分けて食べた。かなりとろける旨さだった。
「うーん!これはこれは、予想以上においしいね、ジェーン!」
「ええ!おいしいですね。しかしマグロは結構大変なのです。高速遊泳種であり、生理的に泳ぎ続けないと死んでしまう。」
「え?どうして?」
「泳ぐことで呼吸をしているからです。止まれば窒息する。あなた、小学院で生物の授業を受けませんでしたか?」
「受けたけど、マグロについては知りませんよ……じゃあ次はサーモン!この子機で頼めば良いのね。」
私が子機を使ってサーモンを探していると、体を密着させて寄り添って来たジェーンが、ポンポンと押してサーモンをすぐに探し当てた。そして二人分頼んだ。
「サーモンと言えば、」なんか始まってしまった……。「一見赤身の魚ですが、実は白身魚です。マグロの持っているミオグロビンではなく、餌として摂取した甲殻類に含まれるアスタキサンチンによるもので、それはビタミンCの六千倍の抗酸化作用があります。抗酸化作用があると……我々人間にとって、どうなりますか?」
「早く来ないかな、サーモン。」
ジェーンがムッとした顔になった。それはちょっと可愛いのでやめてほしい。仕方ないので、私は笑いながら答えた。
「分かったって、ジェーンが話題を色々と考えてるんだもんね、答えますって……抗酸化でしょ?何?健康的になる?」
「ああ惜しい。抗酸化作用ですから、アンチエイジングに効果があります。」
その時に、通常のレーンの上方に設置されたレーンから、サーモン二皿が届いた。私はそれをとって、テーブルに置いた。すぐに食べたが、これもまた美味しかった。私は笑顔で、ジェーンに言った。
「おいしいね!これでアンチエイジングか、何だか得した気分だね!」
「そうですね、ふふ。私の知識で喜んで頂けて良かった。」
不覚なことに、今の言葉には少し、胸がグッと来てしまった……。次だ次!次は何を食べよう、子機を見ているとウナギ蒲焼というものがあったので、私はそれを二人分頼んだ。
「ウナギですか。」
「もしや、ウナギはあまり知らない?」
ジェーンがテーブルに両肘を置いて考えている。それから何か思いついた様で、説明し始めた。
「デンキウナギなら説明できます。彼らの起こす電気は最大860V、1Aです。勿論我々、人間にとっては致死的な数値です。それから、あなたの婚約者のアレックスは、どちらかと言えば、あのお皿の上に乗って、この店内をぐるぐる回る側だと思いますが……痛い。」
私はジェーンの足を踏んだ。
「アレックスは違うの!それにずっとお寿司見てるけど、亀は流れてこないもん。」
「物の例えです。あ、その卵焼きをとってください。」
私は卵焼きをとって、ジェーンに渡した。ジェーンは箸でそれを割り、私にアーンをして来た。
「どうぞ、キルディア。口を開けてください。」
「ええ、ここでそうするの?……わ、分かった。」恥ずかしいけど、意を決してパクッと食べた。美味しかったけど、恥ずかしかった。「うん、おいしい。」
「ふふ、それは良かった。卵ですか、卵。どれを話しましょうか……。」
「もう豆知識はいいってば。さっきから高確率で死が絡んでるしさ、ちょっと食べるのに集中しようよ。」
「ふふっ、そうですね。ああ、イワシです。」
我々はその後も、イワシやブリ、サーモン、アナゴ、サーモン、イカ、イクラ、サーモンとお寿司を食べていった。サーモンが多いのは、私がサーモンが好きだからだ。最後に頼んだのは炙りサーモンだった。
「あなた、サーモン好きですね。今日何回目でしょうか。」
「わかんないわかんない。でも炙りは初めてでしょ。ふふ、いいじゃん!食べようよ!」
しかし、ピンクの肌、美味しそうな物だ。じっと眺めているとジェーンが首を傾げた。
「どうしましたか?」
「いやあ、生の部分と、炙りの部分のコントラストが綺麗だなと思って。」
「芸術的ですね。」と、彼は自分のをパクッと食べた。「この炙りサーモンの様に、生の状態と炙りの状態は両立可能です。感じていると感じていないは両立可能。量子論の重複、物理系は複数の状態で共存し得る。」
「え?」
ジェーンと目が合った。ちょっと何言ってるか、難しかった。私は炙りサーモンを食べた。
「アイリーンさんの様に、話が合う人の方が良かった?」
「いえ、そう言った反応の方がいい。私は何れにせよ、あなたがいいのです。話の続きです。ですからその理論に基づき、私は過去の世界でも、この世界でも……。」
私は驚いて、テーブルを人差し指でトントン突きながら言った。
「両立可能だというの?私でも分かるよ、それは無理!人がここにいるのと、いないのとでは、両立不可だよ。だってもしそうなったら、ベースの物体が同一じゃない。」
「その通りです!あなたは素晴らしい!」
煩いよ……。ジェーンは何故か、満足げにニコニコしている。もうさっぱりわからん。分からんが、分かりやすい人よりかは、ジェーンみたいな複雑怪奇な人の方がいいと思ってしまうんだから、私は末期なのだ。ジェーンは子機でデザートを頼みながら言った。
「ですから思考を変えました。人生は行動と選択によって構成されています。今ここで我々が一緒に、それもデートとして、共に食事が出来ているのは、過去の、全ての選択の結果です。単純で明瞭です。あなたが私を選べば、未来には私がいます。」
「でもさ、ジェーンが過去に、カタリーナさんと結婚する、という選択を取ったから、私は一歩踏み出せない、という選択をしているよ?」
「ぐぬぬ……。」
ああ、面白くなって来た。笑いながらお茶を飲んでいると、今度はジェーンに足を踏まれた。
「痛い!その選択はおかしいでしょ!」
「あなただって、先程、私の足を踏んだくせに!」
「ジェーンは革靴、私はスニーカー、攻撃力のアドバンテージが違うんですけど!」
「ああそうでしたね、それはいいことを聞きました。」
まじでなんなの……いいけどさ。そして何故かこのタイミングで、ジェーンは私の肩に寄りかかって来た。本当に、霧のように掴めない男だ。意味がわからなかった。
「……あなたとの会話は楽しいです。刺激的で、素直になれて、癒される。毎日だって、毎晩だってしたい。」
「ぐぬぬ……わ、私も楽しいよ。とても勉強になるし、会話のテンポも似てる。」
「ふふ、そうですね。よく考えれば、私たちは同じ速度で話しますね。帰ったら、キスしますか?とても長く。」
「保証はしない。」
嫌です、って言っておけば良かった。つい、可能性があるっぽくなってしまった。デザートが到着するとジェーンは上機嫌でそれをパクパク食べて、私も彼をチラチラ見ながらケーキを食べた。デートか、生まれて初めてだった。
肌寒い季節には、なってきているが、彼はスリムなラインの白いシャツと、光沢感のある黒いベストのままだった。どうやら彼にとってユークアイランドは全然寒くないらしい。
「キルディア、もう終わりますか?」
「うん。後少し、入力が終わったら、行けるよ。」
前の席にはクラースさんとロケインもいて、二人はニヤニヤしている。そしてクラースさんが私に言った。
「おい、早く切り上げてやれよ。ふっ、今日はデートなんだから。」
「うん……。」
すぐに私の仕事は終わった。クラースさん達にはお先に失礼、お疲れ様、などを言ってから、ジェーンと二人で研究所の外に出た。この季節、十七時でも、この世界ではまだ明るく、遠くの方で微かに夕焼け空が見える程度だった。
「明るいですね、少し、恥ずかしいです。」
何をウブな感じを出しているんだと、少し笑ってしまった。ジェーンの方を見ると、頬が赤かったので、私はどきっとした。そんなに緊張しないでよ、私まで緊張するじゃない。もう既に緊張してるけど。
二人で歩き始めると、ジェーンが私の手を握った。私の左側にいるので、生の手の方を握っている。
「キルディア、私は、あの後よく考えました。あの誓いの言葉、私の望む結果ではありませんでしたが、それでもあなたが私を好いてくれていることには変わりありません。ですから、やはり嬉しい。」
「ジェーン……うん。この世界にいる間は、騎士なりの愛を教えればいいと、リンに言われたし、私もそうする。あまり激しいことはできないけど。」
「それはどうでしょうね。ふふ。私は今のこの瞬間から、情熱的な紳士となりました。」
……この人、本気の様だ。よろしい、ならば私こそ、抗って見せよう。我々が、歩き続けて崖上から、通りの歩道に出た時に、ジェーンが私に言った。
「それに、私はどこにも行きません。ここが私の居場所でしょう?」
「そうです、とも。」その時、通りすがりの住人から会釈を受けた私は、帝都のことを思い出した。「そうそう、帝都のことを皆で話したでしょう?「今日、この夜は、私のことだけを考えてください。帝都のことは後で話しましょう。」
「あ、ああ。分かった。」
何だか長い夜になりそうだ……。それでもこの空の下、ジェーンと一緒に手を繋いで歩く私の胸の中は、今まで心に突っかかっていたものがスッキリした様な、それでいて恥ずかしい様な、変な気分だった。彼の手はいつになく、暖かった。
我々は、ポレポレ通りを歩いていき、途中で曲がった路地に入った。そこに回転寿司屋さんがあった。活きのいいマグロの看板には、お店の名前とユーク港直航便!と書かれていた。新鮮そうだ。
「ここなの?」
「ええ、予約済みです。回転寿司屋ですが、半個室の様で、ブースに流れてくる通常の皿以外にも、専用の機器から個別に注文可能です。」
「あ、ああそうなの……すごいね。初めて来たよ。でもどうして回転寿司?」
「あなたは生魚が好きですし、私は寿司が好きです。それに、クラースの話を聞きました。ケイトとデートした時に盛り上がったそうです。ここでデートをすれば、必ず盛り上がります。」
それは人によるんじゃなかろうか……。苦笑いしていると、店員さんが来て席に案内してくれた。確かに全てのブースには扉があるが、あまり高さのない木製の障子のような扉で、中を見ようと思えば上から覗けるので、普通に見える。
向かい合っての四人がけのテーブル席で、私が奥側の席に座ると、ジェーンも私の隣に座って来た。
「なんでよ。」
「……お隣が良いのです。対面なんて、討論するのでもあるまいし。」
仕方ないので座った。荷物は反対側の席においた。しかし、ここまでくると、じわじわと楽しくなって来た!さて何を取ろうかな、私はジェーンに聞いた。
「何食べたい?」
「そうですね……あ、それを取ってください。」
ジェーンがレーンを指差した。私は皿に乗ったマグロ寿司をとって、テーブルに置き、二人でいただきますをして、一貫づつ分けて食べた。かなりとろける旨さだった。
「うーん!これはこれは、予想以上においしいね、ジェーン!」
「ええ!おいしいですね。しかしマグロは結構大変なのです。高速遊泳種であり、生理的に泳ぎ続けないと死んでしまう。」
「え?どうして?」
「泳ぐことで呼吸をしているからです。止まれば窒息する。あなた、小学院で生物の授業を受けませんでしたか?」
「受けたけど、マグロについては知りませんよ……じゃあ次はサーモン!この子機で頼めば良いのね。」
私が子機を使ってサーモンを探していると、体を密着させて寄り添って来たジェーンが、ポンポンと押してサーモンをすぐに探し当てた。そして二人分頼んだ。
「サーモンと言えば、」なんか始まってしまった……。「一見赤身の魚ですが、実は白身魚です。マグロの持っているミオグロビンではなく、餌として摂取した甲殻類に含まれるアスタキサンチンによるもので、それはビタミンCの六千倍の抗酸化作用があります。抗酸化作用があると……我々人間にとって、どうなりますか?」
「早く来ないかな、サーモン。」
ジェーンがムッとした顔になった。それはちょっと可愛いのでやめてほしい。仕方ないので、私は笑いながら答えた。
「分かったって、ジェーンが話題を色々と考えてるんだもんね、答えますって……抗酸化でしょ?何?健康的になる?」
「ああ惜しい。抗酸化作用ですから、アンチエイジングに効果があります。」
その時に、通常のレーンの上方に設置されたレーンから、サーモン二皿が届いた。私はそれをとって、テーブルに置いた。すぐに食べたが、これもまた美味しかった。私は笑顔で、ジェーンに言った。
「おいしいね!これでアンチエイジングか、何だか得した気分だね!」
「そうですね、ふふ。私の知識で喜んで頂けて良かった。」
不覚なことに、今の言葉には少し、胸がグッと来てしまった……。次だ次!次は何を食べよう、子機を見ているとウナギ蒲焼というものがあったので、私はそれを二人分頼んだ。
「ウナギですか。」
「もしや、ウナギはあまり知らない?」
ジェーンがテーブルに両肘を置いて考えている。それから何か思いついた様で、説明し始めた。
「デンキウナギなら説明できます。彼らの起こす電気は最大860V、1Aです。勿論我々、人間にとっては致死的な数値です。それから、あなたの婚約者のアレックスは、どちらかと言えば、あのお皿の上に乗って、この店内をぐるぐる回る側だと思いますが……痛い。」
私はジェーンの足を踏んだ。
「アレックスは違うの!それにずっとお寿司見てるけど、亀は流れてこないもん。」
「物の例えです。あ、その卵焼きをとってください。」
私は卵焼きをとって、ジェーンに渡した。ジェーンは箸でそれを割り、私にアーンをして来た。
「どうぞ、キルディア。口を開けてください。」
「ええ、ここでそうするの?……わ、分かった。」恥ずかしいけど、意を決してパクッと食べた。美味しかったけど、恥ずかしかった。「うん、おいしい。」
「ふふ、それは良かった。卵ですか、卵。どれを話しましょうか……。」
「もう豆知識はいいってば。さっきから高確率で死が絡んでるしさ、ちょっと食べるのに集中しようよ。」
「ふふっ、そうですね。ああ、イワシです。」
我々はその後も、イワシやブリ、サーモン、アナゴ、サーモン、イカ、イクラ、サーモンとお寿司を食べていった。サーモンが多いのは、私がサーモンが好きだからだ。最後に頼んだのは炙りサーモンだった。
「あなた、サーモン好きですね。今日何回目でしょうか。」
「わかんないわかんない。でも炙りは初めてでしょ。ふふ、いいじゃん!食べようよ!」
しかし、ピンクの肌、美味しそうな物だ。じっと眺めているとジェーンが首を傾げた。
「どうしましたか?」
「いやあ、生の部分と、炙りの部分のコントラストが綺麗だなと思って。」
「芸術的ですね。」と、彼は自分のをパクッと食べた。「この炙りサーモンの様に、生の状態と炙りの状態は両立可能です。感じていると感じていないは両立可能。量子論の重複、物理系は複数の状態で共存し得る。」
「え?」
ジェーンと目が合った。ちょっと何言ってるか、難しかった。私は炙りサーモンを食べた。
「アイリーンさんの様に、話が合う人の方が良かった?」
「いえ、そう言った反応の方がいい。私は何れにせよ、あなたがいいのです。話の続きです。ですからその理論に基づき、私は過去の世界でも、この世界でも……。」
私は驚いて、テーブルを人差し指でトントン突きながら言った。
「両立可能だというの?私でも分かるよ、それは無理!人がここにいるのと、いないのとでは、両立不可だよ。だってもしそうなったら、ベースの物体が同一じゃない。」
「その通りです!あなたは素晴らしい!」
煩いよ……。ジェーンは何故か、満足げにニコニコしている。もうさっぱりわからん。分からんが、分かりやすい人よりかは、ジェーンみたいな複雑怪奇な人の方がいいと思ってしまうんだから、私は末期なのだ。ジェーンは子機でデザートを頼みながら言った。
「ですから思考を変えました。人生は行動と選択によって構成されています。今ここで我々が一緒に、それもデートとして、共に食事が出来ているのは、過去の、全ての選択の結果です。単純で明瞭です。あなたが私を選べば、未来には私がいます。」
「でもさ、ジェーンが過去に、カタリーナさんと結婚する、という選択を取ったから、私は一歩踏み出せない、という選択をしているよ?」
「ぐぬぬ……。」
ああ、面白くなって来た。笑いながらお茶を飲んでいると、今度はジェーンに足を踏まれた。
「痛い!その選択はおかしいでしょ!」
「あなただって、先程、私の足を踏んだくせに!」
「ジェーンは革靴、私はスニーカー、攻撃力のアドバンテージが違うんですけど!」
「ああそうでしたね、それはいいことを聞きました。」
まじでなんなの……いいけどさ。そして何故かこのタイミングで、ジェーンは私の肩に寄りかかって来た。本当に、霧のように掴めない男だ。意味がわからなかった。
「……あなたとの会話は楽しいです。刺激的で、素直になれて、癒される。毎日だって、毎晩だってしたい。」
「ぐぬぬ……わ、私も楽しいよ。とても勉強になるし、会話のテンポも似てる。」
「ふふ、そうですね。よく考えれば、私たちは同じ速度で話しますね。帰ったら、キスしますか?とても長く。」
「保証はしない。」
嫌です、って言っておけば良かった。つい、可能性があるっぽくなってしまった。デザートが到着するとジェーンは上機嫌でそれをパクパク食べて、私も彼をチラチラ見ながらケーキを食べた。デートか、生まれて初めてだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる