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迷いとミニキルディア編
198 帰路の衝撃
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数日が経ち、我々を乗せた船は、ユークアイランドの港に到着した。そこではミラー夫人をはじめに、ニュースで我々が帰って来たことを知ったらしいユークの住人達が、歓迎モードで我々の帰還を待ってくれていた。何だかその光景だけで、目頭が熱くなった。
船の上から手を振っていると、隣で立っているジェーンも私の真似をして、手を振っていた。そのぎこちなさが、少し面白かった。
そしてジェーンの隣にいるリンを見ると、彼女は住人達に向かって、銃を撃つ仕草をしていた。しきりにある一点をバンバンと指の銃で撃っている。リンの指先を辿ってみると、そこにいたのは、アリスとタージュ博士、ロケインにラブ博士だった。
「なるほどね……。」
「おい、キリー。着港を手伝ってくれ。」
クラースさんが私にロープを渡した。私は渋々、クラースさんのお手伝いをした。最初の頃に比べると、海には慣れたものだ。真下のブルーは直視出来ないけど。
港には他にも船が何十艘も到着していて、LOZの隊員や新光騎士団の捕虜が、ゾロゾロと降りてきている。港にいたエストリーの隊員は、騎士達をまとめて連行している。騎士達はこれから、ユークのLOZ訓練施設……元はミラーの旦那さんのスパリゾートの土地だった所に行き、LOZになってくれるらしい。
皆が皆、ヴァルガのことを慕っていて、ヴァルガがLOZに来ると正式に発表したら、納得してくれたのだった。中には嫌がる人もいたが、ヴァルガが、帝国の、民の為だと説得してくれた。ヴァルガ、やはり、いい人だった。
私は船から、ジェーンの助けを借りながら降りた。すると我々のところに、アリス達が走ってやってきた。
「キリー!みんなー!」
私が両手を広げると、アリスが入ってきてくれて、ハグをした。タージュ博士とロケインが、クラースさんとハイタッチしている。するとリンが、両手を広げながら、横切って行った。彼女はそのまま無表情のラブ博士に突撃していく……大丈夫だろうか。
「レーガンさまぁぁぁァァ!」
なんだか殴りを喰らいそうだと思って、目を細めていると、意外にもリンの腕の中に、ラブ博士がすんなりと入った。そしてなんと、突然に、リンの頭を掴んで、情熱的なキスをし始めたのだ。驚きすぎて、私の顎が抜けるかと思った。
「……心配かけやがって、馬鹿め。責任とれよ。」
「せ?責任?どうやって?」
リンの肩をガッチリ掴むラブ博士。私や周りの人々は彼らに釘付けだった。そしてラブ博士が、ごくっと喉を鳴らした後に言った。
「リン、今からお前は、俺の女だ。」
「きゃああ」だの、「おおお!」だの、変な歓声が沸いた。リンは嬉しすぎてちょっと泣いているのか、目を袖でゴシゴシしながら何度も頷いて、またラブ博士に抱きついた。私は拍手をした。私だって嬉しかった。リンに、とうとう彼氏が出来たのだ。嬉しいに決まってる、ジェーンもそうだよね?
そう思って隣の彼の方を見ると、予想より違った反応をしていた。拍手することもなく、彼は放心状態になっており、その顔は、まるで目の前で殺人事件が起きたかのような、衝撃を受けた表情だった。それはそれで面白かった。
リン達のことをウォッフォンで撮ってあげればよかった。彼らはそのまま、ラブ博士の腕を抱いて、港を歩いて行ってしまった。リンの方が幾分、背が高いので、歩くときにカクカクしている。
「レーガン様~今日はおうちデートしましょうね!」
「くっつくな!引っ張るな!きょ、今日か……。」
二人は人混みの奥に消えた。私の腕をぐいぐい引いたのは、アリスだった。にやけている。
「姉さんから聞いたよ、キリー。」
「まじで?本当に、情報が早いことだ。困っちゃうね、でも我々は親友だからね。」
「あ、そうらしいね。でも遠慮せずに、二人も人前でいちゃついてもいいんだからね?」
「いいんだよ……。それと、ユークの防衛ありがとう。ラブ博士にも言いたいけど、あの様子だと後日のほうがいいか。」
「そうだね~、今度ロビーで軽く立ち食いパーティしよ!」
「そうだね、ふふ。」
私は歩き始めた。アリスよ、我々は親友なのだ。別に、リンとラブ博士のことを羨ましくなど思っていない。思っていないんだから!
船の前の地面に置いてあった荷物を担いだ時に、向こうから、ふくよかな、赤いワンピースの女性が走ってきた。やっぱりミラー夫人だった。そのワンピース、何着持ってるんだろうか。
「キリちゃ~ん!」
夫人にハグされた。結構苦しかった。
「ああん、キリちゃん大変だったわね!でも一騎討ち、カッコよかったわよ!」
「え!?見てたの!?」
「見てたに決まってるじゃ無いの!いつものメンバーと一緒に、クラースの視点で見てたわ。あんなに必死に戦って、もう感動して涙が出たもの!」
……私は思い出した。ヴァルガと戦っていたあの時、確か途中で涙を流してしまったのを。ああ、恥ずかしい。騎士として、あるまじき失態……。
「うわあああああ!」
私は真っ赤に染まってしまった顔を、手で隠しながら、全力で走り始めた。もう今日は直帰だ!あとのことはエストリーやミラー夫人がやってくれるから、直帰してやる!いやダメだ!LOZの皆と、ビデオ会議があった!その後は、LOZの訓練施設にも行かないといけない!何が直帰だ!このスケジュールで!
しかし私は走った。港から出て、研究所への近道を走って行く。倉庫地帯で、同じような建物がたくさんあった。建物の角を曲がったところで、道の真ん中で男女のカップルが、熱烈なキスをしていた。そんなところで全く、破廉恥だなぁ!と思ったら、それはリンとラブ博士だった。
「うわあああああ!何してんの!?」
「おおおお!」二人とも驚いた様子だった。リンが言った。「キスです!」
私は無視して走った。何、今の会話。見りゃわかるでしょうが!走って走って、漸く崖っぷちが見えてきた。なんで走っているんだろうか、本当に、ヴァルガ戦が恥ずかしくて走ったんだろうか。本当は、リン達が羨ましくて、発散したくて、走ったんだろうか。もう分からない。
私は研究所のドアを開けて、中にある階段を降り始めた。そうだ、よく考えれば、私はもう騎士じゃ無い。私だって、騎士じゃないとなれば、ジェーンと……不倫……いや、だめだ、不倫はいけない!あああ!帰る場所がある人に、なんという気持ちを抱いているんだ。
何度も自分の頭を叩きながら、階段を駆け下りた。この階段、研究所のエントランスまでずっと続いているが、本当はエスカレーターだった。いつだったか、タージュ博士が壊してしまったのだ。それをそのまま、放置してしまっている。
そんなことよりも、落ち着かない私は、ウォッフォンをかざして、研究所のロックを解除した。無人のロビー、いつもあのカウンターで笑顔を振りまいている女性は、現在、彼氏とラブラブしながら外を歩いている。
「ああ……いいなぁ。」
「何がですか?」
「うわああああ!」
と、私は叫びながら振り向いた。息を荒くして立っていたのは、ジェーンだった。必死に付いてきたのか、顔が赤い。
「ジェーン、私について来ていたの?」
「はい、付いて来ました。して、何がいいなぁ、なのです?」
「……別に、関係ない。」
「納得出来ません。」
あなたと、恋人関係になりたいです。なんて言ったら、ジェーンは承諾してくれるかもしれない。でも、やっぱりそこまでは、私の心が許せないのだ。彼には、どうしても奥さんがいるから。くそ、なんで結婚してるんだ。理由は知ってるけれどもね!
「キルディア、顔が怖いです。」
「え、あ、ごめん……じゃあ、話すけど。私もいつか、大学行きたいと思って。」
適当に嘘をついた。実は、ある意味、嘘ではない。士官学校で戦いの術を学んできた私も、最近ジェーンと一緒にいるようになってから、また勉強したいと思えて来たのだ。彼の話を理解したい。彼が見ている世界を、私も理解したい、そう思う時が結構ある。
ジェーンは眼鏡を中指で調整しながら、私に聞いた。
「そ、そうですか。何を専攻したいのですか?」
「魔工学、と、システム……まあ、いつかは大学に行ってみたい。それぐらいの気持ちだけど。」
「それなら、私があなたの家庭教師になります。私では力不足ですか?」
「そんな、寧ろ、役不足だよ……私はまだまだ、ジェーンに教わるような人間じゃない。もっと基礎的なところから学んでみたい。ネットで一回調べたことがあるんだ。社会人を対象とした週末大学が、あるみたい。この騒動が収まったら、そういうのもいいかなって。」
「私と、過ごす時間が無くなります。私やリンが教えるのでは、いけませんか?」
「うーん、自分で勉強してみたいんだ。挑戦したい。それだけ。ありがとうね、ジェーン。」
私は彼に背を向けて、調査部のオフィスに向かって歩き始めた。しかしついて来ていたとは、ジェーンはたまに、ベルンハルトさん並に足音がしない時がある。その仕組みが知りたいものだ。
「あ、キルディア。」
私は振り返った。ジェーンがいつもの無表情で私を見ていた。
「明日、午後休みを頂いても宜しいですか?明日の午後なら、特に大きな用事も無いので、私が居なくとも大丈夫かと。」
「いいけど……分かった。」
珍しいこともあるものだ。ジェーンが休みたがるなんて。時空間歪曲機に関する用事かもしれない。そう思うとちょっと、胸が苦しかった。ジェーンは私に微笑んだ。
「ふふ、本日、私は研究室で所定の作業を完了した後に、LOZの会議に参加します。その後は一緒に、LOZの訓練施設へ向かいましょうね。」
「うん、そうだね。」
私も微笑んで、調査部のオフィスへ向かった。
私の机には、ノート型のPCが置いてあった。いつも仕事で使ってるグレーのやつ。何だか懐かしかった。席に座り、それの電源を入れると、ニュースが目に入った。それはLOZの勝利や、ヴァルガがLOZに来たことを知らせるものばかりだった。
近々、ネビリスとなんらかの形で戦うことになるだろう。いよいよ、ここまで来てしまった。その戦いに勝利しても、負けても、その先にジェーンはいない。はあ、とため息をついて、静かな部屋で一人、背もたれに体を預けた。
船の上から手を振っていると、隣で立っているジェーンも私の真似をして、手を振っていた。そのぎこちなさが、少し面白かった。
そしてジェーンの隣にいるリンを見ると、彼女は住人達に向かって、銃を撃つ仕草をしていた。しきりにある一点をバンバンと指の銃で撃っている。リンの指先を辿ってみると、そこにいたのは、アリスとタージュ博士、ロケインにラブ博士だった。
「なるほどね……。」
「おい、キリー。着港を手伝ってくれ。」
クラースさんが私にロープを渡した。私は渋々、クラースさんのお手伝いをした。最初の頃に比べると、海には慣れたものだ。真下のブルーは直視出来ないけど。
港には他にも船が何十艘も到着していて、LOZの隊員や新光騎士団の捕虜が、ゾロゾロと降りてきている。港にいたエストリーの隊員は、騎士達をまとめて連行している。騎士達はこれから、ユークのLOZ訓練施設……元はミラーの旦那さんのスパリゾートの土地だった所に行き、LOZになってくれるらしい。
皆が皆、ヴァルガのことを慕っていて、ヴァルガがLOZに来ると正式に発表したら、納得してくれたのだった。中には嫌がる人もいたが、ヴァルガが、帝国の、民の為だと説得してくれた。ヴァルガ、やはり、いい人だった。
私は船から、ジェーンの助けを借りながら降りた。すると我々のところに、アリス達が走ってやってきた。
「キリー!みんなー!」
私が両手を広げると、アリスが入ってきてくれて、ハグをした。タージュ博士とロケインが、クラースさんとハイタッチしている。するとリンが、両手を広げながら、横切って行った。彼女はそのまま無表情のラブ博士に突撃していく……大丈夫だろうか。
「レーガンさまぁぁぁァァ!」
なんだか殴りを喰らいそうだと思って、目を細めていると、意外にもリンの腕の中に、ラブ博士がすんなりと入った。そしてなんと、突然に、リンの頭を掴んで、情熱的なキスをし始めたのだ。驚きすぎて、私の顎が抜けるかと思った。
「……心配かけやがって、馬鹿め。責任とれよ。」
「せ?責任?どうやって?」
リンの肩をガッチリ掴むラブ博士。私や周りの人々は彼らに釘付けだった。そしてラブ博士が、ごくっと喉を鳴らした後に言った。
「リン、今からお前は、俺の女だ。」
「きゃああ」だの、「おおお!」だの、変な歓声が沸いた。リンは嬉しすぎてちょっと泣いているのか、目を袖でゴシゴシしながら何度も頷いて、またラブ博士に抱きついた。私は拍手をした。私だって嬉しかった。リンに、とうとう彼氏が出来たのだ。嬉しいに決まってる、ジェーンもそうだよね?
そう思って隣の彼の方を見ると、予想より違った反応をしていた。拍手することもなく、彼は放心状態になっており、その顔は、まるで目の前で殺人事件が起きたかのような、衝撃を受けた表情だった。それはそれで面白かった。
リン達のことをウォッフォンで撮ってあげればよかった。彼らはそのまま、ラブ博士の腕を抱いて、港を歩いて行ってしまった。リンの方が幾分、背が高いので、歩くときにカクカクしている。
「レーガン様~今日はおうちデートしましょうね!」
「くっつくな!引っ張るな!きょ、今日か……。」
二人は人混みの奥に消えた。私の腕をぐいぐい引いたのは、アリスだった。にやけている。
「姉さんから聞いたよ、キリー。」
「まじで?本当に、情報が早いことだ。困っちゃうね、でも我々は親友だからね。」
「あ、そうらしいね。でも遠慮せずに、二人も人前でいちゃついてもいいんだからね?」
「いいんだよ……。それと、ユークの防衛ありがとう。ラブ博士にも言いたいけど、あの様子だと後日のほうがいいか。」
「そうだね~、今度ロビーで軽く立ち食いパーティしよ!」
「そうだね、ふふ。」
私は歩き始めた。アリスよ、我々は親友なのだ。別に、リンとラブ博士のことを羨ましくなど思っていない。思っていないんだから!
船の前の地面に置いてあった荷物を担いだ時に、向こうから、ふくよかな、赤いワンピースの女性が走ってきた。やっぱりミラー夫人だった。そのワンピース、何着持ってるんだろうか。
「キリちゃ~ん!」
夫人にハグされた。結構苦しかった。
「ああん、キリちゃん大変だったわね!でも一騎討ち、カッコよかったわよ!」
「え!?見てたの!?」
「見てたに決まってるじゃ無いの!いつものメンバーと一緒に、クラースの視点で見てたわ。あんなに必死に戦って、もう感動して涙が出たもの!」
……私は思い出した。ヴァルガと戦っていたあの時、確か途中で涙を流してしまったのを。ああ、恥ずかしい。騎士として、あるまじき失態……。
「うわあああああ!」
私は真っ赤に染まってしまった顔を、手で隠しながら、全力で走り始めた。もう今日は直帰だ!あとのことはエストリーやミラー夫人がやってくれるから、直帰してやる!いやダメだ!LOZの皆と、ビデオ会議があった!その後は、LOZの訓練施設にも行かないといけない!何が直帰だ!このスケジュールで!
しかし私は走った。港から出て、研究所への近道を走って行く。倉庫地帯で、同じような建物がたくさんあった。建物の角を曲がったところで、道の真ん中で男女のカップルが、熱烈なキスをしていた。そんなところで全く、破廉恥だなぁ!と思ったら、それはリンとラブ博士だった。
「うわあああああ!何してんの!?」
「おおおお!」二人とも驚いた様子だった。リンが言った。「キスです!」
私は無視して走った。何、今の会話。見りゃわかるでしょうが!走って走って、漸く崖っぷちが見えてきた。なんで走っているんだろうか、本当に、ヴァルガ戦が恥ずかしくて走ったんだろうか。本当は、リン達が羨ましくて、発散したくて、走ったんだろうか。もう分からない。
私は研究所のドアを開けて、中にある階段を降り始めた。そうだ、よく考えれば、私はもう騎士じゃ無い。私だって、騎士じゃないとなれば、ジェーンと……不倫……いや、だめだ、不倫はいけない!あああ!帰る場所がある人に、なんという気持ちを抱いているんだ。
何度も自分の頭を叩きながら、階段を駆け下りた。この階段、研究所のエントランスまでずっと続いているが、本当はエスカレーターだった。いつだったか、タージュ博士が壊してしまったのだ。それをそのまま、放置してしまっている。
そんなことよりも、落ち着かない私は、ウォッフォンをかざして、研究所のロックを解除した。無人のロビー、いつもあのカウンターで笑顔を振りまいている女性は、現在、彼氏とラブラブしながら外を歩いている。
「ああ……いいなぁ。」
「何がですか?」
「うわああああ!」
と、私は叫びながら振り向いた。息を荒くして立っていたのは、ジェーンだった。必死に付いてきたのか、顔が赤い。
「ジェーン、私について来ていたの?」
「はい、付いて来ました。して、何がいいなぁ、なのです?」
「……別に、関係ない。」
「納得出来ません。」
あなたと、恋人関係になりたいです。なんて言ったら、ジェーンは承諾してくれるかもしれない。でも、やっぱりそこまでは、私の心が許せないのだ。彼には、どうしても奥さんがいるから。くそ、なんで結婚してるんだ。理由は知ってるけれどもね!
「キルディア、顔が怖いです。」
「え、あ、ごめん……じゃあ、話すけど。私もいつか、大学行きたいと思って。」
適当に嘘をついた。実は、ある意味、嘘ではない。士官学校で戦いの術を学んできた私も、最近ジェーンと一緒にいるようになってから、また勉強したいと思えて来たのだ。彼の話を理解したい。彼が見ている世界を、私も理解したい、そう思う時が結構ある。
ジェーンは眼鏡を中指で調整しながら、私に聞いた。
「そ、そうですか。何を専攻したいのですか?」
「魔工学、と、システム……まあ、いつかは大学に行ってみたい。それぐらいの気持ちだけど。」
「それなら、私があなたの家庭教師になります。私では力不足ですか?」
「そんな、寧ろ、役不足だよ……私はまだまだ、ジェーンに教わるような人間じゃない。もっと基礎的なところから学んでみたい。ネットで一回調べたことがあるんだ。社会人を対象とした週末大学が、あるみたい。この騒動が収まったら、そういうのもいいかなって。」
「私と、過ごす時間が無くなります。私やリンが教えるのでは、いけませんか?」
「うーん、自分で勉強してみたいんだ。挑戦したい。それだけ。ありがとうね、ジェーン。」
私は彼に背を向けて、調査部のオフィスに向かって歩き始めた。しかしついて来ていたとは、ジェーンはたまに、ベルンハルトさん並に足音がしない時がある。その仕組みが知りたいものだ。
「あ、キルディア。」
私は振り返った。ジェーンがいつもの無表情で私を見ていた。
「明日、午後休みを頂いても宜しいですか?明日の午後なら、特に大きな用事も無いので、私が居なくとも大丈夫かと。」
「いいけど……分かった。」
珍しいこともあるものだ。ジェーンが休みたがるなんて。時空間歪曲機に関する用事かもしれない。そう思うとちょっと、胸が苦しかった。ジェーンは私に微笑んだ。
「ふふ、本日、私は研究室で所定の作業を完了した後に、LOZの会議に参加します。その後は一緒に、LOZの訓練施設へ向かいましょうね。」
「うん、そうだね。」
私も微笑んで、調査部のオフィスへ向かった。
私の机には、ノート型のPCが置いてあった。いつも仕事で使ってるグレーのやつ。何だか懐かしかった。席に座り、それの電源を入れると、ニュースが目に入った。それはLOZの勝利や、ヴァルガがLOZに来たことを知らせるものばかりだった。
近々、ネビリスとなんらかの形で戦うことになるだろう。いよいよ、ここまで来てしまった。その戦いに勝利しても、負けても、その先にジェーンはいない。はあ、とため息をついて、静かな部屋で一人、背もたれに体を預けた。
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