LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
上 下
188 / 253
救え!夜明けの炎と光編

188 降臨せよ!

しおりを挟む
 タールは盾をちゃんと活用して行動し始めた。最初からそうしてくれってんだ。するとその時だった、新光騎士団の連中が、後ろを振り向いては「おお!」とか「来たぞ!」とか、騒ぎ出したのだ。何が到着したのか、暗いし、雨風がすごくて見えやしない。

 彼らの奥から、のそのそと現れたのは、でっかい蜘蛛だった。俺は小さい頃から蜘蛛が大嫌いだ。手を噛まれた事があるからだ。恐ろしい敵の援軍に、俺の両手はみるみるうちに震え始めた。

『なんでだよ、なんで蜘蛛なんだよ……』

 しかも、何体もゾロゾロと現れやがった。戦闘用ボットなのなら、銃の本体に足がついているようなシンプルな、それっぽい姿でいて欲しい。どうして蜘蛛?きっとあれの開発者は変態に違いない。デザインには性格が出るものだ、わざわざ蜘蛛を選ぶなんて、独占欲が強くて、夢想家で、隠れスケベの人間に決まってる。俺は絶対にそう思うね。

 と、考えていると、その蜘蛛たちは俺らに向かって突撃して来た。物凄い速さで、移動を開始して、タール達に飛びかかっている。

『やばいぞスコピオ!これはやばすぎる!』

 ああ、そのようだ。防水防風防塵な上に、且つ耐衝撃のようだ。タールが足元に来た蜘蛛をハンマーで叩いたが、それはびくともしていない。しかもその後、タールは蜘蛛にタックルされて、吹き飛んでしまった。

 新光騎士団の連中はそれを眺めて、銃撃をやめて楽しげな様子で観戦している。余裕そうだな、確かに、俺が相手だったら、ポップコーン片手に見守っていた事だろう。ダメかな、と思いながらも一応狙撃したが、銃弾が当たってもびくともしなかった。こりゃまずいわ。俺はウォッフォンに叫んだ。

『まずいです、まずいですとも!緊急です!謎のボットに襲われていて、かなりのピンチを迎えています!ジェーン様、お助けを!』

 するとすぐに、ジェーン様の麗しい声が、兜のスピーカーから聞こえた。

『ボット……それはどう言った形でしょうか?』

『があああああ!』

 しまった!俺の足に蜘蛛が噛み付いていた!いやいや、高所恐怖症の人間がユークにある遊園地のジェットコースターに乗ったらどうなる?はたまた、閉所恐怖症の人間が、棺桶に閉じ込められたらどうなる!?俺は今、まさにその状況なのだ!すぐに白目を向いた俺は、パニクってハンドガンの銃身で何度も蜘蛛を殴るが、俺の足に噛み付いて離してくれない。

『スコピオ!どうなさいましたか!?』

 ……ああ、彼は優しい人なのだ、俺は感動して泣いた。

『ジェーン様、俺はもうダメです。俺は短い人生、ジェーン様に会えてとても嬉しかった、刺激をもらえた。火山測定装置、あれはエンジェル。まるであなたの人格そのものを具現化したような、繊細で美しい機械です。あれを守り、繋ぎ、研究する。俺はとても幸せでした。』

『スコピオ、落ち着きなさい。まだあなたは死なない。』

『でもね、どうして』俺は泣いた。ボロボロと泣いた。『どうしてよ、どうしてキルディアなんかを相手に選んだんだ!もっと俺とかを選んだ方が、ストーリーが進んだでしょうが!こんな戦に顔突っ込まなくても済んだんだ!しれっと素材を集めて、しれっとさ、一緒に研究出来たんだ!どうして俺じゃダメなんだ、ジェーン様!』

『……何から申せばよろしいのか。あなた、正気ではありません。して、そのボットの詳細を教えなさい。』

『いやあああ俺の足が噛みちぎられる!なあジェーン様、俺の足が無くなったら、ジェーン様が新しいの作ってくれるのか?良いよなそれで!キルディアと同列の扱いしてほしいよ!俺だってソーライと業務提携結んでるグレンの所長なんだから!』

『お前さあ、さっきから俺が頑張ってんだから、笑わせんなよ……ふはは!』

 横入りして来たのはタールだった。ハンマーで蜘蛛と戦いながら、俺の発言にツボっている。そんなの知らん!俺は今、もう死にそうなんだ!

『……スコピオ』ジェーン様の冷静な声が聞こえた。俺は涙目を閉じて、耳を澄ませた。『簡略化して伝えます。私の相棒はキルディア一択であり、あなたを殺そうとしているボットの詳細が知りたい。援護をしますので、早く。』

『援護と言えば!』俺は叫んだ。『援護と言えば自警システム、自警システムと言えばドクタースローヴェン!あれも許せない……あれだって、俺よりも若いくせに、ユークのトンネルのシステムを一新するってプロジェクトを、あなたから任せられて!俺だって『選択外です。』選択外なんでしょうけれど!どうして俺は、あいつのサポートをしなければならなかったんです!?俺だって、俺だって……グレンの磁気砲を知ってるでしょう!?そうだ、そうだ!それを今、あの蜘蛛に当てます!だから、もしそれで、あいつがバグったら……ジェーン様、今後は俺と結婚してください!』

『ああ良いですとも、さあどうぞ。』

 ……え!?まじで!?結婚はちょっと奇抜な表現をしちゃったなと思ったけど、ジェーン様がそれで良いなら俺もそれで良いや!男同士っていうのが俺的にはネックだし、彼女には別れを告げなきゃいけないけど、ジェーン様と一緒に研究出来るってことは確定だろうし!俺は気合を入れて、部下からグレンの磁気砲を受け取り、それを、足をかじっている蜘蛛に向かって発射した。

 しかし現実は切ないものだった。びくともしなかった。俺は、ちょっと悲しくなった。

『結果は?』

『……ダメでした。』

『でしょうね。まあ万が一、効いたとしても、あなたと結婚?はは、面白い冗談でした。私にはそう言う趣味はありませんし、あなたの家庭教師になるつもりもない。』

『じゃあさ、キルディアだって、ジェーン様と比べると劣っていますよ?彼女も選択外でしょう?』

『私よりも劣っている?馬鹿も休み休み仰いなさい。あなたは一枚の薄汚い定規しか持っていない、視野の狭い人間です。彼女と比べるまでもない。もしあなたがキルディアだったら、早くそのボットの特徴を述べていることでしょう。さあ早く、言いなさい。』

『薄いは分かるけど、汚いはつけなくても良かったでしょうに。もう良いです、蜘蛛型です……うえええ。』俺は泣いた。こんなに言われるなら、死んでも良いと思った。結構本気で。しかしジェーン様は、意外な一言を言った。

『よく出来ました。あなたを評価します。もう少し、その地で辛抱してください。あなたが頼りですから。』

『ジェーン様!?うあああああ!』

 叫んでいる途中で、プツッと通信が切れた音がした。俺は、もう一度生きたいと思った。ジェーン様にもっと褒められたい。だから、俺に噛み付いているボットを何度も殴った。こんなとこで死ねない。

 するとタールが駆けつけて来て、ハンマーで足元の蜘蛛をぶっ叩いてくれた。一瞬怯んで、その隙に俺は脱出した。足首のプロテクターは切断寸前でプラプラだった。危ない危ない!

『ありがとうタール!やっぱお前だけだよ!』

『お前ふざけんなよ、ジェーンに求婚してたくせによ!ははっ、まあ面白くてさ、励みになったよ!しかしまあ、このままだとまずいな。』

 気づけば、辺りは蜘蛛ボットで陣を掻き回されて、めちゃくちゃ乱戦状態だった。加えて騎士の連中は、防弾シールドの隙間から射撃を開始している。撃たれて動けない奴もいた。明らかに状況が悪すぎる。俺は皆に言った。

『援軍が来るから、それまでなんとか持ち堪えよう!』

『そうだ!』タールの大声が聞こえた。『お前ら意地を見せろ!援軍が来るまで、ここを動くんじゃねえ!ボットがなんだってんだ!イッテェ!?』

 その時、タールが肩を撃たれてシールドの影に倒れ込んだ。やばい、タールが抜けたら大変だ。俺が心配で見守っていると、タールは肩を押さえながら、再び立ち上がった。

『くそ……おい、誰も心配するなよ。俺は大丈夫だ。良いか!この地を相手に譲るってことは、ハウリバー平原を譲るってのと同じことだ!ハウリバーの意地を見せろ!』

『オオッ!』

 タールが見事な鼓舞をし、兵達の士気が上がった。もう、彼が隊長で良いんじゃないかな。ひねくれた気持ちを持ちながらも、俺は応戦した。しかし俺たちは混戦の中で、なんとか耐えようとするが、けが人が続出して、だんだんと活気が消えていった。すかさず騎士はジリジリと迫り、押され始めている。もしや降伏も見えた、その時に、彼らはやって来た。

『お待たせちゃ~ん!』

『ああっ!マクレガァァアア!』

 マクレガーらシロープの漁師達が、馬車で何かを大量に積んで、俺らの後ろに到着した。キラキラした目で俺は彼に近づくと、彼らは荷台の箱を開けて、その中に入ってた棒を俺にくれた。

『ほら!これで蜘蛛ボットはイチコロらしい!』

『これ~?本当か?』

 俺はすかさず、こちらに向かって突っ込んできた蜘蛛に向かって、その棒のスイッチを押した。途端に、物凄い放電が発生し、大雨の影響もあって、電力が増幅されて、棒の先っちょからは、すだれ雷のような強力なものが放たれた。それをモロに食らったボットは回転した後、すぐに爆発した。俺は笑顔になった。

『よし!これでボットを破壊しまくるぞ!ついでに奴らの陣も破壊してやれ!さすがジェーン様だ……っ!?あああああ!』

 あ。……降臨した。天を裂く光、閃きの大天使、俺は激しく瞬きをした。

『だ、大丈夫か!?』

『大丈夫だマクレガー。こいつ時々、急にこうなるんだよ。ったく、今かよ。』

 俺は立て膝をついて、天に両手を伸ばした。聖詠なる方程式よ、雷光烈雨の刹那の間に、我の知恵と見識を糧にせよ!俺は、開眼した。そして、ウォッフォンで激しくメモを書き始めた。ふふっ、ふっふははははあ!ハアハア!

『またなんか閃いたのか?』

 タールが電力でボットを壊しながら俺に聞いた。俺は頷いた。

『うん、閃いた。』

 メモのついでに、さっき使ったその棒を見ると、こう書かれていた。

『ノーモアオヤジ狩り?なんだこれは。まあ良いや、これで俺は色々と得るものがあった。行くぞお前ら!ハウリバーの力を見せつけろ!』

『おおおおお!』

 俺は積極的に敵陣に突っ込み、電力を放電しまくった。その間も、閃きは度々訪れ、俺はその度にシールドで隠れながらメモをした。気づくと俺らは、ボットを全て壊し、なんとか陣形を取り戻し、その場で交戦を続けることが出来たのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...