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囚われのパリピ編
181 眠りたいのですが
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危ない危ない、危うく私は秘密の箱を開けるところだった!ああ、危なかった!私はすぐに通話を取ろうとしたが、ジェーンが私の手首を掴んで、阻止してきた。
「ちょっとほら、あ、タージュ博士から電話だ!出なきゃ!きっと何か、あったに違いないよ、ねえ?」
ムッとした顔で、ジェーンはウォッフォンの音楽を消した。
「……仕方ありません。スピーカーで出てください。終わり次第、先程の続きを開始します。ああ、折角ですからタージュに、私がどれほど偉大な科学者なのか、説明を頼みましょう。」
「いいってそれはまた今度で、凄いのは分かったからね……、あ!タージュ博士、こんばんは。お疲れ様です。」
『ボス、お疲れ様です。今、大丈夫ですか?もしや寝ていたとか?』
「いや、大丈夫だよ……ひっ!」
『ん?』
「ああいや、何でもない。」
本当は何でもある。ジェーンが私の耳にキスしてきたのだ。リップ音のないサイレントなキスだけど、こそばゆい!私は片手でガードしたが、その手は彼に掴まれてしまった。そしてまた耳にキスをされた。
『……ボス?あーえっとそれで、』
「あ、ああ。な、何?(やめてよ!)」
私はサイレントでジェーンに怒鳴った。ジェーンは小声でこう言った。
「(嫌です。さあ通話をどうぞ。)」
「……それで、どうしたの、博士?」
『あーの、どうと言うこともないんですが、お体の具合はどうかなと思いまして。いやあ!ラブ博士から、もう殆ど傷は治ったって聞いたのですが、でもまだ痛むでしょう?お辛かったでしょうに。僕もお見舞いをしたかったのですが、新システムの件で研究室に篭りっぱなしで。今日久しぶりに帰宅を。』
何だ博士、心配してくれたんだ。優しいなぁ。あと耳にキスやめろ。私は答えた。
「そうだよねタージュ博士も、ラブ博士の件を手伝っていたんだもの。忙しかったんだから、お見舞いは大丈夫だよ。でも気にかけてくれてありがとう……っ。(何してんの!舐めないでよ!)」
「(嫌です。)」
何と、ジェーンに耳を舐められた。そんなことまであの本には書いてあるのか?もう、あれの電子書籍版でも買おうかと思い始めた。しかしジェーンは、もう止まらないのか、いくら足掻いても私から離れてくれない。ウォッフォンからタージュ博士の声が聞こえた。
『それで、今は何をしているんです?ボス。もしかしてまだ、部長がいるとか?まさか、ですよね?はは!』
「いやあ、実は、ジェーンはまだ帰っていないんだけど、でも今は部屋に居ない。いつ帰るのか、それは知らない。」
変な嘘をついてしまった。まあいいか。タージュ博士は「そうなんですね~そうかそうか、」と、呟いた。ジェーンはと言うと、今は大人しく、我々の会話を聞いている。大人しく、私にくっつきながら聞いている。
『ちょっと貸しなさい。』
『え!?ちょっと!』
何やら急に、電話の向こうが騒がしくなった。それもそうだが、タージュ博士と一緒に居る、この女性は誰だ?私は首を傾げた。そしたら偶々、ジェーンに寄り添ったみたいになってしまった。辛い。
『あ~あの、もしもし~』五、六十代ぐらいの女性の声が聞こえる。私が「はい?」と答えると、彼女は言った。『ギュスタージュの母です。いつもうちの長男がお世話になっております。』
「ぶっ」
吹き出したのはジェーンだった。私も危うく吹き出すところだった。だって急に、母登場ですか?意味もありゃしないのは分かっているが、私は頭をペコペコさせながら応えた。
「こちらこそ、いつもタージュ博士にはお世話になってます。いつも彼には、我々職員の心を支えて頂いて、職務も『ちょっといいですか?』
何でそんな食い気味なんだろう。隣のジェーンは肩を震わせて笑いを堪えている。するとタージュ博士の声が聞こえた。
『母さん!やめてくれ!ちょっとウォッフォン返して!』
『いいから黙っていなさい。私がキルディアさんとお話ししたいの。ね。』
『いいや、ボスは疲れている……ちょっと!』バタン!
最後の音はドアが閉まった音だ。きっと別の部屋に逃げたのだろう。ドンドン、カチャカチャとドアを開けようとする音がする。しかしタージュ母は、気にせず私に言った。
『いやあね、こんな夜遅くにすみませんね。』
「ああいえ、それで何か、ありましたか?」
『お聞きしたいの。あのね、うちの息子のどこがダメだったのでしょう?』
……やばい展開だ。ちょっと、ちょっとジェーン助けてくれ。私はジェーンの方を見た。彼は苦笑いして、私に耳打ちした。
「正直に話すべきです、卑猥な動画を視聴していたと。」
私はジェーンに耳打ちを返した。
「それはジェーンが遠隔操作したからでしょ!?でも、正直に言わないといけないってのは、分かるよ。」
『キルディアさん?聞いてる?』
「ああ!」私は答えた。「聞いてますよ、そうですね、その件ですが……うーんと、でも一度お家にお邪魔した日以来、特にその後二人で会うことはしませんでした。ですから、そんなに私のことを想ってくれているとは、特には……。」
『その時、テレビが勝手に動いて、偶々変な動画が流れたとかで、あなたも動揺したでしょう?あれ、でも、息子のではないんですよ。ごめんなさいね。でも息子はあなたのこと、とても大事に想っています。もう一度、デートしてくれませんか?』
「うーん」
私の、心の底から出た「うーん」だった。それを何故、母が頼む?もう吹き出しそうだった。タージュ博士は聞いていて恥ずかしくなったのか、もうドアを叩くのをやめている。私はお母様に、返事をした。
「実は今、私は違う人を好いておりまして、ですから気持ちにお応えすることが出来ないのです。それを博士には伝えるべきでしたね。きっと。」
『あらそうなの』残念そうな声が聞こえた。『キルディアさんはうちの息子にぴったりだと思ったんです。ほら、ニュースで最近よく見るでしょう?本当にギルバート騎士団長だったの?』
「え、ええ。」
『あらまあ……。そうそう、あなたが好きな人、じゃあその人と今はいい関係なのかしら?恋人ってことなの?』
「いや、恋人ではなくて、ただの片想いです。」
ジェーンが私の服を引っ張ってきた。彼の方を見た。
「(誰です?それは。)」
ちょっと私を睨んで、そう言った。色々忙しいな。私は兎に角、お母さんに返事をした。
「でもこの想いを大事にしたいんです。あまり、今まで恋というものを知らなかったものですから、たとえ叶わなくとも……二度と会うことが出来なくなっても、胸の中で想い続けたいのです。すみません、こんなに大切にしたいと思う気持ちを持つことは、初めてなもので、不器用で、伝わりづらいかもしれません。」
『そうなのね……片想い、大切になさってください。でも、もし叶わなかったら、そばに息子がいることを、思い出してくださいね。それじゃあ、おやすみなさい。』
「お、おやすみなさい。」
通話は終了した。最後の最後まで息子推しが凄かった。今頃タージュ博士は、ソファの上でのたうち回っているだろうに……今度会った時に彼になんて言葉をかけようか、ちょっと迷う。でもきっと、息子想いのお母さんなのだ。できれば義理の家族にはなりたくないが。
自分の肩に寄り添っているジェーンに、ついこんなことをしたくなってしまった。私は左腕を思いっきり上げて、ジェーンの頭と枕の間に、腕を潜らせようとした。ジェーンは私のしたいことを悟ったのか、頭を浮かしてくれた。私は腕枕をすることに成功した。枕があるので、負担が分散されて、思ったより楽だ。
「何だか……本当は私がすることでしょうに。」
ジェーンが言った。でも私だって、兵士だったから、ワイルドに愛情表現したい時があるのだ。今日はこのまま寝よう、そう思って目を閉じると、ジェーンが耳元で聞いた。
「先程の発言は、事実ですか?そうだとしたら、片想いの相手はどなたでしょうか?私はそれが知りたい。とても知りたい。」
「煩い。」
「何と言われようが構いません。宇宙の真理を追求すること以上に、私はそれが知りたいのです。一体誰を好いているのです?」
「おやすみ。」
「一体誰を好いているのです?」
「おやすみだって。」
「一体誰を好いているのです?」
アンタは壊れたテープか!つい笑ってしまった。
「ふふっ、何回聞くのよ!」
「ふふっ……一体誰を好いているのです?」
「もおお……仕方あるまい。ヒント、長髪のB型。おやすみ。」
すると、ジェーンは私の頬にキスをした。いや、今のだけじゃ分からないよね?いっぱいいるよね?長髪でB型の人。まさか彼自身だと思わないよね?と、ちょっと焦った。しかしジェーンは無慈悲の発言をした。
「よく分かるヒントでした……ねえ、キルディア。」ああ、もう終わったと思い、私は目を閉じた。「朝目覚めた時に、残念に思うほどに、いい夢を見た経験はありますか?あなたに対する想いは、その夢よりも圧倒的に、私を支配している……。キルディア?……もう、聴いていませんね。ならば私も、この心地の良い場所で眠ります。おやすみなさい、キルディア。眠っている間も、夢の中でも、ずっと一緒ですよ。」
困った。こんなに甘ったるい気持ちは初めてだった。彼がこんな発言をするなんて、一体誰が想像出来ただろうか。そんなことを言われて、黙っていられない。
私は自分の肩に乗っている、ジェーンのおでこに軽くキスをした。それから彼と目が合った。驚きでなのか、彼は、ぱちぱちと瞬きを、繰り返していた。じっと、綺麗な瞳が私を捉えている。
彼が身体を浮かして、私の鼻先まで、その美しい顔を近づけた。胸が高鳴る。彼の鼻と私の鼻が触れた。こんな至近距離で、また目が合ったときに、私は堪えきれない感情の波に、今にも押し流されそうで、泣きそうになった。私の顔を見て、驚いたジェーンが、スッと離れようとした。待って、行かないで。私は咄嗟に、彼の頬に、義手で触れた。
ああ、右手の感触があったのなら。そのまま義手で、優しく滑らすように、彼の後頭部を包んで、ぐっと、自分に寄せた。温かくて、柔らかかった。チェイスの時とは違って、胸がばくばくして、身体が熱くなった。彼をもっと、愛おしく感じた。
ちょっと目を開けると、ジェーンは気持ち良さそうに、目を瞑っていた。二人の鼻息が籠っている。離れると、月明かりでも分かるくらいに、彼の顔は紅く染まっていた。私は、荒ぶる呼吸をどうにか抑えながら、言った。
「ジェーン、今のは、大きな過ちだった。でも、後悔はない。も、もう寝ます。」
「……私は眠れません。」
彼の掠れた声、聞いたことない声色だった。これ以上は、もう。
「……でも、寝ます。おやすみなさい。」
私はそのまま目を閉じた。伸ばしたままの私の腕に、ジェーンが頭を乗せた。「なら仕方あるまい」と、彼の呟く声が聞こえた気がした。
「ちょっとほら、あ、タージュ博士から電話だ!出なきゃ!きっと何か、あったに違いないよ、ねえ?」
ムッとした顔で、ジェーンはウォッフォンの音楽を消した。
「……仕方ありません。スピーカーで出てください。終わり次第、先程の続きを開始します。ああ、折角ですからタージュに、私がどれほど偉大な科学者なのか、説明を頼みましょう。」
「いいってそれはまた今度で、凄いのは分かったからね……、あ!タージュ博士、こんばんは。お疲れ様です。」
『ボス、お疲れ様です。今、大丈夫ですか?もしや寝ていたとか?』
「いや、大丈夫だよ……ひっ!」
『ん?』
「ああいや、何でもない。」
本当は何でもある。ジェーンが私の耳にキスしてきたのだ。リップ音のないサイレントなキスだけど、こそばゆい!私は片手でガードしたが、その手は彼に掴まれてしまった。そしてまた耳にキスをされた。
『……ボス?あーえっとそれで、』
「あ、ああ。な、何?(やめてよ!)」
私はサイレントでジェーンに怒鳴った。ジェーンは小声でこう言った。
「(嫌です。さあ通話をどうぞ。)」
「……それで、どうしたの、博士?」
『あーの、どうと言うこともないんですが、お体の具合はどうかなと思いまして。いやあ!ラブ博士から、もう殆ど傷は治ったって聞いたのですが、でもまだ痛むでしょう?お辛かったでしょうに。僕もお見舞いをしたかったのですが、新システムの件で研究室に篭りっぱなしで。今日久しぶりに帰宅を。』
何だ博士、心配してくれたんだ。優しいなぁ。あと耳にキスやめろ。私は答えた。
「そうだよねタージュ博士も、ラブ博士の件を手伝っていたんだもの。忙しかったんだから、お見舞いは大丈夫だよ。でも気にかけてくれてありがとう……っ。(何してんの!舐めないでよ!)」
「(嫌です。)」
何と、ジェーンに耳を舐められた。そんなことまであの本には書いてあるのか?もう、あれの電子書籍版でも買おうかと思い始めた。しかしジェーンは、もう止まらないのか、いくら足掻いても私から離れてくれない。ウォッフォンからタージュ博士の声が聞こえた。
『それで、今は何をしているんです?ボス。もしかしてまだ、部長がいるとか?まさか、ですよね?はは!』
「いやあ、実は、ジェーンはまだ帰っていないんだけど、でも今は部屋に居ない。いつ帰るのか、それは知らない。」
変な嘘をついてしまった。まあいいか。タージュ博士は「そうなんですね~そうかそうか、」と、呟いた。ジェーンはと言うと、今は大人しく、我々の会話を聞いている。大人しく、私にくっつきながら聞いている。
『ちょっと貸しなさい。』
『え!?ちょっと!』
何やら急に、電話の向こうが騒がしくなった。それもそうだが、タージュ博士と一緒に居る、この女性は誰だ?私は首を傾げた。そしたら偶々、ジェーンに寄り添ったみたいになってしまった。辛い。
『あ~あの、もしもし~』五、六十代ぐらいの女性の声が聞こえる。私が「はい?」と答えると、彼女は言った。『ギュスタージュの母です。いつもうちの長男がお世話になっております。』
「ぶっ」
吹き出したのはジェーンだった。私も危うく吹き出すところだった。だって急に、母登場ですか?意味もありゃしないのは分かっているが、私は頭をペコペコさせながら応えた。
「こちらこそ、いつもタージュ博士にはお世話になってます。いつも彼には、我々職員の心を支えて頂いて、職務も『ちょっといいですか?』
何でそんな食い気味なんだろう。隣のジェーンは肩を震わせて笑いを堪えている。するとタージュ博士の声が聞こえた。
『母さん!やめてくれ!ちょっとウォッフォン返して!』
『いいから黙っていなさい。私がキルディアさんとお話ししたいの。ね。』
『いいや、ボスは疲れている……ちょっと!』バタン!
最後の音はドアが閉まった音だ。きっと別の部屋に逃げたのだろう。ドンドン、カチャカチャとドアを開けようとする音がする。しかしタージュ母は、気にせず私に言った。
『いやあね、こんな夜遅くにすみませんね。』
「ああいえ、それで何か、ありましたか?」
『お聞きしたいの。あのね、うちの息子のどこがダメだったのでしょう?』
……やばい展開だ。ちょっと、ちょっとジェーン助けてくれ。私はジェーンの方を見た。彼は苦笑いして、私に耳打ちした。
「正直に話すべきです、卑猥な動画を視聴していたと。」
私はジェーンに耳打ちを返した。
「それはジェーンが遠隔操作したからでしょ!?でも、正直に言わないといけないってのは、分かるよ。」
『キルディアさん?聞いてる?』
「ああ!」私は答えた。「聞いてますよ、そうですね、その件ですが……うーんと、でも一度お家にお邪魔した日以来、特にその後二人で会うことはしませんでした。ですから、そんなに私のことを想ってくれているとは、特には……。」
『その時、テレビが勝手に動いて、偶々変な動画が流れたとかで、あなたも動揺したでしょう?あれ、でも、息子のではないんですよ。ごめんなさいね。でも息子はあなたのこと、とても大事に想っています。もう一度、デートしてくれませんか?』
「うーん」
私の、心の底から出た「うーん」だった。それを何故、母が頼む?もう吹き出しそうだった。タージュ博士は聞いていて恥ずかしくなったのか、もうドアを叩くのをやめている。私はお母様に、返事をした。
「実は今、私は違う人を好いておりまして、ですから気持ちにお応えすることが出来ないのです。それを博士には伝えるべきでしたね。きっと。」
『あらそうなの』残念そうな声が聞こえた。『キルディアさんはうちの息子にぴったりだと思ったんです。ほら、ニュースで最近よく見るでしょう?本当にギルバート騎士団長だったの?』
「え、ええ。」
『あらまあ……。そうそう、あなたが好きな人、じゃあその人と今はいい関係なのかしら?恋人ってことなの?』
「いや、恋人ではなくて、ただの片想いです。」
ジェーンが私の服を引っ張ってきた。彼の方を見た。
「(誰です?それは。)」
ちょっと私を睨んで、そう言った。色々忙しいな。私は兎に角、お母さんに返事をした。
「でもこの想いを大事にしたいんです。あまり、今まで恋というものを知らなかったものですから、たとえ叶わなくとも……二度と会うことが出来なくなっても、胸の中で想い続けたいのです。すみません、こんなに大切にしたいと思う気持ちを持つことは、初めてなもので、不器用で、伝わりづらいかもしれません。」
『そうなのね……片想い、大切になさってください。でも、もし叶わなかったら、そばに息子がいることを、思い出してくださいね。それじゃあ、おやすみなさい。』
「お、おやすみなさい。」
通話は終了した。最後の最後まで息子推しが凄かった。今頃タージュ博士は、ソファの上でのたうち回っているだろうに……今度会った時に彼になんて言葉をかけようか、ちょっと迷う。でもきっと、息子想いのお母さんなのだ。できれば義理の家族にはなりたくないが。
自分の肩に寄り添っているジェーンに、ついこんなことをしたくなってしまった。私は左腕を思いっきり上げて、ジェーンの頭と枕の間に、腕を潜らせようとした。ジェーンは私のしたいことを悟ったのか、頭を浮かしてくれた。私は腕枕をすることに成功した。枕があるので、負担が分散されて、思ったより楽だ。
「何だか……本当は私がすることでしょうに。」
ジェーンが言った。でも私だって、兵士だったから、ワイルドに愛情表現したい時があるのだ。今日はこのまま寝よう、そう思って目を閉じると、ジェーンが耳元で聞いた。
「先程の発言は、事実ですか?そうだとしたら、片想いの相手はどなたでしょうか?私はそれが知りたい。とても知りたい。」
「煩い。」
「何と言われようが構いません。宇宙の真理を追求すること以上に、私はそれが知りたいのです。一体誰を好いているのです?」
「おやすみ。」
「一体誰を好いているのです?」
「おやすみだって。」
「一体誰を好いているのです?」
アンタは壊れたテープか!つい笑ってしまった。
「ふふっ、何回聞くのよ!」
「ふふっ……一体誰を好いているのです?」
「もおお……仕方あるまい。ヒント、長髪のB型。おやすみ。」
すると、ジェーンは私の頬にキスをした。いや、今のだけじゃ分からないよね?いっぱいいるよね?長髪でB型の人。まさか彼自身だと思わないよね?と、ちょっと焦った。しかしジェーンは無慈悲の発言をした。
「よく分かるヒントでした……ねえ、キルディア。」ああ、もう終わったと思い、私は目を閉じた。「朝目覚めた時に、残念に思うほどに、いい夢を見た経験はありますか?あなたに対する想いは、その夢よりも圧倒的に、私を支配している……。キルディア?……もう、聴いていませんね。ならば私も、この心地の良い場所で眠ります。おやすみなさい、キルディア。眠っている間も、夢の中でも、ずっと一緒ですよ。」
困った。こんなに甘ったるい気持ちは初めてだった。彼がこんな発言をするなんて、一体誰が想像出来ただろうか。そんなことを言われて、黙っていられない。
私は自分の肩に乗っている、ジェーンのおでこに軽くキスをした。それから彼と目が合った。驚きでなのか、彼は、ぱちぱちと瞬きを、繰り返していた。じっと、綺麗な瞳が私を捉えている。
彼が身体を浮かして、私の鼻先まで、その美しい顔を近づけた。胸が高鳴る。彼の鼻と私の鼻が触れた。こんな至近距離で、また目が合ったときに、私は堪えきれない感情の波に、今にも押し流されそうで、泣きそうになった。私の顔を見て、驚いたジェーンが、スッと離れようとした。待って、行かないで。私は咄嗟に、彼の頬に、義手で触れた。
ああ、右手の感触があったのなら。そのまま義手で、優しく滑らすように、彼の後頭部を包んで、ぐっと、自分に寄せた。温かくて、柔らかかった。チェイスの時とは違って、胸がばくばくして、身体が熱くなった。彼をもっと、愛おしく感じた。
ちょっと目を開けると、ジェーンは気持ち良さそうに、目を瞑っていた。二人の鼻息が籠っている。離れると、月明かりでも分かるくらいに、彼の顔は紅く染まっていた。私は、荒ぶる呼吸をどうにか抑えながら、言った。
「ジェーン、今のは、大きな過ちだった。でも、後悔はない。も、もう寝ます。」
「……私は眠れません。」
彼の掠れた声、聞いたことない声色だった。これ以上は、もう。
「……でも、寝ます。おやすみなさい。」
私はそのまま目を閉じた。伸ばしたままの私の腕に、ジェーンが頭を乗せた。「なら仕方あるまい」と、彼の呟く声が聞こえた気がした。
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