LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
上 下
175 / 253
囚われのパリピ編

175 元帥との通話

しおりを挟む
 チェイス元帥が優しく微笑んでいる。

『おはよう、リン。』

「お、おはようございます……初めましてと言うべきか。でもあの時会ってますもんね。」

『そうだね、君は僕に、爆弾の代わりに人形を投げ付けた。戦場で人形か、あれは面白かったよ。』

 ああ、あれね。せめてあの人形がチェイスに一矢報いろ!と思って、投げやりになって投げつけたあれね。私は笑顔で聞いた。

「あの人形はどうなりました?やっぱり捨てた?結構高いんですよ、写真で人形作るの。」

 チェイスの顔が一瞬、歪んだ。あまり突っ込んじゃいけなかった話題だったかな。そう思っていると、彼は指で鼻を掻きながら答えた。

『あれはね……よく見たらキルディアに似ていたね。あれがどうなったのか、僕もよく分からないと言うか、えっと、でも似ていたね。そっかそっか、後のことは部下に任せているから。そうか、写真で人形を作るサービスがあるんだね、その手があったか、じゃなくて、初めて知ったな。うん……。』

 えっ、嘘が下手!嘘でしょ!?私は動揺を何とか無表情で隠した。この人、もしやあの人形をまだ持っているのだろうか?まさかまさか、敵軍の大将の人形を、大切そうに持ち歩く参謀がいる訳ない。いやいやいや、まさか!深く考えたら負けだ。そう思った私は、この変な空気を打開すべく、元帥に聞いた。

「それで、お話って何ですか?私の処刑の話?」

『うん……よく眠れているかい?先日は僕が酷いことをしたからね、僕のことを恨んでいるだろう?』

「そりゃまあ、」ちょっと本音を言うか迷ったが、正直に言うことにした。「まあそれなりに恨んでます。でも今は眠れているし、ビーフジャーキーもらっているので、割と充実してます!」

 チェイスが笑った。彼の薄茶色の前髪が揺れた。ちょっと憎いな。

『ふふっ、そうなんだね。君みたいな子がいるから、きっとソーライ研究所の皆は明るいんだと思ったよ。何か欲しいものがあったら、何でも言ってくれ。勿論また、ビーフジャーキーでも良いけれど。甘い物でもいいよ。』

「え……これはチェイス元帥のお戯れなのですか?」

『うーん、そう言うことになるね。』

 そうだったんだ……いや、急にきたな。私は顎を触りながら考えた。急にモテ期が来た。いや、私にはラブ博士という運命の相手が居るから……でも、彼は元帥か。いや、博士も博士だしなぁ、特許もあるから収入の安定はそこそこだ。私は下唇を指で弄りながら、未来について真剣に考えた。

 ここでチェイスに気に入られたら、私は無罪放免になるのかな。でも待てよ、そうするとキリー達を敵に回すことになる。この戦いの行方、正直私は五分五分のように感じている。

 だって、ネビリスを倒すまでいく想像が出来ないんだもの。そうするとチェイスに付いた方が……いやいや、ラブ博士はどうなる?彼を裏切るなんて出来ない!後少しでキス出来る関係なのだから!

「ハアハアハア……!」

『……多分だけど、君が想像していることは本当じゃないと思うんだ。』

「え!?チェイス元帥が私を好きってことがですか!?」

 その時、PCを持っていた看守のおじさんが「えっ!」と、驚きの声をあげた。チェイスはブンブンと首を振った。

『馬鹿なことを言わないでくれ。僕にはもう既に、大切な人がいる。何が理由で、君にそんな突飛な考えが舞い降りたのか、理解出来ないが、君の言うことは真実ではない、それを忘れないでくれ。違う違う、そうじゃなくて、僕には聞きたいことがあるんだ。』

 なんだ……色々とガッカリした。

「聞きたいことですか?なんですか?」

『うん。君はどうやら、キルディアの友人のようだし、ジェーンとも付き合いが長いよね?』

「そうですね……キリーとはずっと一緒に働いてきたし、ジェーンとも、もうかれこれ半年以上は一緒にいますし。」

『そうだよね、そこでだ。ちょっとジェーンについて、教えて欲しい。彼はどんな人間なんだろうか?君はどれほど知っている?』

 え、過去から来たことは秘密にするとして、何から話そうか。私は考えながら答えた。

「どんな……えっとまず、キリーに対して並々ならぬ忠誠心を持っています。キリーが棒を投げれば、ジェーンはそれをキャッチして帰ってくると思います。因みに私が投げても無視ですけどね。あとは、ヤモリの唐揚げが好きで、よく昼休みにオフィスで食べているのを見かけます。あと……よくトイレに新聞を持って行きます。その時はお分かりですよね?長引きます!」

『う、うーん……。』

 何だか納得いっていないようだ。じゃあ違う部分を伝えようかな。

「それから合コンの時は綺麗なタキシードを着ていました。あれはボロビアのメーカーのだと思うので、一時期は家が無かったとはいえ、彼はちょっと財力ありますね。あのメーカーのスーツは、ただうちで働いてるだけじゃ買えないくらいに高級ですもん。キリーは分かってなかったけど。」

『ええ、合コンしたのかい?ふーん。』

 ボロビアのタキシードについて、「え!?それはお金持ちだね!」って突っ込んで欲しかったんだけど、さっきからチェイスの着眼点が見えないな。仕方あるまい、これも話そう。

「ジェーンの趣味的なことを言えば、そうですね、よく読書をしてます。魔工学とか、プログラムの。それから……ああ、これはみんな知っている事実ですけど、キリーと同じ部屋で暮らしています!出社する時も一緒で、帰宅する時も一緒。ね、仲良いでしょ?」

 これなら面白いだろう!私はニヤッとしながら、彼がこの話に乗ってくるのを待ったが、チェイスはそれどころか、顔を青ざめてしまった。おやおやおや、もしやもしや、これは私のモテ期ではなさそうだ。いやいやいや、嘘でしょ……。しかし彼は、更にその事が事実であるような質問を私にした。

『聞くけど、同じ部屋というのは、同じ家の同じ部屋ってことかい?それって、同棲ってこと?彼らは付き合っているの?恋人同士?』

 まずい、早くここを出て、アリスに連絡をしたい。チェイスの真剣な表情が更に拍車をかけている。にやけそうになる顔を必死に誤魔化しながら、私は答えた。

「それがですね、同棲って感じでもないんですよ!空き部屋がなくて一緒に住んでるだけって、本人たちは言ってる。それに何より、ここからです!ジェーンには奥さんが居るのです!だから二人は恋人じゃないってこと。キリーだって、元は騎士だったから、そんな泥沼の関係を望んでいないっぽいですね。でもそれもいつまで保つことか。」

 チェイスは目を見開いて、何度も頷いていた。

『そうなのかい!?そうか、彼は既婚……そうだったのか!』

「はい、そうですね。他は特に、あとは知ってると思うので。」

『うん、分かったよありがとう。それじゃあ、今からちょっと用事があるから、また連絡したい時にするよ。またね!』

「は、はーい。」

 私は画面のチェイスに手を振った。彼も私に手を振ってから、通話が終わった。もしかしてチェイスはキリーのことが?いや、そんなこと、状況を考えれば、絶対に違うとは分かるけど……。でもまあ、久々に人とこんなに会話したので、ちょっと変に楽しかった。

 PCを閉じた看守のおじさんが去って行ったところで、隣の独房から懸念の声が聞こえてきた。

「……そんなにジェーン様のことを話してしまって、よろしかったのでしょうか。」

「大丈夫だって。LOZに関することでは無かったでしょ?ジェーンとキリーが仲良いのなんか、新光騎士団も皆知ってる事実だもん。チェイスも改めてそれを知っただけ。大丈夫だよ。こんなの知ってどうするの。」

「しかし、ジェーン様がどこからきたとか、奥方様の存在が確認出来なければ感づかれるのでは?過去の文献に、ジェーン様が載っているかもしれない。」

「ああ、」私はため息まじりに答えた。「どう言う訳か、過去の文献には一切ジェーンのことは載っていないらしい。探るとか、やれるもんならやってみろだよ。」

「そうですか……。」

 そうなのだ。それはちょっと悲しい事実だ。だって、ジェーンが過去に帰って、情報をもみ消したと考えるのが、妥当だからだ。キリーもそれを知っている、と言うのを、いつかのお昼休みに話した。だからジェーンは帰るべき。

 チェイスよ、やれるもんならやってみろ。元帥のお前だって、時の流れに逆らえないのだ。なんてね。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...