LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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囚われのパリピ編

173 ラブ博士の提案

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私は兎に角、皆に聞いた。

「じゃあどうする。リン達を助けに行くLOZの人数を減らし、この地に待機させる?」

 ジェーンが首を振った。

「助けに行くなら人数は揃えるべきです。人数を減らすことも勿論考えたのですが、逆手にとられて救出部隊の殲滅も考えられます。チェイス側からしたら、我々が二手に戦力を割くのは分かっているはずで、リン達の周りは敵だらけと考えた方がいい。やはり、イスレ山に向かう部隊の人数は確保すべきだ。それに懸念すべきは互いの陣の位置です。施設もありますから、イスレ山の上に新光騎士団は陣取るでしょう。山の上に相手がいるということは、その麓に、のこのこやって来た我々の陣が丸見えということですから、我々は劣勢の状態から戦闘に入る。やはり気が抜けません。なるほどチェイス、流石です。」

 私は窓の向こうの、遠くの空を見つめた。褒めている場合なのか、ジェーンよ。それに何だこの状況は、チェイスめ、彼は本当にやりよる。そうだとは言っても、イスレ山に人数を割けば、アクロスブルーから新光騎士団の大軍が入ってきちゃうじゃないか。本当にどうすればいい?

 私もジェーンもアリスも思案顔になって考えていると、ラブ博士が静かな声で言った。

「……ボス。」

「ん?」私はラブ博士を見た。真剣な瞳と目が合った。

「……ここは俺、いや、私共に、ユークの防衛を任せて頂けないだろうか?」

「それは、アクロスブルーラインに付けられている、自警システムを使って、戦うってこと?」

「その通りです。既にアクロスブルーは私が主導したプロジェクトで完成した、遠隔制御可能の自警システムがあります。それを使い、私を始めとした技術班のみで、ユークを防衛することを許可してください。そしてリン達の救助に参加する兵の数を、一人でも多く、用意して頂きたいのです。どうか、お願いします。あの海底トンネルで、見えない敵を相手にする恐怖を、たんと味わせてやりたいのです。ああ、彼らの底知れぬ畏怖、怯えた顔を想像すると、今から笑いさえこみ上げてくる。くっくっ……。」

 ラブ博士は肩を震わせて笑いを堪えながら、深々と私に頭を下げていた。私は慌てて博士の肩を掴んで、頭を上げさせた。それにしても、一度に色々な感情の混ざった仕草だった。そのサイコパス的な思考も、さすがあの人に付いて行くことの出来る、数少ない人物である。

 そしてよく思えば私は、ラブ博士が人に頭を下げる姿は見たことが無かった。きっとそれほどの自信なのだろうし、博士が言うように、技術班のみでアクロスブルーを守ることが出来るのなら、我々救出部隊にとって、それほどいいことは無い。ジェーンが言うように、我々は劣勢からスタートするからだ。人数は必要だった。

「分かりました。ラブ博士達に、アクロスブルーを任せます。それから、私たちというのは主に、誰のこと?」

 私の問いに、ラブ博士は隣で立つアリスを指さした。アリスの顔が一気に引きつった。

「え!?私!?無理無理!」

「そうだ。お前、テストでいい動きをしていた。俺とお前がメインでコントロールをして、あとはタージュ博士やロケインにでも細かいサポートを頼んで、エストリーの技術部の力を借りれば事足りる。俺は組むならお前がいい。他に選択肢は無い。よって、お前にも拒否権は無い。」

「ええ~……」アリスは困った様子でため息をついた。「わ、分かりましたよ……博士もそう言ってくれているし、頑張ってみる。確かに、いつも皆が頑張っている姿を見ているだけだったから、今回はリンさんの為に、頑張る。」

 私はアリスに微笑んだ。

「そうか、ありがとうアリス。それにラブ博士もありがとう。そうとなればLOZポータルで連絡をしなければならない。スコピオ博士達も連絡を待っているだろうし。連絡をとったら、態勢が整い次第、救出に向かおう。」

 皆は頷いた。ラブ博士はPCを脇に抱えて部屋を後にした。アリスも付いていくのかと思いきや、彼女は私の方を振り返って、話しかけて来た。

「あ、そうだ。チェイスのことを聞いた?」

「何?分からない。何かあったの?」

 私はアリスに聞いた。アリスは唇を曲げて、難しい表情をした。

「ほら~、この前さ、ネビリス皇帝がニュースで帝都民に対して、税率をあげたり徴兵したり、色々と噂があったでしょ?あれ、本当に実行されるらしいよ。」

 私は驚いて絶句した。そしてジェーンも驚いた様子で、顎を撫でながら言った。

「そうでしたか……すっかり私は、チェイスによるフェイクニュースだったのかと想定していたのですが。それは実行される、と言うことは真実になったのですね。」

「うん。そして、その案を出したのはチェイスだし、その案を実行に移す決定を下したのもチェイスらしいよ。」

 彼はそんなことをする人だったのだろうか?いやしかし、ジェーンを殺す寸前まで痛めつけたこともある。でも……。私はアリスに聞いた。

「それは本当?チェイスが?」

「本当だって!」アリスが頬を膨らまして答えた。「記事を見たら、チェイスが執行人になってたもん!だからあれは、ネビリス皇帝が勝手にして困っている風だったけど、本当は自分の案で、フェイクに見せかけて本当に実行するつもりだったんだよ!それ程に、お金も人も必要だったんじゃ無いの?全く、信じられないことするよね!」

「そ、そっか。」

 人とは分からないものだ。優しそうに見えた人が、実は酷い性格の持ち主だったりする。あるいは、いつも挨拶を無視する人が、意外にも迷子を助けたりする。陽陰あるのが人の心なんだろうが、チェイスにもまた、影の部分があったのか。そしてその影は、ネビリスに呼応している。染まってしまったのだろうか。

 無言になっていると、ガラッと病室のドアが開いた。ラブ博士だった。

「おいアリス!ちゃんとついてこい!時間が無いぞ!」

「あ!ごめんなさーい行きまーす!じゃあね、キリー、ジェーン。」

 私とジェーンはアリスに手を振った。それから彼女がこの部屋からいなくなると、ジェーンはベッドのそばに置いてあった椅子に座った。私はジェーンに、今の自分の気持ちを素直に伝えた。

「チェイスが……まさか、そこまでする人だったとは。」

「彼の本意かどうかまでは分かりません。彼は果たして本当に、民の信頼を裏切るようなことをする人間なのか。一度こちらを裏切ってはいますが、そもそも我々は帝国にとって敵です。敵に嘘をつくのは帝国を守る為と言えます。しかし……これは民を裏切る行為です。そこまでしないと本当に帝国は守れないのか、いえ、チェイスならもっと違う方法を考えたのではと、私は思いますが……確か、ネビリス皇帝は、あなたに対しては兵の家族を使い、脅しをかけて来たとか?以前、レジスタンスのテントで私にそう言いましたね?」

 私は頷いた。

「私が騎士団長の時はそうだった。彼は、目的の為なら手段を選ばない人間だ。手を回して、自己の目的を達成しようとする。チェイスもそれに巻き込まれているのかな。でも、もしこれが本当だったらと考えると、とても恐ろしい人が、とても恐ろしい人と、手を組んだだけの話だとも思える。」

「ふむ、あなたの意見にも一理あります。人の内面を完全に理解する者は、この世に存在しませんからね。まあ、考えても仕方ありません。今はユークのことはスローヴェンに任せるとして、我々はイスレ山の収容施設のことを考えましょう。」

「そうだね、LOZの皆とも話し合おう。」

 私とジェーンは彼のPCを使って、LOZのポータルを起動して、オンラインの会議をすることになった。リン達を救わなければ。その為に、全力をかける。
 
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