LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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作戦が大事!アクロスブルー編

155 全ては彼を超える為

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 あれから一週間が過ぎた。季節はもうすっかり秋で、それでも日差しが強いので半袖のままだ。毎日、毎晩、僕は前職場である帝国研究所に入り浸っている。それは新型の兵器……それも厳しい自然保護条約をやっとの事で乗り越えたものを開発しているからだ。

 これで、ジェーンを超えられる。久しぶりにコーヒーを飲んでチョコを食べると、口の周りにヒゲが生えていることに気付いた。

「ああ、いつからだろう。」

 身だしなみも忘れて僕は研究に没頭していたんだ。何だか一気に力が抜けるような感じがして、研究室の白いソファに頭から突っ込んだ。バフっと少しだけ埃が舞った。

 全ては次の戦いで絶対にLOZを負かす為。布石もちゃんと用意した。あれが作用すれば、僕らは盤石の構えで、戦いに挑むことが出来るだろう。これが陛下の意味していることなのかは定かではないが、結果的に彼らに勝てばいいのだ。

 僕らが勝てば……彼女はどうなるだろうか。ギルバートと同一人物だった彼女は、色々な罪できっと極刑になるだろう。その時に、僕の権力で彼女を生かすことが出来るだろうか。

「ああまた、いけない。」

 僕はまた雑念に支配されそうになった。そんなものに支配されるのはお風呂に入っている時だけでいい。今の僕の幸せは、考え事をしながら熱いお風呂に入ることだ。僕は気を引き締め直して、身体を起こし、大きく息を吐いた。

「よし……やるか。」

 僕はまた作業台の方へと向かった。ずっと椅子に座りっぱなしで腰が痛いけれど、防塵マスクとゴーグルを付けて、その装置の制作に取り掛かった。全ては勝つ為。それしか、残念なことに僕が生きる方法が無い。あと少しだ、あと少し頑張ろう。

*********

 タージュ博士からグラタンを頂いた日の翌日、ジェーンはちゃんと博士に謝ってくれたようだ。ジェーンの話によると話をした直後、タージュ博士は「なんで!?どうして!?」と、やはり気が動転していたようだが、そのうち訳を話していくうちに諦めたのか、「分かりました」と納得してくれたらしい。どんな訳を話したのかは、教えてくれないのが怖い。

 そしてアイリーンさんだが、敢えて黙っていようとジェーンと決めたものの、彼女からは連絡が来なくなったようだ。彼女はウォルズ社に来ているようだから、まあその内会えるだろうと私は放っておくことにした。

 それから毎日、私はいつも以上に調査部の皆との鍛錬の時間を持つようになった。その他にも、ユークに居るLOZの皆と合同で訓練することも増えた。いつ何時、また戦いがあるか分からない。世界は二分されたのだ。

 そして今も、私は研究所内の訓練室でクラースさん達と擬似戦闘を行っている。

「どうした!?その程度の速さでは見切られるぞ、相手に隙を与えるな!」

「……じゃあこれはどうです!」

 私はジェーンの作ってくれた新型アームで剣を握り、クラースさんが振ってきた戟を打ち落とそうとしたが、思ったよりも力が入ってしまい、クラースさんの戟が吹き飛んでしまった。

 この新型アーム、力を込めればトラックのようなパワーが出るのだ。私はまたやってしまったと歯を食いしばり、クラースさんは肩をガクッとさせながら戟を拾いに行った。

「キリー。なるべく新型アームの力を頼るなと言っただろう。それがあって当たり前だと思うな。」

 私は膝に手をついて、肩で息をした。額から垂れた汗が、床にぽたっと落ちた。

「……分かった。はあ、ちょっと休憩しよう。」

「これしきで疲れていて、実戦はどうなる?ヴァルガに勝てるのか?」

「何も、ヴァルガと三時間ずっとは戦わないでしょう。無理して怪我をしても良くない、少し休んだら、また戻るから。」

「そうか、それではロケイン。」

 鍛錬場のボットと戦闘をしていたロケインが呼ばれ、クラースさんの居るリングの中に入った。このリング内で戦闘をすることで、吹き飛ばされてもリングに跳ね返されて、壁に穴が開かなくて済むので、全力で戦える。

 私はリングから降りると、置いてあったスポーツドリンクを飲んだ。ずっと動きっぱなしだったから、肩が熱を持っているように熱く、全身の汗がすごい。だが、ハードな鍛錬のおかげで、身体が少しづつ、更にむきむきになってきた気がする。

 訓練場内にある全身鏡の前に行った私は、自分の汗と傷まみれのムキムキボディを見て、こりゃもうお嫁には行けないやと、諦めの笑いを作った。まあ、当分は行くつもりもないが。

 その時だった。クラースさんとロケインが戦っている激しい音の中で、コココンと訓練場のドアが叩かれた音が聞こえたような気がした。しかもこの叩き方は……

「あ、ジェーン。」

「はい私です。おや、今日も相変わらず汗だくですね。」

 研究所の白衣姿のジェーンは、タンクトップとカーゴパンツ姿のムキムキな私を見た。ちょっと恥ずかしい気持ちがあるのが、自分で許せなくて、私はツンとした態度でジェーンに聞いた。

「何?なんか用なの?」

「おやおや怖い。いえ実は、ずっと構想を練っていた例の物、設計図が纏まりまして、しばしそのアームを私にお貸しください。」

 え?これは完成形じゃなかったのか?私は戸惑いながらも右手を外して、ジェーンに渡し、そして聞いた。

「もっと改良するの?」

「はい、とても改良します。」

 まさか、と私は頭をかいた。

「……正直、砲撃はもう遠慮したいんだけど。」

「はい。その機能はもう付けません。代替的に他のパーツを付けます。しかし重さはそれほど変わりません。完成したらこちらに持ってきます。それでは失礼します。」

「あ、はい。」

 私がドアを閉める瞬間に、ジェーンが私にウィンクをしたのが見えた。そろそろその奇妙な仕草を注意すべきだろうか。まあいいか、少しだけ可愛い。

 私は片手の状態で、左手で剣を持って、訓練ボットのリングに上がると、戦闘訓練を開始した。

「ああ!」ロケインの叫び声が聞こえた。「一本取られました!」

「惜しいなロケイン、ただ押すだけではない、引く戦い方も必要だ。しかしだいぶ良くなってきたぞ!」

 隣の二人に負けていられない、ヴァルガにだって。私は思いっきり剣を振った。

*********

 
 遂に完成した。長かった。僕は作業台の上にある、出来上がった魔工学の結晶を眺めながらソファに座り込んだ。

「ああ~。やっと、やっと出来たぁ……!」

 脱力していると突然、ノックも無しに帝国研究所の職員が、僕の研究室に入ってきた。僕は色んな意味でビックリしたが、訳を聞いて納得した。

「すみません、クーパー様。陛下がお見えです。」

「え、ああ、ああ。」

 ちょっと、このときぐらい休ませてくれよ~……と内心クタクタだった。もし僕の思っていることを、そのまま話してしまう機械があったら、僕はもうとっくに終わってるだろう。そんなものが無くて、この世に感謝した。僕はソファから立ち上がって、すぐに入室したネビリス皇帝に頭を下げた。

「久しぶりだな、チェイス。何、これを作っていたのか?兵器にしては手のひらサイズで小さいが、見た目よりも、随分と重いな。」

 陛下は作業台の上に置いてあった僕の機械を手で触りながら言った。手のひらサイズとか言う人なんだと笑いそうになったが、真顔で乗り切った僕は、陛下の隣へ行き、説明をした。

「その小ささではあまり想像出来ないかもしれませんが、確かな威力があります。これは将来の帝国の光となるでしょう。」

「そうか……」陛下はそれを台の上に置き、僕を見た。「そろそろ、動きたいと思っているが、それはどうなっている?」

「その件に関しましても、準備が進んでおります。あとはヴァルガ騎士団長とギルドのお力も拝借したいのですが。」

「分かった。俺からもヴァルガ達に言っておこう。その件について、今から話せるか?」

 そう言って陛下はソファに座った。僕も正面の席に座る。何も今ここで話さなくてもいいのにと思ったが、仕方なく僕は陛下と次の戦いについて話すことになった。
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