LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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試行錯誤するA君編

148 AとG

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「え?あの、ジェーン様!俺です!あなたの隣に居たのは!」

 確かに、そのふざけた面には見覚えがあり過ぎる。私はホワイトボードを綺麗にし終えたので、遠慮せずにその場から立ち去ろうとしたが、スコピオに腕を掴まれてしまった。キルディアはと言うと、テーブルの所でマクレガーとゲイルと何か魚の話をしている。しまった、一人で考えすぎた。

「待ってよジェーン様、どうして?おかしいじゃないですか!キルディアに聞きましたよ、何でも俺のこと、着拒にしてるって本当ですか!?」

 ああ、真に面倒臭い。

「ああ、それは事実ですが何か?」

「な~ん!何か?じゃないですよ!大事な話があるって言ってるのにさ!」

「どうせ、」私はため息交じりに言った。「火山の話か、火山測定装置についての話でしょう?その件ならメールの方が効率的ですし、設計図のやり取りで、話は完結しております。これ以上、何が大事なものですか。」

「ええ!?まあそう言われちゃあアレだけども……でもコミュニケーションって大事なんですよ?人間、やっぱり触れ合いが大事です。俺だって恋人に愛情表現は欠かした事ない。ジェーン様はどうですか?やっぱり研究に没頭すると、奥さんのこと放って置いたりしちゃったんじゃないですか?イッテェ!」

 おお、痛そうに顔を歪めている。それもそうか、私が彼の足を踏んづけているのだから。しかしスコピオには恋仲が居たのか。

「くだらないことばかり言っていないで、その恋人とやらと関係を深めればよろしいではありませんか。何故私なのです。」

「好きだからです。ジェーン様のことが、好きです!愛しております!」

 ふと、会議室が静まり返ったが、残念なことに、全員まだこの場に居る。……キルディアがワザとマクレガーとひそひそ話を始めたのが見えた。そうやって私をからかうのも、知り合ったばかりのマクレガーとあんなにくっついているのも、許せない。

 どうして私は、スコピオやアイリーンに、愛してるなどという言葉を投げつけられなければならない。それは、出来ればキル……いけない。いけない!そんなことを言われては、私はたまらなくなる。

「スコピオ、私はもう疲れました。少し、一人で景色を眺める時間をください。」

「ええ~じゃあ付き合いますよ。」と、彼は私に付いてきてしまった。こうまで言葉の通じない人間は、リン以外にこの男しか居ない。窓の外を見た。夕暮れの太陽が、海も街も、輝く橙色に染めている。誰か教えて欲しい。あれと同じものを、私はこの胸に抱いてもいいのだろうか。

「ジェーン様、チャンスを下さいよ。」

「煩いですね、景色を眺めていると言うのに。」

「だって、着拒はキツイです……それにジェーン様はいつ帰るのか、帰ったらもう二度とお話し出来ないんですよ?寂しいじゃないですか。キルディアだって、寂しいに決まってる!なあ、同居してるんでしょう?」

 はあ、何か、条件を付けないと、本当にずっと私の隣に居座りそうだ。私はすぐにでも彼女と話をしたいのに。仕方ない、私は条件を出した。

「ではあなたに、着拒解除のチャンスを与えましょう。この問題について、的確な答えを導き出してください。」

「はいはい!」スコピオが無垢な笑顔を私に向けた。「着拒解除してくれるなら、それ以上の幸せはないです!自然科学から魔工学まで何なりと!あ、でも古文は無理です。アレで人生挫折しました。それ以外なら俺に解けない問題は無い!」

「そうですか、それは頼りになります。それでは問題です。ある人が、仮にAとしましょうか、Aはとても大事に思っている、仮にGという存在が居ます。Aは不器用な人間ですから、Gがどうすれば幸せになるのか、どうすればGの本心を知ることが出来るのか、はたまたどうすればGが喜ぶのか、全く分かりません。それをAはどのようにして、Gに内緒で調べれば良いのでしょうか?またGは、Aと将来、共にいることを望んでいません。それは確かです。さあ、答えをどうぞ。」

「あー難問ですね~……」スコピオは苦い顔をして、頭を掻きむしりながら考えている。「うーん、兎に角、考えを整理しましょうよ、ジェーン様。AはGが大切だから、何かサプライズをしたいんですね?でもAは不器用なんです、更にその上、Gは将来Aと居ることを望んでいないときたもんだ。こりゃGのAに対する気持ちには、望みが薄いですね。イッテェ!」

「ごめんなさい、わざとではありません。」

 嘘です。わざとです。あなたがふざけたことを言うから、足を踏んでしまいました。

「ま、まあ大丈夫です……続きを考えましょ!でもAはGがどうしたら幸せになるのか考えてるんですよ。Gに内緒で調べるのは難しいな、でもそうか!Gの背景を知れば良いんですよ!」

「背景ですか?」

「そうそう!Gはどこの出身ですか?」

「……インジアビスです。」

「ええ!?」スコピオが戸惑いの表情を見せた。「よりにもよってそこ!?情報なさすぎる……だったら!インジアビスの人間に、どうやったら相手が喜ぶサプライズが出来るか聞くんですよ!それをGにやってあげたら、GだってAと一緒に居たくなるかも知れない。あとはそうですね、環境から攻めるとか。」

「環境からですか?」悔しいことに、私はメモがしたい。

「そうですよ!邪道かも知れないけど、俺が居ないとお前は生きていけないって状態にするんですよ。例えば、Gの家族と仲良くするとか、Aがめっちゃ美味しい料理を作るとか!そしたら、その人の料理また食べたいじゃ無いですか!男が胃袋掴まれるって、あれ本当だと思います。あとは、寝る前に超心地のいい子守唄歌うとか、そしたらその心地よさの虜になるかもしれないし!だからA子ちゃんも別にさ、G君の本心なんか探らなくて良いんですよ!他人の本心なんか、全て分かる人間なんて居ませんよ!相手を変えるんじゃなくて、自分が出来ることで、相手に尽くせば良いんですよ!何か、俺、間違ったこと言いました?ジェーン様、変な顔してる。」

「いえ……」私は眼鏡をかけ直した。「あなたの意見は参考になります。ですが、何故、A子ちゃんと……?」

「え?違うの?兎に角、そうすればきっとG君もA子ちゃんと、一緒に居たくなりますって!ほらジェーン様だって、今は別に俺なんか必要ないかも知れないけど、俺がもし途轍もない発明をしたら、一緒に居て見聞深めたいって思うようになるでしょう?未来は変えられる、思考は現実になる、それは真実です!これでどうだ、着拒解除してくれます?はは!」

「少々自己啓発の匂いがしますが、よしとしましょう。「ああ良かった!」その結果によって、着拒の解除を検討します。それでは。」

「えっ?その結果って何……?」

 疑問の残るスコピオを置いて、私はその場を去り、急いで会議室から出た。スコピオの意見は、意外と的を得ているようだ。サプライズに、環境から攻める、か。私が挑戦しても良いだろう。

 私は廊下の端まで早歩きで移動し、窓際でウォッフォンの通話をかけた。プツ、プツ、と電波が途切れる音がするが、無事に回線は繋がった。

『お?これは誰だ……ジェーン、ああ、あのスプスタンツィオナリ「お疲れ様です、ジェーンと申します。ベルンハルト様でしょうか?」

『そうだが?どうした、我が友よ。そうか、これはこの地だけでなく、地上とも通話が出来るのか。』

「そうですね。一つお伺いしたいことが。」

『なんだ、何が知りたい?』

「インジアビスには、何か伝統的な……お祝いの仕方と言いますか、サプライズの方法がありますか?私はそれが知りたいのです。」

『ふむ。伝統の祝いの方法は無い。』

 無いか、ならば、地上での一般的な慣習を取り入れるしか、そう考えた時に、ベルンハルトが付け足した。

『だが、我らの好物がある。』

「好物、ですか?それは?」私の目が見開いた。

『二つある、人の生き血に、牛の生き血だ。特に牛の方を好む者は多し。あれに勝るものはこの世に無し。魔族に牛の血、猫にマタタビ、同列だと考えられる。それが狭間の者であっても、我らの血を受け継ぐ者であるならば、やはり牛の生き血は、何物にも代え難いだろう。んほほ……。』

 ベルンハルトの話し方が、やや優しげを帯びている。それほどに好物のようだ。なるほど、しかしそれは、キルディアにも当てはまるのだろうか。だが、彼女がインジアビスで、牛の生き血が好きだと言っていたことを思い出した。これはいい手段を得た。しかし、そうだとしても、どのように入手を……?私は歯を食いしばった。

「それは地上でも手に入るのでしょうか?」

『肉屋に行けば入手出来るだろう。それを求める者、地上にも多し。肉屋で入手出来ると、我は耳にした経験あり。だが、一つ気をつけるべきことがある。』

「それは、何ですか?」

『……、やはり、それはそなたが、その目で確かめるべき事だ。』

 ん?何故話すことを躊躇ためらうのだ?

「危険なことなのですか?副作用が強い、でしたり。」

『いや、そのような事はない。ただの美味しい、飲み物なり。飲み過ぎは確かに、身体に悪いだろうが。それは他の飲み物にも言える。だが、この通話気に入った。そなたは我の息子なり。』

「いえ、そうなると私がキルディアの兄になってしまうので、結構です。どうもありがとうございました。それではまた。」

『ああ、また。』

 通話が終了した。これで材料は揃った。あとは彼女には家族が居らず、私は料理の技術が無いので胃袋を掴む事も出来ないが、子守唄を歌ってキルディアに安らぎを与えることだけは行い、牛の血を彼女に贈れば、我々の距離はもっと縮まるだろう。

 すると背後で、足音がした。振り返ると、キルディアが立っていた。

「ちょっと、ここで何してたの?皆帰るっていうしさ、最後に挨拶だけしよう?」

「はい、向かいます。」

 私は彼女の隣を歩いた。

「で、何してたの?あんなところで。」

「通話です、ベルンハルト様と。」

「え?あ?まあ、そうだったんだ……。」

 彼女はそれ以上何も聞かなかった。私は帰りに、例の飲み物を購入することを決めた。
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