148 / 253
試行錯誤するA君編
148 AとG
しおりを挟む
「え?あの、ジェーン様!俺です!あなたの隣に居たのは!」
確かに、そのふざけた面には見覚えがあり過ぎる。私はホワイトボードを綺麗にし終えたので、遠慮せずにその場から立ち去ろうとしたが、スコピオに腕を掴まれてしまった。キルディアはと言うと、テーブルの所でマクレガーとゲイルと何か魚の話をしている。しまった、一人で考えすぎた。
「待ってよジェーン様、どうして?おかしいじゃないですか!キルディアに聞きましたよ、何でも俺のこと、着拒にしてるって本当ですか!?」
ああ、真に面倒臭い。
「ああ、それは事実ですが何か?」
「な~ん!何か?じゃないですよ!大事な話があるって言ってるのにさ!」
「どうせ、」私はため息交じりに言った。「火山の話か、火山測定装置についての話でしょう?その件ならメールの方が効率的ですし、設計図のやり取りで、話は完結しております。これ以上、何が大事なものですか。」
「ええ!?まあそう言われちゃあアレだけども……でもコミュニケーションって大事なんですよ?人間、やっぱり触れ合いが大事です。俺だって恋人に愛情表現は欠かした事ない。ジェーン様はどうですか?やっぱり研究に没頭すると、奥さんのこと放って置いたりしちゃったんじゃないですか?イッテェ!」
おお、痛そうに顔を歪めている。それもそうか、私が彼の足を踏んづけているのだから。しかしスコピオには恋仲が居たのか。
「くだらないことばかり言っていないで、その恋人とやらと関係を深めればよろしいではありませんか。何故私なのです。」
「好きだからです。ジェーン様のことが、好きです!愛しております!」
ふと、会議室が静まり返ったが、残念なことに、全員まだこの場に居る。……キルディアがワザとマクレガーとひそひそ話を始めたのが見えた。そうやって私をからかうのも、知り合ったばかりのマクレガーとあんなにくっついているのも、許せない。
どうして私は、スコピオやアイリーンに、愛してるなどという言葉を投げつけられなければならない。それは、出来ればキル……いけない。いけない!そんなことを言われては、私は堪らなくなる。
「スコピオ、私はもう疲れました。少し、一人で景色を眺める時間をください。」
「ええ~じゃあ付き合いますよ。」と、彼は私に付いてきてしまった。こうまで言葉の通じない人間は、リン以外にこの男しか居ない。窓の外を見た。夕暮れの太陽が、海も街も、輝く橙色に染めている。誰か教えて欲しい。あれと同じものを、私はこの胸に抱いてもいいのだろうか。
「ジェーン様、チャンスを下さいよ。」
「煩いですね、景色を眺めていると言うのに。」
「だって、着拒はキツイです……それにジェーン様はいつ帰るのか、帰ったらもう二度とお話し出来ないんですよ?寂しいじゃないですか。キルディアだって、寂しいに決まってる!なあ、同居してるんでしょう?」
はあ、何か、条件を付けないと、本当にずっと私の隣に居座りそうだ。私はすぐにでも彼女と話をしたいのに。仕方ない、私は条件を出した。
「ではあなたに、着拒解除のチャンスを与えましょう。この問題について、的確な答えを導き出してください。」
「はいはい!」スコピオが無垢な笑顔を私に向けた。「着拒解除してくれるなら、それ以上の幸せはないです!自然科学から魔工学まで何なりと!あ、でも古文は無理です。アレで人生挫折しました。それ以外なら俺に解けない問題は無い!」
「そうですか、それは頼りになります。それでは問題です。ある人が、仮にAとしましょうか、Aはとても大事に思っている、仮にGという存在が居ます。Aは不器用な人間ですから、Gがどうすれば幸せになるのか、どうすればGの本心を知ることが出来るのか、はたまたどうすればGが喜ぶのか、全く分かりません。それをAはどのようにして、Gに内緒で調べれば良いのでしょうか?またGは、Aと将来、共にいることを望んでいません。それは確かです。さあ、答えをどうぞ。」
「あー難問ですね~……」スコピオは苦い顔をして、頭を掻き毟りながら考えている。「うーん、兎に角、考えを整理しましょうよ、ジェーン様。AはGが大切だから、何かサプライズをしたいんですね?でもAは不器用なんです、更にその上、Gは将来Aと居ることを望んでいないときたもんだ。こりゃGのAに対する気持ちには、望みが薄いですね。イッテェ!」
「ごめんなさい、わざとではありません。」
嘘です。わざとです。あなたがふざけたことを言うから、足を踏んでしまいました。
「ま、まあ大丈夫です……続きを考えましょ!でもAはGがどうしたら幸せになるのか考えてるんですよ。Gに内緒で調べるのは難しいな、でもそうか!Gの背景を知れば良いんですよ!」
「背景ですか?」
「そうそう!Gはどこの出身ですか?」
「……インジアビスです。」
「ええ!?」スコピオが戸惑いの表情を見せた。「よりにもよってそこ!?情報なさすぎる……だったら!インジアビスの人間に、どうやったら相手が喜ぶサプライズが出来るか聞くんですよ!それをGにやってあげたら、GだってAと一緒に居たくなるかも知れない。あとはそうですね、環境から攻めるとか。」
「環境からですか?」悔しいことに、私はメモがしたい。
「そうですよ!邪道かも知れないけど、俺が居ないとお前は生きていけないって状態にするんですよ。例えば、Gの家族と仲良くするとか、Aがめっちゃ美味しい料理を作るとか!そしたら、その人の料理また食べたいじゃ無いですか!男が胃袋掴まれるって、あれ本当だと思います。あとは、寝る前に超心地のいい子守唄歌うとか、そしたらその心地よさの虜になるかもしれないし!だからA子ちゃんも別にさ、G君の本心なんか探らなくて良いんですよ!他人の本心なんか、全て分かる人間なんて居ませんよ!相手を変えるんじゃなくて、自分が出来ることで、相手に尽くせば良いんですよ!何か、俺、間違ったこと言いました?ジェーン様、変な顔してる。」
「いえ……」私は眼鏡をかけ直した。「あなたの意見は参考になります。ですが、何故、A子ちゃんと……?」
「え?違うの?兎に角、そうすればきっとG君もA子ちゃんと、一緒に居たくなりますって!ほらジェーン様だって、今は別に俺なんか必要ないかも知れないけど、俺がもし途轍もない発明をしたら、一緒に居て見聞深めたいって思うようになるでしょう?未来は変えられる、思考は現実になる、それは真実です!これでどうだ、着拒解除してくれます?はは!」
「少々自己啓発の匂いがしますが、よしとしましょう。「ああ良かった!」その結果によって、着拒の解除を検討します。それでは。」
「えっ?その結果って何……?」
疑問の残るスコピオを置いて、私はその場を去り、急いで会議室から出た。スコピオの意見は、意外と的を得ているようだ。サプライズに、環境から攻める、か。私が挑戦しても良いだろう。
私は廊下の端まで早歩きで移動し、窓際でウォッフォンの通話をかけた。プツ、プツ、と電波が途切れる音がするが、無事に回線は繋がった。
『お?これは誰だ……ジェーン、ああ、あのスプスタンツィオナリ「お疲れ様です、ジェーンと申します。ベルンハルト様でしょうか?」
『そうだが?どうした、我が友よ。そうか、これはこの地だけでなく、地上とも通話が出来るのか。』
「そうですね。一つお伺いしたいことが。」
『なんだ、何が知りたい?』
「インジアビスには、何か伝統的な……お祝いの仕方と言いますか、サプライズの方法がありますか?私はそれが知りたいのです。」
『ふむ。伝統の祝いの方法は無い。』
無いか、ならば、地上での一般的な慣習を取り入れるしか、そう考えた時に、ベルンハルトが付け足した。
『だが、我らの好物がある。』
「好物、ですか?それは?」私の目が見開いた。
『二つある、人の生き血に、牛の生き血だ。特に牛の方を好む者は多し。あれに勝るものはこの世に無し。魔族に牛の血、猫にマタタビ、同列だと考えられる。それが狭間の者であっても、我らの血を受け継ぐ者であるならば、やはり牛の生き血は、何物にも代え難いだろう。んほほ……。』
ベルンハルトの話し方が、やや優しげを帯びている。それほどに好物のようだ。なるほど、しかしそれは、キルディアにも当てはまるのだろうか。だが、彼女がインジアビスで、牛の生き血が好きだと言っていたことを思い出した。これはいい手段を得た。しかし、そうだとしても、どのように入手を……?私は歯を食いしばった。
「それは地上でも手に入るのでしょうか?」
『肉屋に行けば入手出来るだろう。それを求める者、地上にも多し。肉屋で入手出来ると、我は耳にした経験あり。だが、一つ気をつけるべきことがある。』
「それは、何ですか?」
『……、やはり、それはそなたが、その目で確かめるべき事だ。』
ん?何故話すことを躊躇うのだ?
「危険なことなのですか?副作用が強い、でしたり。」
『いや、そのような事はない。ただの美味しい、飲み物なり。飲み過ぎは確かに、身体に悪いだろうが。それは他の飲み物にも言える。だが、この通話気に入った。そなたは我の息子なり。』
「いえ、そうなると私がキルディアの兄になってしまうので、結構です。どうもありがとうございました。それではまた。」
『ああ、また。』
通話が終了した。これで材料は揃った。あとは彼女には家族が居らず、私は料理の技術が無いので胃袋を掴む事も出来ないが、子守唄を歌ってキルディアに安らぎを与えることだけは行い、牛の血を彼女に贈れば、我々の距離はもっと縮まるだろう。
すると背後で、足音がした。振り返ると、キルディアが立っていた。
「ちょっと、ここで何してたの?皆帰るっていうしさ、最後に挨拶だけしよう?」
「はい、向かいます。」
私は彼女の隣を歩いた。
「で、何してたの?あんなところで。」
「通話です、ベルンハルト様と。」
「え?あ?まあ、そうだったんだ……。」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。私は帰りに、例の飲み物を購入することを決めた。
確かに、そのふざけた面には見覚えがあり過ぎる。私はホワイトボードを綺麗にし終えたので、遠慮せずにその場から立ち去ろうとしたが、スコピオに腕を掴まれてしまった。キルディアはと言うと、テーブルの所でマクレガーとゲイルと何か魚の話をしている。しまった、一人で考えすぎた。
「待ってよジェーン様、どうして?おかしいじゃないですか!キルディアに聞きましたよ、何でも俺のこと、着拒にしてるって本当ですか!?」
ああ、真に面倒臭い。
「ああ、それは事実ですが何か?」
「な~ん!何か?じゃないですよ!大事な話があるって言ってるのにさ!」
「どうせ、」私はため息交じりに言った。「火山の話か、火山測定装置についての話でしょう?その件ならメールの方が効率的ですし、設計図のやり取りで、話は完結しております。これ以上、何が大事なものですか。」
「ええ!?まあそう言われちゃあアレだけども……でもコミュニケーションって大事なんですよ?人間、やっぱり触れ合いが大事です。俺だって恋人に愛情表現は欠かした事ない。ジェーン様はどうですか?やっぱり研究に没頭すると、奥さんのこと放って置いたりしちゃったんじゃないですか?イッテェ!」
おお、痛そうに顔を歪めている。それもそうか、私が彼の足を踏んづけているのだから。しかしスコピオには恋仲が居たのか。
「くだらないことばかり言っていないで、その恋人とやらと関係を深めればよろしいではありませんか。何故私なのです。」
「好きだからです。ジェーン様のことが、好きです!愛しております!」
ふと、会議室が静まり返ったが、残念なことに、全員まだこの場に居る。……キルディアがワザとマクレガーとひそひそ話を始めたのが見えた。そうやって私をからかうのも、知り合ったばかりのマクレガーとあんなにくっついているのも、許せない。
どうして私は、スコピオやアイリーンに、愛してるなどという言葉を投げつけられなければならない。それは、出来ればキル……いけない。いけない!そんなことを言われては、私は堪らなくなる。
「スコピオ、私はもう疲れました。少し、一人で景色を眺める時間をください。」
「ええ~じゃあ付き合いますよ。」と、彼は私に付いてきてしまった。こうまで言葉の通じない人間は、リン以外にこの男しか居ない。窓の外を見た。夕暮れの太陽が、海も街も、輝く橙色に染めている。誰か教えて欲しい。あれと同じものを、私はこの胸に抱いてもいいのだろうか。
「ジェーン様、チャンスを下さいよ。」
「煩いですね、景色を眺めていると言うのに。」
「だって、着拒はキツイです……それにジェーン様はいつ帰るのか、帰ったらもう二度とお話し出来ないんですよ?寂しいじゃないですか。キルディアだって、寂しいに決まってる!なあ、同居してるんでしょう?」
はあ、何か、条件を付けないと、本当にずっと私の隣に居座りそうだ。私はすぐにでも彼女と話をしたいのに。仕方ない、私は条件を出した。
「ではあなたに、着拒解除のチャンスを与えましょう。この問題について、的確な答えを導き出してください。」
「はいはい!」スコピオが無垢な笑顔を私に向けた。「着拒解除してくれるなら、それ以上の幸せはないです!自然科学から魔工学まで何なりと!あ、でも古文は無理です。アレで人生挫折しました。それ以外なら俺に解けない問題は無い!」
「そうですか、それは頼りになります。それでは問題です。ある人が、仮にAとしましょうか、Aはとても大事に思っている、仮にGという存在が居ます。Aは不器用な人間ですから、Gがどうすれば幸せになるのか、どうすればGの本心を知ることが出来るのか、はたまたどうすればGが喜ぶのか、全く分かりません。それをAはどのようにして、Gに内緒で調べれば良いのでしょうか?またGは、Aと将来、共にいることを望んでいません。それは確かです。さあ、答えをどうぞ。」
「あー難問ですね~……」スコピオは苦い顔をして、頭を掻き毟りながら考えている。「うーん、兎に角、考えを整理しましょうよ、ジェーン様。AはGが大切だから、何かサプライズをしたいんですね?でもAは不器用なんです、更にその上、Gは将来Aと居ることを望んでいないときたもんだ。こりゃGのAに対する気持ちには、望みが薄いですね。イッテェ!」
「ごめんなさい、わざとではありません。」
嘘です。わざとです。あなたがふざけたことを言うから、足を踏んでしまいました。
「ま、まあ大丈夫です……続きを考えましょ!でもAはGがどうしたら幸せになるのか考えてるんですよ。Gに内緒で調べるのは難しいな、でもそうか!Gの背景を知れば良いんですよ!」
「背景ですか?」
「そうそう!Gはどこの出身ですか?」
「……インジアビスです。」
「ええ!?」スコピオが戸惑いの表情を見せた。「よりにもよってそこ!?情報なさすぎる……だったら!インジアビスの人間に、どうやったら相手が喜ぶサプライズが出来るか聞くんですよ!それをGにやってあげたら、GだってAと一緒に居たくなるかも知れない。あとはそうですね、環境から攻めるとか。」
「環境からですか?」悔しいことに、私はメモがしたい。
「そうですよ!邪道かも知れないけど、俺が居ないとお前は生きていけないって状態にするんですよ。例えば、Gの家族と仲良くするとか、Aがめっちゃ美味しい料理を作るとか!そしたら、その人の料理また食べたいじゃ無いですか!男が胃袋掴まれるって、あれ本当だと思います。あとは、寝る前に超心地のいい子守唄歌うとか、そしたらその心地よさの虜になるかもしれないし!だからA子ちゃんも別にさ、G君の本心なんか探らなくて良いんですよ!他人の本心なんか、全て分かる人間なんて居ませんよ!相手を変えるんじゃなくて、自分が出来ることで、相手に尽くせば良いんですよ!何か、俺、間違ったこと言いました?ジェーン様、変な顔してる。」
「いえ……」私は眼鏡をかけ直した。「あなたの意見は参考になります。ですが、何故、A子ちゃんと……?」
「え?違うの?兎に角、そうすればきっとG君もA子ちゃんと、一緒に居たくなりますって!ほらジェーン様だって、今は別に俺なんか必要ないかも知れないけど、俺がもし途轍もない発明をしたら、一緒に居て見聞深めたいって思うようになるでしょう?未来は変えられる、思考は現実になる、それは真実です!これでどうだ、着拒解除してくれます?はは!」
「少々自己啓発の匂いがしますが、よしとしましょう。「ああ良かった!」その結果によって、着拒の解除を検討します。それでは。」
「えっ?その結果って何……?」
疑問の残るスコピオを置いて、私はその場を去り、急いで会議室から出た。スコピオの意見は、意外と的を得ているようだ。サプライズに、環境から攻める、か。私が挑戦しても良いだろう。
私は廊下の端まで早歩きで移動し、窓際でウォッフォンの通話をかけた。プツ、プツ、と電波が途切れる音がするが、無事に回線は繋がった。
『お?これは誰だ……ジェーン、ああ、あのスプスタンツィオナリ「お疲れ様です、ジェーンと申します。ベルンハルト様でしょうか?」
『そうだが?どうした、我が友よ。そうか、これはこの地だけでなく、地上とも通話が出来るのか。』
「そうですね。一つお伺いしたいことが。」
『なんだ、何が知りたい?』
「インジアビスには、何か伝統的な……お祝いの仕方と言いますか、サプライズの方法がありますか?私はそれが知りたいのです。」
『ふむ。伝統の祝いの方法は無い。』
無いか、ならば、地上での一般的な慣習を取り入れるしか、そう考えた時に、ベルンハルトが付け足した。
『だが、我らの好物がある。』
「好物、ですか?それは?」私の目が見開いた。
『二つある、人の生き血に、牛の生き血だ。特に牛の方を好む者は多し。あれに勝るものはこの世に無し。魔族に牛の血、猫にマタタビ、同列だと考えられる。それが狭間の者であっても、我らの血を受け継ぐ者であるならば、やはり牛の生き血は、何物にも代え難いだろう。んほほ……。』
ベルンハルトの話し方が、やや優しげを帯びている。それほどに好物のようだ。なるほど、しかしそれは、キルディアにも当てはまるのだろうか。だが、彼女がインジアビスで、牛の生き血が好きだと言っていたことを思い出した。これはいい手段を得た。しかし、そうだとしても、どのように入手を……?私は歯を食いしばった。
「それは地上でも手に入るのでしょうか?」
『肉屋に行けば入手出来るだろう。それを求める者、地上にも多し。肉屋で入手出来ると、我は耳にした経験あり。だが、一つ気をつけるべきことがある。』
「それは、何ですか?」
『……、やはり、それはそなたが、その目で確かめるべき事だ。』
ん?何故話すことを躊躇うのだ?
「危険なことなのですか?副作用が強い、でしたり。」
『いや、そのような事はない。ただの美味しい、飲み物なり。飲み過ぎは確かに、身体に悪いだろうが。それは他の飲み物にも言える。だが、この通話気に入った。そなたは我の息子なり。』
「いえ、そうなると私がキルディアの兄になってしまうので、結構です。どうもありがとうございました。それではまた。」
『ああ、また。』
通話が終了した。これで材料は揃った。あとは彼女には家族が居らず、私は料理の技術が無いので胃袋を掴む事も出来ないが、子守唄を歌ってキルディアに安らぎを与えることだけは行い、牛の血を彼女に贈れば、我々の距離はもっと縮まるだろう。
すると背後で、足音がした。振り返ると、キルディアが立っていた。
「ちょっと、ここで何してたの?皆帰るっていうしさ、最後に挨拶だけしよう?」
「はい、向かいます。」
私は彼女の隣を歩いた。
「で、何してたの?あんなところで。」
「通話です、ベルンハルト様と。」
「え?あ?まあ、そうだったんだ……。」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。私は帰りに、例の飲み物を購入することを決めた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる