LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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衝撃のDNA元秘書編

140 月明かりの部屋の中

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  距離を置くための良い、提案方法が見つからない。あっそうだ、これから同僚に戻ろうよ。と言えば戻れるだろうか?ああ、それかもしや、あまり好きな手段では無いが、嫌われるのも手だろう。ギルバート事件の時の様に。そうすれば彼は過去の世界に帰りたいと言うはずだ。

 そうしよう。胸はかなり痛いが、私は決心して彼の方を振り向いた。と、その時だった。目の前が暗くなったのだ。別に体調が悪いとかではなく、電気が消えてしまったのだ。

「あら?ちょっと?ジェーン?」

 暗闇に慣れるまでまだ少し目が、しかしその時、肩に手が置かれた。その手は手探りしながら肩を辿って、どんどんと首に行き、更に上に移動して、私の顎を包んだ。この大きな手は、明らかにジェーンの物だった。するとぐいとツールアームが引っ張られて、私の頬が何かにぶつかった。

 温かかった。彼の香水がとても良い匂いだった。少しづつ視界が暗闇に慣れてきた。私の頬は彼の胸元にくっついていた。腰に手が回されて、更にきつく抱きしめられた。涙が出そうだった。これはもう、完全に私が得てはいけないものなのに、どうしても、手放したくなかった。

「……キルディア、おかえりのハグです。あなたも私を抱きしめてくれませんと、ハグが成立しません。」

 突き放せ!キルディア!と、頭の中の騎士団長が叫んでいる。この帝国内にいるだろう、多数の子孫を守らなくてはいけない。そう考えられた時に、私はちゃんと、彼のことを突き放すことが出来た。暗い中、顔は見えないが、彼が動きを止めて驚いているのは分かる。私は言った。

「もう、ハグはしない。」

「……何を。」

 一歩、彼がこちらに近づいたのが分かった。私は後ずさった。

「もう、私は、一切の、触れ合いを求めない。」

「嫌です。」

「折角、折角言ったのに……そんなことを、言わないでくれ!」

 私はそう叫んで走って、手探りでカーテンの部屋に逃げ込んだ。遠くでシャッと音がして、天井に薄い光が伸びて、ジェーンがリビングのカーテンを開けたのだと分かった。布団を抱いてマットの上に座った私は、じっとして、彼が私のことを無視してくれる様に祈った。

 だが現実は残酷だった。カーテンの部屋は所詮、カーテンの部屋なのだ。シャッと勢いのいい音が響いたと思ったら、真顔の彼が中に入って来た。

「キルディア、突然、どうしてその様な思考を?アイリーンに何を言われましたか?それとも酔っているのか……キルディア、さあ、訳を聞かせてください。」

「やだ。酔いはもう冷めてる。」

 ジェーンがはあ、とため息をついた。私は彼に言った。

「もう離れてほしい。これ以上、ジェーンともっともっと、親しくなったら大変だと思う。これから戦いもあって、ジェーンはやはり帰るべきだ。あの世界では妹さんだってイオリさんだって待っている。あの世界に帰ったら、きっと、側にあった幸せにも、気付くかもしれない。」

 するとジェーンが、マットから降りた。薄い月明かりが彼を照らしている。

「……。」

 彼は何かを言おうとしているが、それを何度も飲み込んだように見えた。しばらく沈黙が続いた。突然、ジェーンはその場を離れ、寝室の部屋の中に入って行った。これで良いんだと、胸がとても苦しくなったその時に、彼がまた寝室から戻ってきて、マットに乗り、私の前に立った。

 手には新型のアームと、ハサミがあった。ジェーンは私の前にしゃがみ、ショールを取ると、それを布団の上に置き、ワンピースの脇の部分からハサミを入れて、中でアームのベルトを切って取り外し、古いアームを下に置いて、新型のアームを付けてくれた。ダークグリーン色で、殆ど私の左手と同じような自然な形をしていて、動かしても機械音があまりしない。

「一応、これが完成品です。昼間より少し軽いと思いますよ。」

「そ、そうか……確かに軽い。わっ、これはすごい、ありがとう……。」

 アームを動かしてみる。昼より軽く、つけ心地もベルトが無いので、本当に私の右手が帰ってきたようだ。アームの外側には一本の真っ直ぐな線が伸びていて、そこを微かに光がスッと通る時がある。流れ星のようで、綺麗だった。私はつい笑顔になった。

「これはすごい、商品化したら良いのに。」

「ふふ。」ジェーンが微笑んだ。「これはあなたのサイズに合わせて特別に制作しました。それに動力も秘密なので、大量生産は出来ません。あなたが喜んでくれたのなら、私も嬉しいです。」

「うん、すごく嬉しい……ありがとう、私の為に、時間を、費やしてくれて。」

 つい、涙が一つ、こぼれてしまった。これだって、受け取るべきものでは無いのかもしれないのに。でもそんなこと、私の為に作ってくれた彼の気持ちはどうなる?色々と考えてしまった。

「キ、キルディア」ジェーンが戸惑いながら私に聞いた。「それは、嬉しいですか?それとも、何か、変なことが?悲しいからですか?すみません、私はまだ、感情が上手く読み取れません。」

「……ありがとうジェーン、本当にありがとう。私は、こんな幸せ……ああ、てっきり私は、ここ最近ジェーンが時空間歪曲機を作成しているのだと思っていたから。」

 私の言葉に、ジェーンの表情が一気に険しくなった。

「そうですか、」冷めた声だった。怒ったのかもしれない。「あなたは、それほどに私に帰って欲しいという訳ですか。」

 ジェーンが置いてあった古いツールアームと取ってから立ち上がり、私を睨んだ。

「大変物分かりが悪く、あなたには多大なる迷惑をお掛け致しました。あなたの望む通り、明日から時空間歪曲機の作成を開始します。それで満足でしょう?あなたは私に、今すぐにでも居なくなってほしいのですから!」

 怒鳴ったジェーンは勢いよく寝室に消えて行った。胸が痛すぎて、私はぎゅうと布団を抱きしめた。折角アームを作ってくれたのに、私だってもっと仲良くしたいのに、突き放さないといけない方の理由が大き過ぎる。

「ごめんねジェーン……。」

 小さく放たれた声は、どこかに消えて行った。ああ、こんなに辛い気持ち、私は耐えきれるだろうか。ポタポタと涙を流しながら、ウォッフォンを起動した。

 そして予定にあった、如何わしいサイトを見ようと思った。途轍もない数がヒットした。私はホログラムの画面で一番上のサイトをクリックした。すると如何わしい画像がたっぷり出てきて、動画もたくさんあった。

 ジェーンはこれからこれをするんだと、一番上の動画をクリックした。私は男女が情熱的に抱きしめ合うのを、じっと見入ってしまった。きっとジェーンはこれを、カタリーナさんとやるのだ。そう考えると、また涙が出た。

 私だって、誰かとこうする時が来る。多分だけど。ああ、でも思ったよりも、その行為はやはり、艶めかしい。画面の男女は次の段階、次の段階にコロコロ進んで、この数分間に色々な知識を私に与えてくれた。

 涙も落ち着いてきた頃、ホログラムの画面上にバナーが表示された。ジェーンからのメッセージの受信を知らせるものだった。きっともう私とは関わらないから、こういうルールを作ろうとか、そういう類のものだと思い、腹を痛くしながら、そのバナーをクリックした。メッセージが表示された。

『もう、五分以上経ちます。』

 ん?それだけ?何が言いたいのかよく分からない。私は先程の動画の続きを見ようとしたが、またバナーが表示されたので、メッセージ画面を開いた。

『もう少し早めでもいいのですが、あなたは私を追いかけて、寝室へ来る手筈です。』

「ぶっ……。」

 何その手筈。良いんだよ私はこれで。でもちょっと嬉しかった、ありがとうジェーン。私は彼のメッセージを無視して、動画を見始めた。ああ、思ったよりも生々しいが、思ったよりも情熱的だ。これを好きな人と出来たら、どれだけ盛り上がることか。だからリンもあれだけリンなのだ。彼女の気持ちが分かった。

「キルディア?」

「わあああ!」

 頭上から声がしたので、上を向くと、ジェーンがカーテンの上から私を覗いていたのだ。確かに彼が爪先立ちでもすれば、それは可能だろうがビックリした……。だがジェーンの顔も、かなり驚いている。

「な、あなた、返事をしないと思えば、何と言うタイミングで、なんて物を観ているのです!?」

「あ、え?これ?こ、こ……」私はウォッフォンを消して、口を尖らせた。「だって、知っておきたかったんだもの。いずれやることでしょ?お互い。」

「え!?」

 と、彼が目をパチパチして明らかに動揺し始めた。でもおかしなことは言っていない。ジェーンはこれから確実にするし、私だって誰かとするかもしれない。事実だ。しかしジェーンはハッとしてから、真顔で私に言った。

「同行願えますか?少し、話したいことがある。」

 何だろう、ジェーンを追いかけない上に、変なもの見てたからお叱り食らうんだろうか。私はトボトボと彼に付いて行き、彼の部屋に入った。黒いベッドがある。クローゼットがあり、他は何も無い。黒いカーテンならあるが、少しずれて窓から月光が差し込んでベッドを照らしている。

「お座りください。」

「は、はい。」

 私は言われた通りにベッドに座った。彼も私の横に座り、私に静かな声で聞いた。

「これが酒の力でないなら、どうして急にそうなったのか、全く理解出来ません。帰り道で我々の間に会話が無かったのは、すみません、私は正直、いつもと違うあなたに緊張していました。それが原因?いえ、あの動画、あなたはお互いが経験するだろうからと言う理由で見ていました。となると、今夜、ラブ博士に魅力を感じましたか?」

「え……」

 なんか勘違いをしている。しかし確かにそうだと言えば、話は早いかもしれないが、うーん!

「そ、そうなのかな~、確かにね、彼はかっこいいから。うおお!」

 するとジェーンが私を突き飛ばしたついでに、私の上に覆い被さってきたのだ。ベッドの上でハグするつもりなのか、いやいやそれはまずい。慌てていると、すぐにジェーンが体を落として、ぎゅうときついほどに抱きしめてきて、引き剥がそうとしても取れなくなってしまった。そしてジェーンは言った。

「あなたはご存知のはずだ。私の方が、かっこいいです。」

「ぶっぱ……」

 ああ、あまりやめてくれ。これはアイリーンさんを守る為なんだ。私は彼の脇腹をくすぐって離れさせようとしたが、全然動かない。重いし、熱いし、どうしたら……。

「キルディア、私の前で他の誰かを愛することは、禁じたはずです。あなたは私のものです。」

「確かにその話はしたけれど……。」

 ジェーンが身体を起こした、と思ったら、ベッドに手をついて、私を至近距離で見つめた。いつの間にか彼の眼鏡が取れていた。いつもより鋭くなっている瞳と目が合った。それでも綺麗な顔立ちだった。彼は私に聞いた。

「何故、私を突き放す?」

「……別に、特に理由は無い。」

「本当は、スローヴェンに好意を寄せたのでは?だから、私を突き放し、恋心に身を任せ、あのような卑猥な動画を見た。それが正しいのでは?」

「だったら、何だというの?」

 グッと、彼が眉に力を入れた。そして震える声で言った。

「……私の方が、スローヴェンより優れているはずだ。あの男に、あなたの相手など務まる訳が無い!キルディア!」

 ゴンと彼がいきなり頭を私の胸に乗せてきたので、結構痛かった。あぉぉと悶絶しているのに、彼は続けた。

「私だけです、あなたを十分に理解出来るのは、私だけだ!この、あなたの身体に入っている全てを、与えるべき対象は私だけだ!スローヴェンがこの世界の人間だからですか?私は絶対に、あなたといる事を諦めません。ですから、私だけを、見てください。ここには二人分の席しかないと、話したはずです!」

 やはり、私だけではなく、彼もまたそこまで想っていた。ならばまずい。私は言った。

「落ち着いて、ジェーン。ごめん、もう、それはダメなんだ。もう水に流そうよ。我々の関係は無かったことにしよう。我々は友だが、ただの友だ。単なる仕事上のパートナーでいいじゃない。」

「何を……あなたは一体どうしたのですか!?」

 顔を上げたジェーンは今までに無いくらい、酷い顔をしていた。
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