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衝撃のDNA元秘書編

134 またしてもお誘い

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 私はジェーンに言った。

「でもまあ、色々考えてくれてありがとう。私はこの別れを乗り越えて、すぐには無理だろうけど、ジェーンと一緒に過ごした時の思い出を胸に、いつか微笑むことが出来るように、頑張るよ。だからジェーンもさ、例え帰ったとしても、遠い未来に私がいることを、たまには、思い出してね。」

 微笑んだが、ジェーンは真顔だった。でも少し、戸惑っている様子だった。彼が何かを言いかけた時に、ふと私は、彼の背後の方にある茂みから、何かが飛び出しているのを発見した。

「そんな殺生なことを仰らないで、キルディア。兎に角、私はただで済まそうとは思いません。過去の世界に帰ることは、望みではありますが……ああ、あなたが私の世界の人間だったのなら、私は今すぐにでもあなたを監禁し「ねえねえ!あれ!人か……?」

 私は茂みを指差した。ジェーンはムッとした表情を私に向けたが、私は茂みに直行した。ちょっと待ってよ、何か気になることを言ったな?と一度振り返ったが、ジェーンが驚きの表情を茂みの方に向けていたので、それはいいやと流して茂みにまた向かった。

 人間の足だ。赤いヒールを履いている。私はジェーンに言った。

「さっきのキルディア捕獲機を貸して!」

「どうしてです!?あれは私だけが使用可能です!」

「いいから!早く!」

「はあ……」

 ジェーンが渋々差し出した捕獲機を受け取った私は、それの紐を出した状態で構えて、一度地面に鞭を撲つように叩いて感触を確かめてから、素早く横薙ぎにして、風切り音と共に、草を一気に払った。

「剣と同様、鞭の使い方も中々、お上手ですね……」

「あ、ああ、経験は無かったけれど、何とか。でもこの人、大丈夫かな、もしもし、お姉さん?」

 草の中で倒れていたのは女性だった。スカートタイプのグレーのスーツを着た、胸がやけに大きく、口元はルージュで赤い、黒いセミロングヘアのキューティクルがキラキラしてる、絶世の美女だった。こ、これは見覚えがあり過ぎる……そう思った時に、ジェーンが叫んだ。

「ア、アイリーン!?何故このような場所で……!」

「息はある、脈もあるけど起きないね。早く、じゃあロビーに運んで、ケイト先生に診てもらおう!」

 私とジェーンは協力して、アイリーンさんを研究所のロビーへと運んだ。私がアイリーンさんをおんぶして、ジェーンはアイリーンさんの側に落ちていた彼女の小さなハンドバッグを持っている。ちょっと配分が偏っている気もするが仕方ない。今は人命がかかっているから気にしてられない。

 勢いよく戻って、ソファにアイリーンさんを横たわらせて、その間にジェーンがケイト先生をウォッフォンで呼び、電話を終えたリンが驚いた表情で駆け寄ってきた。

「な、何この人、どうしたの!?」

 私は答えた。

「入り口で倒れていた。この人はジェーンの元秘書だったアイリーンさんだけど、どうしてあんな場所で倒れていたのか……兎に角、ケイト先生は!?」

 私がジェーンを見ると、ジェーンは指差しをした。するとケイト先生がこちらに向かって走ってきたのが見えた。ケイト先生はアイリーンさんの様子を見ながら私に聞いた。

「いつ発見したの?……熱は、大丈夫ね。何かしら、この匂い。」

「えっとさっき発見した。でも発見してからすぐに連れてきたから、本当ついさっきだよ!この匂い?うーん」

 私はアイリーンさんの匂いを嗅いだが、確かにふわっと甘ったるいバニラのような、桃のような匂いがした。リンも嗅いで、あっと叫んだ。

「これ!アレだよ!ブルーアップルっていうブランドの新作の香水。人間の女性のフェロモンが入ってて恋愛に効くらしいんだけど、もうべらっぼうに高くて全然手が出ないものなんだよ!?このお姉さんのバッグに入ってるかも……ちょっといいかな?」

 リンがバッグを漁り始めたので、私は彼女の肩を軽く叩いて、止めた。だが、次にジェーンが漁り始めたので、私はびっくりした。

「ジェ、ジェーン……ダメだよ勝手に漁っちゃ。」

「彼女が何の目的でここに来たのか、それをはっきりさせない限り、警戒しておくべきで、危険です。ですが、ふん、荷物は先程リンが仰っていた香水のボトルと、化粧品が少々、それからペンが一本と財布。あとは何も無しですか、手首にはウォッフォンも付いておりません。昔の彼女はウォッフォンに依存している程に常用者でした。何か、事件に巻き込まれたのでしょうか?」

「でも変ね」ケイト先生が落ち着いた様子で言った。「それにしては外傷も何も無い。今の所、目を覚まさないけれど、別に熱中症でも、脱水でも餓死寸前でも無い。魔力も安定しているし、ただぐっすりと眠っているだけだわ。それこそ睡眠薬でも盛られたことは考えられるけれど、盛られただけって話ね。そのうち目が覚めるから、そしたらもう一度私を呼んで頂戴。」

 ケイト先生が足早に医務室に向かって去って行った。そう言えばポータルで医術の学会が近いから、その資料を作成していることが書かれていたことを思い出した。それで忙しいのだ。それで、クラースさんは今日中に取って来いとうるさかったのだ……。

 さて、この美しき眠り姫をどうしようか。寝かせておくしか無いが、いつ目が覚めるんだろう。できれば営業時間内に目覚めて欲しい。するとリンが、突然奇妙な発言をした。

「ねえキルディア様、今日の夜、暇?」

 すっごく嫌な予感のする質問だった。私は丁重にお断りした。

「……暇じゃ無い。」

 ジェーンも腕を組んで、我々を見つめている。だがそんなのは気にしない様子のリンはニヤッとした。

「うっそだぁ!彼氏も居ないんだから、夜な夜な暇に決まってるのに!ねえねえ、いいこと思いついたの!今夜だけどさ、合コンしよ!」

 でた……出てしまった……元旦のおみくじで凶を引いた時と、どっちがショックだろうか。私は肩をガクッとさせた。

「何回言うのそれ……それにあのさ、今は恋人募集してない。」

「いやいやいや!」リンが手で払う仕草を取りながら、呆れた様子になった。「今とか、これからとか、そんなのは関係ないよ!歴史の教科書見たことあるのか?どんな偉人だって、どんな状況に置かれても大切な人の一人や二人は居るじゃん!もうキリーは私のものにはならないって分かったから、だったら、だったら、合コンに一緒に行こうよ、ってね!もうユークで大体そう言う集まり参加してきたけれど、やっぱりこの人だって思えるような運命の人が居ない。だから思ったのね。」リンは息をすーっと吸ってから、付け足した。「キリーが男性を紹介して!それで合コンしよ!それならいいでしょうが!?」

「あはははは!」

 そう笑ったのはカウンターにいるキハシ君だった。リンの必死具合を聞いていたのだろう。リンはキハシ君を睨んでいるが、私はリンの気持ちに答えようと、彼女に聞いた。

「でも私が紹介かぁ……ロケインとか?」

「あはははは!」

 またキハシ君の笑い声が聞こえた。どうしてそんなに笑うんだろうと思っていると、殺し屋のような目を彼に向けているリンが、教えてくれた。

「あのね、実はロケインはさ、弟系の可愛いイケメンだったから、アプローチしたことがあるけれど、年上は嫌だって断られたの。そう言う感じもいいけれど、こう、なんて言うんだろう、男らしい人、紹介して!」

 そうは言われても、誰か居たかな?士官学校の知り合いは殆ど新光騎士団だし、ギルドの時は全然同僚と関わってなかったし、この職場……?うーん。私は考えながら聞いた。

「それは……別に、リンみたいにおしゃべりじゃなくてもいいの?」

「うん!」

「マッチョじゃなくてもいいの?」

「うん!」

「オフィスワークでいいの?」

 リンの目がキラキラと輝き始めた。

「え!?いるの!?もしかしてキハシ君?それはちょっとお断りだけど。」

 私は笑いながら首を振った。カウンターを見れば、キハシ君がおにぎりをこぼしそうになっていた。

「違う違う、まあ、オフィスワークと言うべきなのかアレだけど。でもフリーな人一人知っているよ。紹介すればいいんでしょう?」

 リンは私に熱いハグをした。すかさずジェーンが手刀で、私とリンを切り裂いた。リンは気にせず、私に笑顔を向けた。

「ありがとう~ありがたや!じゃあキリーが帰りやすいように、サンセット通りにあるバーを予約しておくからね!どうもどうも!……あ、もしもし、今夜なんですけど」

 早速ウォッフォンで予約を入れている。リン……その恐ろしい行動力は一体何なのだろうか。私は少し笑いながら、また寝息を立てているアイリーンさんを見つめた。

 すると、ジェーンが私の脇腹をツンと指差してきた。彼は思案顔になりながら私に質問した。

「……合コン、行かれるのですか?私の前で誰も愛「ドゥアアア!落ち着いてよ、合コンと言っても、リンに彼を紹介するだけだから、大人数の合コンではないんだから、別に食事会のようなものだと思う。」

「ふむ」一点を見つめて何か考えながら言った。「それでは合コンと呼べません。そうです、あなたを迎えに行く手間を省くと共に、私も参加致します。人数も釣り合うでしょう?」

 迎えに来てくれるつもりだったとは、何だか優しくてつい、騙されそうになる。彼は優しいことは優しいが、その分、闇もある人物なのだ。陰極陽極、それが人間なのだろう。まあいいや、私は通話を続けているリンの肩を叩いて、「ジェーンも来るって」と伝えると、リンは笑顔で両手で丸を作った。
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