118 / 253
ギルバート騎士団長を探せ編
118 呼ぶ青の光
しおりを挟む
それから約一ヶ月間、ジェーンは仕事を普段通りにしてくれるが、二人きりになろうとはしてくれなくなった。
帰るときは勿論バラバラで、帰宅してからも目も合わせないで、すぐに寝室にこもってしまう。それでもここから出て行こうとはしないのだから、と良い方に考えても、他に住む場所が無いんだと言う事実に気づく。
嘘なんかついて、悪いことをした。でも他に、方法が無かった。私の中では決めていたことが、彼を、周りを混乱させている。罪悪感でいつの間にか、私の胃はチクチクと痛むようになった。胃薬を飲み始めたのは最近のことだ。ケイト先生に、処方された。
自宅のカーテンの部屋で、マットの上で横になった。暗い室内で、何も見えなくても、じっと目を開けていた。
このカーテンの私の部屋から、ドアを隔てた先、ジェーンが寝息を立てているベッドまでは、実際の距離で言えば近いのだろう。でもそれが最近は、まるで世界の端と端のように、とても遠く感じるのだ。考えすぎて胃が痛くなったので、私は目を閉じた。
何かの音がして、眠りから覚めた。何の音だ?違う、ジェーンの声だった。
「キルディア、起きてください。」
「んん……。」
私は体を起こして、目を擦った。彼が私のカーテンの部屋を開けて、手招いていていた。まだ暗い、真夜中の時間だが、天井には薄っすらと何かの光で照らされていた。見たことない、青い光だった。
私は急いで起き上がって、リビングのカーテンの方に向かうと、カーテンをガラッと開けた。すると遥か遠くの夜空を割るように、青い光の柱が、地上から天空に向かって放たれていたのだ。それが夜空全体を照らしていて、私の部屋にまで入り込んでいた。何なんだ、あの光は?私は開いた口が塞がらなかった。
家の前の海岸には、多くのサンセット通りの住人たちが、部屋着姿で青い光の柱を眺めていた。その中に、部屋着姿のアリスとケイト先生、そしてその横に何故かクラースさんの後ろ姿があった……。お泊まりしてたんかい。
「この光、もしかすると例のパーツかもしれません。」
そのジェーンの言葉に、私は驚いて彼の横顔を見た。彼はじっと真剣な表情で、夜空を見つめている。
「本当に!?この方角だと、」私は光の柱を指差した。「もしかしたら光の神殿、の方かもしれない。」
「ええ、私も同意です。それに最後のパーツは他のものと比較して大きく、衝撃を与えると、あのように激しい光を伴います。破損していないことを願うばかりですが……。早速ですが、明日、調査許可を。」
私は頷いた。
「うん、うん。勿論、明日研究所に行ったら、皆でその事を話し合おう。」
私達はそれからも暫く、窓のところで青い光を眺めていた。
翌日、研究所の私のオフィスに職員全員が集合すると、昨夜の青い光の柱について、話し合うことになった。やはり皆も自宅からそれを見ていたようで(クラースさんも一応は自宅からと嘘をついていたが)、ジェーンがそれが例のパーツかもしれないと発言すると、それぞれ驚きを隠せない様子だった。
ジェーンの貼ったポスターは、あと一つレ点があれば完成する。そしたら、その機械が組み立てられて、今度は試作段階じゃなくて、ちゃんと完成させてからそれに乗れば、彼は無事に彼の世界に帰ることが出来るのだ。
ソファに座ったリンが、PCとオフィスのモニターをリンクさせて、ニュースを表示させた。それを皆が見る。
「ほら見て!やっぱり昨日の事が、ニュースになっているよ!帝国天文台の発表によると、その光はやっぱり、光の神殿から発せられたみたい!」
モニタを見ていたキハシ君が、何かに気付いた。
「あ、ここ見て!ネビリス皇帝が、光の元を確保する為に、光の神殿に騎士団を派遣したらしい!あー、遅かったか。」
皆の表情が硬くなった。キハシ君が続けた。
「帝都から神殿に向かうとなると、サウザンドリーフの森を抜けて、本当にすぐのところにあるから、もう新光騎士団は光の神殿に到着しているらしい。」
その時、ピロンと通知の音が鳴り、ニュースが更新された。リンがPCを操作して、新しいニュースを確認した。だがその画面に表示された文字を読んで、私は絶句した。
「見てみて、これ……え!?騎士団、古代兵器破壊だって!それって保護条例違反だよね!?」
タージュ博士が頭を抱えて、その場でグルグルと回り歩いた。
「寧ろ、光の神殿に入る事自体、保護条例違反だよ。あそこは太古の昔から自然環境をそのまま維持されてきたんだ。あの地に生えている草木だって、生き物たちだって、あの古代兵器だって、未知の文明を証明している。それら全ては自然科学者の夢の集大成なのに……ああ、それを破壊するなんて!」
リンが画面をスライドさせると、何かを発見した。
「あ!でも見て、まだ神殿内には彼らが侵入していないみたいだよ!なになに?新光騎士団は、進行を食い止めようとする……え、え、え!レジスタンスとも衝突だって!じゃあ今、レジスタンスと交戦中なの!?」
ジェーンが顎を人差し指でトントンと叩きながら、言った。
「つまり、光の神殿前で、新光騎士団とレジスタンス、それから古代兵器が三つ巴……厳密にはレジスタンスと古代兵器は同盟関係ですが、古代兵器にとって人間は全て敵なので、その概念は無い。兎に角、その三つの勢力が、戦いの最中にあると。」
私は頭を抱えた。
「なるほど、すごい状況だ。」
タージュ博士が私の肩をポンと叩いた。
「ねえボス、折角なんだからこの際、レジスタンスと接触するのはどうだろうか?」
「ええ!?」反応したのはアリスだった。他の皆も、様々な反応を見せた。アリスは、ため息混じりに言った。「タージュ博士さぁ、結構何も考えないで発言するよね~。いいのキリーは?レジスタンスに会うの?」
皆の視線が私に集中した。私は伏し目がちに答えた。
「……まあ、これからのことを考えると、仲間は多い方がいいかもしれない。その青いパーツさえ手に入れれば、ジェーンは元の世界に帰れるんだ。後のことは、我々だけで考えればいい。」
「ええ」ジェーンは頷いた。「そうですね。早くこの世界から、おさらば御免と行きたいところです。」
私は少し胸が苦しくなった。彼がそう言う気持ちも分かる。私は嘘つきだから、そんな私とはもう一緒に居たくないのだろう。仕方のない事実が辛くて、私はポケットから胃薬の小瓶を取り出すと、サクッと水無しで飲み込んだ。
「そっか、それはそうだね……。じゃあまずは、レジスタンスに接触しよう。それからパーツを探す手立てを考えようか。」
皆が頷いた。その中で、リンが手を挙げたので私が彼女を指名すると、彼女は答えた。
「私も行く。」
「リンも?でも、危険だよ?」
「それでもいい。生のギルバート様を見たい……。例えそれが、キリーのものだったとしても。」
リンは最近あまり元気が無い。それもそうなのかもしれない。私は頷いた。
「分かった。」
その会議の後、私とジェーン、リンに、それからクラースさん四人が、登山用のリュックを背負って、タクシーを手配して、アクロスブルーラインの出口まで移動した。その車内は、この四人とは思えないほどに静かだった。またサクッと薬を飲んだ。
タクシーを降りると、私達はアクロスブルーラインの横にある細長い通路、これはこの橋の管理室へと繋がる道だが、その前に停めてあったブレイブホースを借りた。これは事情を説明したら、ミラー夫人が用意してくれたものだった。二台のブレイブホースで、私達は光の神殿の方へと向かった。
何時間も移動に費やし、ルミネラ平原は夕色に染まり、すぐに空は暗くなり、藍色に変わった。そして満天の星空の下、光の神殿の手前に到着した我々は、ブレイブホースを石で出来た建物の陰に止めた。
この地は大きな半島の上にあり、光の神殿は崖っぷちに建てられているので、跡地の両サイドには海がある。微かに、潮の香りがした。
光の神殿の前には、遥か昔にこの地に存在していた、一つの街が廃墟化していて、今となっては、その建物の石畳の残壁が、草原の上に広がっている。
ジェーンによるとこの街は昔、ブラウンプラントと呼ばれる荒野地帯だったようだ。彼のお祖母様は、この街に存在していた魔術学園で教鞭をとっていたらしい。なるほど、その頭の良さは血筋なのだと思った。
我々はレジスタンス軍を探すべき、適当な隠れ場所を見つけると、リュックからライダースーツを取り出して皆で着替えた。
そしてそれが終わると、リンとジェーンは銃を手に持ち、私とクラースさんはそのまま、建物の影を縫うようにして進み始めた。歩みを進めるにつれ、跡地の上空が魔術の光でパッと照らされたり、銃声や叫び声が聞こえたりするようになった。
漸く、敵なのかレジスタンスなのか、兵士達が戦っている様子を見ることが出来た。私達は隠れて、彼らが戦っている様子を見た。剣や槍をぶつけて、その後方で互いの魔術兵や射撃兵が撃ち合いをしている。私の隣に来たクラースさんが小声で言った。
「あの白い鎧を着たのが、新光騎士団だろう。すると、あの白色に青のラインが入っている鎧は、レジスタンスの兵士だろうな。前のルミネラ皇帝の時の、騎士団の防具だ。するとあの、ちょっと遠くでぼーっと突っ立っているのが、光の神殿のゴーレムか?」
え?……確かに、彼らの戦闘を見守るように、建物の影に、金属とも粘土とも見える、滑らかで硬い素材で作られたゴーレムが、立ち尽くしていた。
まあ、まだここは光の神殿から遠い場所なので、彼らもそこまで重要視はしていないのだろうが、じっと見つめて立っているので、ちょっと笑えた。私が皆の方を振り向くと、リンがしきりにウォッフォンで写真を撮っていた。
「と、とにかく、白と青の方へ行ってみようか……。リン、シャッター音がうるさい。」
「あ、ごめんごめん。ちょっと撮っちゃった、えへへ。」
彼女は棒読みでそう答えた。この見えない壁も、全ては私のせいで作られたものだ。これから起こるであろう出来事に、私は震えながらも、歩みを進めた。
帰るときは勿論バラバラで、帰宅してからも目も合わせないで、すぐに寝室にこもってしまう。それでもここから出て行こうとはしないのだから、と良い方に考えても、他に住む場所が無いんだと言う事実に気づく。
嘘なんかついて、悪いことをした。でも他に、方法が無かった。私の中では決めていたことが、彼を、周りを混乱させている。罪悪感でいつの間にか、私の胃はチクチクと痛むようになった。胃薬を飲み始めたのは最近のことだ。ケイト先生に、処方された。
自宅のカーテンの部屋で、マットの上で横になった。暗い室内で、何も見えなくても、じっと目を開けていた。
このカーテンの私の部屋から、ドアを隔てた先、ジェーンが寝息を立てているベッドまでは、実際の距離で言えば近いのだろう。でもそれが最近は、まるで世界の端と端のように、とても遠く感じるのだ。考えすぎて胃が痛くなったので、私は目を閉じた。
何かの音がして、眠りから覚めた。何の音だ?違う、ジェーンの声だった。
「キルディア、起きてください。」
「んん……。」
私は体を起こして、目を擦った。彼が私のカーテンの部屋を開けて、手招いていていた。まだ暗い、真夜中の時間だが、天井には薄っすらと何かの光で照らされていた。見たことない、青い光だった。
私は急いで起き上がって、リビングのカーテンの方に向かうと、カーテンをガラッと開けた。すると遥か遠くの夜空を割るように、青い光の柱が、地上から天空に向かって放たれていたのだ。それが夜空全体を照らしていて、私の部屋にまで入り込んでいた。何なんだ、あの光は?私は開いた口が塞がらなかった。
家の前の海岸には、多くのサンセット通りの住人たちが、部屋着姿で青い光の柱を眺めていた。その中に、部屋着姿のアリスとケイト先生、そしてその横に何故かクラースさんの後ろ姿があった……。お泊まりしてたんかい。
「この光、もしかすると例のパーツかもしれません。」
そのジェーンの言葉に、私は驚いて彼の横顔を見た。彼はじっと真剣な表情で、夜空を見つめている。
「本当に!?この方角だと、」私は光の柱を指差した。「もしかしたら光の神殿、の方かもしれない。」
「ええ、私も同意です。それに最後のパーツは他のものと比較して大きく、衝撃を与えると、あのように激しい光を伴います。破損していないことを願うばかりですが……。早速ですが、明日、調査許可を。」
私は頷いた。
「うん、うん。勿論、明日研究所に行ったら、皆でその事を話し合おう。」
私達はそれからも暫く、窓のところで青い光を眺めていた。
翌日、研究所の私のオフィスに職員全員が集合すると、昨夜の青い光の柱について、話し合うことになった。やはり皆も自宅からそれを見ていたようで(クラースさんも一応は自宅からと嘘をついていたが)、ジェーンがそれが例のパーツかもしれないと発言すると、それぞれ驚きを隠せない様子だった。
ジェーンの貼ったポスターは、あと一つレ点があれば完成する。そしたら、その機械が組み立てられて、今度は試作段階じゃなくて、ちゃんと完成させてからそれに乗れば、彼は無事に彼の世界に帰ることが出来るのだ。
ソファに座ったリンが、PCとオフィスのモニターをリンクさせて、ニュースを表示させた。それを皆が見る。
「ほら見て!やっぱり昨日の事が、ニュースになっているよ!帝国天文台の発表によると、その光はやっぱり、光の神殿から発せられたみたい!」
モニタを見ていたキハシ君が、何かに気付いた。
「あ、ここ見て!ネビリス皇帝が、光の元を確保する為に、光の神殿に騎士団を派遣したらしい!あー、遅かったか。」
皆の表情が硬くなった。キハシ君が続けた。
「帝都から神殿に向かうとなると、サウザンドリーフの森を抜けて、本当にすぐのところにあるから、もう新光騎士団は光の神殿に到着しているらしい。」
その時、ピロンと通知の音が鳴り、ニュースが更新された。リンがPCを操作して、新しいニュースを確認した。だがその画面に表示された文字を読んで、私は絶句した。
「見てみて、これ……え!?騎士団、古代兵器破壊だって!それって保護条例違反だよね!?」
タージュ博士が頭を抱えて、その場でグルグルと回り歩いた。
「寧ろ、光の神殿に入る事自体、保護条例違反だよ。あそこは太古の昔から自然環境をそのまま維持されてきたんだ。あの地に生えている草木だって、生き物たちだって、あの古代兵器だって、未知の文明を証明している。それら全ては自然科学者の夢の集大成なのに……ああ、それを破壊するなんて!」
リンが画面をスライドさせると、何かを発見した。
「あ!でも見て、まだ神殿内には彼らが侵入していないみたいだよ!なになに?新光騎士団は、進行を食い止めようとする……え、え、え!レジスタンスとも衝突だって!じゃあ今、レジスタンスと交戦中なの!?」
ジェーンが顎を人差し指でトントンと叩きながら、言った。
「つまり、光の神殿前で、新光騎士団とレジスタンス、それから古代兵器が三つ巴……厳密にはレジスタンスと古代兵器は同盟関係ですが、古代兵器にとって人間は全て敵なので、その概念は無い。兎に角、その三つの勢力が、戦いの最中にあると。」
私は頭を抱えた。
「なるほど、すごい状況だ。」
タージュ博士が私の肩をポンと叩いた。
「ねえボス、折角なんだからこの際、レジスタンスと接触するのはどうだろうか?」
「ええ!?」反応したのはアリスだった。他の皆も、様々な反応を見せた。アリスは、ため息混じりに言った。「タージュ博士さぁ、結構何も考えないで発言するよね~。いいのキリーは?レジスタンスに会うの?」
皆の視線が私に集中した。私は伏し目がちに答えた。
「……まあ、これからのことを考えると、仲間は多い方がいいかもしれない。その青いパーツさえ手に入れれば、ジェーンは元の世界に帰れるんだ。後のことは、我々だけで考えればいい。」
「ええ」ジェーンは頷いた。「そうですね。早くこの世界から、おさらば御免と行きたいところです。」
私は少し胸が苦しくなった。彼がそう言う気持ちも分かる。私は嘘つきだから、そんな私とはもう一緒に居たくないのだろう。仕方のない事実が辛くて、私はポケットから胃薬の小瓶を取り出すと、サクッと水無しで飲み込んだ。
「そっか、それはそうだね……。じゃあまずは、レジスタンスに接触しよう。それからパーツを探す手立てを考えようか。」
皆が頷いた。その中で、リンが手を挙げたので私が彼女を指名すると、彼女は答えた。
「私も行く。」
「リンも?でも、危険だよ?」
「それでもいい。生のギルバート様を見たい……。例えそれが、キリーのものだったとしても。」
リンは最近あまり元気が無い。それもそうなのかもしれない。私は頷いた。
「分かった。」
その会議の後、私とジェーン、リンに、それからクラースさん四人が、登山用のリュックを背負って、タクシーを手配して、アクロスブルーラインの出口まで移動した。その車内は、この四人とは思えないほどに静かだった。またサクッと薬を飲んだ。
タクシーを降りると、私達はアクロスブルーラインの横にある細長い通路、これはこの橋の管理室へと繋がる道だが、その前に停めてあったブレイブホースを借りた。これは事情を説明したら、ミラー夫人が用意してくれたものだった。二台のブレイブホースで、私達は光の神殿の方へと向かった。
何時間も移動に費やし、ルミネラ平原は夕色に染まり、すぐに空は暗くなり、藍色に変わった。そして満天の星空の下、光の神殿の手前に到着した我々は、ブレイブホースを石で出来た建物の陰に止めた。
この地は大きな半島の上にあり、光の神殿は崖っぷちに建てられているので、跡地の両サイドには海がある。微かに、潮の香りがした。
光の神殿の前には、遥か昔にこの地に存在していた、一つの街が廃墟化していて、今となっては、その建物の石畳の残壁が、草原の上に広がっている。
ジェーンによるとこの街は昔、ブラウンプラントと呼ばれる荒野地帯だったようだ。彼のお祖母様は、この街に存在していた魔術学園で教鞭をとっていたらしい。なるほど、その頭の良さは血筋なのだと思った。
我々はレジスタンス軍を探すべき、適当な隠れ場所を見つけると、リュックからライダースーツを取り出して皆で着替えた。
そしてそれが終わると、リンとジェーンは銃を手に持ち、私とクラースさんはそのまま、建物の影を縫うようにして進み始めた。歩みを進めるにつれ、跡地の上空が魔術の光でパッと照らされたり、銃声や叫び声が聞こえたりするようになった。
漸く、敵なのかレジスタンスなのか、兵士達が戦っている様子を見ることが出来た。私達は隠れて、彼らが戦っている様子を見た。剣や槍をぶつけて、その後方で互いの魔術兵や射撃兵が撃ち合いをしている。私の隣に来たクラースさんが小声で言った。
「あの白い鎧を着たのが、新光騎士団だろう。すると、あの白色に青のラインが入っている鎧は、レジスタンスの兵士だろうな。前のルミネラ皇帝の時の、騎士団の防具だ。するとあの、ちょっと遠くでぼーっと突っ立っているのが、光の神殿のゴーレムか?」
え?……確かに、彼らの戦闘を見守るように、建物の影に、金属とも粘土とも見える、滑らかで硬い素材で作られたゴーレムが、立ち尽くしていた。
まあ、まだここは光の神殿から遠い場所なので、彼らもそこまで重要視はしていないのだろうが、じっと見つめて立っているので、ちょっと笑えた。私が皆の方を振り向くと、リンがしきりにウォッフォンで写真を撮っていた。
「と、とにかく、白と青の方へ行ってみようか……。リン、シャッター音がうるさい。」
「あ、ごめんごめん。ちょっと撮っちゃった、えへへ。」
彼女は棒読みでそう答えた。この見えない壁も、全ては私のせいで作られたものだ。これから起こるであろう出来事に、私は震えながらも、歩みを進めた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説


蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる