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ギルバート騎士団長を探せ編

116 この地の太陽

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 ロボットの刃先が、私の鼻の先に触れた、その時だった。闇の波動がロボットを襲い、ロボットは少し離れたところに着地したのだ。ドアのところを見ると、黒ローブの集団が、闇属性の波動をロボットにぶつけてくれていたのだった。

 感謝!私はロボットのビームを一度避けると距離を置いて、ベルトに手を伸ばして、クラースさんがくれた棒を手に取った。それにはこう書いてあった。

 ノーモアオヤジ狩りスタンガン

「……クラースさんさあ、これ必要無いでしょ、その強さで。」

『必要になってるじゃないか……俺たち傭兵はいつ何時、どんなことでも想定しなきゃならないんだ。』

「取り敢えずホームセンターの新商品買うよね。」

『一応言っておくが、俺の会員証はプラチナだ。』

「だと思った!うおお!」

 危なかった!刹那の見切りで避けたが、ロボットのビームが私の脇腹を掠った。

「あつっ!」

 ロボットは闇属性の波動の軌道パターンをもう読んだようで、闇の波動を避けながら、こちらにとてつもない速さで突っ込んできた。私は棒を向ける。

 ロボットが私の足を掴もうとしたところで、素早く飛んで避けて、剣で足元を掬って、バランスを崩れさせると、ロボットに向けてスタンガンのボタンを押した。

 視界が真っ白になるぐらいに眩い光が辺りを包み、棒の先から、あり得ないぐらいの電気が放出された。これは本当に対人用なのだろうか?

 電流はロボットの全身を包んで痺れさせてから、収まった。するとロボットが暫く動きを止めてしまった。それからロボットの動きがガクガクとおかしくなり、ビームをやたら放出し始めた。ビームが天井に当たると、瓦礫が落ちてきた。このまま放置しておくと危険だ。

 私は暴れるボットに素早く近付いて、ロボットの体に剣を振り下ろした。がきんと金属音がして、ロボットがさらに素早く、その場で回転し始めたので、私は飛んで逃げた。

 次の瞬間に、ロボットは爆発した。少し離れた場所で着地した私は、両手を盾にしてガードの姿勢を取り、飛んでくるロボットの破片に備えたが、私の前に現れた闇の防御壁が、私のことを守ってくれた。

 私はベルンハルトさん達の方を向いた。

「援護、ありがとうございました。」

「礼には及ばぬ、見事な戦いだった。そなたの勇猛さは、何にも染まらぬ深淵の黒煙に等しいだろう。さて、あの者たちの解放だな。ククク。」

 ドアから黒ローブの集団がぞろぞろと入ってきた。ベルンハルトさんは玉座に真っ直ぐに向かい、何やら操作をし始めた。

「解除したぞ。」

 私はウォッフォンで聞いた。

「どう?出られた?」

『はい』ジェーンが答えてくれた。『檻が消え、我々は出られました。』

「よかった……」

 ベルンハルトさんが安堵のため息を漏らす私の肩を、トントンと叩いた。

「あとはスプスタンツィオナリズィルユシミシャー鉱石だな。囚われの者たちがいた場所へ戻ろう。さあ皆、付いてくるのだ。」

 よく噛まないで言えるな……ベルンハルトさんに皆は同行した。

 その後、インジアビスの住人は中庭に集まって、スプ鉱石の採掘作業を行ってくれた。皆が皆、不気味な仮面を被っていて、見た目は奇妙だが、我々のためにツルハシで採掘してくれるのを見ると、優しい人達だなと思った。

 我々四人はそれを、側から見ている。隣に立つアリスが言った。

「なんか、いい人達だね。」

「そうだね、アリス」

 集団の中から大きな天秤を持った者たちが現れた。掘られたスプ鉱石を運ぶものが、その秤に鉱石を乗せた。ベルンハルトさんが天秤を見ながら言った。

「これとこれとこれ……五キロか?ちゃんと計るのだ。」

「承知。五キロを越えています。上様、如何しましょう?」

 ベルンハルトさんは頷いた。

「まあ、それでいいだろう。何か袋を。」

 それを聞いてジェーンが首を振った。

「いえ、そこまでしてもらえずとも、大丈夫です。」

 ベルンハルトさんはジェーンを見た。

「何を言っておる。お前たちは私達の仲間だ。仲間が帰りやすくなるために、我々はこれを袋に入れる。袋はいいぞ、まるで鳥のような自由を約束するだろう。ククク。」

 なんとまあ……。それに袋は確かにいいものではある。それが無ければ我々人類はもっと困っていただろうし。そして、それを聞いていたアリスが、私に小声で言った。

「なんか、本当にいい人達だよね。」

「うん」

 数人がスプ鉱石を黒い袋に入れている姿を見つめていると、ベルンハルトさんが私達の方へと近寄って来た。足音が無さすぎて、気付けば近くにいたので、私は一瞬びっくりしてしまった。ベルンハルトさんはジェーンを手招いた。

「先程の、結晶の話をしようか。」

 ジェーン私の隣に来て、頷いた。クラースさんとアリスも一緒だ。

「分かってはいるようだが、我々魔族と呼ばれる生き物は、地上では生きてはいけぬ。空に浮かぶ瘴気の塊、太陽があるからだ。それは我々の命を、弄ぶ間も無く奪い去る、恐ろしきものよ。」

 ジェーンが頷いた。

「そのようですね。して、結晶とは、何がどういうことでしょう?」

「瘴気に喰われるとき、人間はそのまま眠るように息をひきとるが、我らは違う。結晶になる。体が、次々に結晶となり、最後は石の塊となる。メルディスもそうだったか?」

「はい。その結晶は、お墓の中にあります。」

「つまり」ジェーンが聞いた。「キルディアもそうなる可能性があるということでしょうか?」

「そうだ。あの者は狭間の存在、どちらで生きていても瘴気がある。この地の瘴気で眠れば、人の形をしたままだが、地上の瘴気で眠れば、結晶になるだろう。それを食い止める方法は無い。」

 あの者ってそれ……私なんですけどね。私は苦笑いしつつ言った。

「でも地上には、他にも私のような狭間の人はたくさんいるし、滅多に結晶化はしないよ。ケイト先生もそう言ってた。ただたまに、身体の中がイガイガする時があるから、それだけ気になるけど、大丈夫。」

「そうか……」ベルンハルトさんが仮面の顎に手を添えて、言った。

「あのような瘴気だらけの世界、生きていけるのは、お前は合いの子だからだろう。しかし、もし地上に耐えられなくなったら、いつでもこの地で暮らすと良い。ククク。お前はメルディスの一人娘、ならお前は我の子でもある。子の面倒を見ることを嫌う親など、この地に無し。ククク。」

 思いも寄らない言葉に、一瞬目頭が熱くなった。

「あ、ありがとうございます。ベルンハルトさん。」

「よいよい。また何かあれば、遠慮なく申せ。我らの距離は縮まれり。これも礼を言うぞ、ウォッフォン。」

 ローブの袖を捲ったベルンハルトさんが、私のあげたウォッフォンを手首に付けているのを見せてくれた。その手は人間のものと比べると、少し長くて大きくて、灰色だった。私の父もそうだったと、少し、重ねて見てしまった。

 インジアビスの人達から鉱石入りの袋を受け取り、門からブレイブホースを押して、この世界の出口に向かった。帰るときに振り返ると、門のところで皆がずっとこちらを見て直立していた。

 彼らには手を振るという文化が無いので、こちらをじっと見ていたのだろうが、ちょっと微笑ましかった。私は彼らに手を振った。

「仲間意識が強い方々でしたね。」

 ジェーンの言葉に、私は頷いた。

「うん。」

 次にクラースさんが言った。

「鉱石、手に入って良かったな。」

「うん」

 太陽の無い、暗闇の世界に住んでいる人達は、不気味な見かけによらず、優しい人達だった。彼らの胸の中にこそ、太陽は存在していたのかもしれない。
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