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ギルバート騎士団長を探せ編

115 晦冥細蟹戦

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 暗い城の廊下を歩いていく。ああ、こんな場所だったっけ、こんなに不気味だったっけと、思い出しながら歩いた。

 ベルンハルトさん達、インジアビスの魔族達は、どういう仕組みか知らないが、恐ろしい程に足音がしない。城の廊下を大人数で歩いているのに、自分の足音だけがコツコツと響いていて、変な感じだ。

 すると前を歩くベルンハルトさんが、また頭だけをぐるりと回転させて、こちらを振り向いた。急にだったので、ちょっと叫びそうになったが、どうにか堪えた。

「ところでキルディア。」

「はい」

「我とメルディスは旧知の仲、メルディスは帝都で……どのように死んだのだ?」

 私は一瞬言葉を失った。

「そ、そうですね……私が小学院に入る頃までは、どうにか堪えていたのですが、やはり、瘴気で。」

「そうか、してお前は、結晶を感じないか?」

「いえ、しかし、たまに。」

「そうか、やはりな。」

 そういうと彼は頭を戻して、歩き続けた。その時にウォッフォンから『え~』という、アリスの嫌がっているような声が聞こえた。その音に反応して、ローブの集団がビクついた。私は慌ててウォッフォンに口を近づけた。

「ア、アリスどうしたの?」

『うん、こちらアリスだよ。ジェーンのウォッフォンなのに、アリスだよ。さっきのさぁ、結晶がどうのこうのってどういう事?って、ジェーンが聞いてって『アリス、余計な事は』言ってるんだもん。』

 気がつくと、ベルンハルトさんが立ち止まり、私のウォッフォンを覗き込んでいた。

「これは……?遠くの仲間と話せる機械か。古の、電話のような。」

 私は頷いた。

「そうです。メールも出来ますし、ライトにもなる。持ってないの?」

「我々はここから出られぬ、人の形をした魔物に過ぎない。故に所持していない。しかし面白い、気に入ったぞ。」

 食い入るようにウォッフォンを見つめるベルンハルトさんに、私は少し考えてから言った。

「……じゃあ後でこれあげます。その代わり、ちゃんとジェーン達を出すように協力し「いいのか!?おお!我らの友よ!んほほほほほ!」

「んほほほほ!」

 ベルンハルトさんに呼応して、周りの集団まで笑い始めたので、ちょっとびっくりしてしまった。でも喜んでくれてよかったよ……。ベルンハルトさん達がまた歩き始めたので、私も続いて歩いていく。すると付けっ放しのウォッフォンから、またアリスの声がした。

『で、結晶がどうのこうのって、どういう事?ってジェーンが『ですから、アリス』……じゃあ自分で聞けばいいのに~』

 その質問に、ベルンハルトさんが歩きながら答えた。

「何も難しい問題ではない、さあ着いたぞ。その質問には、我が後で答えよう。小さき戦士よ、お前はこの戦いに集中するのだ。ここが玉座の間だ、心して入るがよい。」

 彼が一際大きくて重厚なドアの前で立ち止まると、そのドアの端に直立した。それに合わせて黒ローブの人達も、並んで立ち始め、私のために道を開けてくれた。なんだか私が一大決戦に行くみたいだ。

 私は扉の前まで進むと、ベルンハルトさんから、緑色に光り輝く剣を受け取った。大きく息を吐き、ドアを開けて、中に入った。

 天井には水色の大きな結晶が屋根に刺さっていて、それが眩い光を玉座の間に与えている。まるで海の中のような、美しい空間だった。その広い間の中心辺りに、魔王でも座っていそうな大きな椅子が置いてあった。あれがきっと玉座に違いない。よく見ると、その玉座の手前の床には、ポツンと球体の小さい物体が落ちていた。あれかな?

「あの床に落ちてる、ちっちゃいボールを壊せばいいの?」

 ベルンハルトさんはドアから覗きながら答えた。

「そうだ。しかしあれは仮初めの姿。刺激を与えると大きくなる。地上から紛れ込んできた、あのロボットに、我々の同志は何人もやられた。もう誰も失う訳にはいかぬ。そなた一人で、行って来い。」

「え?一人?」

「そうだ。あの者たちが、瘴気に喰われてもいいのか?」

 ベルンハルトさん……なかなか面白い言い方をする。

『キルディア、もし危険そうなら無理はしないでください。他の方法を考えます。』

 ウォッフォンからジェーンの声が聞こえた。彼を瘴気に喰わせはしない、私は答えた。

「いや、やってみる。このボットで、ここの人たちも苦しめられているのだから、やるしかない。」

 私は静かに玉座の間に入った。ベルンハルトさん達はドアから中に入らず、こちらをじっと見ている。私はそろりそろりと、玉座の前にある球体に近付く。ここまでは順調だ。私はベルンハルトさんから借りた剣で、球体を突いてみた。

 ビーッと、まるで映画が始まった時に鳴り響くブザーのような音が、球体から聞こえた。次々にパーツが出てきては、組み立てられていく。

 それは変次元装置を利用した物だった。球体は瞬く間に八本脚になり、蜘蛛のような形になったが、思ったよりもデカい。私の身長と同じぐらいある。私はとにかく、そのロボットの足に向かって剣を振り下ろした。

「いやぁっ!」

 しかしビクともせず、弾かれてしまった。ボットは私をロックオンして、熱線のビームを飛ばしてきた。それを真横にジャンプして避けると、すぐにボットは私の足元にサササと移動してきて、本体からノコギリクワガタのように生えている牙で、私の足をかみちぎろうとした。

 私はジャンプして避けるが、なんとロボットも同じ高さまでジャンプしてきたのだ!これは速い!

「いやあ!?これは余裕ない!」

 私はボットに剣の連続斬りを浴びせて、取り敢えず跳ね飛ばして、距離を稼いだ。

『グレンの磁気砲のようなものがあれば、状況は変わるかもしれません。』

 ウォッフォンから聞こえるジェーンの声に答えようと思ったが、ロボットは私と同じ速さで右往左往に付いてくる。攻撃のフェイントをするも、ロボットにフェイントし返される。

「磁気砲……ここには……ない!ああっ!」

 遂に私はボットに足を掴まれて、ブンと投げ飛ばされてしまった。床に倒れると、ロボットが私を目掛けてビームを放ってきた。

「うおおおお!」

 私はそれを間一髪、転がって避けた。するとロボットの動きが一瞬止まった。

 ビービコン、と本体から音がした後すぐに、ロボットはまた同じようにビームを飛ばしてきた。同じ要領で横に転がって避けようとすると、今度は避けた先にビームが当たるように二発目を放ち、調整してきたのだ。気付いて、転がりを急停止させたが、ビームが私のツールアームにあたり、少し焦がされた。ジェーンの声がする。

『この音、学習機能がありますね。これは中々、厄介です。』

 私はもう避けるので精一杯、油断したらすぐに四肢がもがれるデスゲームをしているみたいだ。ウォッフォンからアリスの声が聞こえた。

『ベルンハルトさ~ん!水は効かないの?』

 ドアのところで待機しているベルンハルトさんが答えた。私はこの間もロボットとデスゲームを続行している。

「水、貴重なものだ。かけてはみたが、駄目だったな。」

『じゃあ火は?』

「それも駄目だ。寧ろ、喜んでいるようにも見えた。」

『おいキリー!』クラースさんの大声に、スピーカーが音割れをした。『俺が渡したやつを使え!電気ならどうだ!』

 クラースさんが渡してくれたやつ?私はベルトに挟んである棒を手に取ろうとしたが、その時、ロボットのタックルを喰らってしまった。ロボットは床に倒れこんだ私の頭上に飛んできて、ボディから刃先を出して、私に乗っかろうと体を落としてきた。

「うおお……!」

 私は何とか両手で剣を持ち、ガードをしたが、ロボットは足で床をがっしり掴むと、更に私を刺そうとのしかかってきた。

 腕が震えて、競り負けそうになる。幸い右手がツールアームで実力以上の力を出せているが、ツールアームもけたたましいモーター音を出している。

 限界に近い。ここで終わるかもしれない。
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