LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
上 下
113 / 253
ギルバート騎士団長を探せ編

113 サマーニットの編み物

しおりを挟む
 アリスの言葉を聞いて納得したのか、タージュ博士は腕を組んで、何度も頷いた。

「そうか、なるほどな。まあでも、今回もジェーディアの名の通りに、二人一緒に行く訳ですし、仲良くしてもらわなきゃ、ふふっ。全く、ヤキモチなんか焼いちゃって、部長はそんなにボスのこと、大切に想っているというか、愛しているのですか?ヲヲヲヲッヲッヲヲヲ!?」

 突然バグり出したタージュ博士には原因がある。なんとジェーンが彼の首根っこを掴んで、高速で振っていたのだ!タージュ博士の頭がブラブラと前後に激しく揺れている!

「誰がなんですって!?」

 ジェーンがそう叫んだ。驚いた私は、タージュ博士からジェーンを引き剥がした。解放されたタージュ博士は、何度も咳き込んでいる。それを見ていたアリスは……お腹を抱えて笑っていた。私はジェーンに言った。

「ちょっともうやめて!私が黙っていたのが、悪かったんだ!もう、それは本当に心の底から反省してる。私ともう関わりを持たないって決めたならそれでいい……。だから、ごめんなさい。迷惑をかけたのは私だ。」

 ジェーンは乱れた白衣を羽織り直して、眼鏡の位置を直した。

「まあ準備をしましょうか。アリスも。あと陸地は新光騎士団がたむろっていて危険ですから、火山の時同様、海路から向かうのがよろしいかと。クラースにも同行を頼みましょうか。」

 私は力なく頷いた。

「そうだね、うん。私が頼んでくるよ。」

 クラースさんは二つ返事で了承してくれた。丁度ジェーンやアリスの担当している案件が落ち着いたということもあり、その翌週に、我々はまた海路を渡ることになった。

 海の上にも新光騎士団の船があるが、クラースさんの船は、それを避けるように進んだ。ジェーンとアリスがレーダーを改良して、より遠くの船も察知出来るようにしたのが大きかった。

 ヴィノクール湖があるナディア川より東にある広大な大地、ハウリバー平原は、今となっては連合側のエリアなので危険は少ない。

 此処よりも更に地下の世界、インジアビスへ繋がる入り口は、ボルダーハン火山の近くにある。そう考えるとやはり、シロープ経由でタマラの村まで船で行き、インジアビスに向かうのが一番いい。

 前にも通った海路だが、今回は別の件で、全然生きている心地のしない、船旅だった。ピア海峡に入っても、シロープ島に着いても、ジェーンはクラースさんとばかり話をする。私のことは極力無視した。

 船の上で、私のため息は、星空の何処かに消えていった。私も消えてあの星の一つになりたい。これしか、方法が無かった自分を憎んだ。今でさえ、私は嘘を付いているということになる。真実が分かった時、皆は私をもう一度恨むだろう。

 すると私の元へ、薄手のオレンジ色のカーディガンを羽織ったアリスが、ココアの入ったマグカップを片手に持ってきた。

「ねえキリー、どうして本当のことを言わずに、隠していたの?」

 私は海を眺めながら答えた。

「言えなかった。言わないようにって、一人で思っていた。でもそれが良くなかったんだね、言ってしまうと、全てが元に戻らない気がした。結果的に、私は多くの嘘を、ジェーンや皆に、つくことになった。皆が怒るのは当たり前だ、ジェーンだって……怒るに決まってる。」

「ちょっと意外だったな、ジェーンがあんなに怒るなんて。」

 それは私も思った。でも裏切ったのは私だ。怒って当然だ。

「きっとそれだけ、キリーのことを特別だって思ってたんだよ。私だって、ロケインに嘘つかれたら平気だけど、姉さんに嘘つかれたら、はぁ!?ってなる。やっぱり、それだけ信じてるから。」

 ああ、アリスの言っていることは正しい。私は落ち込んだ。

「ねえ、今度さぁ、ジェーンと二人で、もっと話し合ってみたらどうかな?やっぱり言いたいことがあって、黙っているのは良く無いしさ、私と姉さんも喧嘩したら、よく話し合うようにしてる。きっと上手くいくよ!」

 アリス、心優しい人だ。私は頷いた。

「うん、ジェーンが応じてくれたら、話し合いする……。」

「ウンウン!大丈夫だって!明日さ、タマラの村に着くから、美味しいのみんなで食べようよ~!」

 アリスの笑顔を見て、少し安心した。私は頑張って微笑んだ。

「ありがとう、アリス。」

*********

 邪念を晴らす、その方法はこれしかあるまい。

 操縦室にいる私は、ソファに座りながら、一心不乱にそれに集中した。オートパイロットに運転を切り替えたクラースは、一通りの確認を終えると、私の目の前で仁王立ちをした。私は作業する手を止めて、クラースを見た。

「何でしょう?」

「なあ、俺は思うんだが、キリーは何か事情があって、ギルバート騎士団長のことを黙っていたんだ。だって、あいつがそんな大事なことを隠していたなんて、どう考えたって異常じゃないか。」

 事情がある、それを理由に、黙っていいことだろうか?私にそう質問するクラースにさえ、憤りを感じる。何が具体的に問題なのか、黙っていたこと?彼女がギルバート騎士団長に頼まれて、内緒にしていたのなら、仕方のないことでは?

 では、彼女がギルバート騎士団長と蜜月だったことは?同じような環境で育ち、私の知らない、色々なことを共有出来る間柄だっただろう。だからなんだと言うのだ?それが私に何の関係がある?

 考えれば考えるほど、頭の中が整理出来ない経験など初めてだった私は、まるで怒りをクラースにぶつけるように、自分でも分かるほどに無愛想にしながら、質問に答えた。

「そうでしょうか。人の表面というものは氷山の一角です。一度触ってみただけで、その全てを理解することは不可能。ですから厄介な存在なのです。あなたはキルディアのことを相当信じているようですが……。」

「ですが、何だ?お前は違うのか?奴は、お前が過去から来たって言う、ぶっ飛んだ事実を、出会ったばかりでも信じたのだろう?お前はそれっぽっちで、あいつを信じるのをやめるのか?」

「落ち着いてくださいクラース。」私は作業を続けた。かちゃかちゃとその音が響いた。「やめるとは言っていません。少し時間が欲しいだけです。」

 はあ、とクラースがため息をついた。確かに、ギルバート騎士団長がキルディアの幼馴染、それも一緒の布団で寝たことのある仲の人物だと判明した時、耐え難い感情が胸に広がった。それを彼女のせいにした。私は、幼稚なのかもしれない。

 だが、黙っていたのはどうも納得がいかない。そのことについて彼女は謝罪ばかりをしているが、私の気は収まらない。私にイオリが居るのと、彼女にギルバートがいるのでは、訳が違う。

 イオリとは彼女とギルバート程、親しくないのだ。私だけが、彼女を全て理解していると思っていた、だがそこには先客がいたのだ。そしてその先客を、彼女は庇っていたのだ。

「なあ」クラースは、頭をボリボリ掻いた。「少し、多めにみてやってくれないか?無視したり、冷たくあしらったり、お前はそれで気がすむのだろうが、見ている俺の気も、ちょっとは分かってくれ。別にギルバートが居たっていいじゃないか、ジェーンにだって奥さんがいるんだ。それと同じだろ?」

「分かりません、同じではないでしょう。確かにこの胸に、くだらない感情があって、それに私は押し流されています。そうですね、あなたの気持ちもある。ですから、あなたの意見は参考にしますよ。」

「そうか。」

 カチャカチャと、また私は作業を続けた。クラースは操縦桿を雑巾で拭き始めた。そうだ、と私は彼の背中に質問した。

「一つ聞きますが、ケイトとの関係は進展しましたか?」

「んガァ!」クラースが機械の角に、足の小指をぶつけてしまった。ぶつけた箇所を痛そうにを抑えて、ぴょんぴょこ跳ねている。「な、何を言っているんだジェーン……。」

「いえ、夏休み明けから、あなたの機嫌がいいと考えたので、試しに質問してみたところ、そのザマです。なるほど図星でしたか、おめでとうございます。」

「……どうもな。あとその赤い編み物は何なんだ?お前、編み物が趣味って初めて知ったぞ。いつからやってるんだ?」

「ああ、これですか。」私は編み棒を持ち上げて言った。「最近始めました。サマーニットの毛糸でベストを編んでいます。こういう単純作業を繰り返し行うことで、余計なことを考えずに済みますからね。癒されますよ。」

「そ、そうか、じゃあおやすみ。」

 クラースは床に寝袋を敷いて、その中に入って、ジップを閉じた。私は編み物をテーブルに置いて、窓から夜空を眺めたが、窓が曇っていて星が見えなかった。

「はあ……。終わりですか。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

処理中です...