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緑の宝石!ヨーホー海賊船編

101 ドクロの歯ブラシ

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 ポップコフィンで申し込んだツアーに、我々は参加することになった。気持ちの良い青空が広がる朝、ユークの港には、海賊船を模した、大きなクルーザーが停船している。

 港には今から冒険の旅に出ようとしている親御さん達や、ワクワクを隠しきれない子ども達で溢れかえっている。その中に、変装した我々が存在している。

 私はダークブラウンの髪を昨夜、金髪に染めた。髪は後ろで一つに結って、サングラスをかけている。ジェーンが改良した特殊なツールアームは他の人にバレる恐れがあるので、パステル色がマーブル模様になっている、パイル生地の薄手のパーカーを上に羽織って隠している。

 ジェーンはリゾートシャツを着ていて、下はハーフパンツにサンダルだ。それに彼は今、サングラスにサイドコーンロウのオラオラな髪型をしている。これは昨夜、私が編んだものだ。どうしても変装のためとは言え、その長く美しい髪を切りたくなかったらしい。おかげ様で我々は、側から見ると立派なチンピラだった。

「バレていないようですね。皆様、我々のことを見ようともしません。」

「……多分、違う理由だと思うよ。」

「もうすぐ出発の時間でーす!」レンジャー姿のお姉さんが、メガホン片手に呼び掛けている。「皆さん、船に乗ってください~!乗り遅れないでね~!」

 ゾロゾロと皆が船に乗り始めたので、我々もリュックを持ってクルーザーに向かった。その船は見た目も大きいが、船内もやはり広い。下を見ないように足場を渡りきった私は、船に乗って、辺りを見回した。

 驚いたことに、船の上なのにプールやバー、ちょっとした滑り台にブランコまである。船には木のペイントがしてあり、所々に可愛げのあるおもちゃ感満載なドクロのオブジェが飾られていて、海賊船っぽさを醸し出している。もうここまで来ると、子どもたちは大はしゃぎだ。

「きゃーーーーー!」

 子どもの歓声にジェーンがビクッとした。面白かった。するとレンジャー姿のスタッフさんが、我々を見つけて、笑顔で声を掛けてくれた。手にはバインダーとパンフレットの束、それから鍵の束を持っている。

「えっと、お兄さん達は……」

 ジェーンが答えた。

「ディアとリョーシャです。」

「ああ!ディアさんと、リョーシャさんね!はい、これがお二人の部屋の鍵です!お部屋は、ここを真っすぐ行ったところにある階段を上がって、二階の一番端っこです!良い旅を、ボンボヤージュ!」

 私たちは鍵とパンフレットを受け取ると、謹んで礼をした。明瞭なテンションの差が辛い。ジェーンもそう思ったのか、私の背中を押し始めた。

「一度、部屋に入って作戦を練りましょうか、ここはどうも、ただの地獄です。」

「う、うん……取り敢えず部屋に行こうか。」

 私達は階段を上がって、二階の通路を歩いた。すれ違う親子が、こちらをチラッと見ては、その後見ないフリをかましてくる。やっぱり他の人からすれば、我々はヤバイ人に見えるよね……。

「ここですね。」

 ジェーンが鍵を使い、部屋のドアを開けた。

「おお、室内もなんだ。」

 部屋は思ったよりも広く、海賊船のムードが漂っていた。テーブルの上には、ドクロにローソクがぶっ刺さっているデザインのランプが置いてある。天井には古いシャンデリア風の照明があり、やや薄暗く室内を照らしている。ベッドはセミダブルが一つあるだけだった。

「ねえジェーン、どうして一部屋なのにセミダブル。」

「……ここしか空いておりませんでした。他はファミリー用らしく。」

 だったら二部屋借りようよ。そう言おうとしたが、彼は逃げるようにシャワールームと思われる扉の中に消えて行った。ベッドの布団は赤いサテン生地で、それも海賊っぽい。

 部屋の奥にある、ジェーンが中に入ったドアを開けると、そこはユニットバスだった。彼はタオルが何枚あるか確認していた。バスルームには洗面台があり、その上には歯ブラシが置いてあった。それもドクロの。

「へえ、結構充実してるんだね。」

「ええ、その様です。頭蓋骨の歯ブラシには参りました。」

 ドクロを頭蓋骨を称することに私は参りながらも部屋に戻り、ベッドの上にリュックを置いた。ジェーンも部屋に戻ると、早速テーブルのところにある椅子に座って、足元にリュックを置いた。ポケットからペンを取り出して、テーブルの上にパンフレットを広げ、何か書き込み始めた。

 きっと作戦を練っているのだろう、彼のことは放って置いて、私はベッドの横に置いてあるサイドテーブルが気になり、引き出しを開けた。眼帯と海賊の帽子が入っていた。それに、曲げると光り始める、よく祭りの屋台で見かけるブレスレットも入っていた。

「へえ、こんなのもあるんだ。ほお~。」

 独り言を言いながら、私は眼帯と帽子を取り出した。テーブルでパンフレットを見つめて、真剣に考えるジェーンにそろりそろりと近く。

「今夜、七つの孤島のエリアに、この船は到着します。パーツを思われる洞窟には、二日目に行われるボートツアーへの参加が必須になります……が、何をしていますか?」

 真面目な顔したジェーンに、海賊帽を被せて眼帯を付けてみた。おお、中々似合うし、映画に出てきそうなイケメン海賊になった。これでヒゲがあれば完璧だ。

「あはは~!いいよ、似合う!」

 ジェーンはちょっと口を尖らせた。そんな拗ねた顔もするのか。

「……キルディア、あなたも装着してください。」

「ちょっと待って、写真撮るから!いいよ~!」

 私はウォッフォンで海賊ジェーンの写真を撮った。このふざけた格好に、彼の真顔がいい感じのアクセントになっている。写真を撮り終えると、ジェーンはまた口を尖らせた顔に戻った。私は今撮った写真にお気に入りマークを付けた。

「それは、誰かに見せるおつもりでしょうか?まさかリンになど見せないでしょう?この旅行のことを知っているのは、アリスとケイトだけです。」

「アリスに言ったってことは、みんな知ってるって事だから……それにこの夏休みは、あの家の二階にクラースさんが泊まりに来るらしいよ。先生といい友達なんだって。」

「怪しいものですね、友達とは便利な言葉です。さあキルディア、これを被ってください。今度は私が撮影を。」

「はいはい、被りますよ~。」

 次に私が帽子と眼帯を装着すると、ジェーンが写真を撮ってくれた。もういいだろうと動こうとすると、彼がもう一枚撮ると言い、またシャッター音がした。彼はウォッフォンの写真を確認したので、私も横から覗いた。中々良く撮れていた。でもこうなってくると、なんか本当に夏休みっぽくなってきたから困る。

 装飾品を引き出しにしまうと、私はベッドの上に胡座あぐらをかいて座った。今夜はこれで一緒に寝るのか。よく考えてみれば、狭い。

「キルディア。」

「……なに?」

 ジェーンは椅子に戻って、パンフレットを見ながら言った。

「今日は移動日なので、船内でイベントが行われるようです。参加したければ、行ってきても構いませんが?」

「イベントって何?」

 私はジェーンの方へ、ハイハイで近寄った。ジェーンは私にパンフレットを見せて、ペンで指しながら説明してくれた。

「今は十時です。十一時にプールで宝探し、十二時に食堂でバイキング。十四時に遊具ゾーンで本物の海賊との触れ合い体験。十七時にバイキング。十九時に船内で肝試しです。」

「なるほど……子どもは喜びそうだ。それは自由参加なんだよね?」

「そうですね、参加したければ自由に参加してください。私はここで待っていますから。」

「ずっとここに居るの?別にバーとか、大人ゾーンだったら、行けるでしょ?それなら一緒に行こうよ、折角だし。」

 ジェーンが思案顔になった。

「そうですね……。それくらいなら折角です、共に行きましょうか。それもそうですが、今回の任務、必ず遂行しなくてはなりません。あなたも作戦を考えてください。」

「はいはい。」

 しかし作戦って言ったってどうするんだ。何も思い浮かばない私はベッドの上で大の字になった。
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