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まるでエンジェル火山測定装置編
66 ボロボロくまちゃん
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浴場から部屋に帰った後、私はベッドの上に立って、ストレッチをしていた。頭にターバンのようにタオルを巻いた、パジャマ姿のジェーンは、ベッドに横になって、本を読んでいる。よく本を読む人だ。だからこそ、あの頭脳なのだろうと思った。
因みにリンは、私のベッドで寝っ転がりながら、ウォッフォンでニュースを見ている。クラースさんは一人で隣の部屋に居るが、もう寝ているのか、とても静かだ。
時計を見ると二十一時だったので、もしかしたら彼のことだから、寝ているかもしれない。私ももう少ししたら寝ようかな、そう思ってストレッチを続けていると、リンがウォッフォンを見たまま話し始めた。
「ねえ、消費税も若干上がったし、住民税とか固定資産税とか……なんか色々上がってばっかだよ。毎月の支払いもあるのに、私これから一人暮らしで大丈夫かな、実家に帰ろうかなって。でもみんなも同じなんだよね。ほんと、上が変わると、世界がガラッと変わるね。」
リンの言葉に、ジェーンが反応した。
「そうですね。自分はもう最高権力を手に入れたので、それ以下にはならないと浮かれているのでしょう。ああいった人間は、欲に溺れて止まる所を知らない。それでは民の心が離れていくとは想像も出来ない、凡愚です。」
「け、結構言うよね~ジェーン。ここに新光騎士団が居なくてよかった。」
リンの言葉に激しく同意した。その尻拭いなど想像もしたくない。苦笑いをしていると、リンがウォッフォンの画面を閉じて、枕をクッションにして、壁にもたれかかって座り、私がストレッチしている姿を見つめてきた。しかし彼女は次の瞬間に、ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。何それ。
「あ、ねえジェーン。キリーの裸を、見たことある?」
バサッ
何の音?振り返ると、ジェーンが手から本を滑らせて、落としていた。そんなに動揺することだろうか……。彼は何も無かったかのように本を拾い、また読みながら答えた。
「いくら同じ部屋で暮らしていようと、分別はつけています。彼女の裸を見た経験はございませんが、それがどうしたと言うのです?」
「ねえ、他の話題無いの~?」
私の脱力感溢れる質問は、リンによって拒否された。
「無い無い!ねえジェーン聞いて!さっきお風呂場でキリーの裸を見たんだけどさ、身体中の傷跡がすごいの!ジェーン、本当に見たこと無いんだよね?背中とかも見たこと無い?背中すごいよ、特殊メイクみたいに、とっても大きな傷跡があるの!」
リンが興奮し始めた。こうなっては誰も彼女を止める事は出来ない。私はストレッチをやめて、脱力しながら言った。
「私……クラースさんの部屋に行こうかな。」
「いけません。」ジェーンが本を閉じて、ベッドに座った。「それで、傷とは、どれくらいの大きさを?」
リンもジェーンと向かい合うように私のベッドに座り直したので、私もリンの横に座った。リンは両手をリアルに三十センチ程広げて、説明した。
「これくらいのと、これくらいのとこれくらい……あ!でも腰のは、これくらいだったかな。」
私の傷跡の大きさを、的確に両手で表現してくる……その感覚、もっと別のところで活かせないのだろうか。ここで才能を発揮してどうする、と苦笑いしていると、ジェーンが思案顔をしながら私を見た。
「そんなにありますか。それはギルドで作った傷ですか?」
「まあ、そうだよ。獣型のモンスターに突き飛ばされたり、ドラゴン型のモンスターに引っかかれたり……かな。あとは士官学校の訓練中に、怪我した時のもあるけれど、そんなに大した傷ではないし、大丈夫だよ。この前のヴァルガ騎士団長にやられたやつも、キュアクリームで治ってきたし。」
何故かリンが思いっきり首を振った。
「いやいや!ヴァルガ騎士団長のは治ってきたかもだけど、背中のは、結構ギョッとするくらいの傷だった。絶対に致命傷食らったことあるでしょう?今は医療も発達しているから治ったけど、昔だったらキリーはここにいなかったと思う、それぐらいに酷い傷。だって一緒にお風呂に入ったアマンダっていう、スコピオ博士の姪ちゃんも、キリーに本当に大丈夫なの?って、何度も聞いていたよ?そうそう、ボロボロくまちゃんみたいだって言ってた!はっはっは!」
はっはっはじゃないよ。ボロボロくまちゃんとは、古の時代からある、帝国民なら誰もが知っている童話で、ボロボロのクマのぬいぐるみが主人公の絵本だ。その感動的なお話の主人公は、手にも足にも体にも縫い目がある。私はそれに似ているとアマンダに言われてしまったのだ。
「あはは……まあ、今は元気なのだから、いいとしようよ。」
と、私は言った後に、そのまま後ろに倒れて、ベッドに横になった。気のせいかジェーンの視線を感じる。
「キルディア。」
「何?」
「私はただ、心配になりました。」
「うん、それで?」
「見せて頂けませんか?」
「何を?」まさか、いや、まさか。
「……背中のもので構いません。」
「嫌に決まっているでしょうが!」
怒鳴った私は、布団の中に潜り込んで、全身で拒絶を示した。すぐにリンの声が聞こえた。
「あ、でもこの前の傷は、本当にキリーの言うとおりに殆ど治ってたよ!キュアクリーム使ったんだって!私も初めて知ったけど、さっき見せてもらったら、これくらいの赤いチューブのやつでね……。」
「へえ、その様なものがありますか。それは……。」
二人の会話はそれから何時間も続いた。正直、クラースさんの部屋に行きたかった。
その日以来、リンは私とジェーンの部屋で、夜更かしをする様になった。ある晩、早めにジェーンが眠りについたので、これはチャンスだと部屋を暗くしたが、私のベッドに座って日誌をカタカタ打ち続けているリンは、PCの明るさを下げただけで、空気を読んで部屋に帰るという事はしてくれなかった……。
それからあっという間に一週間が経ち、次第にグレン研究所での生活にも慣れてくると、職員とも顔馴染みになってきて、挨拶のついでにちょっとした立ち話をする様になった。暑さも最初はキツかったけれど、スーパー冷気レーヨンもあり、体が慣れた。
しかし火山内部は別である。最奥部まで来ると、マグマがずっと真下にあるので、やはり焼ける様な暑さだし、ジェーンの顔も、すぐに火照って真っ赤になる。ジェーンの修復作業にスコピオ博士は勿論、途中からアマンダも付いてくるようになった。
ジェーンはアマンダに対して、最初は距離を置いている感じがしたが、それも日が経つにつれ、少しづつ二人の会話が増えていくようになった。二人の会話を、近くで立ちながら盗み聞きすると、マグマの成分だったり、火山内部の気温の変化だったり、そんな訳の分からない会話をしていた。だからジェーンがアマンダと仲良くなれたのかと、納得した。
アマンダは優しくて聡明な子だ。一緒に火山の中で過ごしていると、私よりも先に気付いて、ジェーンの欲しい道具を渡したり、彼の額の汗を拭いてくれたりするようになった。そんな天使のような子を誰が嫌いになれるか。私はなれない。
「アマンダを見つめて、何をニコニコしているんだ。暇なら鍛錬に付き合え。」
「こんな火山の最奥部で戦うの?」
誘ってきたクラースさんを見た。彼の息は荒く、既にもう汗だくだったが、彼は頷いた。
「ああ、さっきまでずっと一人で素振りをしていた。ここでの戦闘に慣れれば、平地での戦闘などお茶の子さいさいだろ。いいから鍛錬に付き合え。」
クラースさんは手首に付けている変次元装置のブレスレットを変換して、戟を取り出した。私は半ばイヤイヤながら、そばに置いてあったツルハシを取って構えると、クラースさんがため息をはぁ!と思いっきりついた。
「お前と言う奴は……戟を持つ俺に、ツルハシで敵うと思っているのか?舐めてるだろう?」
「な、舐めてないよ……そう言う訳じゃないけど、ほら、いつ何時、どんな状況で戦闘に巻き込まれるか分からないじゃないですか。だから色々な道具で戦えるように対応しておこうと思って。」
「確かに一理あるな、ではやるか。」
やはりやるのね。私とクラースさんは向かい合って一礼をし、ぶつかり稽古をし始めた。すぐにクラースさんの戟の動きに翻弄される私。
「ちょっと待って……。」
「なんだ、始まったばかりだぞ。」
「ちょっと呼吸を荒らげただけで、喉カラカラになった。」
「……そうだな、俺もカラカラだ。」
地面の下から、ごおっとマグマの吹いた音が聞こえると、気温が一気に上昇した。高まる熱気に、我々二人は戦うのをやめて、その場で水筒の水を飲み始めた。
装置のある洞窟の手前では、スコピオ博士達が座って休憩していて、こちらを見ていた。私たちのグダグダなやり取りを見ていたのか、彼らの表情からして多分、スコピオ博士とジェーンとアマンダが「今のは何の意味があったの?」「さあ。」といった、やり取りをしているのだろう。呆れたような視線を我々に向けていた。辛かった。
水分補給をし終えたスコピオ博士が立ち上がって、大声で言った。
「さて!水分補給も済んだことだし、今日の予定のところまで進めちゃいますか!ね、ジェーンさん!」
ジェーンも水筒をバッグに入れながら、立ち上がった。
「そうですね。ほら、キルディア。いつまでもそんな場所で油を売っていないで、私のサポートをしてください。」
「はい……。」
彼に手招かれ、私はトボトボと洞窟の方へと向かった。火山測定装置は着々と修理が進んでいるのか、最初の頃よりも真新しいパーツが増えている。グローブをはめて作業をし始めたジェーンの隣で、私もグローブをはめて道具やタオルのスタンバイをした。気付けばクラースさんも隣に来ていて、ジェーンの作業を観察していた。
「キルディア、レンチを取ってください。小さい方です。」
「小さいレンチね、はいはい。」
「なあ、ちょっといいか?」
突然、スコピオ博士が質問をしてきた。
因みにリンは、私のベッドで寝っ転がりながら、ウォッフォンでニュースを見ている。クラースさんは一人で隣の部屋に居るが、もう寝ているのか、とても静かだ。
時計を見ると二十一時だったので、もしかしたら彼のことだから、寝ているかもしれない。私ももう少ししたら寝ようかな、そう思ってストレッチを続けていると、リンがウォッフォンを見たまま話し始めた。
「ねえ、消費税も若干上がったし、住民税とか固定資産税とか……なんか色々上がってばっかだよ。毎月の支払いもあるのに、私これから一人暮らしで大丈夫かな、実家に帰ろうかなって。でもみんなも同じなんだよね。ほんと、上が変わると、世界がガラッと変わるね。」
リンの言葉に、ジェーンが反応した。
「そうですね。自分はもう最高権力を手に入れたので、それ以下にはならないと浮かれているのでしょう。ああいった人間は、欲に溺れて止まる所を知らない。それでは民の心が離れていくとは想像も出来ない、凡愚です。」
「け、結構言うよね~ジェーン。ここに新光騎士団が居なくてよかった。」
リンの言葉に激しく同意した。その尻拭いなど想像もしたくない。苦笑いをしていると、リンがウォッフォンの画面を閉じて、枕をクッションにして、壁にもたれかかって座り、私がストレッチしている姿を見つめてきた。しかし彼女は次の瞬間に、ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。何それ。
「あ、ねえジェーン。キリーの裸を、見たことある?」
バサッ
何の音?振り返ると、ジェーンが手から本を滑らせて、落としていた。そんなに動揺することだろうか……。彼は何も無かったかのように本を拾い、また読みながら答えた。
「いくら同じ部屋で暮らしていようと、分別はつけています。彼女の裸を見た経験はございませんが、それがどうしたと言うのです?」
「ねえ、他の話題無いの~?」
私の脱力感溢れる質問は、リンによって拒否された。
「無い無い!ねえジェーン聞いて!さっきお風呂場でキリーの裸を見たんだけどさ、身体中の傷跡がすごいの!ジェーン、本当に見たこと無いんだよね?背中とかも見たこと無い?背中すごいよ、特殊メイクみたいに、とっても大きな傷跡があるの!」
リンが興奮し始めた。こうなっては誰も彼女を止める事は出来ない。私はストレッチをやめて、脱力しながら言った。
「私……クラースさんの部屋に行こうかな。」
「いけません。」ジェーンが本を閉じて、ベッドに座った。「それで、傷とは、どれくらいの大きさを?」
リンもジェーンと向かい合うように私のベッドに座り直したので、私もリンの横に座った。リンは両手をリアルに三十センチ程広げて、説明した。
「これくらいのと、これくらいのとこれくらい……あ!でも腰のは、これくらいだったかな。」
私の傷跡の大きさを、的確に両手で表現してくる……その感覚、もっと別のところで活かせないのだろうか。ここで才能を発揮してどうする、と苦笑いしていると、ジェーンが思案顔をしながら私を見た。
「そんなにありますか。それはギルドで作った傷ですか?」
「まあ、そうだよ。獣型のモンスターに突き飛ばされたり、ドラゴン型のモンスターに引っかかれたり……かな。あとは士官学校の訓練中に、怪我した時のもあるけれど、そんなに大した傷ではないし、大丈夫だよ。この前のヴァルガ騎士団長にやられたやつも、キュアクリームで治ってきたし。」
何故かリンが思いっきり首を振った。
「いやいや!ヴァルガ騎士団長のは治ってきたかもだけど、背中のは、結構ギョッとするくらいの傷だった。絶対に致命傷食らったことあるでしょう?今は医療も発達しているから治ったけど、昔だったらキリーはここにいなかったと思う、それぐらいに酷い傷。だって一緒にお風呂に入ったアマンダっていう、スコピオ博士の姪ちゃんも、キリーに本当に大丈夫なの?って、何度も聞いていたよ?そうそう、ボロボロくまちゃんみたいだって言ってた!はっはっは!」
はっはっはじゃないよ。ボロボロくまちゃんとは、古の時代からある、帝国民なら誰もが知っている童話で、ボロボロのクマのぬいぐるみが主人公の絵本だ。その感動的なお話の主人公は、手にも足にも体にも縫い目がある。私はそれに似ているとアマンダに言われてしまったのだ。
「あはは……まあ、今は元気なのだから、いいとしようよ。」
と、私は言った後に、そのまま後ろに倒れて、ベッドに横になった。気のせいかジェーンの視線を感じる。
「キルディア。」
「何?」
「私はただ、心配になりました。」
「うん、それで?」
「見せて頂けませんか?」
「何を?」まさか、いや、まさか。
「……背中のもので構いません。」
「嫌に決まっているでしょうが!」
怒鳴った私は、布団の中に潜り込んで、全身で拒絶を示した。すぐにリンの声が聞こえた。
「あ、でもこの前の傷は、本当にキリーの言うとおりに殆ど治ってたよ!キュアクリーム使ったんだって!私も初めて知ったけど、さっき見せてもらったら、これくらいの赤いチューブのやつでね……。」
「へえ、その様なものがありますか。それは……。」
二人の会話はそれから何時間も続いた。正直、クラースさんの部屋に行きたかった。
その日以来、リンは私とジェーンの部屋で、夜更かしをする様になった。ある晩、早めにジェーンが眠りについたので、これはチャンスだと部屋を暗くしたが、私のベッドに座って日誌をカタカタ打ち続けているリンは、PCの明るさを下げただけで、空気を読んで部屋に帰るという事はしてくれなかった……。
それからあっという間に一週間が経ち、次第にグレン研究所での生活にも慣れてくると、職員とも顔馴染みになってきて、挨拶のついでにちょっとした立ち話をする様になった。暑さも最初はキツかったけれど、スーパー冷気レーヨンもあり、体が慣れた。
しかし火山内部は別である。最奥部まで来ると、マグマがずっと真下にあるので、やはり焼ける様な暑さだし、ジェーンの顔も、すぐに火照って真っ赤になる。ジェーンの修復作業にスコピオ博士は勿論、途中からアマンダも付いてくるようになった。
ジェーンはアマンダに対して、最初は距離を置いている感じがしたが、それも日が経つにつれ、少しづつ二人の会話が増えていくようになった。二人の会話を、近くで立ちながら盗み聞きすると、マグマの成分だったり、火山内部の気温の変化だったり、そんな訳の分からない会話をしていた。だからジェーンがアマンダと仲良くなれたのかと、納得した。
アマンダは優しくて聡明な子だ。一緒に火山の中で過ごしていると、私よりも先に気付いて、ジェーンの欲しい道具を渡したり、彼の額の汗を拭いてくれたりするようになった。そんな天使のような子を誰が嫌いになれるか。私はなれない。
「アマンダを見つめて、何をニコニコしているんだ。暇なら鍛錬に付き合え。」
「こんな火山の最奥部で戦うの?」
誘ってきたクラースさんを見た。彼の息は荒く、既にもう汗だくだったが、彼は頷いた。
「ああ、さっきまでずっと一人で素振りをしていた。ここでの戦闘に慣れれば、平地での戦闘などお茶の子さいさいだろ。いいから鍛錬に付き合え。」
クラースさんは手首に付けている変次元装置のブレスレットを変換して、戟を取り出した。私は半ばイヤイヤながら、そばに置いてあったツルハシを取って構えると、クラースさんがため息をはぁ!と思いっきりついた。
「お前と言う奴は……戟を持つ俺に、ツルハシで敵うと思っているのか?舐めてるだろう?」
「な、舐めてないよ……そう言う訳じゃないけど、ほら、いつ何時、どんな状況で戦闘に巻き込まれるか分からないじゃないですか。だから色々な道具で戦えるように対応しておこうと思って。」
「確かに一理あるな、ではやるか。」
やはりやるのね。私とクラースさんは向かい合って一礼をし、ぶつかり稽古をし始めた。すぐにクラースさんの戟の動きに翻弄される私。
「ちょっと待って……。」
「なんだ、始まったばかりだぞ。」
「ちょっと呼吸を荒らげただけで、喉カラカラになった。」
「……そうだな、俺もカラカラだ。」
地面の下から、ごおっとマグマの吹いた音が聞こえると、気温が一気に上昇した。高まる熱気に、我々二人は戦うのをやめて、その場で水筒の水を飲み始めた。
装置のある洞窟の手前では、スコピオ博士達が座って休憩していて、こちらを見ていた。私たちのグダグダなやり取りを見ていたのか、彼らの表情からして多分、スコピオ博士とジェーンとアマンダが「今のは何の意味があったの?」「さあ。」といった、やり取りをしているのだろう。呆れたような視線を我々に向けていた。辛かった。
水分補給をし終えたスコピオ博士が立ち上がって、大声で言った。
「さて!水分補給も済んだことだし、今日の予定のところまで進めちゃいますか!ね、ジェーンさん!」
ジェーンも水筒をバッグに入れながら、立ち上がった。
「そうですね。ほら、キルディア。いつまでもそんな場所で油を売っていないで、私のサポートをしてください。」
「はい……。」
彼に手招かれ、私はトボトボと洞窟の方へと向かった。火山測定装置は着々と修理が進んでいるのか、最初の頃よりも真新しいパーツが増えている。グローブをはめて作業をし始めたジェーンの隣で、私もグローブをはめて道具やタオルのスタンバイをした。気付けばクラースさんも隣に来ていて、ジェーンの作業を観察していた。
「キルディア、レンチを取ってください。小さい方です。」
「小さいレンチね、はいはい。」
「なあ、ちょっといいか?」
突然、スコピオ博士が質問をしてきた。
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