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混沌たるクラースの船編
56 リンのからかい
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どれくらい経っただろう。ウォッフォンの時刻を見ると、午前二時だった。下段は静かだが、たまにカタカタと聞こえるので、彼はまだ起きている。私は作業をしているジェーンに声をかけることにした。
「ジェーン、起きているよね?」
「はい。」
「何をしているの?」
「プログラミングです。ポータルと位置測定装置をリンクさせるものです。」
「ああ、ポータルの近況に書いてあったアレをやってるんだ。へえ~。」
「はい。」
会話が終わると、またジェーンはカタカタと作業をし始めてしまった。何だ、航海日誌じゃなかったのか。それはそうと、彼はあまり私に構ってくれないな。暇なので、また話しかけた。
「ジェーンって、私のこと、どう思ってる?」
「……どうとは?、はあ。」
なんかため息が聞こえたんですけど。分かってる分かってる、同じ部屋に女の子がいるのに、今は深夜なのに、やっぱ我慢ってよくないよね。別にジェーンだったら、かなりイケメンだし、一晩ぐらいちょっとスキンシップがてら添い寝してもいいかなって感じがしてきた。これも深夜効果だろうけど。
「だから、女性として、どう思ってる?」
「そうですね、どうとも思っていません。」
強がっちゃって!本当にジェーンは面白い。
「強がってるでしょ?」
「何処をどう履き違えれば、その結論に辿り着くのです。これは恐ろしい質問ですが、もしやあなたは私をどうにかしたいとお考えですか?」
「考えちゃダメ?」
「……はあ。」
だから何でため息つくの!私だって結構美人なんだから、喜ぶべきなのに。しかしちょっと気になったことがある。普通なら、「もしや私を誘惑していますか?」とでも聞くだろうに、彼は「どうにかしたいとお考えですか?」と聞いてきたな。何その受け身っぽい聞き方は。もしや彼は……。
「ねえ、ジェーンって、もしかしてM?」
「……くだらない質問はもう十分です。」
ププー!えっ図星なんじゃない?そうなんだ~、一見ドSっぽいけど実は、ほおほおほお!そう言えば、さっきキリーと謎の良い雰囲気を作ってたなぁ……それを刺激してみようかな。私に興味が無いなら、その方が面白いかも。誘惑しておきながらアレだけど、一応チームキルディアだもん、もし二人がくっついたなら、キハシ君との賭けにも勝てるし。
「あーあ、今頃キリーとクラースさん、何してるんだろうな~。」
「何って、眠っているのでは。」
「キリーとクラースさんかぁ~、あの人達は似てるよね?」
「似てるとは?」
作業しながらも質問してくるなぁ。なんか面白くなってきた、詳しく話そ。
「だってクラースさんは調査部の部長だし、キリーも元々調査部だったでしょ?その前はキリーはギルド兵で、クラースさんは何処かの企業の傭兵だった。」
「そうでしたか、彼も傭兵でしたか。」
「前も言ったけど、二人は同期だからやっぱり昔から仲が良くて、よく二人で飲みにバーに行ったり、カラオケも行ったり、たまに休日に射撃訓練場とか遊びに行ってるって聞いたことがある。」
「そうでしたか、なるほど二人は仲が良い訳です。」
思ったより食いついてこないな……よし。ドMなジェーンが喜びそうな情報を出そう。
「ねえ、キリーに本気で怒られたことある?ほら、士官学校で厳しくされたからなのか、親から男性のように育てられたからなのか、本人も言っていたけれど、叱る時、物凄く怖いの。それに、そう言う風に育ったからなのか、中々恋愛では受け身になれないらしいよ。」
「受け身とは?」
「うん、キリーってジェーンとは逆で、普段のほほんとしてるけど、そう言う時は結構Sで、主導権を握りたい方なんだと思う。だから彼氏探すのに苦労するんじゃないかな。男性もキリーの癒し系の雰囲気に釣られて近づいてもさ、蓋を開けてみれば鬼教官がいる訳だから、やっぱりビックリするよね。ジェーンとは真逆だよ。」
「……全く、私がいつMだと明言しましたか。はあ。とんちんかんな物言いをするあなたの為に、敢えて説明しますが、私はMではありません。」
とは言いつつも、ちょっと声色が明るい感じに変わったな。ヒッヒッヒ!あとなんか他にジェーンが食いつきそうな話題ないかな~?頭の中をフル回転していると、あることを思い出した。
「以前ね、キリーと、どんな人がタイプかって話をしたことがあるの!」
「ほお、それで?」
「ジェーン気になる?」
一瞬、彼のタイピングが止まった。しめしめ!私はニヤニヤが止まらない!
「……まあ、彼女の秘書として、参考程度に。」
「確かね、一字一句引用すると、自分と同じくらい強くて頼りになる人、だったかな~。それってクラースさんにぴったりだよね?」
ここでわたくし、脚色を加えると言う、悪しき行為を実行します。私は続けた。
「風の噂で聞いたけれど、クラースさんも実はジェーンと同じでドMらしいから、そう考えると二人って、かなり相性良いよね~。ジェーンはさ、一目惚れのレシピって知ってる?教えてあげようか?まず、顔見知りの二人を用意します。あとはぐるぐるかき混ぜるだけ、ハイ出来上がり。これがレシピ。」
まあ、クラースさんはケイト先生が好きみたいだけどね……ってあれ?ジェーンのタイピングも発言も止まっている。もしかしてもしかすると、寝ちゃったのかな?あれ?
「ジェーン?寝た?」
「そうでしたか……リン、ベッドから降りてもらえますか?」
何だろう、その冷たい声は。私もしかして航海一日目で殺されるのかな。それこそ後悔……なんてね。
私は彼に言われた通りにベッドから梯子を使って降りた。ジェーンは私の布団の上に置いてあった私のピンク色のPCを手に取ると、私に持たせた。え?これごと海に葬る手筈なのかな?
「な、何?何で持たせたの?」
「付いて来なさい。」
ジェーンが部屋から出た。それにしても身長高いな。私も女性の中だと高い方だけど。水色のTシャツの上にクリーム色のカーディガンを羽織っていて、エレガントな雰囲気が漂ってる。育ちが良さそうだ。そして彼の長くてツヤツヤの髪の毛が、夜の海風にゆらゆらとなびいている。デッキを歩く後ろ姿は、まるで女性みたいだった。
ジェーンは真っ直ぐに操縦席に向かうと、その部屋のドアを開けた。中に入った時、思わず目を見開いてしまった。何故なら、操縦室の大きめのソファのところで、何と言うことか!キリーがクラースさんの膝枕で寝ていたのだ!キリーは小さい体を猫ちゃんのように丸くさせてソファの上で寝ていて、クラースさんはと言うと、座ったままの姿勢で、目を閉じて寝息を立てている。
私は叫びたいぐらいの興奮を何とか堪えた。早く日誌に書きたい!いや、ウォッフォンで撮影して、アリスに報告するのが先だ!だがウォッフォンを構えた時に、私の隣にいたジェーンが、キリーの耳を摘んで起こしてしまった。あらま、残念……。
「い、痛い痛い!誰?」
「何者!」
クラースさんが目を開けた瞬間に、素早くジェーンの首根っこを掴んでしまった。すぐにそれがジェーンだと分かり、彼は手を離した。ジェーンは痛む首を抑えながら立っている。
「え?もう朝?にしては暗い……。」
キリーが寝ぼけている。質問に答えてあげよう。
「まだ午前二時半ぐらい。」
クラースさんが、呆れた声を出した。
「じゃあ何故ここに居る?お前らは寝ないのか?だとしても俺たちを巻き込むな。俺たちは寝ていたいのに、そんなちっぽけな望みも叶えてくれないと言うのか……?」
だが、クラースさんの質問に答えないまま、ジェーンがキリーの腕を掴んで、操縦室から出て行こうとした。おやおや、成る程。私の話でキリーとクラースさんの仲が心配になったに違いない。ヒッヒッヒ。でも念の為、慌てるフリをした。
「え?ジェーン何で?どう言うこと?」
「リン、PC持っているでしょう。おやすみなさい。」
「おやすみ……」
つい鼻からフッと笑いが漏れてしまった。そして静かに操縦室のドアを閉めて振り返ると、クラースさんが頭を抱えてソファに座っていた。
この部屋には、ソファの他にテーブルとそれから簡易シャワーしかない。あとはクラースさんが持って来てくれた寝袋が一つあるだけだ。クラースさんが寝袋を貸してくれたので、それを床に敷いて足だけ突っ込んで座り、膝の上にPCを置いて、今あった面白いことをまた書き続けた。
最初はクラースさんはソファに横になって寝ようとしていたみたいだけど、そのうち諦めたのか、急に釣竿を持って外に出て、夜釣りを楽しみ始めた。
「ジェーン、起きているよね?」
「はい。」
「何をしているの?」
「プログラミングです。ポータルと位置測定装置をリンクさせるものです。」
「ああ、ポータルの近況に書いてあったアレをやってるんだ。へえ~。」
「はい。」
会話が終わると、またジェーンはカタカタと作業をし始めてしまった。何だ、航海日誌じゃなかったのか。それはそうと、彼はあまり私に構ってくれないな。暇なので、また話しかけた。
「ジェーンって、私のこと、どう思ってる?」
「……どうとは?、はあ。」
なんかため息が聞こえたんですけど。分かってる分かってる、同じ部屋に女の子がいるのに、今は深夜なのに、やっぱ我慢ってよくないよね。別にジェーンだったら、かなりイケメンだし、一晩ぐらいちょっとスキンシップがてら添い寝してもいいかなって感じがしてきた。これも深夜効果だろうけど。
「だから、女性として、どう思ってる?」
「そうですね、どうとも思っていません。」
強がっちゃって!本当にジェーンは面白い。
「強がってるでしょ?」
「何処をどう履き違えれば、その結論に辿り着くのです。これは恐ろしい質問ですが、もしやあなたは私をどうにかしたいとお考えですか?」
「考えちゃダメ?」
「……はあ。」
だから何でため息つくの!私だって結構美人なんだから、喜ぶべきなのに。しかしちょっと気になったことがある。普通なら、「もしや私を誘惑していますか?」とでも聞くだろうに、彼は「どうにかしたいとお考えですか?」と聞いてきたな。何その受け身っぽい聞き方は。もしや彼は……。
「ねえ、ジェーンって、もしかしてM?」
「……くだらない質問はもう十分です。」
ププー!えっ図星なんじゃない?そうなんだ~、一見ドSっぽいけど実は、ほおほおほお!そう言えば、さっきキリーと謎の良い雰囲気を作ってたなぁ……それを刺激してみようかな。私に興味が無いなら、その方が面白いかも。誘惑しておきながらアレだけど、一応チームキルディアだもん、もし二人がくっついたなら、キハシ君との賭けにも勝てるし。
「あーあ、今頃キリーとクラースさん、何してるんだろうな~。」
「何って、眠っているのでは。」
「キリーとクラースさんかぁ~、あの人達は似てるよね?」
「似てるとは?」
作業しながらも質問してくるなぁ。なんか面白くなってきた、詳しく話そ。
「だってクラースさんは調査部の部長だし、キリーも元々調査部だったでしょ?その前はキリーはギルド兵で、クラースさんは何処かの企業の傭兵だった。」
「そうでしたか、彼も傭兵でしたか。」
「前も言ったけど、二人は同期だからやっぱり昔から仲が良くて、よく二人で飲みにバーに行ったり、カラオケも行ったり、たまに休日に射撃訓練場とか遊びに行ってるって聞いたことがある。」
「そうでしたか、なるほど二人は仲が良い訳です。」
思ったより食いついてこないな……よし。ドMなジェーンが喜びそうな情報を出そう。
「ねえ、キリーに本気で怒られたことある?ほら、士官学校で厳しくされたからなのか、親から男性のように育てられたからなのか、本人も言っていたけれど、叱る時、物凄く怖いの。それに、そう言う風に育ったからなのか、中々恋愛では受け身になれないらしいよ。」
「受け身とは?」
「うん、キリーってジェーンとは逆で、普段のほほんとしてるけど、そう言う時は結構Sで、主導権を握りたい方なんだと思う。だから彼氏探すのに苦労するんじゃないかな。男性もキリーの癒し系の雰囲気に釣られて近づいてもさ、蓋を開けてみれば鬼教官がいる訳だから、やっぱりビックリするよね。ジェーンとは真逆だよ。」
「……全く、私がいつMだと明言しましたか。はあ。とんちんかんな物言いをするあなたの為に、敢えて説明しますが、私はMではありません。」
とは言いつつも、ちょっと声色が明るい感じに変わったな。ヒッヒッヒ!あとなんか他にジェーンが食いつきそうな話題ないかな~?頭の中をフル回転していると、あることを思い出した。
「以前ね、キリーと、どんな人がタイプかって話をしたことがあるの!」
「ほお、それで?」
「ジェーン気になる?」
一瞬、彼のタイピングが止まった。しめしめ!私はニヤニヤが止まらない!
「……まあ、彼女の秘書として、参考程度に。」
「確かね、一字一句引用すると、自分と同じくらい強くて頼りになる人、だったかな~。それってクラースさんにぴったりだよね?」
ここでわたくし、脚色を加えると言う、悪しき行為を実行します。私は続けた。
「風の噂で聞いたけれど、クラースさんも実はジェーンと同じでドMらしいから、そう考えると二人って、かなり相性良いよね~。ジェーンはさ、一目惚れのレシピって知ってる?教えてあげようか?まず、顔見知りの二人を用意します。あとはぐるぐるかき混ぜるだけ、ハイ出来上がり。これがレシピ。」
まあ、クラースさんはケイト先生が好きみたいだけどね……ってあれ?ジェーンのタイピングも発言も止まっている。もしかしてもしかすると、寝ちゃったのかな?あれ?
「ジェーン?寝た?」
「そうでしたか……リン、ベッドから降りてもらえますか?」
何だろう、その冷たい声は。私もしかして航海一日目で殺されるのかな。それこそ後悔……なんてね。
私は彼に言われた通りにベッドから梯子を使って降りた。ジェーンは私の布団の上に置いてあった私のピンク色のPCを手に取ると、私に持たせた。え?これごと海に葬る手筈なのかな?
「な、何?何で持たせたの?」
「付いて来なさい。」
ジェーンが部屋から出た。それにしても身長高いな。私も女性の中だと高い方だけど。水色のTシャツの上にクリーム色のカーディガンを羽織っていて、エレガントな雰囲気が漂ってる。育ちが良さそうだ。そして彼の長くてツヤツヤの髪の毛が、夜の海風にゆらゆらとなびいている。デッキを歩く後ろ姿は、まるで女性みたいだった。
ジェーンは真っ直ぐに操縦席に向かうと、その部屋のドアを開けた。中に入った時、思わず目を見開いてしまった。何故なら、操縦室の大きめのソファのところで、何と言うことか!キリーがクラースさんの膝枕で寝ていたのだ!キリーは小さい体を猫ちゃんのように丸くさせてソファの上で寝ていて、クラースさんはと言うと、座ったままの姿勢で、目を閉じて寝息を立てている。
私は叫びたいぐらいの興奮を何とか堪えた。早く日誌に書きたい!いや、ウォッフォンで撮影して、アリスに報告するのが先だ!だがウォッフォンを構えた時に、私の隣にいたジェーンが、キリーの耳を摘んで起こしてしまった。あらま、残念……。
「い、痛い痛い!誰?」
「何者!」
クラースさんが目を開けた瞬間に、素早くジェーンの首根っこを掴んでしまった。すぐにそれがジェーンだと分かり、彼は手を離した。ジェーンは痛む首を抑えながら立っている。
「え?もう朝?にしては暗い……。」
キリーが寝ぼけている。質問に答えてあげよう。
「まだ午前二時半ぐらい。」
クラースさんが、呆れた声を出した。
「じゃあ何故ここに居る?お前らは寝ないのか?だとしても俺たちを巻き込むな。俺たちは寝ていたいのに、そんなちっぽけな望みも叶えてくれないと言うのか……?」
だが、クラースさんの質問に答えないまま、ジェーンがキリーの腕を掴んで、操縦室から出て行こうとした。おやおや、成る程。私の話でキリーとクラースさんの仲が心配になったに違いない。ヒッヒッヒ。でも念の為、慌てるフリをした。
「え?ジェーン何で?どう言うこと?」
「リン、PC持っているでしょう。おやすみなさい。」
「おやすみ……」
つい鼻からフッと笑いが漏れてしまった。そして静かに操縦室のドアを閉めて振り返ると、クラースさんが頭を抱えてソファに座っていた。
この部屋には、ソファの他にテーブルとそれから簡易シャワーしかない。あとはクラースさんが持って来てくれた寝袋が一つあるだけだ。クラースさんが寝袋を貸してくれたので、それを床に敷いて足だけ突っ込んで座り、膝の上にPCを置いて、今あった面白いことをまた書き続けた。
最初はクラースさんはソファに横になって寝ようとしていたみたいだけど、そのうち諦めたのか、急に釣竿を持って外に出て、夜釣りを楽しみ始めた。
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