LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
上 下
45 / 253
一つ目のパーツが入手困難編

45 立て続けの訪問者

しおりを挟む
 サウザンドリーフの村の住人は、スパ建設予定地のホテルやバンガローをとりあえず利用することになった。住人達がバスに乗って、その方向へ消えていくのを見届けた私は、少しだけ安心して帰宅した。

 これ以上、新光騎士団が何もして来なければいい。ユークアイランドには海側にもトンネルにも自警システムがあるので、すぐに侵攻してくるとは考えなくてもいいはずだ。

 しかし、もしそうなったらそうなったで、全力で対処していくしかない!私は一度大きく息をふぅーっと吐いて、キッチンで泥に塗れた手を洗った。包帯がぐるぐる巻かれた二の腕が視界に入った。ケイト先生が処置してくれたものだ。少し触ってみると、ちょっと痛かった。

 コップに水を貯めて一口飲み、グラスを持ったままリビングの窓辺へと移動した。夜の海が見える。黒い海面に、キラキラと月の光が瞬いている。

 その時、コココンと玄関の扉がノックされた音がした。嘘でしょ、この叩き方は彼しかいないが、何の用があるのだろう。今日はもう嫌っていうほど、一緒に居たではないか。それともちゃんと用事があって、その扉を叩いているんだろうか。色々考えているうちに、またドアがコココンとノックされたので、仕方なくドアを開けた。

「どうしたの?」

「あ、起きていましたか。まあ、まだ二十一時ですから起きていますよね、いや失礼。」

 と、部屋着の彼が中に入ってきた。許可もしていないのに、当たり前のように入ってくる理由を知りたい。私はため息交じりにドアを閉めて、彼に聞いた。

「最近よく私の部屋に来るよね。それで、何の用事?」

 ジェーンは勝手にリビングの椅子に座り、私を見た。

「そうですね、あなたの腕の傷の具合を、確認しに来ました。」

「え?傷はだって……ケイト先生に縫ってもらったから大丈夫だよ。それにジェーンはお医者さんではないでしょう、ふふ。」

 頻度こそ異常だが、彼も一応、お客には違いないので、冷蔵庫から冷えたお茶のボトルを出して、グラスに注いだ。それを彼に渡すと、彼はごくっと飲んだ。

「お茶ありがとうございます、悪いですね頂いてしまって。さて、あなたの申した通り、医師免許は所持しておりませんが、傷の具合なら確認出来ます。痛みますか?どれ、見せてください。」

 私はジェーンのそばの椅子に座り、首を振った。私の腕を見つめるジェーンが思案顔をした時に、彼の肘が赤く、擦り切れているのを発見した。

「ジェーン!擦れている!」

 彼は自分の肘を見た。別に驚きもしなかった。

「ああ、いつの間にか出来ていた傷です。あなたに比べると大したものでは「動くな」

 私は急いでキッチンの戸棚から木箱を取り出して、テーブルの上に箱を置いて、中を広げた。ケイト先生の勧めで置いてあった、救急セットだ。消毒液とガーゼと包帯を取り出して、ジェーンの傷の手当てを開始した。

「……ほお、随分と手際がいいですね。」

「あ、ああ。ギルドでに身につけた技術だよ。ほら、クエストによっては、一人で山に行って、その時に怪我したら自分しか居ないでしょ?その時の為に、救護班の人に簡単な手当てを習っておいたの。」

「そうでしたか。」

 傷を消毒し、包帯を巻き終えると、ジェーンはその箇所をじっと眺めた。

「……ありがとうございます。あなたの傷を見に来たつもりが、まさか私の方が、手当てを受けるとは思いませんでした。ふっ。」

 突然ジェーンが薄っすらと笑った。それはリーフの村で見た薄気味悪い笑いでもなければ、いつも私をおちょくる時にやる、楽しげな笑みでもない。あまり見たことのない、少し優しい微笑みだった。そういう表情も持っているんだなと、私まで微笑ましい気持ちになった時に、ドアがトントンと叩かれた。すぐにまたトトトトと、小刻みにドアが叩かれた音がした。

「この叩き方、あれ、珍しい。」

「誰です?」

 叩き方で分かるものだ。私がドアを開けると、やはりそこにはケイト先生とアリスが立っていた。しかしケイト先生は、登山用のリュックにスーツケースを持っていて、アリスも大きなボストンバッグを肩に掛けている。二人とも、どこか旅に出るような格好をしているので、私は驚いた。

「な、何しているの?何処に行くの?」

 まさか、研究所を辞めて、何処か遠くに行こうとでも言うのだろうか。私の質問に、二人は苦笑いをして顔を合わせ、部屋の中に入ってきた。

「ちょっとキルディア、いいかしら。話したいことがあるのよ。勿論、ジェーンにも。」

 アリスが床に、どさっと大きなボストンバッグを置いた。重たそうとは思っていたが、ボストンバッグのファスナーが開いていて、中身を見ると、殆ど本だった。こんな夜にこんな大量の本を持ち歩くなんて、やはり何処か、遠くに行くのかもしれない。

「あーもう疲れた、本って、結構重いよね。私も電子書籍に変えようかな。」

 いつもの調子で話すアリスに、何だかそれが嘘のように思えて、二人がこれからどうするつもりなのか、怖くて聞けなかった。ふと気付くと、ジェーンがキッチンでお茶を用意してくれていた。一応、彼に礼を言って、お茶をテーブルに運んだ。リビングのテーブルには椅子が二つしかないので、アリスとケイト先生はソファに座り、私とジェーンが椅子に座った。

「それで、」あまり予想通りじゃないといいけれど。「どうしたの?そんな大荷物で。」

「……。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

処理中です...