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一つ目のパーツが入手困難編

39 私があなたを導く

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 彼の方を見ると、ジェーンはぼーっと、どこか遠くを見ていた。天才的な彼の頭脳も、この状況ではフリーズしているに違いない。彼がアイデアを出せるように、何か助け舟を出したい。彼が何かを思いつけば、時点は変わるかも知れない。私はそう思い、すすり泣くアーネルに聞いた。

「アーネル、ブレイブホースは、この村に何台あるの?」

「え?……えっと、百五十台ほどです。運転出来るのは、自警団の者と数名。」

 思ったよりも、ブレイブホースの台数があった。まてよ、まてよ。私は首をゆっくり回転させながら、空を眺めて考えた。うまく利用出来ないか?青空を見上げて考えていると、隣のアーネルが私に話しかけてきた。

「キルディアさん、戦いの経験が、あるのでしょうか?」

「え?」

 気が付けば、アーネルは私のことを、希望を含んだ表情で見つめていた。周りを見れば、村人たちや、先程のゲイルと言う名の男まで、私のことをキラキラと見つめていた。ジェーンは興味無いのか、見向きもせずに、ぼーっと空を眺めている。

 だがこれはまずい。皆に、変な希望を持たせてしまった。私は慌てて、弁明した。

「ち、違うんです。実は、ジェーンが何か思いつかないかなと、ただ聞いてみただけで……戦いはまあ、してきましたけれども、そう言う戦いじゃないんです。対モンスターなんです。」

「彼女、ギルドのゴールドランクだったんですよ。それに士官学校を卒業しているとか。」

 突然、ジェーンの低い声が、森にこだました。何故だ、何故話した。何故、何故、何故!?

 私の怒りは彼に届いていないのか、彼はまだ、ぼーっと空を見上げている。それがまた憎たらしい。いっそのこと、一度ぐらい彼を突き飛ばしても、バチ当たらないんじゃないか、そう思って手を振りかぶった時に、村人達から歓声が上がった。彼らの方を見ると、皆が皆、私のことを見て拍手をしていた。ゲイルに至っては、顔を真っ赤に染めて、歓喜の表情になっていて、私に向かって大声で叫んだ。

「キルディア!士官学校を卒業したってことは、騎士団の戦い方を理解しているということだろう!?俺たちに戦い方を教えてくれ!頼むよ!この村を守りたいんだ!」

 そうだそうだと、周りの自警団の人間がそれに乗った。そんなことは出来ないと、私は言葉にするが、その度に、歓声で打ち消されてしまった。困惑する私は、胸に拳を当てて、首を振った。だが、それを見ていただろうにも、アーネルは私の前に立ち、私に頭を下げてしまった。

「お願いします!どうかお導きを!村の者達を守りたいのです、まだ幼い子だって。どうか、どうか力を貸してください、キルディア!」

 目を閉じて頭を抱えた。村人の声が、どんどん大きくなる。この時間でさえ、新光騎士団は、ここに向かって進軍している。だが、私に到底、守ることなど出来ない。私は……ある意味人を守ったことがないのだ。唇が震える、声を絞り出した。

「わ、私は守れないよ……。」

「何を仰いますか。」

「ジェーン……」

 振り向くと、ジェーンが真剣な表情で、私をじっと見ていた。いつもの無表情とは違う、何か、心に決めた表情をしていた。

「この状況、誰かが先に立ち、指揮を取らなくてはなりません。あなたは皆を守れます、その力があります。あなたが方向を決めてくだされば、私が方法を考えます!あなたはただ、何も考えずに突っ走ればいいのです!あなたが無意識に決めた先、それは皆の希望の在り処です。後は私にお任せを。私があなたの望む方向へと導きます!」

 初めて聞いた、彼の熱意のこもった声色だった。彼のヴァイオレットの瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。そうか、そうだ。私一人じゃない、今は彼が居てくれる。彼が私を導いてくれる。二人でならやれる、きっとやれる。かもしれない。私は頷いた。

「わ、分かった……分かった。リーフの村の皆さん、私とジェーンで方法を考えます。それでいいですか?」

 思ったよりも声が小さくなってしまったが、皆は私が何を言ったのか、聞き取ってくれたようで、「おお!」と大きな歓声が湧き上がった。やるしかない、ここでやらねば皆が。私は胸に手をそっと当てた。ふうと大きく息を吐き、覚悟を決めた。

「まずは防具を、キルディア達も!」

 ゲイルさんの声に、自警団が何人か防具を持って、私とジェーンに渡してくれた。木で出来た肩当てと胴当て、見た目よりも軽いものだったが表面は固く、魔弾なら何発か食らっても問題なさそうな強度だった。こんなに軽く丈夫な木の素材があったとは、少し驚いた。

 防具をつけてもらったジェーンが、木の棒を拾い、地面に何かの図を描き始めた。村の位置と帝都の位置、それに森だった。それしか情報が無いのでは、どう対処することも出来ない。私はつぶやいた。

「先方の戦力は、どれくらいだろう。」

「花火が上がったということは小隊ではなく、大型の師団が動いたということでしょう。そう仮定すると、敵戦力は一師団ですが、数百人規模の村の強制執行で、一師団は動きすぎだと考えて、まあ一師団の半分ぐらいでしょうか。それでもまだ、我々の四倍以上の戦力です。」

「そうか」と、ため息をついたところで、何故か私のウォッフォンが鳴った。

「え?圏外じゃないの?」

 周りにいるアーネル達も、自分のウォッフォンを確認したが首を振った。隣のジェーンのウォッフォンにも電波が入っているようで、彼はピコピコと早速ニュースを調べ始めていた。

「もしもし?」

『おい!聞こえるか!俺だ、オレオレ!』

「クラースさん!?えっ、何で電話出来るの?」

『詳しい仕組みはよく分からないが、アリスがお前のバッグに拡波器を入れたらしい!『ちょっと貸してクラースさん!キリー聞こえる?』

 割り込んできたのはアリスだ。私は返事をした。

「聞こえるよ、拡波器って何?」

『圏外の場所でも、頑張って電波を受信してくれる機械のことだよ!リーフの村に帰った時に、電波入らないのつまらないから、自由研究でこれを作成していたの!今回だって、キリー達が森で遭難したら大変でしょ?だからまだ試作段階だけど、バッグにいれておいたの!私が従来の拡波器を改良したんだよ?すごくない?まあ……ジェーンが設計図に、色々言ってきて、そのお蔭でもあるけど……兎に角、私が開発したの!』

「へえ~すごいね、アリス!ちょっと時間無いから、聞きたいことが「個人的な質問ですが。」

 と、ジェーンが話に割り込んできた。私の腕ごとウォッフォンを彼の口へと近づけて、彼は話し始めた。出来れば、私の腕は解放してほしかった。

「何故、拡波器の電源は、遠隔操作によるものなのでしょうか?お陰様でこちらは今、戦況が把握出来ずに手詰まりの状態です。アリス、この非合理的で、馬鹿馬鹿しい仕様にした理由を、是非お聞かせ願いたい。」

『だって~電源入れっぱなしだと、電池食いますもん。キリーが現地で、電源入れることが出来たらいいけど、操作がまだ難しいから、きっと無理だろうなって思ったし、急いでたから、そのままキリーのバッグに放り投げちゃったし……兎に角、試作段階ですもん!試作段階でも、ちゃんと動いただけ良いですよね?帰ってきたら、ちゃんと改良しますから『ちょっと貸してアリス!そんなことを言っている場合じゃない!それどころじゃないのよキリー!強制執行だって!強制執行!早く逃げてェ!』

 途中から割り込んできたリンの声がうるさくて、私とジェーンは同時に、ウォッフォンから耳を遠ざけてしまった。私は聞いた。

「逃げようにも……そうだ、リン。新光騎士団の人数って、分かる?」

『新光騎士団って、新たなる光の騎士団のことだよね?確かね、ちょっと待ってね、ネット見るから……一万四千人だって!』

 予想よりも遥かに多かった。これは……いくら凄腕スナイパーの集団であっても、数百人の弓部隊が防ぎきれるどころか、囮になるのだって叶わない、極端な兵力差だった。相手には槍を装備した騎兵の他に、魔術を使う部隊も、魔銃で遠隔攻撃する部隊もいる。千人単位であれば、交戦は可能だと思っていたが、この状況。弓だけでは、到底……。

 リンの声を聞いた村人達は、呆然と立ち尽くしていた。自警団の何人かは力を無くし、弓矢を地面に落とした。

「予想よりも遥かに多いですね、どうしますかキルディア。交戦は極めて、難しいかと。」

 決めなければならないが、時間が無い。私はとても胸が苦しいけれど、最終決断をした。

「みんなで逃げようと思う。」
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