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61 ずっとでしょう

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 泣き喚くリンを抱きしめていると、すぐに皆がやってきて、それぞれ言葉をくれたが、あまり覚えていない。


 ケイト先生がそのうちここにも記者が押し寄せるだろうからとタクシーを呼んでくれて、私はそれに乗って家へと向かった。


 玄関の前にはもう既に記者が待ち伏せをしていて、タクシーから降りるとすぐにカメラが向けられた。飛んでくる質問に何も答えられず、「申し訳ない」と何度も頭を下げて、私は玄関の扉の中へと入った。


 気持ちの整理が追いつかないまま、リビングに入れられてしまった。本当はもっと、海を眺めてからゆっくりと家の中に入りたかったのに。


 リビングのソファにはパジャマ姿のジェーンが座っていて、本を読んでいた。私の方を見ると目を丸くして、そして何故か微笑んでくれた。


「お帰りなさいキルディア。外は人が集まっていて大変だったでしょう?」


 いつもなら帰ってすぐにバッグを床に置く。でも今はそうする気分では無かった。


 寝室前のピアノのところに用意してある、大きな茶色いスーツケース。あの中には私の私物が詰まっている。それを持って、今すぐにでも帝都に行くべきかと考えた。


「キルディア、今すぐに出て行こうと考えているでしょう?」


「……よく分かったね。迷っただけだけど。」


「ふふ。あなたがスーツケースを見つめているので、予測出来ました。無理もありません。私は会見で心無い発言をしました。」


 ジェーンは本をテーブルに置いて、立ち上がった。そして微笑んでいる。何だその顔は、どういうこと?分からなくて、私は一歩遠ざかってから彼に聞いた。


「関係はもう終わっているというのは、本心?それとも何か理由があって、あのような発言をしたの?」


「一つ私から、質問をしても宜しいでしょうか?」


「え?あ、はい。どうぞ?」


 ジェーンはじっと私を見つめたまま、私に聞いた。


「会見での私の発言を聞いて、あなたはどのように考えましたか?」


「え……うーん、だから、その、そんなフラレ方ある?って思ったよ、正直なところ。」


「ふむ。」とジェーンは思案顔になった。拳を顎にトントンと当てて、さらに質問をくれた。


「ではもう一つ。あなたは騎士団長に戻ります、私はあなたをとても誇らしいと思っております。同時にソーライ研究所を私とタージュに任せてくれました。頼りにされているものだと感じました。そのことについて、私がどうお考えだとお思いでしょうか?」


「ジェーンの気持ち?」


 彼はコクリと頷いた。


「まあ確かに……私は少し、自分本位でそれらを決めてしまったところはあるかもしれない。でもジェーンは協力してくれるし、応援してくれているのだと思っていた。」


「はい、協力しました。それがあなたの命令だからです。私の気持ちとは別の問題ですが。」


「本当は一緒にいたい?騎士に戻るのは反対ってこと?……でもヴァルガが私に戻って欲しいと願った。今回の件で彼にとても迷惑をかけたから、その願いだけでも力になりたかった。」


「あなたはいつもそうだ。」


 ジェーンが窓に向かって行った。彼が少しイライラした様子でカーテンに手をかけたので、私は「やめた方がいい」と言ったけど、間に合わなくて彼はカーテンをシャッと開けてしまった。


 その瞬間に怒涛のフラッシュが注ぎ込んできて、ジェーンは慌ててカーテンをシャッと閉めた。……何してんのよ。


「だからやめた方がいいと言ったのに。」


「……もう少し具体的な言葉で私を止めてください。動揺して外の様子を忘れておりました。あなたのせいです。」


「何でよ。」私は少し笑うと、彼も少し笑った。「その何でも私のせいにしてくるやつ、今度の恋人にはやらない方がいいかもよ。私だから笑えたけどさ。」


 なんて、わざと言ってみた。まだ実感が湧かない。


「キルディア、私があなたに直して頂きたいことが一つあります。」


「何?」


「あ、二つです。」


「……ふえた。」


 私は苦笑いした。彼は「ふふ」と微笑んでから言った。


「一つは、もう少し恋人と話し合ってから大きな決断を行って頂きたいことです。あなたは決断力があり実力も兼ね備えていることで、一人で抱え込んで一人で決める癖があります。今回の件、私はもう少し話し合ってから、あなたに決めて頂きたかった。」


「そ、そうか……ごめん。」


 私はしゅんとした。確かにそうだよね。


「それともう一つですが、あなたは今でもあなた自身の願望をないがしろにする傾向があります。ヴァルガが頼んだからと理由づけていますが、本当はあなたが戻りたいからでしょう?もう一度、騎士団長に戻ってやり直したかったのでは?私はいつでも、あなたの本心が知りたいのです。表面の部分は、見ればいくらでも理解出来ますが、本心は言葉で頂けませんと、私は満たされません。」


「そっか……確かに、自分の気持ちの表現が足りていなかったと思う。まだそういうことが不器用で、でもそうか、ジェーンが言ったことを、これから胸にして過ごしていくよ。ありがとう。」


「それは本心ですか?」


「うん。」


 本心か、反省したのは確かに本心だけど、そうか。私は続けた。


「関係が終わったのはとても寂しい出来事だと思ってる。本当に。でもジェーンが本当はどうしたいとか、あまり聞いてあげられなかった。ジェーンの心が離れてしまうのは無理もないと思った。これも本心。ジェーンはどう思ってる?」


 ジェーンは胸に手を当てて答えた。


「キルディア、私は置いていかれた気分を味わいました。ずっと二人でいると誓ったのに、あなたは帝都に行くとすぐに決断した。私はユークに一人で残れと?私がこの島に、ソーライにいるのは、あなたがいるからです。いささか依存的だとは自認しておりますが、この天才的な頭の代償として、あなたには受容して頂きたい。」


「なんかすごく言ってきた……。」


「私はあなたの為に、生まれて初めて何かに一生懸命に取り組むことが出来た。ええ、懐いておりますよ。客観的に見れば私はあなたに尻尾を振って、早くボールを投げろとヨダレをまき散らしていることでしょう。理解しております。私はあなたの犬です。猫でも構いません。」


「何その選択肢……。」


「話の聞ける飼い犬がそばに居るのにまともに話もせず、さらっと他所に引っ越すことが出来ますか?何故そうする?と犬は不思議に思うでしょうね。我々の絆はその程度のものだったのかと。いいえ違います。そこらの飼い犬が経験出来ないような深い絆を、私は体験している。この身で、この頭で。」


「そりゃ犬と比べてもね……。」


「私は知っている。あなたは私が必要だ。LOZの時だって、セレスティウムの件だって、私は力になってきたはずです。私は時たまに暴走することはありますが、それは私の頭脳が他所よりも進歩発展している為、副作用が生じているのです。」


「あのさぁ……ふふ、」


 と私は少しの間笑った。彼は怒ってるのかもうよく分からない。


「確かにあまり話し合わないで決めちゃったのは良く無かったけど、ちょっといい?でもジェーンが記者会見で関係が終わったって言ったんだよね?」


 ジェーンがムッとした顔になった。


「あの発言で、あなたがより一層私を求めてくださると考えました。」


「あああ!?何!?」


「……ですから、あなたが私に構ってくれるかと。」


 もういい、もうたくさんだ。何がジェーンだ。もう今から帝都に行ってやる。私はピアノの方へとバタバタ足音を立てて進んだ。すると背後からジェーンがやってきて、私の腕を掴んで引っ張ってきたので、私は踏ん張った。


「ちょっと何してんの!」


「もう出発をなさるおつもりですか!?遠距離には耐えられませんとこれから話すつもりでした!どうか私を連れて行きなさい!」


「いやいや、じゃあソーライはどうなるの!?ジェーンが残るテイであんなにスムーズに引き継ぎが終わったのに、ジェーンがやっぱ帝都に来るってことになったら、もう大変なことになるよ!」


「そこはタージュもスローヴェンもいますし、リンもああ見えて優秀です!彼らなら乗り越えられることでしょう!私を連れて行きなさい!とても役立ちますから!私は最初から、あなたが帝都に越すのなら一緒について行きたかったのに……!」


「じゃあ最初から」


 そう言えばよかったのに!と言おうとしたが、確かに私はジェーンに任せる気満々だったから、彼は言い出せなかったのだろうなと思った。


 無言で立ち尽くしていると、ジェーンがギュッと抱きついてきた。大きな赤ちゃんみたいだった。


「分かるでしょう?私は素直ではありません。」


「うん、そうなんだね。うん。」


「一緒に行きます。」


「無理なんじゃないかな、すぐには。だから半年後とかにするのはどうかな?」


 バッと離れたジェーンが、私のことを食い入るような目つきで見てきた。ビビった。


「半年後?それまであなたは耐えられると仰るつもりでしょうか?」


「た、耐えられるというか、だって週末は……そうねえ。騎士の仕事って、土日休みでは無いんだよね。勤務時間だって不規則だし。騎士団長になると夜勤は流石に無いけど、その代わり騎士団以外にも士官学校や城にも顔出すし休日があまり無いね……そう考えると、思ったよりもジェーンと会う時間が無いかもね。はは。」


「それご覧なさい!私の読み通り、このまま行けば二人の生活はすれ違って思うように中々会えずに悶々とした日々になり、挙げ句の果てにあなたが他の男に欲求をぶつけることになったでしょうね。記者会見でインパクトのある発言をして、あなたをリンのパーティから早めに帰宅させ、こうして話し合いの場を設けることの出来た私の手管を、あなたにはここぞとばかりに褒めて頂きたい。」


 と言ったジェーンは得意げにフンと鼻息を漏らした。


「それご覧なさいってもう……しかも何で私が他の男に行っちゃうストーリーなの!?そりゃ中々会えないのは辛いよ?でもどうしてこんなギリギリになって、一緒に行きたいだなんて!」


 ジェーンが頬をぷうと膨らまし始めたので笑ってしまった。彼はベシベシと私の左腕を叩いてきた。


「それは待っていたのです!あなたの方からやはり一緒に行こうと提案してくるのを私はずっと待っていた!なのに何ですか!?昨夜あのスーツケースに私物を詰め込んでいる時だって、嬉々とした様子で、あれを入れたかこれを入れたかと確認しては帝都には売ってないからとココナッツシャンプーやパイン味の歯磨き粉だって詰め込んで!私のことは、一度たりとも考えなかった!」


「考えてたよ、離れても大丈夫だよねって、考えてた。」


「大丈夫な訳ありますか!おばか!あなたも先ほどの記者会見を視聴していたのでしょう!?私の人気っぷりったらありませんよ!今でも街の女性からはサインをせがまれますからね。断るとあなたの好感度まで下降するかと考慮して、私は断らずに応じます。全て、あなたの為に!」


「分かった、分かったよ……!人気だもんね、そりゃ心配だ。」


 もうどうすりゃいいんだよ、私はジェーンの手を握った。彼の大きな手が安心する温かさだった。いつも変わらない、どこにいたって優しいおてて。


「ジェーン、一緒にいよう。」


 彼は頬を赤くしてから答えた。


「……はい。」


「……半年後からの話だけど。」


 彼は一瞬で真顔になった。


「何故です?」


「ソーライが心配なんだって。」


 ジェーンは中指で眼鏡を押し上げて、言った。


「そうですか。半年後からはずっと一緒ですか?」


「うん、約束する。それとこれからは、ジェーンに細かく相談することや、本心を素直に伝えることにも気を付ける。」


 ジェーンは少しの間の後で、納得して頷いてくれた。


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