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56 私と四方山話をしませんか

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 病室での出来事が、いまだに私の身体を火照らせている。彼女にゼリーを食べさせた後で、彼女の負担にならないように優しく、誰にもバレないように声を殺して、私達は繋がった。


 彼女の熱く紅潮する頬に何度もキスをした。頭の中に「とても可愛いらしい」という単語しか浮かばない経験をくれるのは、この世界で彼女だけだ。


 私の過ちに対して彼女の許しが与えられたのは、本当に有り難い出来事だった。それ程に今回の出来事を私はずっと後悔していた。それをぶつけるかの如く、私はユークでナイトフットを作成した。


 あのフットはナイトフットと彼女が名付けた。理由は、あの足でなら、以前のように戦えるからということだった。


 まだまだ改良の余地はある、彼女が喜んでくれるのなら、どんな努力だってする。より満足出来るように仕上げるつもりだ。


 城の中を騎士に案内されて、私は陛下の執務室の前へと案内された。さて、何から言おうか。それとも先程の彼女との熱い出来事について語ろうか。


 私はノックもせずに執務室に入り、腕を組んで仁王立ちをした。


 机に向かって座り、私を見ては何やら肩を落とした様子でPCを閉じたチェイスが、私に向かってため息をついた。


「あー君かぁ。城内に入るの許可したっけ?確かシステムで拒否設定した筈だけど「私がハック」ああなるほどね、話している間にそうかなと思い始めたら本当にそうだった。……まあいいけどさ、なぁに?」


 私はズカズカとチェイスに近づき、机越しに胸ぐらを掴んで、拳を振りかぶった。慌てたチェイスは首を振りながら叫んだ。


「待て待て待て!僕を殺す気か!?騎士を呼ぶぞ!っていうか、そうなったら君は問答無用で収容施設行きだ!イスレ山のね!」


 私は彼を解放した。彼は口を尖らせて、趣味の悪いジャケットの乱れた襟を整えた。私は彼に言った。


「あなたは私のキルディアを一度ならず二度も、その汚らしい腐った唇で汚した。この落とし前、どうつけてくれましょうか。あなたを殺そうとは思いません、それはキルディアに感謝してください。」


「ふふっ」


「は?」


 何故笑う?彼は精神の平衡へいこうを失っているのか?


 満足げに両手で頬を包むチェイスは、私に言った。


「ということはキルディアは僕を庇ったんだね。うん、分かるよ。君は気づいていないんだ。彼女の本当の愛に。」


「は?」


「……だからね、」


 彼が不機嫌な顔をした。私の方がそうであるが。


「君は気づいていないんだろうけど、彼女は本当は君のことを怖がっているんだよ。彼女は優しいから、それを乗り越えようとしてる。でも本当は君が怖いんだ。怖いから一緒にいる。それも人間の本能の一つだよ。でもそれは本当の愛ではない。」


「人間の本能については理解しております。そうですか、これは本当の愛ではない?では……何故彼女は私を抱きしめたのでしょう、それもお花のような可愛らしい笑顔をしながら。私の首を嗅いでは、いい匂いだと言って。私のナイトフットを無邪気に喜んで。」


「は?……ジェーンはキルディアの方から抱きしめられるの??」


「当たり前です。キスだってされます。……それに、」


 止むを得ん。


「まだ貞操帯だって、継続しております。あなたは勘違いをして私が彼女の主人だと予想していますが、実際は彼女が私の主人です。」


 チェイスは静かに立ち上がった。思案顔で、私に接近してきた。彼はおもむろに立ち止まると、気味の悪い笑顔で私に言った。


「ねえ、ジェーン。」


「はい?」


「君はキルディアと一緒にいる資格はないよ?だって、彼女を騙して、ヴァルガを脅した。君は明らかに最低な人間だ。対してキルディアは何の罪も無い、その上、LOZの件やセレスティウムの件で、絶大な信頼感を帝国中から得ている、公明正大で純粋で、思いやりのある人物だ。」


 何が言いたい?私は素早く彼の胸ぐらを掴んだ。ギリギリと奥歯が音を立てたが無視をして、私は腹の底から声を出した。


「彼女が太陽になれるのなら、私はその為に喜んで影にでも悪にでも、罪そのものにだってなれる!魂だって売るだろう!その私が、彼女が明瞭に光であることは誰よりも知っている!その優しき木漏れ日に、ずかずかと泥靴で侵入し汚しているのはあなただ!もう二度と私の愛する恋人に近づく事は出来ないと思え!もしもう一度近付いたのなら……!」


「近付いたら?何だというの?」


 いけない。これではチェイスを脅すことになる。それはもうキルディアとしないと決めたことだ。


 出来ればこの場で丸眼鏡をかち割りたいところだが、この行動には意味がある。慎重に行動せねばなるまい。彼を解放して、静かに言った。


「私は怒ります。彼氏としてですが。」


「ふーん。そっか、ウォッフォンで爆破するとでも言ってくるのかと思った。」


 チェイスは頭の後ろで手を組んで、つまらなそうに口を尖らせた。本当に眼鏡をかち割りたい。彼は続けた。


「怒るだけなんだ。ふーん。でもまあ、彼女には近づくよ。だってツールフットの改良がうまくいきそうなんだ!それが完成したら彼女に渡さないとね。君だって彼女が喜ぶ姿を見たいだろう?」


「あなた、先程の私の発言を聞いていませんでしたね?」


「え?」


「もう既に、私の方から完成版のナイトフットを贈呈済みです。あなたのでは歩行でさえ困難極まりないとの話でしたが、私のものを着けた彼女はとても大喜びをして、無邪気に跳ねておりました。ついつい私も、笑みが止められなかった。ご褒美にハグまで頂いて驚きました。私の責任ではありましたが、私の技術で少しでも喜んで頂けた……ので。」


 バンと、チェイスが急に机を叩いたので、私は言葉を飲んだ。ゆっくりとこちらを向いた奴の顔は修羅そのものだった。


「君には確かに技術がある。僕よりも年下なのにね。それで彼女が喜んだ?ああ、いいじゃ無いの。でもね、君には重大な欠点がある。トリプルSレベルのバグだよ!君は他者を思いやる感情が抜けているの!それが無い限り、彼女に幸せはやってこない。彼女は一生苦労するんだ、君のせいでね!そして、君は同じことを繰り返すんだ!君は、自分の目的さえ果たせれば、他人なんてどうでもいいんだ。君は、人間じゃ無いんだよ!」


「そうですか。」


「ああ。君は彼女にもう甘えない方がいい。」


 確かに彼の話すことにも一理あるか?しかし真に受けるまでも無い。


禍福かふくあざなえる縄の如し……彼女はそれを理解しております。そしてあなたにとっては残念なことに、我々の絆は深海の如く揺らぎません。あなたの方こそおかしいと思いませんか?もう既に他人の恋人である人間に対して、性的に迫っているのです。既に犯罪ですよ。どうしたら皇帝を逮捕出来るのか、後でトレバーに質問したいところですが。」


「あああああああ!」と、チェイスが叫びながら頭をかきむしり始めた。私は幾分驚いて、彼から一歩離れた。非常にエキセントリックな反応である。そして彼は私を狂人のような目つきで睨んだ。


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