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38 次の部屋へ

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 私達三人は、今度は向かいにある部屋に入った。そこは図書室のような部屋で、本棚がずらりと並んでいた。


 奥にもう一つドアがあるから、ふた部屋分の広さなんだろうと思った。魔工学だったり、化学だったり、歴史の本まであった。図書館みたいだ。


「本の数がすごいね……でもセレスティウムの情報はここにはなさそうだね。」


「そうだな。」


 ヴァルガが本を手に取り、表紙を見ただけでまた棚に戻した。


「なんだこれは、普通の本ばかりか。それもそうだが思ったよりも研究所が広い、これは手分けをして教官を探した方が良さそうだ。施設内はジャミングを受けているから、そうだな……。」と、彼はウォッフォンの時計を見た。「それぞれ捜索をして三十分後、入り口で落ち合おう。教官がいたら、そこに彼女を連れてきてくれ。」


「どうかな。」私は不安げな顔をした。「一人一人バラバラになるのって危険かもしれない。でも確かに、皆で別れて探した方が時短になるのは分かるよ?」


「いや、お前はクラースと行け。俺は一人で行く。まあ別れて行動すると言っても、一本道の廊下から派生している部屋を一つ一つ調べていけばいいんだ。異変を感じたらすぐにでも合流出来るだろ?俺はさっきのモニター側の部屋から一つ一つ調べていくから、お前たちはこの図書室側の部屋から順に奥の部屋を調べてくれ。気になるものがあったら、廊下で叫べ。」


「分かった。」私とクラースさんが同時にそう言うと、ヴァルガは「はぁーしかし大変なこった。」と小声で呟きながら図書室を出て行った。


「じゃあキリー」と、クラースさんが私を見た。「この部屋には何もなさそうだが、どうする?」


「うーん……次の部屋に行こう。我々が担ってる部屋の全てに何も目ぼしい情報が無かったら、ここに戻ってきてしらみ潰しに本を一冊一冊開いて、フェイクのものがないのか探した方が、早い。」


「そうだな。俺も絶対にその方がいい。」


 やっぱその作業は嫌だよね、と少し笑って、私とクラースさんは図書室を出て、次の部屋へと向かった。


 一回廊下に出た時に、同じタイミングでヴァルガがモニター部屋の隣の部屋から出てきた。私は彼に聞いた。


「何か見つけた?」


「いや……ここはキッチンだったよ。綺麗にしてあったな。冷蔵庫を開けたが、水の入ったボトルと、缶詰が入っていた。それだけだ。あとは戸棚を見たが、何も入っていない。食器も鍋も無い。まあここで暮らしているのは確かなんだろうが、質素な食事をしているみたいだ。さあ次の部屋だな。」


 うん、と頷いて、私とクラースさんは次の部屋のドアを開けた。窓際に大きな青々とした葉っぱの垂れた観葉植物が置いてあり、部屋の真ん中にポツンと金持ちの屋敷にあるような大きな机が置いてある。その上にはノート型の白いPCが置いてあった。


 私はクラースさんと目を合わせた。クラースさんは顎で、私にそのPCを触るようにジェスチャーした。私は頷いて、その机に座り、PCを開いた。


 開くとすぐにディスプレイが表示された。これは教官ので間違いないし、きっとここへは彼女しか来られないから警戒する必要がなくて、ロックもかけていないんだろうけど……。


「いいのかな、勝手に見ちゃって。教官を先に探した方がいいのかも。」


 私は苦笑いをした。しかしクラースさんは極めて真剣な顔で言った。


「見てしまえ。ついでにデータも取ってしまえ。教官だって、味方になるか分からないんだ。味方になったとしても、結局お前に権利を譲るって言ってたじゃ無いか。じゃあ同じだ、見てしまえ。早く!」


「えっ、分かったよ、分かったってば!で、でもデータを抜くってどうするか……私のやり方だと、もう足跡残りまくりだけど、仕方ないよね?だってジェーン達と連絡つかないし。」


「いいから早く、見てしまえ。なんならこのPCごと持って帰るとか。こんなA4サイズのノート型、脇に抱えて持ち帰るぐらい何てことはない。」


「ああ……!」


 と、私が声を出した。その方法があったか。でも待てよ。


「じゃあさ、このPCの中に本当にセレスティウムのデータが残ってるかどうか、確認してから持ち帰るか検討しようか?」


「ああそうだな、じゃあ早く見よう。ほらほら。」


 すごい見たがるな……。私はPCを操作して、真っ青な空の待ち受け画像に乗っかっている二つのファイルのうち、右の方をクリックした。


 すると、訳の分からない書類やグラフが入っていた。書類を開いてみた。


『CELESTIUM project 1;2-2; cm on』


「……。」


 そのタイトルの下には、数式なのか魔工学の式なのか分からないものが永遠に続いていた。私はクラースさんを見た。クラースさんは儚げな苦笑いをしていた。きっと彼もこれが何を意味しているのか、理解してないのだろう。


「た、タイトルからして、セレスティウムの情報っぽいよね?」


「あ、ああ、きっとそうだ、そうに違いない。だからこのPCを持って帰れば、あとはケイト達がどうにかしてくれるはずだ。そうだろ?俺たちの恋人は頭がいいんだから、彼女らに任せればいいんだ、はは……。」


「そ、そうだね、はは……。」


 取り敢えずそのデータをそっと閉じて、今度は隣のファイルを開くことにした。このデスクトップにはその二つのファイルしかない。


 さっきのモニタールームといい、彼女の自宅といい、無駄なものは徹底的に排除する性格なんだろうな。ちょっと羨ましい。


 私はそのファイルをクリックした。すると中には、6つの書類が入っていた。日付がついている。これは……?


 その時に「ん?」と、ヴァルガがこの部屋を覗いてきた。彼は私の目の前にPCがあることに気づくと、足早に私の横まで来た。「見つけたか?」と聞いて、私の肩に手を置いて、一緒にPCの画面を覗いてきた。


「それは彼女のPCなのか?」


「ああ、」クラースさんが答えた。「もう一つのファイルがセレスティウムのレシピっぽいが、見ても俺たちにはさっぱりだ……。このファイルは日記が入っているようだが。」


「見てみよう。」


 私はクリックをした。一つ目の日記は、私がまだ士官学校にいる時だった。私はそれを、声に出して読んだ。


「『シンフォニウムの作成は成功したと言えるだろう。ここまで来るのに苦労した。セクターR1のおかげだ。この子は私に多大なる力を与えてくれた。これで闇属性の人間の暴走を食い止めることが出来る……と言うのは、建前だ。確かに、その効果もあるが、私が求めている力は別にある。それは我が身で試すべきだ。』……って、教官は風属性だから、セレスティウム必要ないんじゃ?」


 ヴァルガとクラースさんがうーんと唸った。取り敢えず先を読むことにした。


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