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meishino

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21 色彩をなくす

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 くすぐったい感覚で、目を覚ました。ジェーンが私の首元に何度もキスをしていた。


 私は寝返りを打って、それを阻止した。するとジェーンが私の背中にぴったりとくっついてきて、私のお腹を抱きしめて私に囁いた。


「おはようございます、キルディア。」


「おはよう……まだ寝る。」


「もう起きる時間ですよ、先程私がアラームを消しました。」


 するとジェーンが私の首の後ろにキスをしてきた。彼が誘っているのか、身体をゆっくりと揺らしながら私のお腹を撫で始めたので、そんなことをしたくない私はガバッと勢いよく上半身を起こした。それから目を擦った。


「……。」


 彼の方を見ると、目を丸くしていた。まあそうだろうね、でも、今はそんな気分ではないのだ。私は彼に言った。


「おはよう、起きたよ。朝ごはんは、どうしようか?」


「……そうですね、」と、彼も上半身を起こして、サイドテーブルに手を伸ばして、眼鏡を掛けた。「シリアルでも、食べましょうか?」


「ああそうだね。」


 どうしました?と聞かれなくない私は、颯爽と寝室を飛び出した。


 リビングのソファでは、リンがまだヌーと寝息を立てていた。私は彼女の大股開いた片方の足をぺしんと叩いた。それでも起きないので、またぺしんと叩くと、やっとリンが目を開けた。


「あ、ああ?あ、?」


「おはよう、リン。シリアル食べる?」


「あーおはよ……。もう朝なの?やっば……動悸がするわ……ジェーンもおはよ。」


「おはようございます……。」


 私はそそくさと冷蔵庫に向かい、牛乳を取り出して、キッチン台に置いた。


 棚に並んでいるシリアルの箱を眺めた。ジェーンは何曜日にどのシリアルを食べるか既に決めていて、ココナッツ味とかパイン味とかチョコ味の中から、今日の曜日に該当するものを選ぶことになる。


 今日はどれだったかな、と思った時に背後から声がした。


「本日はパイン味です。……キルディア、少し、話がしたい。」


 私はパイン味のシリアルを手にして、三人分のボウル皿にさらさら注ぎながら回答した。


「話なら後ででもいいかな?今は少し、疲れが取れなくてね……。」


「あ、ああ、そうでしたか。それなら、研究所で、後ほど。」


 それから我々三人は、味のしない朝食を取った。食事中、リンは相変わらず元気に話しかけてくれるが、ジェーンは私の様子をチラチラ伺っては言葉を詰まらせて、私はというと頑張って満面の笑みを続けた。これではピエロである。


 ピエロが研究所のエントランスに着くと、彼の研究室には行かずに調査部のオフィスへと足早に向かった。


 そこまでいけば今日はクラースさんとロケインがいるから気が紛れると思った。そうして他の人と話していくうちに、自分の中の身勝手なショックが紛れる気がしたからだ。


 私はがむしゃらに作業をした。クラースさんが「何だお前、今日はとても張り切っているな」と勘違いをしてくれた。私は彼に満面の笑みを向けた。クラースさんはそれを見て、ビクッと肩を動かした。


 ……承認作業、予算、収支管理、外部とのやりとり、新しい依頼の受注、求人募集、所長のいいところは、やることを増やそうと思えばいくらでも増やせるところだ。私はガンガン仕事をした。今までにないくらいに集中した。


「おいキリー、今からロケインと鍛錬をする。お前もくるか?」


「行かない……。」


「そ、そうか。珍しいな……なんかあったのか?」


 私は彼に満面の笑みを向けた。すると彼は見なかったことにして、ロケインと足早にオフィスから出て行ってしまった。一人になったオフィスで、これではいけないんだと、頭を抱えた。


 するとその時に、ポーンとメッセージが届いた。私はそれをウォッフォンで確認した。


『お疲れ様です。セレスティウムの件だけれど、今週末にセクターへの通路捜索を実行するのは、どうだろうか?初日は君たちの移動日で、次の日に帝国研究所への捜索、行けるならその日にセクターへ行く。どうだろうか?返事を待っています。Chase.R.C』


 陛下からだった。私はすぐに了承の旨を返事した。それでやりとりは終わると思ったが、チェイスからまたメッセージが届いた。


『ところで、今は一人?Chase.R.C』


 ん?まあいいか。私は返事をした。


『一人ですよ。調査部のオフィスで、作業してます。Kildia.G.K』


 するとウォッフォンに通話がかかってきた。私は一瞬驚いたが、その通話に出た。相手は勿論、陛下である。


「お、お疲れ様です……それとも、もう少し、敬意を持った方が……?」


『いやいや!そのままでいてくれ。今は普通に接して欲しいよ。お疲れ様。そっか、今は一人なんだね、ちょっとキルディアの声が聞きたくて、通話してしまった。ジェーンには内緒にしておいてよ?ふふ』


「そりゃ後で報告しますよ。我々は恋人だ……。」


『なんか元気無いね?何かあったの?』


 チェイスの優しげで低い声が、憎い。昨日のことを話すわけにも行かないし、でも……確かに第三者の意見が欲しくはある。どうしよう、迷っていると、チェイスが私に聞いた。


『何か、言いづらいとか?誰にも言わないから、僕に話してくれ。聞くぐらいだったら、出来るからさ。』


「じゃあ……。」私は椅子に深く座ってから、聞いた。「チェイスは、一人で卑猥なことをする時に、そういう動画を見たりする?」


『えっ!?』


 暫しの沈黙が流れている。それもそうか、突飛で下品な質問をしてしまったんだもん。


 チェイスだって私のことを何考えてんだこいつって思ってるに違いない。しかし優しいチェイスは、優しい声色で答えてくれた。


『うーんと、うーん……あまり、僕は自分でしないけれど、でも……うーんと、そうだね、一人でするとしたら、僕は見ないかも。』


「えっ!?見ないの!?」


『そういう反応をするってことは、もしかしてジェーンは見るのかな?それを君が発見したとか?』


「その通りです……。」


 私は体を倒して、デスクにゴチンとおでこをぶつけた。


『なるほどね。僕はというと、そういう時にはイメージをする傾向がある……。あまり、他の人には言わないでくれよ?目を閉じて、イメージをするんだ。因みにジェーンは、それを見られたことを知っているの?』


「知らないと思う。私が昨夜、たまたま起きてしまって、それで発見したんだ……。動画を見てた。しかも結構アブノーマルな動画で、女性が痛々しくやられてた。それを見て、彼が興奮してた。その女性は私なんかよりも、ずっっっっっと美人だった。それだって少しショックで。だから聞いたんだ。チェイスもそうなんだと分かれば、男の人だから皆そうしてるんだって思える。でも……チェイスは違った。しかもジェーンは私にそういう動画を見るなんてこと言わないし、隠してた。それが今は少しショックで。」


『キルディア、それは大変だったね。』


 少し泣きそうになった。ああ、精神的に脆くなったもんだ。


『実は彼にはそういう願望があるんじゃないかな?だがそれを君とは実行出来ない。だから、隠しているんじゃないか?君のことを大事にしたいから。』


「そうなのかな……。」


『うん。だけど君に隠すことではないからね、隠れてコソコソとそういう動画を見るのなら、そのうち君を大事にするためという名目で、動画ではなく、実際に行動に移すかもしれない。だって、そういう人間がいることを僕は知っている。人間は思ったよりも、自分の性癖には忠実だよ。彼がその趣味があるのなら、君は用心するべきだ。君は、そうされたいとは思う?』


「今は……分からないかも。あんな、ムチで叩かれるのは、あまり好きじゃない。た、」


 叩くのはいいけど、という言葉を私は飲み込んだ。しかしそうか、彼にはドSな部分があって、それを私に出来ないから、ああやって動画を……あああああぁぁぁ!


『僕だって、君が愛情の取引の代償として、彼に酷い目に遭うのを想像したくはない。もし彼の言動がエスカレートしてきたら遠慮なく僕に相談して。僕は君の力になりたいから。いいかい?君は彼のおもちゃじゃないからね?』


「うん……ありがとうチェイス。本当にありがとう。その時は、お話するよ。」


『うん、いつでも連絡して欲しい。僕は君には幸せでいて欲しいから。』


 優しい人だ。たまには真っ直ぐな優しさに包まれたい時がある。……なんて、いけないいけない。私は苦笑いした。


「ありがとう。じゃあ、また週末に。」


『うん、また。』


 通話は終了した。チェイスか、きっと私のことがまだ好きなのかもしれないから、こうして優しいのだろう。


 それでも、誰かに少し話せたのは大きかった。ジェーンはドSを隠しているんだろうから、何とかそれが外に向かないように、私が食い止めたい。


 でもあの惨劇の被害者にはなりたくない。じゃあ外で彼が奴隷を作ることを許す?


 そんなのは嫌だ……だってお仕置きのご褒美とか言って、彼のサラミを与えるのでしょ?嫌だ、あれは私のもの……!


 いけないいけない、勤務中に何を考えているんだ!私は頬を軽く叩いて、意識をしっかりとさせてから、執務の続きを開始した。



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