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meishino

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18 あの物質が必要だ

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 シンフォニウムの件を皆に話した。ロビーにはこの研究所の職員が全員と、それからルーがいた。皆は驚きながら私とジェーンの話を聞いてくれた。


 特にケイト先生は、メモを取りながら聞いていた。全てを話し終えて静まりかえったロビーだったが、リンが手をあげて私に聞いた。


「じゃあじゃあ……昨日残業してたのとか、キリーとジェーンがずっと手を繋いで歩いているのとか、トイレまで一緒に行ってたのは、マテオ団長のことを調べるのと、ヴァレンタイン教官を警戒しての行動だったの?じゃあキリーとジェーンのフェイクラブラブだったの?」


「あんた……」私はがっくり肩を落として、呆れた声を出した。「この話を聞いて、一番最初の感想がそれなのね……。」


「え?そうでしょ?だよね、アリス。」


 アリスは違う違うと、無言で首を振った。「え?」と、とぼけた様子のリンが首を傾げると、察したラブ博士が彼女のことをべしんと叩いてくれた。「そうね、」と次に言葉を発したのはケイト先生だ。


「セレスティウムの情報が必要だわ。出来ればそのもの自体があるといいのだけれど、現物が無くてもレシピだけでもあれば再現出来る可能性がある。キリーが完全に回復しているのならマテオも考えている通りに、ヴァレンタインは開発に成功しているわ。キリー、副作用は?」


「と、特に無い……。」


「ならいいじゃないか!」と景気のいい声を出したのは、クラースさんだ。「そのセクターってのが帝国研究所から行けるのなら、研究所をひっくり返す勢いで隅々まで探して、通路を見つけてしまえばいい!俺は行く気満々だぞ!」


 すごいやる気満々だ……。彼と同じくらいに、やる気満々な人間がもう一人いる。それはルーだった。彼は会ったばかりのクラースの肩を掴んで、笑顔で言った。


「俺だって、そのセレスティウムを見つければベルンハルト様も、他に魔力の暴走を抱えているインジアビスの人間だって、みんな救えるんだ!俺だって絶対に行くからな!こんなヒョロヒョロした兄ちゃんに、負けてられるか!」


「なんだお前、俺のことを知らないのか?どっちが先に見つけられるか勝負をしようじゃないか?」


「なにぃ!「お待ちを!お二人とも、お待ちを……!」


 二人を宥めようと頑張っているのはジェーンだ。さっきからセレスティウムに対してやる気を出している職員たちに囲まれて、彼は一人ネガティブな発言をしている。


「キルディアがヴァレンタインに狙われています。それに帝国研究所が通路を探すのを許可してくれるとも思いません。セレスティウムだって、まだ情報が不足しております!タージュはどうお考えですか?」


「えっ!?」


 急に話を振られたタージュ博士は今まで和やかな顔でカウンターに寄り掛かりながら我々を見守っていたが、その姿勢をやめて、頭をぽりぽりと掻き始めた。


「そうですね……僕としてはセレスティウム……の発見は大事ですけれど……その、部長の意見に賛成です。はい、とっても。」


 私からではジェーンの顔が見えないが、彼の背中からはひしひしと私に同意をしろタージュと言うオーラが漏れ出ていた。タージュ博士は蛇に睨まれたカエルの如く、ジェーンから目を逸らしてしまった。


「タージュの意見を聞きましたか?キルディア。もう少し、調査が必要です。」


「でも調査はもうやれるだけやったんじゃないの?」リンが言った。「もうこうなったら適当な理由をつけて、帝国研究所に乗り込むしか……おーこわ!」


 今度はジェーンの威圧的な背中の向こうが、リンに向いていた。彼女はラブ博士の背後に隠れていて、ラブ博士はと言うと、タージュ博士のように苦笑いしながら頭を掻き始めた。


 私はジェーンの肩を叩いて振り向かせた。彼は……眉間に皺を寄せて眼光鋭くなっていた。怖かったけど、言った。


「ジェーンやるしかない。セレスティウムを手に入れたいよ。」


「……それは、」ジェーンが険しい顔を消していった。「重々承知しております。今回魔力が暴走してしまっているのは、あのベルンハルト。私も、彼には度々お世話になっておりますし、彼はキルディアを本当の娘のように愛している。あなたもまた、彼を父のように想っている。さすれば彼は私の義理の父でもあります。ですから」


「え?待って待って。」リンが慌てふためきながら、ラブ博士の背後から出てきた。「どどどどどういうこと?二人は婚約してるの?」


「え!?」私の声がロビーに響いた。「してないよ!してない!ジェーン、いきなり紛らわしいことを言わないでよ……。何にせよセレスティウムを取りに行こう。教官のことはあるけど、セクターに行ったら全てがわかる。その為に、一応ヴァルガと陛下にはお話しようよ。その方が帝国研究所も力になってくれるはず。」


「そうだね。」「そうだ!」「そうそう!」と、皆が賛成しくれている中、ジェーンは一人浮かない顔だった。私が彼の背中をさすると、彼は漸く少し笑ってくれた。


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