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meishino

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4 あなたでいっぱい

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 遂に、我々は恋人として一線を超えてしまった。私はソワソワしたような変な興奮を感じながら部屋着姿でソファに座って、冷えた麦茶を飲んでいた。ジェーンは今、またシャワーを浴びていて、ここには居ない。


 ……先程はとても熱い行為をベッドでしてしまった。思い出すたびに、腰が甘く疼くような変な感覚になる。そして腰が痛い。そんなに激しいものでは無かったとは思うけど、意外と腰に負担を与えていたのかもしれない。


 騎士の価値観など、ジェーンの世界へ飛び越えた時から消えていた。結婚しないうちに、こう言った行為をするのは騎士としては問題だけど、私はもうそうではない。


 何より、ジェーンのことが大好きだ。無事にこの世界に帰ってきて、この気持ちが止められる訳が無い。


 そう言えばリンはどうしただろうか?ウォッフォンを見たが、特に彼女からのメッセージは無かった。


 悪いことをしたかな。謝ったほうがいいと思った私は、ウォッフォンのホログラムのキーボードを叩いて、リンへのメッセージを打ち始めた。すると背後から声をかけられた。


「……ああ、そのアドレスならリンですね。彼女はどうしたのでしょうか?」


「うーん、あの後のことは分からなくて、だからさっき出れなくて申し訳なかったって送ろうと思ってさ。」


 リンへメッセージを送ってから私は振り返った。ジェーンは白いシルクのテロテロなパジャマを着て、麦茶を飲んでいた。ついジェーンの特大なアレを思い出してしまって、こんな変態になってしまった自分が可笑しくて、彼から視線を逸らした。


 いけないよキルディア。頭の中のジェーンのアレを消そうよ。だがそれは消しても消しても雨の日のワイパーの如く、脳内に復活してしまう。強烈な経験だったんだ、こうなるのも仕方ないかもしれないが……出来れば職場では思い出したくない。


 ジェーンが私の隣に座って、首を傾げた。


「キルディア、どうしましたか?何か、考え事ですか?ならば教えてください。私も共に考えますから。」


「じゃあ相談する……」


 どうしよう、なんて言おう。


「えっとさ、そうだなぁ……じゃあ二人でそういうことをするのは、金曜と、土曜の夜だけにしよう!」


「えっ!?」


 ジェーンが雷に打たれたような衝撃を受けた顔をした。私は後頭部をポリポリと掻いて、説明をした。


「だって、かなり強烈な体験なんだもん。頭の中がごっちゃになって、何だかジェーンに夢中になって、絶対に業務に支障が出る。絶対にね……!」


「そうですか、」と、ジェーンが私のナイトアームの手を握った。「業務に支障が出ないように私が完全にサポートしますから、毎日行いましょう?」


「……。」


 言葉が出なかった。


 彼は毎日したいのか……。確かにジェーンが完全にサポートしてくれるのなら、絶対に業務に支障は出ないだろう。でも私が懸念しているのはそれだけではない。


「でも……なんかジェーンのこと、ぼーっと見ちゃうんだよ。さっきから。」


 彼が照れた顔をして、私に寄り添い、囁くような声で言った。


「それは、私も同じことです。キルディアとそういうことをする前までは、愛情を抱いておりました。今となってはそれが、淡い愛情だという事に気が付きました。今この胸の中にあるのは、狂いそうなほどの感情です。一歩間違えれば破滅しそうな綱渡りの愛情が、存在しています。更なるあなたの新しい部分を見た私の頭の中は、あなたでいっぱいになりました。前頭葉も、視床下部も、海馬も……あなたの話題で持ちっきりですよ。」


「そ、そうなんだね。ジェーンの頭の中も、今は忙しいんだ。」


「ええ、ふふ。それ程に、幸せです。ですから、毎日行いたい。時空間歪曲機のミッションはもうありませんから、これからはソーライ研究所の業務に集中できます。今まで以上に、あなたを支えてあげられる。」


「うん、そうだね。それは頼もしい。でもジェーンのしたい研究があるのなら、私はそれも応援しているよ。」


「はい、ありがとうキルディア。」


 と、何故かここで、ジェーンが私の肩の匂いを嗅いだ。そのままクンクンと首筋の方へと来ると、彼が眼鏡を取って、コーヒーテーブルに投げ置いた。私は焦って、彼の肩を掴んで、距離を取った。


「もう、今日は。もう、ね?無理です……。」


 するとジェーンが目頭を押さえて、あからさまに困惑し始めた。いやいや、だって、もう無理だもん!私は苦笑いしつつ、ソファに深く座った。するとジェーンが私に聞いた。


「確かに、無理強いは出来ません。ならば、ずっとくっついていてもよろしいでしょうか?ただくっついているだけです。その間、互いに好きな事をして過ごしましょう。どうですか?」


「ああ、それなら私も賛成。じゃあ、」と、私はウォッフォンをつけて、適当にサイトを見始めた。するとジェーンも置いてあった眼鏡をかけて、本棚から一冊の本を取ってくると、私の隣にくっつくように密着して座って、読書をし始めた。


 彼の持っている本を少し覗いてみると、数字と記号の羅列だった。っていうか、文字が全く無い。こんなことあるのか?文字が一つも無い本を初めて見た。


「何も、言葉が書かれていないね。それ。」


「ええ。これは、一つの問題を回答しただけの本です。こんなに長い回答を見たことがないでしょう?魔工学では、短略化して解答を導き出せますが、数学で表すとこのように長くなります。たまに同じ問題でも、過程に着目して、思考を深めたいと思う時があります。」


 やっぱり、この人の考えている事は難しいし、ちっともついて行けない。数字と記号を見て何が楽しいのだろうか。


 まあいいや、私はハンバーガーメイキングチャンピオンという料理バトル番組を見始めた。番組は動画のように選んで観覧出来るため、便利だ。


 今日のバトルはタマラから来た五十代の主婦と、ユークアイランド在住の、なんと五歳の女の子だった。まだ幼いのにハンバーガーを作れるのか……!


 私は座り直して、画面を食い入るように見つめた。このバトルは美味しさもそうだが、インパクト、奇抜な見た目がある方が有利で、芸術性も問われる。


 これは面白い展開になりそうだと、私は腕を組んで、二人が司会者に向けられたマイクに意気込みを話し込んでいるのを聞いていた。すると隣から急に質問が飛んできた。


「ところで、あなたがブルーホライゾン在籍中に飲まされた薬品の種類は何でしょうか?」


「んん!?べ、べべ、別に!あ、そうだジェーン、あとで、マッサージしてあげる!とっても優しく揉むからね。」


 彼がパタリと本を閉じて、私を見てきた。一応彼のことを見てみると、ジト目でこちらを見ていた。これじゃあ話題を逸らせなかったようだ。そして彼は言った。


「それもしてもらいますが、薬品名を言いなさい、キルディア。それと教官名。」


「うーん何だったかなぁ。」


「嘘おっしゃい。」彼は私を軽く叩いた。「覚えているくせに。それとも私が、ヴァルガに聞いても宜しいのですよ。」


「……分かったよ。」私は動画を見つつ、答えた。「薬品名はカロンだ。かわいいでしょ?」


「はぁぁ……!何が可愛らしいですか、それは劇薬です!それを飲まされて、よく耐えられましたね。」


「みんなも一緒だったからだと思う。グアアってみんなで痛がって、うああってのたうち回って阿鼻叫喚だったけど、痛みが段々と引いてきたら、どこからともなく笑いが漏れてさ、皆で結構な間、笑ってた。お互いつねってみたりして、本当に痛くねえなって、喜んでさ……そんな事もあった。あまり心配しないでよ。」


 ジェーンがこくりとうなずいた。


「あなたは私のたった一人の恋人です。とても心配してしまいましたが、それもそうです。あなたは私をずっと信じて共に行動してくれた。あなたは過去世界まで私のために来てくれた。そのあなたをどうして愛さずにいられますか。私はあなたを愛しています。ですから心配になりました。薬品名だって、知りたかった。さあ教官名は?」


「ヴァレンタイン教官だけど、もう士官学校にも騎士団にも居ないよ。彼女は亡くなっているから。」


「そうでしたか……。」


 私はジェーンの肩に寄り添った。彼が一瞬ビクッとした。


「私もジェーンのこと、とても愛しています。今度その……以前リンが送ってくれた激しい画像のように、一晩中、私が主導権を握っていい?」


 ゴクリと彼の喉が鳴った。


「はい、構いません……。しかし今日あなたに撫でられただけで、私はあなた以上に乱れましたというのに、あの擬似的な男性器を使用されてはもう、後戻り出来ませんよ。例え私が嬌声をあげたとしても、嫌いになりませんか?」


 擬似的な男性器ってすごい表現だな。


「ならないよ、ならない。ふふ。とてもジェーンの声を聞きたい。今からでも……あ。」


 ジェーンがしてやったり顔で笑みを浮かべた。そして私の太ももに跨るように座ってきて、私の首に手を回して、囁いた。


「ふふ……!今から、ここで、練習しますか?だって、私のを、もっとほぐさないとなりません。アレを買った時に備えて日頃から解しておくべきです。そうでしょう?」


「そ、そう


 ピンポーン……


「……。」


「……。」


 ピンポピンポピンポピンポ!


 私がソファから立ち上がろうとすると、ジェーンが私のことをハグしてきて、阻止してきた。この間にも玄関からピンポピンポ鳴り続けている。私は抵抗しながら言った。


「出た方がいいって!じゃないと、このピンポン止まらないよ!」


「それはなりません!私がピンポンの電源を落としますから、それでいいでしょう!?」


「でも余程の理由があって、ここに来ているんだと思うよ?一応出てみる!出たら別に、それで終わりの話なのかもしれないじゃない?すぐ帰るかも、ね!」


 ジェーンがため息と共に私の膝から降りてくれたので、私はソファから立ち上がって玄関に向かいドアを開けた。


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