店員するより冒険したい -勇者は聖剣を失って逃亡、美少女店長に拾われ地獄のようなクソ客と戦うはめになるポエム-

ソエイム・チョーク

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秋呼び草

女騎士(くっころを含まない)

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 全ての人が幸せになれる国。
 全てを受け入れ、差別も争いもなく、平和で自由な国。
 そんな物は、夢の中にすら存在しない。

 なぜなら、全てを受け入れるから!
 どうやってもクソ客を拒めない!



 夕方ごろ、店の前に馬が止まった。
 荷馬車ならともかく、馬で来る客は珍しい。

「ユアンの道具屋と言うのは、ここか?」

 店内に入って来たのは、初めて見る女性だった。
 金髪。年齢は二十歳前後、服は絹か何かで織られていて、そこかしこに飾りがついている。腰にはレイピアのような細身の剣。
 貴族かな?

「はい、いらっしゃいませ」

 俺は、普通に対応する。
 この店は、どちらかというと庶民派で、貴族の客を満足させられるような品ぞろえがあるとは言えないのだけれど……。それでも、できる事をするのが店員だ。

 その客は俺の隣に座っていたノイン(さすがに起きて、ちゃんと座っている)を見て目を丸くする。

「あ、亜人? ……所有者はおまえか?」
「所有者? ノインさんは、別に奴隷とかじゃないですよ」

 ちょっとこの人、失礼すぎるのでは。

「むぅ……そういうものか? まあ、構わんが」

 確かにノインには、店員としては割と問題があるような気がする。
 でも、外見と種族だけで判断するのは、さすがにどうなのか。

「私は、リーファ・ケシエルク。レアオリャン市、市長の娘だ。警護団の鎧の修理は、ここが受けもったはずだな?」
「えっと……あの鎧の事、ですか?」

 リーファさんね。
 確かに鎧は預かっているけど。あれって本当にこの人の言う団体の物なんだろうか。
 聞いたような、気もするんだけど。

「……運んできた時にはノインもいたよな? 何か知ってる?」
「そうにゃ。受け取ったのは、川の向こうの、ええと……確かそんな名前だったにゃ」

 記憶が曖昧だった。
 これだからノインは……。
 まあ、ユアンに聞けばわかるだろう。

「ふん。亜人の言う事など信用ならん」

 リーファはバカにしたように言う。
 ひどいなこの人。
 ちょうど今、店の裏でジッキンが作業してるんだけど。鎧を直しているのがドワーフだと知ったら、何を言いだすかわからない。
 教えない方がいいな。

「鎧の修理自体は、あと二三日で終わると思いますよ」
「ふん、壁内の鍛冶屋はもう作業を終えたぞ。モタモタしないで欲しいな」
「はぁ……」

 作業を始めてから三日で終わると言うんだから、そんなに手が遅いわけじゃないと思う。

 それとも、始めるのが遅いのか?
 ジッキンは昨日までどこで何をしてたんだろう? 釘を作ってたんだっけ?
 いや、違う。ヘビ女から注文を受けたのがあの時で、鎧を受け取ったのはその前だから……。

 と、ノインが口を挟む。

「ちょっと待つにゃ。契約では、受け渡しまでまだ日があるはずにゃ?」
「そうなのか?」
「いや、よく知らないけど、ユアンがその辺りを間違えるわけないから。まだ余裕があるはずにゃ」
「おいおい」

 適当過ぎる。
 客対応的には、言わない方が良かったのでは。
 リーファも不信感を覚えたのか、俺の方をにらむ。

「本当に大丈夫なんだろうな」
「信用してください。契約書は、取り交わしてあるんですよね?」

 まあ、契約書を見せられても、俺には読めないんだけどね。
 一番簡単なのは、倉庫の鎧を見せる事なんだけど、それだと……数が足りない、それは裏庭に……の流れでジッキンと顔を合わせてしまって、余計な面倒が増えそうだ。

 俺が、どうやって帰ってもらおうか考えていると、リーファは俺の顔をじろじろ観察しだす。

「……待て。おまえ、どこかで会った事がないか?」
「はい?」

 あ、マズい。
 この人、俺が勇者やってた頃に顔を合わせてる可能性があるのか?
 こんな店に貴族は来ないと思ってたから、油断してた。

「えーと、人違いでは?」
「そうかもな。だが、ちょっと腕を見せてみろ」

 リーファは俺の右手を取ると、勝手に袖をめくり、確かめるように触ってくる。

「ふふふ。いい筋肉の付き方だ。剣を握ったことは?」
「まあ、嗜み程度に?」

 俺は答えながら、リーファの腰のレイピアを見る。
 この女、貴族の身でありながら一人で出歩いている。身代金目当ての誘拐を恐れない程度には、腕に覚えがあるのだろう。
 このレイピアも飾りではないはず。

「ここで会ったのも何かの縁だ。お手合わせ願いたい」
「それはできません」

 ちょっとは考えて物を言えよ!
 おまえはなぁ、ヘビ女とはわけが違うんだよ!

 鎧が一個いくらなのかは知らんけど、たぶん、釘千本の十倍ぐらいの値段だろう。それをうちみたいな店に十個も預ける。それなりの大口顧客なんだと思う。
 俺の一存で、縁を切られるようなことがあったら困る。

 いや、俺は別に、ヘビ女に縁切られても構わないって言ってるわけじゃないよ。
 たださ、相手の規模によって扱いが変わるのは、普通でしょ?

 さもなくば、亜人差別などの失礼度合いマックスの時点で叩き出している。
 リーファよ。
 おまえが大切にされるのは、人格者だからではない。背後にある金と権力に守られているのだ。それを忘れるな?

 ……なんて、正直に言えるわけないもんな。

「どうした? 戦ってはくれないのか?」
「俺は店員なので……」
「怖いのか、女に負けるのが?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……」

 勝つのが怖いんだよ!
 だからと言って、わざと負けるのも嫌だ。
 今日は、パメラはガラシアさんと一緒に出掛けちゃってるから、刃物持った人を相手にするのは、ちょっとやりたくない。

「ハルタン、ダメにゃ。挑発に乗ったらいけないにゃ」

 ノインが立ち上がった。
 しかし俺は挑発に乗ってない。どうすれば乗らずに済むかを考えている。
 むしろ、挑発に乗ってるのはノインの方では?

「ケンカを売られてるのは私の方にゃ。だから、私がやるにゃ」
「いや、それはやめろよ」

 勝てるの? いや、勝っちゃったら、それはそれでダメなんだけど、わかってる?
 止め方がわからず、困惑している俺をよそに、ノインはカウンターを回ると、店の外へと出ていく。

「ただし、勝負をつける方法は、かけっこにゃ。そっちは勝つ自信があるみたいだから、ハンデつけさせてもらうにゃ」
「ふん、亜人は体力しか取り柄がないのは知ってるわ。なんで私がそんな勝負に乗ると思ったの?」

 リーファはバカにしたように取り合わない。
 一方、俺は顔から血の気が引いていくのを感じた。
 かけっこ、ハンデ付きだと?
 ノインの発想が怖すぎてヤバい。なんだよ、あいつ。普段何考えて生きてんの?

「あの……お客さん、この店にどうやって来ました? 確か、馬に乗ってましたよね?」
「えっ? あっ!」

 リーファは慌てて店の外に飛び出すが、時すでに遅し。
 馬はノインに奪われていた。

「にゃはははははは! この馬は私が鍛え直してやるにゃ」
「ちょっ、おまえ、何考えてんの! 馬がいくらすると思ってんの?」
「生き物を値段でしか評価できない人に乗られるなんて、馬がかわいそうにゃ。この馬には野生のすばらしさを教えてあげるにゃ」
「やめなさい! やめなさい!」
「ばいにゃら!」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ声が遠ざかっていく。
 ノイン、そいつは一応上客だからな。馬は適当なところで返してやれよ。

 それにしても、ユアンの知り合いって亜人が多い気がする。
 本当、ヒューマンって俺ぐらいだよな。
 しかも、種族がバラエティー豊かだし、戦闘力が高い人が多い気がするし……ここに道具屋を構える前は、どういう立場の人だったんだろう。
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