7 / 11
6.見えてきた希望と密かなる誘拐
しおりを挟む…泣きながら出て行ったハルをラータが連れ戻すのを待つ間、俺はもう少し長老のドゥアさんと話すことにした。
「あの、ちょっと聞きたいんですが、元の世界に戻ることはできないんですかね?」
「…それは…難しい質問じゃのう。」
「やっぱ無理なんですか?」
「………」
召喚魔法で逆転送なんかは…できないのか。
「じゃあ、他の世界に行ったりなんかは…」
「ほう?」
俺は長老に【スエーニョ】という所に行きたいと伝えてみた。
スエーニョとは…俺が昔行ったことのある別の世界の名前である。
「はて…聞いたことないのぅ。」
やっぱダメか…。
もしかしたらこの世界にある王国の名前かもしれないなんてことも考えたのに…。
てかよく考えたら元の世界に帰れないってヤバくね?!
どうせならワールドアドベンチャー(スマホゲームアプリの名前)やっとけばよかったなぁ…。
心の中でどーでもいい後悔をしていると、ドゥアはじゃが、と付け加えた。
「方法が無い…という訳ではないんじゃ…が」
「え?!」
「…ここでは無理じゃが、隣の王国に行けば“時送りの巫女”という者がおるらしい。その者に頼めば恐らく元の世界に帰ることは可能じゃ。」
おぉ!
てかこの世界に巫女なんていたんだ?
まぁとりあえず会ってみようかな。
「そこにはどうやって行けば…?」
すると長老は困った顔をした。
魔王討伐を拒み帰ってしまうと思ったのだろう。
「いや、帰る方法があるか確かめるために行くためで…別に直ぐ帰ったりはしませんよ?」
慌てて首を振ると安心した顔になった。
勿論、その言葉は嘘ではない。
魔王討伐に行くにしても行かないにしても、どのみち冒険するのが男のロマンってやつだろ!
「じゃが、あそこまでの道にいる魔物は手強いからのぅ…。暫し待って下され、確か地図があそこの棚にあった筈…」
__
※ハル視点です※
獣人が住む町から少し外れた森の中。
「…なんであんな事言っちゃったかな…私」
『ラータとドゥアさんのバカバカバカッ!あと勇者様もバカ~っ!』
自分が口にした言葉を思い出し、私…ハルは溜息をついた。
自分が力不足だなんて、昔から分かってた。
武器をまともに扱えないのに勇者様に付いていっても…足手纏いになるだけだものね。
それにラータちゃんもドゥアさんも私の身を案じてくれているから反対したんだよね。
でも…。
もっと私は外の事を知りたい。
この世界のことをもっともっと知りたいんだ!!
ガサッ
「…?」
耳が草が揺れる音を敏感に察知する。
風…じゃないよね。
ラータちゃんかな…?
違う、この匂いは嗅いだことないかも…。
まさか…
「吸血鬼…?」
この森の奥には、吸血鬼の館があるらしい。
そして襲ってくるから、力の弱い者は用がない限り入らないようにと言われていたのを今更思い出す。
この世界で魔族と同じくらい嫌われている種族。
町の人たちは何回か退治に出て行ったけど誰も帰ってこなかった。
「だ…大丈夫大丈夫…」
自分に言い聞かせるように呟き音のする方へ弓を構える。
ガサッ!!
「え?」
草むらから出てきたのはウサギ型の魔物だった。
弓に驚き逃げて行く。
「…なんだ」
ホッと息を吐いた瞬間。
「っ…むぐっ?!」
いきなり背後から手が伸びてきて私の口をハンカチで塞がれた。
何?!
パニック状態に陥ったが、直ぐに眠くなってきた。
睡眠のポーションでもかかっていたのか。
気付いた時には、もう手遅れだった。
身体が重くなり地面へと崩れ落ちる。
「良い女が手に入った。ボスに報告だ」
そんな声を聞きながら…私は深い眠りにつくのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
性癖の館
正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる