一炊の夢物語

こひなた ひまり

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6.見えてきた希望と密かなる誘拐

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…泣きながら出て行ったハルをラータが連れ戻すのを待つ間、俺はもう少し長老のドゥアさんと話すことにした。


「あの、ちょっと聞きたいんですが、元の世界に戻ることはできないんですかね?」


「…それは…難しい質問じゃのう。」


「やっぱ無理なんですか?」


「………」


召喚魔法で逆転送なんかは…できないのか。


「じゃあ、他の世界に行ったりなんかは…」


「ほう?」


俺は長老に【スエーニョ】という所に行きたいと伝えてみた。

スエーニョとは…俺が昔行ったことのある別の世界の名前である。


「はて…聞いたことないのぅ。」


やっぱダメか…。

もしかしたらこの世界にある王国の名前かもしれないなんてことも考えたのに…。

てかよく考えたら元の世界に帰れないってヤバくね?!

どうせならワールドアドベンチャー(スマホゲームアプリの名前)やっとけばよかったなぁ…。

心の中でどーでもいい後悔をしていると、ドゥアはじゃが、と付け加えた。


「方法が無い…という訳ではないんじゃ…が」


「え?!」


「…ここでは無理じゃが、隣の王国に行けば“時送りの巫女”という者がおるらしい。その者に頼めば恐らく元の世界に帰ることは可能じゃ。」


おぉ!

てかこの世界に巫女なんていたんだ?

まぁとりあえず会ってみようかな。


「そこにはどうやって行けば…?」


すると長老は困った顔をした。

魔王討伐を拒み帰ってしまうと思ったのだろう。


「いや、帰る方法があるか確かめるために行くためで…別に直ぐ帰ったりはしませんよ?」


慌てて首を振ると安心した顔になった。

勿論、その言葉は嘘ではない。

魔王討伐に行くにしても行かないにしても、どのみち冒険するのが男のロマンってやつだろ!


「じゃが、あそこまでの道にいる魔物は手強いからのぅ…。暫し待って下され、確か地図があそこの棚にあった筈…」


__


※ハル視点です※

獣人が住む町から少し外れた森の中。


「…なんであんな事言っちゃったかな…私」


『ラータとドゥアさんのバカバカバカッ!あと勇者様もバカ~っ!』


自分が口にした言葉を思い出し、私…ハルは溜息をついた。

自分が力不足だなんて、昔から分かってた。

武器をまともに扱えないのに勇者様に付いていっても…足手纏いになるだけだものね。

それにラータちゃんもドゥアさんも私の身を案じてくれているから反対したんだよね。

でも…。

もっと私は外の事を知りたい。

この世界のことをもっともっと知りたいんだ!! 


ガサッ


「…?」


耳が草が揺れる音を敏感に察知する。

風…じゃないよね。

ラータちゃんかな…?

違う、この匂いは嗅いだことないかも…。

まさか…


「吸血鬼…?」


この森の奥には、吸血鬼の館があるらしい。

そして襲ってくるから、力の弱い者は用がない限り入らないようにと言われていたのを今更思い出す。

この世界で魔族と同じくらい嫌われている種族。

町の人たちは何回か退治に出て行ったけど誰も帰ってこなかった。


「だ…大丈夫大丈夫…」


自分に言い聞かせるように呟き音のする方へ弓を構える。


ガサッ!!


「え?」


草むらから出てきたのはウサギ型の魔物だった。

弓に驚き逃げて行く。


「…なんだ」


ホッと息を吐いた瞬間。


「っ…むぐっ?!」


いきなり背後から手が伸びてきて私の口をハンカチで塞がれた。

何?!

パニック状態に陥ったが、直ぐに眠くなってきた。

睡眠のポーションでもかかっていたのか。

気付いた時には、もう手遅れだった。

身体が重くなり地面へと崩れ落ちる。


「良い女が手に入った。ボスに報告だ」


そんな声を聞きながら…私は深い眠りにつくのだった。


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