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ネギたま牛丼(並)+食べるラー油+生にんにく【1】
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「えー、今日はね、決算月ということでもあるのでね、午後から社長と常務がお見えになります。くれぐれもね、挨拶とか、その辺ちゃんとやってくださいね。で、今月の進捗状況ですけど──」
珍しく朝礼の音頭を取ったプレイングマネージャーの顔を見ながら、三田部巡は今日の予定を頭の中で反芻している。
朝一でテレアポが二件、訪問が一件、外で飯を食った後に戻って来てひたすら電話電話電話……向こうが直接このブースにやってこないと竜人様のご尊顔は拝めないだろう。特に見たいわけでもない。
そんなことより検討中の客を二件捌けるか捌けないかで今月の営業目標達成が決まるのだ。
まずはお試しボトルで。創業者が所有する山から汲み上げている天然水の希少感は結構いい味方だ。
社長一族が長寿な竜人というのもイメージアップに繋がっている。
「社長って二千歳超えてるって聞いたことあるんですけど、ホントっすかね」
朝礼が終わると、巡の左隣に座る池内が冗談めかした顔で尋ねてきた。
同じ人間種とあってか、社会人二年目の池内は巡によく話しかけてくる。
「今二千なんだ。俺が新卒の時は千五百歳って言われてた」
「やべえー。良い水飲んでるから?」
「多分ね」
巡は適当に話を流しながら、手元にシックな色合いのウォーターサーバーが印刷されたパンフレットを取り出す。
ヘッドセットを装着し、PCモニタに映る番号をクリックする。聞きなれたコール音。
巡は静かにヒトの声がするのを待った。
◩
何であんなに喋れるんだ。
巡はげっそりとした顔つきで牛丼チェーン店の券売機に並んでいる。
電車で二駅、歩いても五分、わざわざパンフレットをお取り寄せの上お電話いただいた上客は、それはそれは話し好きの老婆だった。
毎月のボトル本数なんかそっちのけで、亡くなった夫とあたしが出会ってから死に別れるまで、を約二時間聞かされたのだ。
しっかり契約書類にサインを貰えたが、足の痺れと腹の減りが成約の嬉しさを激減させる。
何にするかな……。
セット商品選択の仕様がよく分からないのか、おたおたとタッチパネルを押してはキャンセルボタンをタッチしているごわごわした毛並みの犬系獣人サラリーマンの背中を見ながら、巡はぼーっと券売機脇にあるメニュー表の画像を眺めていた。
もうお上は帰ったかな。
午後三時近く、牛丼屋のロゴが入ったビニール袋を片手に、巡は社屋内のエレベーターに乗り、休憩室を目指していた。
倉庫みたいに小さい喫煙室の隣には、オレンジ色の丸テーブルがいくつか並んだ休憩室がある。
自販機はない。あるのは自社自慢のウォーターサーバー、最新モデルだ。
電気使用量が少ないというが、巡には特に恩恵はなかった。
昼休憩のピークも過ぎ、休憩室はおろか、ガラス壁の向こうにある喫煙室にも社員の姿は無かった。
こんな時間にここを使うのは、巡のように顧客応対に時間を喰われて休む暇が無かった者だけだ。
誰も居ないのをいいことに、巡はスーツの上着を脱いで椅子に引っ掛け、ネクタイを雑に外して襟元を開けた。
そして部屋の角にある大型冷蔵庫の扉を無遠慮に開ける。
社員共有の冷蔵庫には、油性ペンで名前の書かれたペットボトルやヨーグルトなどがひしめき合っている。
丁寧な者はタッパーやボトル飲料にそれぞれタグを付けていた。
巡はそれらには目もくれず、一番奥にある瓶詰をひとつ、チューブ容器をひとつ取り出した。
勿論それにも大きな字で三田部と書かれている。
だが、恐らく名前を書かなくても盗られる心配は薄い。
調味料を会社の冷蔵庫に持ち込んでいるのは、巡くらいだったからだ。
サーバーから紙コップへミネラル豊富な天然水をたっぷり注いだ巡は、ビニール袋の中にある正方形のプラスチック容器を取り出した。
中に敷き詰められた米が温もりを保っている。
蓋を開ければ、青々とした輪切りのネギが敷かれた上に、艶やかな卵黄が容器の端に寄ることなく中央に鎮座していた。
わずかに巡の頬が緩む。
ご自由にお持ちください、の七味は持って帰らない。
その代わりにスプーンを頂いてきた。
俺にはコレがある。
巡はテーブルの上に置いた小瓶の蓋を捩じるようにして開ける。
中にはざく切りにされた具材が入った真っ赤なペーストが入っている。
食べるラー油、ニンニク増強型。
巡はそれをスプーンで掬うと、卵黄の周りを囲うようにそれを盛っていった。
つんと香ばしい香辛料の匂いが空腹をさらに刺激した。
だがこれで終わらない。
瓶の蓋を閉めた巡は、もう一つのお楽しみ、生にんにくチューブの蓋を開けた。
それをラー油の赤の上に、二、三センチずつ絞っていく。
これを会社で食べていいのか、初めの頃は巡も悩んだ。
だが、歯磨いて消臭カプセル飲めばいいだろ、対面が無ければOKという巡有利な判定を脳が下したので、今は遠慮なしだった。
嗅覚の鋭い獣人系社員に混じって食べるのも気が引けるので、こういう時だけのお楽しみだ。
すっかりカスタムされた赤緑黄の丼の前で、巡はそっと手を合わせる。
ジャンクフードを心置きなく摂取すること。
それは巡の日常において唯一と言っていい程の楽しみであり、救いですらあった。
いただきます。
そう心の中で唱えた巡が、赤く染まったスプーンで卵黄を崩そうとした、その瞬間だった。
「こちらが喫煙室ですー」
ピッ、というセキュリティーカードがロックを解除した電子音に続いて、男の声が聞こえた。
開いた扉の向こうから、人間男の先導を受けて窮屈そうに身を屈めながら大きな者が休憩室に入ってくる。
思わず手を止めた巡の視線の先には、白く輝く鱗を持つ雄竜人の姿があった。
恐らく便所に行く途中にでも捕まったのだろう、書類課の男が巡を見て気まずそうな顔をした。
まさかこんな時間に呑気に飯を食っているヤツが居るとは思いもしていなかったはずだ。
入ってきた竜人も一瞬だけ目を見張り、その後は何やら思案顔で巡の前にあるカスタマイズネギたま牛丼へ視線を注いでいた。
「あっ、お、お疲れ様ですっ」
巡が無理に立ち上がったので、椅子がずれてぎぎぎ、と床を擦る音がした。
「ああ、お疲れ様。邪魔して悪いね。気にせず食べなさい」
良くも悪くも体育会系な上司へ返事をする時のように、うっす、という言葉が巡の喉元までやってきた。
だが、それをなんとか呑み込んで出て来た言葉は、あざます、という片言の返事であった。
「君もありがとう」
せわしなく会釈しながら去っていく男を尻目に、上等なグレーのスーツを着た巨体の竜人は喫煙室のドアを開けて中に入っていった。
食いづらい……。
着席して再び愛しの牛丼の前に腰を据えた巡だったが、右横、視線の端にちらつく者が気になって仕方なかった。
なにせ喫煙室は壁半分がガラスであり、互いの姿がよく見える。
喫煙室にも休憩室にも社員が多くいるのなら何も気にならないが、どうも喫煙室の奥からこちらへ視線が注がれているような気がしてならないのだ。
社長じゃないよな、若すぎるし。常務か。何だっけ、名前。
黙々と辛く香ばしい飯と肉を口に運びながら、巡は初めて生で見た上役のことを考えている。
気づけば紙コップの中身が殆ど無くなり、巡は空のコップ片手に席を立った。
巡は給水から着席までの間、気づかれない程度に横目で竜人の姿を盗み見る。
鼻先が突き出た厳めしい竜の頭には、淡い黄色の大きな角が二本後ろに流れるように生えている。
白磁のように艶やかな鱗に覆われた顔には、青紫色をした宝玉のような目玉がついていた。
そしてジャケットの下にある白いシャツはみっちりと膨れ上がった大胸筋で押し上げられており、一目で鍛え上げられた筋肉質な身体の持ち主であることがわかった。
背には折り畳まれた翼が窓の外から降り注ぐ陽光を遮っている。
鱗に覆われた四つ指が上質な革の葉巻ケースを握っているのが垣間見えた。
◩
「え? 常務喫煙室に来たんですか」
「来た。しかもさ、葉巻吸いながらこっち見てくんだよ。飯の味しないよ」
「へえ。紙のほうがいいんですかね」
「あれだよ? フツーのやつじゃなくて、葉巻。シガー」
「えっ、あのマフィアが咥えてそうなやつ?」
「それ」
「やばくないすっか」
「やばいよ」
「竜人っていいモンしか飲み食いしないって本当なんですかね?」
「あー、なんか聞くなそれ」
「カップ麺とか食ったら死んだりして」
「竜殺し麺か。やばいな」
十分間の短い休憩の間、小便器を挟んで巡と池内は排尿がてら他愛のない会話をしている。
自分の逸物をもってぶるんぶるんと雫を払った巡は、浮かない顔のまま大事なものを仕舞うとそそくさと便所を後にした。
あと少しで本日は営業終了。帰って寝る。走るのは明日でいいや。
そんな風に考えながら自席に戻ろうとフロアを歩く巡へ、プレイングマネージャーが少し慌てた様子で呼び止めてきた。
「ちょっと、ちょっといい?」
「あ、はい」
何だろう。クレームか?
嫌な予感に胸中をざわつかせながら、巡はマネージャーのデスク脇に立つ。
すると、マネージャーは声を潜めながら申し訳なさそうに話しかけてきた。
「悪いんだけど、打刻切ったら駐車場行ってくれないかな?」
「何でですか」
「いや、なんか……常務が待ってるって……」
「えっ」
つづく
珍しく朝礼の音頭を取ったプレイングマネージャーの顔を見ながら、三田部巡は今日の予定を頭の中で反芻している。
朝一でテレアポが二件、訪問が一件、外で飯を食った後に戻って来てひたすら電話電話電話……向こうが直接このブースにやってこないと竜人様のご尊顔は拝めないだろう。特に見たいわけでもない。
そんなことより検討中の客を二件捌けるか捌けないかで今月の営業目標達成が決まるのだ。
まずはお試しボトルで。創業者が所有する山から汲み上げている天然水の希少感は結構いい味方だ。
社長一族が長寿な竜人というのもイメージアップに繋がっている。
「社長って二千歳超えてるって聞いたことあるんですけど、ホントっすかね」
朝礼が終わると、巡の左隣に座る池内が冗談めかした顔で尋ねてきた。
同じ人間種とあってか、社会人二年目の池内は巡によく話しかけてくる。
「今二千なんだ。俺が新卒の時は千五百歳って言われてた」
「やべえー。良い水飲んでるから?」
「多分ね」
巡は適当に話を流しながら、手元にシックな色合いのウォーターサーバーが印刷されたパンフレットを取り出す。
ヘッドセットを装着し、PCモニタに映る番号をクリックする。聞きなれたコール音。
巡は静かにヒトの声がするのを待った。
◩
何であんなに喋れるんだ。
巡はげっそりとした顔つきで牛丼チェーン店の券売機に並んでいる。
電車で二駅、歩いても五分、わざわざパンフレットをお取り寄せの上お電話いただいた上客は、それはそれは話し好きの老婆だった。
毎月のボトル本数なんかそっちのけで、亡くなった夫とあたしが出会ってから死に別れるまで、を約二時間聞かされたのだ。
しっかり契約書類にサインを貰えたが、足の痺れと腹の減りが成約の嬉しさを激減させる。
何にするかな……。
セット商品選択の仕様がよく分からないのか、おたおたとタッチパネルを押してはキャンセルボタンをタッチしているごわごわした毛並みの犬系獣人サラリーマンの背中を見ながら、巡はぼーっと券売機脇にあるメニュー表の画像を眺めていた。
もうお上は帰ったかな。
午後三時近く、牛丼屋のロゴが入ったビニール袋を片手に、巡は社屋内のエレベーターに乗り、休憩室を目指していた。
倉庫みたいに小さい喫煙室の隣には、オレンジ色の丸テーブルがいくつか並んだ休憩室がある。
自販機はない。あるのは自社自慢のウォーターサーバー、最新モデルだ。
電気使用量が少ないというが、巡には特に恩恵はなかった。
昼休憩のピークも過ぎ、休憩室はおろか、ガラス壁の向こうにある喫煙室にも社員の姿は無かった。
こんな時間にここを使うのは、巡のように顧客応対に時間を喰われて休む暇が無かった者だけだ。
誰も居ないのをいいことに、巡はスーツの上着を脱いで椅子に引っ掛け、ネクタイを雑に外して襟元を開けた。
そして部屋の角にある大型冷蔵庫の扉を無遠慮に開ける。
社員共有の冷蔵庫には、油性ペンで名前の書かれたペットボトルやヨーグルトなどがひしめき合っている。
丁寧な者はタッパーやボトル飲料にそれぞれタグを付けていた。
巡はそれらには目もくれず、一番奥にある瓶詰をひとつ、チューブ容器をひとつ取り出した。
勿論それにも大きな字で三田部と書かれている。
だが、恐らく名前を書かなくても盗られる心配は薄い。
調味料を会社の冷蔵庫に持ち込んでいるのは、巡くらいだったからだ。
サーバーから紙コップへミネラル豊富な天然水をたっぷり注いだ巡は、ビニール袋の中にある正方形のプラスチック容器を取り出した。
中に敷き詰められた米が温もりを保っている。
蓋を開ければ、青々とした輪切りのネギが敷かれた上に、艶やかな卵黄が容器の端に寄ることなく中央に鎮座していた。
わずかに巡の頬が緩む。
ご自由にお持ちください、の七味は持って帰らない。
その代わりにスプーンを頂いてきた。
俺にはコレがある。
巡はテーブルの上に置いた小瓶の蓋を捩じるようにして開ける。
中にはざく切りにされた具材が入った真っ赤なペーストが入っている。
食べるラー油、ニンニク増強型。
巡はそれをスプーンで掬うと、卵黄の周りを囲うようにそれを盛っていった。
つんと香ばしい香辛料の匂いが空腹をさらに刺激した。
だがこれで終わらない。
瓶の蓋を閉めた巡は、もう一つのお楽しみ、生にんにくチューブの蓋を開けた。
それをラー油の赤の上に、二、三センチずつ絞っていく。
これを会社で食べていいのか、初めの頃は巡も悩んだ。
だが、歯磨いて消臭カプセル飲めばいいだろ、対面が無ければOKという巡有利な判定を脳が下したので、今は遠慮なしだった。
嗅覚の鋭い獣人系社員に混じって食べるのも気が引けるので、こういう時だけのお楽しみだ。
すっかりカスタムされた赤緑黄の丼の前で、巡はそっと手を合わせる。
ジャンクフードを心置きなく摂取すること。
それは巡の日常において唯一と言っていい程の楽しみであり、救いですらあった。
いただきます。
そう心の中で唱えた巡が、赤く染まったスプーンで卵黄を崩そうとした、その瞬間だった。
「こちらが喫煙室ですー」
ピッ、というセキュリティーカードがロックを解除した電子音に続いて、男の声が聞こえた。
開いた扉の向こうから、人間男の先導を受けて窮屈そうに身を屈めながら大きな者が休憩室に入ってくる。
思わず手を止めた巡の視線の先には、白く輝く鱗を持つ雄竜人の姿があった。
恐らく便所に行く途中にでも捕まったのだろう、書類課の男が巡を見て気まずそうな顔をした。
まさかこんな時間に呑気に飯を食っているヤツが居るとは思いもしていなかったはずだ。
入ってきた竜人も一瞬だけ目を見張り、その後は何やら思案顔で巡の前にあるカスタマイズネギたま牛丼へ視線を注いでいた。
「あっ、お、お疲れ様ですっ」
巡が無理に立ち上がったので、椅子がずれてぎぎぎ、と床を擦る音がした。
「ああ、お疲れ様。邪魔して悪いね。気にせず食べなさい」
良くも悪くも体育会系な上司へ返事をする時のように、うっす、という言葉が巡の喉元までやってきた。
だが、それをなんとか呑み込んで出て来た言葉は、あざます、という片言の返事であった。
「君もありがとう」
せわしなく会釈しながら去っていく男を尻目に、上等なグレーのスーツを着た巨体の竜人は喫煙室のドアを開けて中に入っていった。
食いづらい……。
着席して再び愛しの牛丼の前に腰を据えた巡だったが、右横、視線の端にちらつく者が気になって仕方なかった。
なにせ喫煙室は壁半分がガラスであり、互いの姿がよく見える。
喫煙室にも休憩室にも社員が多くいるのなら何も気にならないが、どうも喫煙室の奥からこちらへ視線が注がれているような気がしてならないのだ。
社長じゃないよな、若すぎるし。常務か。何だっけ、名前。
黙々と辛く香ばしい飯と肉を口に運びながら、巡は初めて生で見た上役のことを考えている。
気づけば紙コップの中身が殆ど無くなり、巡は空のコップ片手に席を立った。
巡は給水から着席までの間、気づかれない程度に横目で竜人の姿を盗み見る。
鼻先が突き出た厳めしい竜の頭には、淡い黄色の大きな角が二本後ろに流れるように生えている。
白磁のように艶やかな鱗に覆われた顔には、青紫色をした宝玉のような目玉がついていた。
そしてジャケットの下にある白いシャツはみっちりと膨れ上がった大胸筋で押し上げられており、一目で鍛え上げられた筋肉質な身体の持ち主であることがわかった。
背には折り畳まれた翼が窓の外から降り注ぐ陽光を遮っている。
鱗に覆われた四つ指が上質な革の葉巻ケースを握っているのが垣間見えた。
◩
「え? 常務喫煙室に来たんですか」
「来た。しかもさ、葉巻吸いながらこっち見てくんだよ。飯の味しないよ」
「へえ。紙のほうがいいんですかね」
「あれだよ? フツーのやつじゃなくて、葉巻。シガー」
「えっ、あのマフィアが咥えてそうなやつ?」
「それ」
「やばくないすっか」
「やばいよ」
「竜人っていいモンしか飲み食いしないって本当なんですかね?」
「あー、なんか聞くなそれ」
「カップ麺とか食ったら死んだりして」
「竜殺し麺か。やばいな」
十分間の短い休憩の間、小便器を挟んで巡と池内は排尿がてら他愛のない会話をしている。
自分の逸物をもってぶるんぶるんと雫を払った巡は、浮かない顔のまま大事なものを仕舞うとそそくさと便所を後にした。
あと少しで本日は営業終了。帰って寝る。走るのは明日でいいや。
そんな風に考えながら自席に戻ろうとフロアを歩く巡へ、プレイングマネージャーが少し慌てた様子で呼び止めてきた。
「ちょっと、ちょっといい?」
「あ、はい」
何だろう。クレームか?
嫌な予感に胸中をざわつかせながら、巡はマネージャーのデスク脇に立つ。
すると、マネージャーは声を潜めながら申し訳なさそうに話しかけてきた。
「悪いんだけど、打刻切ったら駐車場行ってくれないかな?」
「何でですか」
「いや、なんか……常務が待ってるって……」
「えっ」
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